やはり皆さん簪ちゃんが大好きみたいですね。私も大好きです。
ということでほんへをどうぞ。
そういえば最近ダンガンロンパにハマりました。ヒナナミが最高に尊い。
追記:アンケートが反映されてなかったので修正しました。投票可能になりましたので、ご投票お願いします。
不思議な空間で揺蕩っていた。
泡が浮かんでは弾けて、
──この居場所に、見覚えがあった。
いや、見覚えなんてものではなくて、ここに確かに来たことがあった。
脚が勝手に動き出す。
この夢のような空間──いや、夢の起点へと、ひとりでに動き始めた。
それは楽園の端。希望の跡。
星の内海へと続く理想郷。
彼と彼女の巡礼の果て。
"
その言葉に誘われるように、一歩足を踏み入れた。
今更何を為そうとして、彼らは行動しているのか。それを知るために、幽閉塔の主の元へと駆け出した。
数々の旅路を、見た。
聖処女と竜の魔女の戦いを見た。
ニーベルンゲンの歌の再来。竜殺しの大英雄と北欧の黒竜の果たし合い。
彼の戦いは英雄譚と全く差異のないもので、憧れているヒーローのようで、無性に格好よかった。
オルレアンは打倒され、一つの人理が戻ってきた。
偽の皇帝と真の皇帝の戦いを見た。
熱い情熱の戦い。ローマの誇りと、偉大なる先祖を超えていく戦い。
そして文明を滅ぼす"災害"との戦い。かつて、「神の災い」と呼ばれた大王との戦い。
そこに現れた、魔神を名乗る生物。主人をソロモンと呼ぶ彼は、人理焼却の偉業を讃えながら襲いかかってくる。
それすらも打ち倒し、二つ目の人理を取り戻した。
偉大なる航海者の海の戦いを見た。
嵐の女王は海神を打ち倒し、それでも元の海を取り戻すために戦っていた。
そこに現れる最も有名な海賊とその手下。……黒髭と呼ばれる男があそこまでオタクを拗らせた(もちろんいい意味で)人間と知った時は複雑な気持ちにもなった。
彼は裏切りによって死んだ。現れたのは、神話の英雄たち。アルゴノーツと呼ばれる大英雄。
カルデアはそれすらも打ち倒し、そして再び魔神柱が現れる。アルゴノーツの船長の身体から現れたそれをも打倒して、平和な海を、第三の人理を取り戻した。
霧に包まれたロンドンの物語を見た。
偉大な童話作家たちと、哀しき怪物の愛の物語。そして、ついに現れた黒幕。
自らを"ソロモン"と名乗った彼は、カルデアと一戦を交えた。
あまりにも強い。ただひたすらに、強かった。それで全てを語れるほどに、目の前に現れた男は強かった。
去り際に彼は、第7の特異点までを戦い抜いた時に初めてお前たちを敵と認めようと語って去っていった。
ここまでの物語を見て、そして自らを魔術王と名乗るソロモンの強さを見て、私は思ってしまった。なぜ、カルデアは──菫色の少女と、いまだに顔のわからない誰かは、諦めようとしないのだろうか、と。
苦しいだろう。今すぐに逃げ出して、裸足で駆け抜けて、諦めて仕舞えば楽になるというのに、なぜ諦めようとしないのだろうか。
死ぬのが怖いから?誰かに強制されているから?
私には、わからない。わかることが、できなかった。
次の舞台は北米だった。
機械仕掛けの兵士たちとケルトの女王の生み出した兵士のぶつかり合い。
戦場に舞い降りるクリミアの天使、閃きと努力の天才、インド叙事詩の大英雄。ケルト神話の再来。
そして、アメリカの地を満たす魔神柱。それらを打ち倒していくカルデア。
彼らの目にはいつだって、希望が溢れていた。まだ未来は取り戻せるという確信にも近い希望の目だった。
そうして次に至るはエルサレム。
エジプトを治めるは偉大なるファラオと冥府の遣い。
山の民を統べるは偉大なる暗殺者たちの集団。
そして――獅子王と、偉大なる円卓の騎士たちが治める"聖都"の集団。騎士道の体現者たち、円卓の騎士。
彼らはみなそれぞれ譲れないもののために戦いを挑んだ。
静観するものもいた。世界の終末に際しても生き残るべき
そして、彼方への巡礼の旅に出る隻腕の騎士。それは、自らの
今までの5つの特異点と比べても、この6番目の特異点は内容が重たかった。
光に吞み込まれ死んでいく無辜の人々。菫色の少女――マシュ・キリエライトの中に棲む英霊の正体。
聖剣を授けられた隻腕の騎士の永遠にも続く苦しみと痛み。そして、最果てに至った聖槍の神。真性の神の価値観と、普通の人間の価値観の相違。
彼らは互いに戦い、その果てにカルデアは勝ってみせた。
6個の世界を全て救い、ついに7つ目の特異点に至る道は開かれる。
紀元前の古代王朝、シュメール神話の世界。バビロニア王朝の時代。
友を喪った孤独の王が、死なず老いずの霊薬を求めて旅をし、その果てに何も得ずに帰ってきた世界。かつて自らが治めた地は荒れ果て、さらに人理が焼かれたことにより様々な異常に襲われている。
英雄王と呼ばれた彼は、ウルクの地、そしてウルクの民を守るために宝物庫を開き自らは魔性の支配者へと装いを変える。
ギリシア神話の哀しき女神、アステカの風の神、そして土着の冥府神。
絶対魔獣戦線と呼ばれたその特異点。
金星の女主人、女神の妹。そして花の魔術師。
数々の戦いの末に、ウルクは確かに滅びた。すべてを見た人──賢王ギルガメッシュが、ウルクの民草の前で語った通りに。
ケイオスタイド──原初の母がウルクに至るために敷き詰めた泥の海と、ゴルゴーンらの攻撃によって。城壁は割れて天は赤く染まり、文明の跡が残らなくなるほどに破壊された。
『王は民のために生きるにあらず、しかし、民は王のために生きるもの。
では王はなんのために生きるのか?言うまでもない。王が良しとする喜びのためだ。
しいて言うのなら、我は我を喜ばせるもののために、このウルクを治めてきた』
崩れた都市。そこに残るはたった500の民草と、それから彼らカルデアの人たちのみ。
彼の栄光を示すかのように建てられたジグラットの見晴し台から、王はさらに告げる。
『まさに────ウルクは幸福な都市であった。その歴史も、生活も、民も────この我も含めてな。
今こそ原初の神を否定し、我らは人の時代を始める!心せよ、我が精鋭たちよ!
これは神との真なる決別の戦い!その命、王に捧げよ!最後の一命まで、後の世に、我らウルクの栄光を伝えるために!』
気運が高まる。大気がひり付く。その場にいないはずの私も、その言葉に煽りを受けるかのように、熱を持ち始めた。
『今一度言おう──ウルクは滅ぶ!もはや変えようもない事実だ。
しかし憂う必要はない!なぜか!
それは勝利の暁を一人でも拝むものがあれば、その胸中に我らの生き様が刻まれるからだ!
例え死するとも、子を残せずとも、人は人の中に意思を残す。それこそ人が持つ力の粋!
血を介さぬ知性による継承、命の連鎖!
ウルクの滅びは我らの滅びではない!我らは勝利の暁に輝き、その光で時代を繋ぐ!』
……場面が移り変わる。金色の流星が降り注ぐような、赤い大地の戦争。それはまさしく、世界を賭けた一戦だった。
賢王が開いた宝物庫から次々と財が消えていく。長い長い、戦いが続く。
閃光が一閃。偉大なる王の身体を貫いた。
『ハ!気にするな、致命傷だ!
それより貴様だ、ばかもの!無事か!無事だな!ならば良し!』
口の端から血が流れる。生身の彼にとって、その傷は間違いなく、彼の語った通り「致命傷」だった。
絶望が広がる。それでも彼は、財を放ることを辞めない。
……菫色の少女が、諦めの言葉を口にしようとする。そんな中でも──黄金の王から、闘志は消えていなかった。
『無理というか?我は限界だと?もはやウルクは戦えぬと!貴様はそう言うのか、藤丸立香!』
──誰かの記憶が、流れた。
『──何を今さら。ボクには、成し遂げるべき目的なんて、なかった。
自由なんて──選択する、
立ち尽くす緑髪。去っていく黄金。
『ラフム、残り二千。取るに足らない』
『──フン。見た事か。心臓さえあれば、おまえたちなんて話にならない』
『こんな量産型に手こずるなんて、旧人類は本当に使えない。それでよく、』
『……よくボク相手に大口を叩いたものだ。カルデアのマスターも、アイツも』
『ひとりじゃ何もできないクセに、偉そうに胸を張って。それで、最後まで生き延びた』
『…………ふふ。自分ひとりで何でもできる、か。その時点で、ボクは完全じゃなかったな』
作られた泥人形は──いま、ヒトとなった。完全が何なのかを、知った。
『──人間の味方なんてするものか。ボクは新しいヒト。ただひとりの新人類、キングゥだ』
『だけど────』
『……母親も生まれも関係なく。……本当に、やりたいと思った事を、か。
……ボクにはそんなものはない。なかったんだ。なかったんだよ、ギル』
『でも──思えば、一つだけあったんだ。
キミに会いたかった。キミと話したかった。
この胸に残る多くの思い出の話を、その感想を、友としてキミに伝えたかった』
『でも、それは叶わない。それはボクではなく、エルキドゥという機体の望みだ』
『……そして。ボクの望みは、今も昔も変わらない』
『新人類も旧人類も関係ない。ボクはヒトの世を維持するべく生を受けた』
信念が芽生える音。奔流が走り、彼の色に似た黄金が、流れた。
それは生誕の時。かの女神から離れた、誕生の時。
『さようなら、母さん。アナタは選ぶ
『……うん。アイツの言った事は、よく分からない。でも──』
──彼の躰が天を舞う。地から鎖が生える。
『──この体が。やるべき事を、覚えている。ウルクの大杯よ、力を貸しておくれ』
『ティアマト神の息子、キングゥがここに天の鎖の
『母の怒りは過去のもの。いま呼び覚ますは星の息吹──!』
『
エルキドゥを騙ったティアマト神の実の子、キングゥが自らを賭けて母を押しとどめる。押し留めてみせた。
『──さらばだ、天の遺児よ。以前の貴様に勝るとも劣らぬ仕事──天の鎖は、ついに、創世の神の膂力すら抑えきった。
──無論だ。何を悲しむことがあろう。我は二度、友を見送った。
一度目は悲嘆の中。だが此度は違う、その誇りある勇姿を、永遠にこの目に焼き付けたのだ』
口の端から血を流しながらも、人類最古の王はそう呟いた。
神の膂力を抑え込み、血に縛られた原初の母。その身に降り注ぐは、金星からの裁きの光。
ウルクの大地に風穴を開くその一撃は、原初の母は冥界に墜とした。女主人──エレシュキガルが治める、生命の終わりの地。そこで最後の戦いは始まった。
ティアマトの産んだ新人類、ラフムが再び産まれ落ちて襲いかかる。
その様子は大凡理性があるとは思えない雰囲気で、人間と呼んでも良いのかわからない。
カルデアはそのような化け物を相手にしながら、原初の母が地上に登る前に彼女を仕留めなくてはならなかった。
冥府に馳せ参じるは、大いなる死をもたらす暗殺者。冠位たる己の資格を返上し、手向として放ったその一撃は、死を持たぬティアマトに確かなる脅威を知らしめた。
そんな中で、ティアマトは駆け上がる。ラフムは道を開くためにカルデアに襲いかかる。
一騎、また一騎と追い詰められて、ついに立つ者はいなくなってしまった。
終わりだ、と思った。
彼らにはもう、立つ力など残っていない。戦う術も、もう残りなどしていない。奇跡が起きる筈も、全くない。
──瞬間、黄金が煌めいた。
それは剣の雨。圧倒的な力。絶望を照らす、大いなる光。
次々と新人類は倒れ伏し、彼らは一様に天を仰ぎみる。
そこには人が立っていた。
金髪を背に回し、真紅の瞳を煌々と光らせ、背には無数の波紋を広げて、大地に立っていた。
賢王としての体から姿を変え、新生した、人類最古の王。英雄王ギルガメッシュ。かつて友と大地を踏みしめ、天を駆け、立ちはだかる全てをなぎ倒した全盛期の姿で、彼は冥界に立っていた。
ラフムは次々と彼によって倒され、ティアマトもまた地の底へと墜落する。
するとティアマトは、殻に閉じこもるように自らの周りに領域を展開する。
固有結界、ネガ・ジェネシス。惑星新生の第一段階。元来の生命を否定し、全てを無に帰させる領域。
故に、サーヴァントは立ち入ることが敵わず、今を生きる生命のみが存在を許される世界。
そこに立ち入ることができるのは──いつもマシュのそばにいた顔の見えない誰かだった。
英雄王から下賜された短剣を手に握ると、そのヒトは勇敢に領域の中に立ち入ってみせた。
走る、走る、走る。
下では魔術師が道を作っている。マシュが、領域の侵食に対するべく災厄の席に立っている。
二人が、生命を無に帰す泥を必死に抑えこむ。
皆の努力を、無駄にしないために。
原初の母に、自分たちの旅立ちを宣言するために。
足元が崩れた。
浮遊感と共に、地へと沈んでいく体。
今度こそ、終わったと思った。
ぼやけていたシルエットが少し明瞭になる。顔の見えない誰かは、どうやら男の子のようだった。
それがわかったところで、今こうして見ることしかできない私にはどうしようもないのだが。
その人の様子を見てみる。
彼は体が落下しながらでも、その手に握りしめた短剣を離すことはしなかった。
まるで、まだ終わってないと宣言するかのように。まだ、諦めないと宣言するかのように。
──奇跡が、起きた。
彼の体が、ティアマトの目の前に転移した。
目を見張った。こんな出鱈目があってもいいのか、奇跡が起きてしまってもいいのか、と問い続けた。
しかしこれは、どこまで行っても現実でしかなかった。
逆手の短剣が振り下ろされる。
数秒、数十秒待った後に、空間が大きく割れた。
『っ、ギルガメッシュ──────!』
ここで、初めて彼の声が聞こえた。
先程までは、ボカロにアテレコをしてもらったような機械的な声でしか彼の言っていることが理解できていなかった。
しかし今は、耳で彼の肉声を聞くことができる。
──その声に、聞き覚えがあった。
『決着がついたようだな、藤丸立香。ならば、この一撃を以て訣別の儀としよう!』
英雄王の声が響き渡る。
高台から全てを見届けていた王は、高らかにそう宣言すると、波紋から一振りの剣を取り出した。
……いや、あれは剣なのだろうか。円筒状のモノが3個重なり、全てが回転している。
回転は次第に早くなっていき──空間が、歪み始めた。
『原初を語る。天地は別れ無は開闢を言祝ぐ。世界を裂くは我が乖離剣!』
真紅の波動が広がって、オーラの如くギルガメッシュの周りに集まる。
彼の背後に、宇宙が存在していた。
この星が誕生するより前から、あれは存在していたのだと、理解できた。できてしまった。
『星々を廻す渦、天上の地獄とは創世前夜の祝着よ。──死を以て鎮まるがいい!』
紅色の波動が凝縮されて、円筒の最先端に集まる。
集まった波動──エーテルの塊は、太陽をも凌駕する光を放っていた。
『
宣言と共に、円筒が振り下ろされた。
瞬間、世界から音が消えた。紅色の波動が放出されて、ティアマトの身体を灼いた。
末期の断末魔を上げることも許されぬまま、身体を崩壊させて行くティアマト。冥界の底で大爆発が発生し、地盤の崩落が巻き起こる。
カルデアは、原初の母を討伐して見せたのだ。
……次に私が見た光景は、泥が消えて地面が露出したウルクの大地と、綺麗に晴れ渡った青空だった。
しかし城壁は崩れ落ち、家はその殆どが見る影もないほど破壊されている。そんなアンバランスさにめまいを感じながら、私はこの特異点の終わりまでを見届けた。
ジグラットの宮殿の屋上に登る。
ギルガメッシュと、
すると、太陽が昇るのが見える。ウルクの新しい夜明けを告げるように、それはやってきた。
眼下には荒れた都市が広がる。その惨状を嘆くように、マスターと呼ばれる少年は膝をついた。
涙を流し、悲しむカルデアの面々。この文明は、滅んでしまったのだと認識せざるを得なかった。
黄金の賢王──ギルガメッシュは、マスターと呼ばれるヒトに告げた。
『顔を上げよ藤丸立香。たとえ貴様がこの時代で己の無力を嘆いたとしても、我が認めよう。お前こそが必要な者だと!この先どれほどの窮地が待っていようとお前は、ただそこに立つだけで、"正しい"のだ』
未だにマスターの名前も、顔も、明かされていない。
それ故に彼の表情がどのようになっているかなんてわかるはずもない。
ただ、声だけはよく聞こえた。頑張ります、という6文字の言葉が。
カルデアへの帰還が始まった。ギルガメッシュは慈愛のこもった顔を向けながら、イシュタルは少し微笑みながら、彼らを見送る言葉を送った。
マシュは、名残惜しいですが、と言葉を零しながら彼らに顔を向ける。気にするな、と口にしてからさらに言葉が紡がれた。
『貴様との別れは既に済ませた。勝利の凱歌を挙げ、我の名を讃えながらカルデアに戻るがいい』
それはギルガメッシュの言葉だった。
彼らに背を向けながら、何処かへとむかっていく黄金の王。
歩いていくその背を見つめていると、唐突に彼が歩みを止めた。
『あ、そうそう。旅人が笑顔で帰るのであれば、土産の一つでもくれてやるのがよい国というものだ』
片目を閉じながらカルデア一行に顔を向けるギルガメッシュ。
一つの波紋が空中に浮かぶと、そこから黄金の盃が姿を現した。
『ウルクの名物、麦酒だ』
片手に持ったその盃をカルデア一行に突きつけるギルガメッシュ。
だがそれを断るようなそぶりを見せるマシュ。マスターも同じような素振りをしており、彼らが未成年であることを示していた。
ギルガメッシュはそれを聞くと、つまらんな、と一言告げて盃に口をつけた。
全てを飲み干し終えると、彼は盃を放り投げた。
『では器だけでも持っていけ。何かの役には立つだろう』
陽光に照らされて豊かな光沢を反射させる盃。それは、現代にも伝わる願望器のその原型。
金色に輝く大きな杯。ウルクの大杯と呼ばれるものだった。
誰もが唖然としていた。隣に立つイシュタル神も、マシュも、ポカンとしてしまった。
だが最後には彼らはギルガメッシュを見つめて、一様に笑っていた。
『ではさらばだ、カルデアの!此度の戦い、正に痛快至極の大勝利!貴様らの帰還をもって、魔獣戦線は終結とする!』
『『はい!』』
誰もいなくなったウルクに、大きな声が響いた。
退去が次第に始まっていくなかで、彼らに最後の問いが投げかけられる。
『ああいや、少し待て。ひとつ、聞くのを忘れていた。
――このウルクは、どうであった?』
その問いに、マシュは──カルデアの面々は、満面の笑みと同時に応えた。
『『──楽しかったです!』』
……彼らの笑みを、サーヴァントたちの笑みを、誇りを見て。
彼らが戦う理由の一端が、わかったような気がした。
幽閉塔の真下。
この世のどこかに存在しているとされる、星の内海の楽園アヴァロン。
そこに、俺は立っていた。
「おや、思ったより来るのが早かったねマイロード。いらっしゃい、アヴァロンへ」
「待ってたよ、お兄ちゃん。さ、こっちに来て」
――花の魔術師、マーリン。偉大なる王を導いた、キングメーカー。千里眼を有する、冠位の魔術師。
性別違いの2人が並んでいるのを見ると、本当に見た目が似ていて驚く。もちろん、クソみたいな性格なのは男女で共通だ。
「……なんで、俺をここに呼んだの?」
「うーん……強いて言うなら、面白そうだったから?」
「後はたまにはここで話すのも良さそうだったからねー」
二人は微笑みながらそんなことをのたまう。
整った顔立ちである二人がこうして笑うととても映えるな、と感じつつも胸中にあった疑問をぶつけることにした。
「それならどうして────」
「────彼女に、夢を見せたのかって聞きたいのかい?」
そうだ。そうなのだ。
ここに至るまでに、これまでの旅路を追憶させられた。
オルガマリー前所長の慟哭を聞いた。聖処女の決意を、薔薇の皇帝の熱意を、嵐の航海者の情熱を、ソロモン王の告げる絶望を、インド神話の因縁を、聖槍の王の愛を、すべてを見た人が最期に遺して逝った激励を、再び聞かされた。
忘れる筈もなかった。片時も、この戦いのことを忘れたことはなかった。
色彩に満ちた旅路の話。酸いも甘いもあった、絶望と希望の旅路の話。
きっと普通の人間には耐えられない、耐えようとも思えない地獄。
それをどうして、彼女に──無関係であるはずの、更識簪に見せてしまうのか。
「マイロード。ボクはね、ハッピーエンドを望んでいるんだ。君にとって、そして彼女にとってのね」
「気づいている筈だよ、マスター。あの子は心に、黒いモノを抱えていると」
「それは、姉へのコンプレックス。自分はこうあれない、優秀な姉には勝てない、という羨望。あるいは嫉妬。やり場のないそれは、いつか彼女自身と、それから君を蝕むだろうね」
男のマーリンと女のマーリンが、変わる変わる話しかけてくる。
言っている内容はよくわかる。だが、自分の夢を見せていることは理解できない。それに、彼女の姉のことも彼女自身のコンプレックスのことも、何一つとして知らない。
だからこそ関係を深めるのはもっとゆっくりでいいじゃないか、せめて彼女ともう少し仲良くなってから──そう思ってしまう自分がいる。
「ま、そんな深い理由もあるけど、結局は面白そうだと思ったから提案したんだよねー」
「いやぁさすが我が妹、って感じだったよ」
やっぱりこいつらクソだ。
つい反射的に、俺はそう思ってしまった。
結局この夢魔兄妹は愉快犯ってだけで、深い考えがありつつも最後には自分の興味と関心だけでこういうことをしてくる。厄介なやつだ。
「まあそれよりもだねマイロード。彼女に見せるべきシーンは、まだ終わっていない」
「いまから丁度、人理焼却の最後を見届けることになる」
「キミはそれから、彼女に会って話をするといい。自らが感じたことを包み隠さず、打ち明けるんだ。そうすれば彼女はきっとキミの力になってくれるよ」
二人のマーリンがこちらに手を伸ばしてくる。
するとどこからともなく道が現れ、花が咲き誇る。
「さ、行ってらっしゃいマイロード」
「キミの道行に、花の導きがあらんことを」
すると視界が白くなって、意識が段々と遠のいていく。
結局肝心な部分について何もわからなかったな、なんて思いながら旅路の終わりを再び見届けることにした。
──霊長の世が定まり数千年。
神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった。
我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。
そのために多くの知識を育て、多くの資源を作り、多くの生命を流転させた。
人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図。
これを、魔術世界では人理と呼び、我らカルデアは其れを尊名として守り続けている。
「……あなたは、誰?」
──うーん、そうだなあ。
誰よりもロマンを愛する、臆病者?
「臆病、って?」
──キミは今まで、不思議なモノをたくさん見てきたと思う。
ボクはね、その中でも特に異端……って言ってもいいのかな?過去と、未来のすべてを見ることができるんだ。この両目でね。
その中で、惑星の未来を知った。訳あって両目の力を無くしちゃって、世界が滅びることを知って、ひどくこわくなった。
自慢じゃないけど、ボクはそれまで怖いとか思ったことがあまりなかったからね。
話を戻すけど、ボクは怖くて怖くて仕方がなくて、逃げるように勉強して頑張ることにした。そうやっても、もうどうにもならないことはわかっていた筈なのにね。
「……どうして?」
──うん?
「どうして、あなたはそこまで頑張ることができたの?」
……うーん。正直つらかったし、何度も途中で責任を放棄してどこかに行きたかったよ。
でも、それでもさ。
──美しいなって、そう思ったんだ。
人と人とが手を取り合って、一秒、一瞬を必死に生きていくのが堪らなく愛おしかったんだよね。
特に、夢の中でいつも中心になっていた子達を思うとさ。
「……」
──ねえ、キミの名前はなんで言うんだい?
「知っているんじゃ、ないの?」
──知っていても、聞かなきゃ意味がないだろ?
「……更識簪」
──カンザシちゃんか……うん、いい名前だと思う。
ボクの名前は……じきにわかる時が来るけど、今はこう名乗らせてもらうね。ロマニ。ロマニ・アーキマンだ。
「……その、名前は」
──さ、ボクが今語れる話はここまでさ。
カンザシ。どうか、キミは、彼と向き合って欲しい。
人類最後の、マスターと。人理に刻まれし、唯一の英雄と。
自分に出来る事を、出来る範囲で努力する。
出来ない事なら、出来る範囲に収めようとする。
先達の助けを借りて、未来を夢見ている。
絶望的な状況下でも。人間として正しく抗い続ける。
時折挫けそうになる────振り返りもする。
だが足を止めるのも振り返るのも一瞬だ。
彼は、そう言う人間だった。
最後の特異点。冠位時間神殿ソロモン。
そこに、そこの玉座にて、ソロモン──魔術式ゲーティアは、カルデアを待ち受けていた。
縁を結んだサーヴァントたちが次々と現れては、魔神柱を薙ぎ倒して道を開く。
盾の少女、マシュを引き連れて走る男。彼をそこまでして駆り立てるものの正体は、すでにわかっていた。
人類史を焼き払った光線からマスターを守るべく、菫は儚く、そして鮮やかに散った。
その標に、大きな盾を残して。
──あまりにも、魔術式ゲーティアは強かった。
ソロモンの流れを引き継ぐだけあり、彼にほとんどの攻撃は効かない。
いくら攻撃を加えても立ち続けるその姿には、妄執とも言える決意が大いに詰まっていた。
喪失。大切に思っていた後輩が消え、そんな中で、目の前の脅威に勝たなければならない。
膝をつきそうになるのを堪えていると──ひとりの足音が、聞こえた。
『たった十一年前の話だ』
『ソロモン。カルデアの召喚英霊第一号。マリスビリーと共に聖杯を手に入れ、願いを叶えた英霊だ』
『“人間になりたい”。口にしたコトは、そんな、よくある願いだったけどね』
『多くの偶然にも助けられた。その最たるものがキミだ、藤丸くん』
『……もちろん、初めて出逢った日の事だけじゃない。このグランドオーダー中、キミに助けられなかった時はなかった』
『その事実に、心からの感謝を送る』
──そこに、彼が現れた。
ロマニ・アーキマン。背負ったモノの重さに耐えながら走ってきた、努力家の凡才。
『──ゲーティア。魔術王の名はいらない、と言ったな。では、改めて名乗らせてもらおうか』
『我が名は魔術王ソロモン。ゲーティア。お前に引導を渡す者だ』
その正体は、ソロモン王本人だった。
薄々、気づいていたことではあった。これまでの物語と、それからさっきの話を関連づけてみれば、あっさりと分かった。
そして──彼が為そうとしていることも、その意味も。なぜか、すんなりとわかってしまった。
『……命とは終わるもの。生命とは苦しみを積みあげる巡礼だ。だがそれは、決して死と断絶の物語ではない。
ゲーティア。我が積年の慚愧。我が亡骸から生まれた獣よ。
今こそ、ボクのこの手で、おまえの悪を裁く時だ』
『ああ、初めからそのつもりだ。ボクは自らの宝具で消滅する。それがソロモン王の結末だからね』
『それがおまえの間違いだゲーティア。
確かにあらゆるものは永遠ではなく、最後には苦しみが待っている。だがそれは、断じて絶望なのではない。
限られた生をもって死と断絶に立ち向かうもの。終わりを知りながら、別れと出会いを繰り返すもの。
……輝かしい、星の瞬きのような刹那の旅路。これを愛と希望の物語と云う』
『いよいよだな。ボク……いや、ボクたちが最後に見るものはキミの勝利だ。
カルデアの司令官として指示を出すよ。私の事は気にせず、完膚なきまでに完全な勝利を。
キミは人間として魔術王ソロモンを倒した。あとは魔神王を名乗るあの獣を、ここで討伐しなくてはならない。
さあ――――行ってきなさい、藤丸くん。これがキミとマシュが辿り着いた、ただ一つの旅の終わりだ』
微笑みながら、彼は告げた。傍らにいる男──藤丸立香に。
……これも、わかりきったことだった。わかったのは第七の特異点だったが。
体格は全く違う。声が聞こえたのも第七特異点の時だった。
それでも、節々から感じられる意志の強さが──なぜか知り合って間もない筈の彼のことを、別人だと自覚させなかった。
靄が晴れた。
そこにいたのは、蒼空を目に秘めて、強い闘志を燃やす、カルデアのマスターだった。
『ゲーティア。おまえに最後の魔術を教えよう。
“ソロモン王にはもう一つ宝具がある”と知ってはいたものの、その真名を知り得なかった───いや、知る事のできなかったおまえに』
『
そして───訣別の時きたれり、其は世界を手放すもの……
おまえの持つ九つの指輪。そして私の持つ最後の指輪。
今、ここに全ての指輪が揃った。ならあの時の再現が出来る。ソロモン王の本当の第一宝具。私の唯一の、“人間の”英雄らしい逸話の再現が』
『第三宝具
第二宝具
『そして───神よ、あなたからの天恵をお返しします。
……全能は人には遠すぎる。私の仕事は、人の範囲で十分だ』
『第一宝具、再演。────
神より与えられた恩恵全てを捨て去り、ソロモン王から生まれ出たもの全てを自壊させる"自爆宝具"。発動と共に、地上に存在するソロモン王の痕跡は、72の魔神たちも含め全て消えうせる。
───否、地上のみならず、英霊の座からでさえも、ソロモン王は消え失せた。やがて残滓となった魔術式も、消えるだろう。
崩壊していく時間神殿。元に戻っていく人理。
その中で、魔神王は──人王ゲーティアとして、藤丸立香に最後の戦いを挑んだ。
『不愉快だが訊いてやる、藤丸立香!』
『なぜ、ここまで戦えたのかを────!』
ゲーティアは問う。なぜ戦う、なぜ足掻くと。
なぜ自ら辛い道を歩み、戦うのかと。心底理解できないと言うような声色で、彼は問うた。
……私には、わかった。わかることができた。
藤丸立香。彼はきっと、たったひとつの自分の願いのために、この昔に壊れて消えてしまった、美しい『人類史』という中で戦っていたのだ。
その両肩にどれほどの責務を感じただろう。何度目を背けて逃げようとしたのだろう。……何度、弱音を吐こうとして諦めたのだろう。
自分に出来る事を、出来る範囲で努力する。 / 彼はそれを、全力で成し遂げて見せた。私にはそれができなかった。
出来ない事なら、出来る範囲に収めようとする。 / 縁を伝って手繰り寄せ、そしていつだって最善を掴んだ。私にはそれを考えることすらできなかった。
先達の助けを借りて、未来を夢見ている。 / 自分の叶えたい
絶望的な状況下でも。人間として正しく抗い続ける。 / 泥臭くても、傷だらけでも、つらくても、歩みを止めない。私にそれは、本当にできていたのか?
時折挫けそうになる────振り返りもする。 / その通りだった。何度も挑戦して、何度もぶつかって、何度だって諦めないでいた。過去に縛られず、前を向き続けていた。……私はそれと反対で、いつまでも
だが足を止めるのも振り返るのも一瞬だ。 / 私は──諦めたくは、ない。過去の自分のままで、居たくない。
消えていく世界の中で、ただ一つの声がした。
『──決まっている…………!』
「『生きるためだ──!』」
彼と私の声が、重なる。
藤丸くんのひたむきな願いが、私の胸中の思いが、ひとつの言葉でつながる。彼の『原初』の願いを、口にしたから。
あれ。今、ふわりと、どこかで嗅いだことのあるような、花の香りがしたような気が──。
「……お疲れ様、簪。これが、俺の──今まで生きてきた道だ」
「……」
「人類最後のマスター、って呼ばれ方もたくさんされた。多くの人に導かれて、その度に多くを失った。
でも、それでも、この世界は美しかった。生き続けたいって思うくらいに」
「……私には、立香のすべてを理解することはできない。旅路のつらさも、大切な人がいなくなる恐怖も、世界が滅んだ時のことも、わからない。でも……ありがとう。
世界を救ってくれてありがとう。あなたの旅路を見届けて、私にやりたいことができた。……お姉ちゃんに、勝ちたい。そして立香のことを、もっと知りたい」
「今の簪なら簡単にできるよ。……俺も、手伝うから」
「うん。……ありがとう」
「ッ……どういたしまして」
一面が白の空間に、光が差した。
水色の少女と黒色の青年は手を取り合う。身体がふわりと浮いて、そして意識も浮上していく。
「さ、行こう簪。──一緒に」
黒色の青年──藤丸立香は、少年のような満面の笑みで笑って、手を引いた。
その眼には、蒼空と希望が広がっている。取り戻した世界の中で輝く宝石がそこにあった。
「うん。一緒に行こう、立香」
水色の少女──更識簪も、少女のような笑みを浮かべて、手を取った。
その眼には、決意があった。唯一の姉と解りあうために、自らのコンプレックスを克服するために、火を灯した。
そうして、白色の世界から、すべてが旅立っていった。
大変長らくお待たせしました、#7はここまでです。
これを書いている間に新年度になってしまい、お待たせしていた皆様には大変申し訳ないことをした……!マジですみませんでした。
新年度になり環境が大きく変わった人も多いと思いますが、また一年間新しい出会いと別れを経験していい一年にしていきましょう。
IS×FGOの更新が遅れた理由は複数あるのですが、一番はダンガンロンパにハマったことが挙げられます。……はい、ほんとにすいませんでした。でも日向クンと七海サンが好きすぎてずっとpixivで小説読んでました。
いつかここでダンロン小説書きたいですなぁ。
ってことでここからはいつもの感想返しです。一個一個に返信もしていきたい。
>マーリン関連
やっぱり夢魔はクソ。一般人に人理修復の旅を見せるとは……そう仕向けたのは自分なんですけど。
誰が言ったか、グランドロクデナシクズ。
>大天使簪
っぱ簪ちゃんですよねぇ!?俺らのメインヒロインですよねぇ!?(姉の方も好き)
コミュ障天使vsコミュ力お化け、ファイッ!(なお胃袋を掴まれている)
曇らせはないんだ……すまない……
>弊立香くんのスペックを知った時の織斑くん関連
┌(┌^o^)┐ホモォ……
まあそれは置いておいて、確かに織斑くんは羨ましがりそうですね。価値観も一般人に近い(逸般人)ですから。それに唯一の同姓同士だし。
>簪ちゃんを心配する声
ご安心を、グランドロクデナシたちはすべてぼかさずにお届けしております。なお立香くんの正体は隠す。
まあアフターケアがしっかりしていたので簪ちゃんには特に何もなかった(弊社比)、と言うことにしておいてください。
>カルデアのサーヴァントは大丈夫なの?
溶岩水泳部の扱いに困っている自分がいます(つまり何も決めてない)。
一つ言えることがあるとしたら、夢魔兄妹とロマニ、それからキャストリアたちは好印象を抱いています。
>藤丸の機体の聖剣
これはアルトリア・アヴァロンが生み出した新しい聖剣と考えて貰えばいいです。原典はアルトリア・キャスターが使っている聖剣です。
>セシリアさんの正体関連
すまない、またなんだ。まだ正体を教えられないんだ。
多分次の回が戦闘になるので、それまで待っていてくれると助かる。
ちなみに限りなく近い考察してる方がいました(小声)
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