IS×FGO   作:如月/Kisaragi

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ついに戦闘回の#8です。お待たせしました。
ちなみに戦闘回はもう1話あります。多分薄味になる。

いつもの如く感想・評価お待ちしてます。
あと最近イラスト欲しいってずっと思ってます。自分で描くのもアリかなあ……誰かイラスト待ってます(他力本願寺)


#8

雀の声で目が覚めた。

カーテンの隙間から覗くあたたかな陽射し。さっきまで見ていた光景とは違った、どこまでも現実的な眺め。

ここが、彼の取り戻した世界なのだと思うと、彼の凄まじさがわかったような気がした。

 

傍らのもう一つのベッドに視線を移すと、そこに人はいなかった。時計を見てみると朝の五時半。私も朝は早い方であったが、それよりも早いとは。

眠気眼を擦ってから身体を少し動かす。朝のストレッチ……にもならない簡単なものだが、その効果は侮れないだろう。小気味のいい、ポキポキと言う音と共に身体に刺激が入る。身体の機能ひとつひとつに順番にスイッチが入っていくと、鼻に妙にいい香りが入ってきた。

 

もしやと思いキッチンを覗いてみる。

そこには昨日と同じように、エプロンを纏った主夫がいた。

 

「おはよう。随分と朝早いね?」

「それを言うなら立香も早い、と思うけど」

「うーん……それを言われたら何とも言えないかなぁ」

 

雑談に興じながらも、手を動かすのを止めない立香。

何を作っているのかが気になったが、あまり見つめ続けるのもよくないと思い視線を逸らし──瞬間、腹の虫が鳴いた。

 

「……ふふっ。お腹、空いた?」

「ッ──」

 

キッチンの向こうにも音が聞こえたようで、カウンターを挟んで立香がからかうように声を上げる。

その時チラッと彼のことを、頬を膨らませてムッとした顔で見つめてみたのだが、彼の顔を見て恥ずかしくなって爆速で目を背けた。

 

首元が大きく開いたルームウェア。そこから覗くやけに白い肌。

よく鍛え上げられているのか、割と筋肉質の男らしさがそこにあって。

極めつけに顔は薄く笑っていて、うなじが光を反射して輝いている。

 

なんというか、色っぽかった。本当に。

 

「恥ずかしがらなくてもいいのに。ほら、卵焼き食べる?」

「ッ……食べ、る……」

 

苦し紛れに口に放り込んだ卵焼きは、甘くて仕方がなかった。

それと同時に、途轍もない敗北感のようなものを感じてしまった。

 

 

 


 

 

 

セシリアと一夏と、なぜか巻き込まれた俺によるクラス代表決定戦当日になった。

今までしてきたことといえば、簪にごはんを作ったり(昼の弁当も作って無理やり渡した)、クラスメイトと談笑したり、簪と特撮の話で盛り上がったり、一夏の部屋のドアが破壊されたりしていた。

もちろん決定戦に向けてある程度の練習はした。しかしダヴィンチちゃんから未だに実戦で使う機体が届いておらず、訓練機での練習のみで留まっていた。

そんな中で専用機が届いたのは、代表決定戦の一日前だった。

 

「いやーお待たせしたね立香くん!思ったより時間がかかってしまってね……ともかくこれがキミの専用機さ!」

 

放課後。

闘志に燃える一夏に宣戦布告され、セシリアに「明日は負けませんわよ。あなたにも、織斑さんにも」と告げられて、それから織斑先生に伝えられた受け取り場所に向かった。

そこにいたのはハイテンションを隠しきれない万能の天才だった。目をキラキラさせながら、どこか吹っ切れた様子ではしゃいでいる。

 

「……ところで、立香くん。後ろにいるその子は?」

 

そう言って、俺の後ろを指さしてくるダヴィンチちゃん。

ちら、と後ろを見てみる。背中に隠れるようにしていた少女は、何かを決意した様子で──背中から出てきて、ダヴィンチちゃんに向き合った。

 

「紹介するよ。彼女はルームメイトの更識簪さん。まあ色々あって……俺の過去を知っちゃったんだ」

「はじめまして、ダヴィンチさん。更識簪、です」

「……もしかして、ロクデナシ(マーリン)?」

「うん、グランドロクデナシズ(マーリン×2)

「……あー。うん、なるほど」

 

苦笑いを浮かべるダヴィンチちゃん。

その様子を見てこてんと首を傾げる簪。

 

「……そういえば、ロマニが何か言ってたっけ。立香くんがクソ野郎に絡まれて、ついでにルームメイトにも被害が出るって」

「気づいてたんだ、ロマニ……」

「まあその頃には手遅れだった訳だけど。……ともかく、それでもあれを見てキミの近くにいてくれる人がいるのはいいことさ。簪くん、見ていくかい?」

「……いいんです、か?」

「もちろん!私は人を見る目はあると自負しているぜ?キミは悪い子には少なくとも見えないし。さ、早くこっちに!動作テストしたいんだー」

 

矢継ぎ早に告げて、姿を遠くしていくとコンテナを一個機械で運んでくる。

隣にいる簪に目を向けて、それからお互いにクスッと笑った。

 

「ね、いい人だったでしょ?」

「うん。……あの件、引き受けてくれるかな……?」

「きっと引き受けてくれるよ。だから今は、とりあえず向こうに行こう」

「ん」

 

短く頷き、俺の後ろについていく簪。

ダヴィンチちゃんの近くに向かいながら、考えること。それは、今日の朝方に伝えられた"あの件"についてだった。

 

簪は日本の国家代表候補生である。

よって彼女には専用機が与えられる予定だった。打鉄弍式と呼ばれる、倉持技研が開発した第三世代機が。

第二世代の打鉄の高機動カスタム機として作られていたそれは、男性操縦者の織斑一夏が発見されたことにより開発が凍結。ISコアと組み上がっていた骨組みだけが簪の手にもたらされた。それも、未完成のままでだ。

 

簪は、反骨精神──織斑一夏に開発を止められた怒りの行き場を失っていたのもあるが──と、姉へのコンプレックスから、それをあくまでも一人で完成させるつもりだったようだ。それが、姉の歩んできた道であるゆえに。

 

しかし──今の彼女は違う。

朝方に彼女は、自ら俺にその事実を告げてくれた。

その上で、一緒に完成させたいとも言ってくれた。

 

だからこそ、思う。彼女の専用機のことを。

 

「おっ、来たね?」

 

そんな考え事をしていたら、いつのまにかダヴィンチちゃんの下に着いていたようだ。

目の前の、見慣れた天球儀が彫られたコンテナの中に、俺の専用機が──ある。

 

「ようし、ではご開帳ー!」

 

その言葉が音声認証のパスワードになっていたのか、それを聞き届けてコンテナが開く。

そこにあったのは──無機質に見える、鉄の鎧だった。

 

プレートアーマーと、それからその真ん中に彫られた幾何学模様。

背中にはクリスタルがミラーボールのような形で成形されており、何かの機械がそこにマウントされている。

その姿は、正しく()()

 

「このISって、これが完成品……なんですか?」

 

隣の簪が、俺が初見で思ったことを代弁してくれる。

妙としか思えなかった。あの変態(技術者)どもの巣窟でできたISが、こんなにも──普通なものに仕上がるのか?

 

「ふふん、それが当然の反応だよね。でも御二方、このISはこれが真の姿ではないのさ」

「……第一次移行(ファースト・シフト)で姿が変わる、とか?」

「違うよ立香くん。このISはだね……」

 

何かをもったいぶったようにして、ダヴィンチちゃんは少しの沈黙を送る。

生唾を呑みながら、次の言葉を今か今かと待つと──

 

「……まだ、仕掛けは教えないよ!」

 

その言葉と一緒に、身体がずるりとこけた。

簪も随分と脱力した様子で、肩透かしを喰らった気分だと顔でわかる。

 

「それじゃ最適化(パーソナライズ)をするから、こっちに来てくれたまえ。簪くん、ちょっと手伝ってくれるかい?」

「は、はい!」

 

手招きされて向こうへと行く簪を見届けてから、機体に歩みを進めた。なんだか、ダヴィンチちゃんにはぐらかされた気分だったが、それから目を逸らすことにして。

 

黒鉄の鎧は、主の到来を待っていたかのように、俺が近づいていくと閉ざされていた装甲を開いた。

SFチックで格好いいなと当然なことを思いながら、機体に乗り込む。情報の暴力が再び襲ってくるのを受け流しながら、作業の終わりを静かに待つことにした。

 

 

 


 

 

 

──そしてついに、その時が来る。

人類史最後のマスターと、世界で初の男性IS操縦者と、誇り高きイギリス貴族の三人による、クラス代表決定戦が。

 

「……」

 

競技用アリーナの整備室──いわゆるピット。

藤丸立香の機体の待機室で、更識簪は静かにキーボードを叩いていた。

 

彼女の役割は、管制室で機体状況を見つめる織斑千冬とは()()、立香のISのデータを収集することだった。あと立香の簡単なオペレーターとしての役割も担っている。

 

ピットのモニターに一戦目の対戦相手が表示される。

セシリア・オルコット。イギリス国家代表候補生、古来より続くイギリス貴族の名家、オルコット家の当主。

 

彼女の操る第三世代機、ブルー・ティアーズは基本的に遠距離の戦いに特化した狙撃機と言っても差し支えない。高機動で、長射程。正しく当たらなければどうということはないを実現した機体とも言える。

だが何よりも厄介なのは、第三世代機兵装のビット──俗にいうファンネルだ。

あの兵装によって、ブルー・ティアーズはオールレンジでの戦いをすることができる。また、並列思考が可能な場合、ライフルを撃ちながらの戦闘に加えて、理論上ではビームを()()()ことができるらしい。あくまでも理論上の話ではあるが。

 

目を瞑り静かに佇む立香を見つめる。

彼はとにかく静かだった。天命を待つかのように、静かな闘志を燃やすように、そこに立っていた。

 

その姿を見ると、カルデアのマスターとしての顔が過ぎる。

人類史最後の英雄の姿。今の彼は、その姿に重なって見えた。

 

息を吸う音と同時に、アナウンスが響いた。

 

「まもなく第一試合を始める。競技者はただちにアリーナに出場しろ」

 

審判の織斑先生がアナウンスすると、立香はゆっくりと目を開いた。

どこか決意に満ちた顔つき。蒼空の瞳は、絶大な熱量で灼かれたようなようにあつい。

 

「行ってくる」

 

一言告げると、彼は空へと飛び立っていく。

その後ろ姿を見届けて、「行ってらっしゃい」と小さく声をかけた。

 

 

 


 

 

 

IS学園・第一アリーナにて行われる一年一組クラス代表決定戦は、大量の生徒が観客としてアリーナを埋めていた。

二人の男性操縦者と、イギリス国家代表候補生の三つ巴の総当たり戦。特に前者に関してはこれが一応初の公式戦となるのだから、注目されるのもまた当然であった。

 

アリーナの巨大電光掲示板に、一戦目の組み合わせが発表されると、会場のボルテージは急上昇した。

藤丸立香vsセシリア・オルコット。前情報なしの男性操縦者と、イギリスの実力者との戦いに、アリーナ中がどっと熱気に包まれた。

 

水色がアリーナに降り立つ。

イギリスの第三世代機、ブルー・ティアーズ。舞踏会でワルツを踊るかのように、優雅に登場したその機体は、観客席に向かって見事なカーテシーを披露してみせた。

対する藤丸立香は、アリーナに降り立つと軽く周りに会釈し、セシリアの前に降り立った。

 

二人は眼前に向き合うと、瞑目した。

 

「「……」」

 

不思議な沈黙がしばらく場を包む。

体感で10秒ほど経ち、会場が静まり返ったタイミングで、織斑千冬が呼びかけた。

 

『それではこれより、第一試合を開始する。その前に、イギリス代表候補生、セシリア・オルコット。この戦いに名誉を以て臨むか』

「はい。わが父と母の誇りにかけて」

『カルデアスの星詠み、藤丸立香。彼の者の誇りに応えるか』

「はい。わが右手の決意にかけて」

 

二人が示し合わせていたかのように口上を述べると、目を開く。

互いに闘志は充分で、目と目でのぶつかり合いがすでに始まっていた。

 

『これを以て決闘を受理した。……カウント開始。10、9』

 

「藤丸さん」

 

『8、7』

 

「どうしたの?オルコットさん」

 

『6、5……』

 

「──全力で、挑まさせていただきます」

 

『4。3』

 

「──」

 

『2』

 

お互いが武器を構える。二人の間に、これ以上の言葉はもはや必要なかった。

舞踏会には相応しくない大きな得物と、小型の銃が向き合う。

セシリアは右手に、立香は左手に。

この場において、立香の心は不思議なくらいに平常を保っていた。波一つない穏やかな心境。言うなれば無我の境地に達していた。

 

『1』

 

力がこもる。

互いに構えを取り、一歩踏み出す準備はすでにできていた。

 

『──始め!』

 

どん、という音と共に、互いの銃から弾が出される。2機は空中に浮遊すると、射撃戦を始めた。

 

目まぐるしく変化していく戦況。立香が撃つと、セシリアが応える。

セシリアが先を取ると、次には立香が牽制に出る。撃っては動き、また動きの繰り返し。

互いのSE──シールドエネルギーはなかなか削られないままだった。

 

そんな中で、セシリアが先手の一撃を与えた。

互いの戦闘速度に慣れるのが一歩早かったセシリアは先に立香の機体へと効力射を加えたのだった。

 

「さあ、このまま踊って頂きましょう!わたくしセシリア・オルコットと、ブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

その声と共に──ビットが放たれた。

 

 

 


 

 

 

管制室。

二人の戦いを見届ける世界最強──織斑千冬の顔は、動いていないようにも見える。

 

しかし近くで見ている更識楯無には、織斑千冬の心境を解することができた。

それは、この戦いへの違和感。自らが打鉄に乗った立香と戦った時に感じたものと、今の立香は、全く違う。

 

この前の立香との戦いは、どこか殺し合いにも似た、刹那的な戦いだった。額を流れる汗が、自らの血潮なのではないかと勘違いするほどには。

鬼気迫るような様子があったのは間違いない。

 

しかし今の立香には、それが全く感じられない。静かだった。

冷徹に敵対者を葬るような、そんな雰囲気。まるで、何かを待ち続けているかのような……?

 

「織斑先生、これは……」

 

声を掛ける楯無。

千冬はそれに応えることはなく、ただ冷静に画面を見続けるのみだった。

 

一方、ピットから器具を操作している簪は、ダヴィンチちゃんに渡されたスペック表と戦闘データを見つめながら、思考の海へ沈んでいた。

 

(第三世代機、常続きし人理の範(ロード・カルデアス)。仕様書を見た限りだと、このISには間違いなく実弾銃以外の武器がある。

……でも立香は使ってない。いや、今のISの状態では使えない?)

 

仕様書と実際のデータを見比べながら考察していく簪。

違和感を感じながらも、それに気づくことができない。喉に魚の小骨が突き刺さったような、そんな違和感。

 

データをもう一度よく見てみる。

環境データ、シールドエネルギー残量計、ハイパーセンサー稼働率、重力負荷計測計、ほか様々なデータを見ていくと、ただ一つだけ違和感のあるデータを発見した。

 

(……魔力?それにこれって……)

 

──守護英霊召喚システム・フェイト、稼働率97%。

 

小さなウィンドウに表示されたそれは、なぜか強い印象を植え付ける。

このあと、とんでもないことが起きるのではないか、という漠然とした予感。それを気のせいだと思うこともできず、内容を確認するために仮想スクリーンに手を伸ばした。

 

──そして、簪は知った。

第三世代機、ロード・カルデアスの真の姿を。

そして、それを第三世代機たらしめているものの、正体を。

 

 

 


 

 

 

戦闘開始から15分ほど経った。

ダヴィンチちゃんが用意したシステムのことを気にかけながら、戦いを続ける。これが使えるようになるまで長い時間がかかるとは言っていたが、まさかこれほどまで待つことになるとは思いもしていなかった。

 

楯無さんとの戦いからしばらくぶりの実戦。

相手は確かに楯無さんよりも戦いやすい。しかし戦いにくかった。

一見すると矛盾した物言いのようにも聞こえる。しかしそれが真実だった。なぜならそれは相手の──セシリアさんの戦い方にある。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

機体も動かしながら正確に当ててくる彼女は、正しく遠距離戦において最強としか言い表すことができなかった。

 

しかし──その時間も、ここで終わりを迎える。

ついに準備が整ったからだ。

 

カルデアとの接続──守護英霊召喚システム・フェイトとのリンク。

それを糧として、このISは真の姿を表すのだ。

 

気づいたのは、昨日ダヴィンチちゃんが帰ったあとで簪と仕様書を見ていた時だった。

立香にしかわからない形で用意されていた魔術的処置が施された文字。それを読んでいくと、ダヴィンチちゃんからのヒントが提示されていたのだ。

 

──己の紡いできたものを、何よりも尊きと為せ。

 

システムを徐に起動する。

すると、ホログラムが急速に拡大して魔法陣を描き始める。

自分がキリシュタリアになった気分だった。自分たちの前に現れて、絶対的な脅威を知らしめた彼を思い出して、言葉を紡ぐ。何度も何度も紡いできた、全ての原点──俺の、運命(fate)を。

 

「──素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師魔術王ソロモン。

降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国へと至る三叉路は循環せよ」

 

その異様な光景に、皆が心を奪われていた。白金色の光に、みな等しく目を奪われる。

決闘の相手──セシリアでさえも、それは例外なくそうであった。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。────セット」

 

ホログラムの回転が止まる。

その魔法陣は次第に俺の元へと降りていき、そして地面で固定される。

瞬間、暴風が吹き荒れた。

 

「────告げる。

汝の身は我がもとに、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ。

誓いをここに。

我は常世総ての善となるもの、我は常世総ての悪を敷くもの。

巡礼の鐘を手繰り寄せ、その鐘で未来を紡ぐもの────!」

 

ふと、俺の口から、なぜか彼女のことが紡がれる。

──それはいつかくる兆しのとき。いついかなるところにおいても、貴方の呼び声に私は是を返すのです。

いつかのカルデアで、自分にだけ語られたその言葉が頭によぎる。

もしこのISが、自分の見立て通りだとするのなら、きっと彼女は応えてくれる。そう、確信めいた何かがあった。

 

魔法陣が一段と光を増す。

ナニカが来る。反射的にそれを理解したセシリアは、右手のライフルとビットでもって、全力の攻撃をぶつけようとした。

 

──それは、俺に辿り着く前に瞬く間に蒸発して消えてしまう。

 

「──ッ!?」

 

理解不能な現象を前にして、セシリアの思考が一時止まる。

その猶予だけで、もはや時間は充分足りていた。

右手に刻まれた絆の証──令呪を天に翳し、最後の一節を力強く宣言する。

 

「汝、星見の言霊を纏う七天。

奔り、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ────!」

 

閃光が、奔る。

 

 

 


 

 

 

────それは、御伽話の騎士のように、英雄譚の一幕のように、大劇場の仕掛けのように、颯爽と現れた。

 

金色の装飾が施された王権の証。

無骨ながらも芸術的な美しさを持つ、白銀の中鎧。

風を受けてたなびく青色の外套。

脚甲は鎧の白銀と同じようなデザインを持ち、鎧を纏わない場所は青と黒が施された騎士服で包まれている。

機体の右後ろでは、水色が独りでに浮遊し空間に存在している。その数はなんと六本。奇しくもその数は、セシリアのビットの数と全く同一だった。

 

だがそのどれよりも目を引くのは、彼が右手に握っている身の丈ほどまである大剣だろう。

両刃の、幾何学模様が刀身に刻まれた大剣。柄の端には宝石と、それを守るためか、蝶の羽を広げたような形で装飾が仕込まれている。そこだけを見れば、その大剣は杖のようにも見えた。

 

観客たちは、光が収まったその時に、変貌を遂げた藤丸立香の機体を見て動揺する。アレはなんだと。突然現れた未知の機体に戸惑いを隠しきれない。

しかし機体に乗っている人間が紛れもなく『藤丸立香』であるために納得せざるを得なかった。

 

アレこそが、藤丸立香のISの真の姿だということを。

 

「──その、輝きは……そうですか。それが、貴方の全力ですわね」

「うん。時間がかかって申し訳ないよ」

「いいえ、構いません。貴方の真の実力、見極めさせていただきます」

 

互いに交わす言葉は、それだけでよかった。

戦場の空気が再び交わる。水色と、蒼銀。天を駆ける星のように軌跡を刻み、二機は急速に加速した。

 

先手を打つは立香。右肩に浮いた装飾からビームを放ち近づいていく。

自立して立香の肩に浮くそれは、どういう原理かわからないがセシリアのビットのようで、それ以上に優秀に動いていた。

濃厚な弾幕の総てがセシリアに牙を剥く。負けじと接近を咎めるように、セシリアは引き撃ちでもって立香に応じる。

流星の降り注ぐ戦場。逃げるセシリアと、追い縋る立香。ISの機動力の全力でもって行われる鬼ごっこ。

 

だが──セシリアが逃げるよりも早く、立香のISがティアーズに肉薄した。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)で二人の距離が一気に縮む。至近距離、その間合いはおよそ1m。

咄嗟にセシリアは右手のライフルを放り捨てて、弾かれるように一つを叫んだ。

 

「インターセプター!」

 

一振りの短剣が、意思に応えるかのように現れる。

大剣に対抗するには短く、些か心許ないそれ。一撃で手折られてしまいそうなそれ。

だがセシリアには確信があった。これであれば一瞬の時間を稼げる、と。

 

一閃。甲高い金属の衝突音とともに火花が散る。

互いに刃が触れたのは、本当に数瞬の間のみ。だが、その時間だけで()()()()()()()十分だった。

 

互いのビットが、相手の操縦者を穿つ。

白色の極光が視界を覆い、アリーナを包み込んだ。

 

 

 


 

 

 

「どういうことだ、いったい何が起こっている──!?」

 

IS学園管制室にて、織斑千冬は静かに叫んでいた。

自らの弟のISが納入されず、やむなく前もって立てておいた試合予定を崩し、開始したトーナメント。

 

五分の実力で打ち合っていた、というのが最初の感想だった。前見たときの立香とは異なることに疑問を感じ違和感も抱いた。

それを無理矢理納得させたと思った矢先に、次に始まったのはオカルト的な儀式。突如として現れた幾何学模様と、何やら呟いていた立香のことが脳内で今も周遊している。

 

だが、それ以上に──脳内に強く残っているのは、ISの突如の変身だった。

 

一次移行かと疑いを抱いたが、あのような大幅な変身を一瞬でできるだろうか?

答えは否だ。なぜならば自らの親友が、アレを生み出した張本人であるゆえに。彼女ならばその可能性を否定するとわかっていたから。

 

であれば考えられる可能性は一つのみである。

──単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)。殆どのISには発現しない、特殊能力。

その条件も、詳細も、彼女を除いて知り尽くすものは居ない。

 

それを、藤丸立香が、使った。それが何であるかを、誰よりも知っている、という雰囲気で。

 

混乱が深まる。なぜ、どうして?彼はどこで、どのようにして、それを知った?

わからない。考えれば考えるほど、答えの出ない数式を解いている気分に包まれていく。

 

「お、織斑先生!」

「……どうした、山田くん」

 

海から引き上げられるように、隣にいた自分のクラスの副担任──山田真耶が声を上げる。

その声色は、混乱と驚愕を大いに含んでいた。

視点をそちらに向けてみると、その場にいる他の先生が大慌てしているのが見えた。

 

「藤丸立香のIS適性、上昇を確認!

これは……A()()()()()()()()()S()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 


 

 

 

「……完敗、ですわね」

「そんなこともないと思うよ。俺も、最後は全力を出さないと勝てなかった」

「逆を返せば、最後以外は全力を出さずとも適ったということです。……また次に、戦う機会がごさいましたら」

「うん。また戦わせてもらうよ」

「……はい!」

 

クラス代表決定戦、セシリア・オルコット対藤丸立香。

試合時間19分17秒。勝者、藤丸立香。

 

 

 


 

 

 

『お疲れ様です、マスター』

『いい試合だった。マスターもよく動けていたよ』

「二人ともありがとう。君たちの指示のおかげで、俺も戦いやすかった」

『それならよかったです。それでは戦闘データはダヴィンチちゃんに送っておきます、マスターは次の戦いに向けて準備を』

「うん。そうさせてもらうよ、ありがとう」

 

ハイパーセンサーの視界の端に映っていたホログラムがふっと消えていなくなる。

寂しくなった視界に違和感を感じてしまうが、それを堪えてピットへと戻る。

 

試合前にした予想は正しかった。

俺の紡いできた縁を信じて、彼女を喚んだ。果たして彼女はその喚び声に気づいて、俺の力になってくれた。

 

このISの真価──それは、俺の結んできた縁だ。

誰よりも絆が強かった彼女だからこそ、このISに彼女が来てくれた。

 

だが──アーサーが一緒に来るとは思っていなかった。

連鎖召喚なのだろうか?キャスターと、アーサー。何がトリガーとなって一緒に来たのか皆目見当がつかない。

 

とりあえず総当たり戦が終わったら、ダヴィンチちゃんに聞こう。

そう強く思ってから、ピットで次の試合までの間をゆっくり休むことにした。

 

「お疲れ様、立香」

 

ピットに戻ると、常温で適度にぬるくなったスポーツドリンクと汗を拭うタオルを簪に差し出される。

ISを待機状態に戻してから、それをそっと受け取って一口のむ。思っていたよりも喉が渇いていたのか、あっという間に一本が胃の中に収まってしまった。

 

待機状態になったISをじっと見つめる。

小さな円卓の盾(ラウンドシールド)のキーホルダー。そっと手に取ってみると、自分の"後輩"の存在が感じられるような気がして、少し気持ちが昂るのを感じた。

 

「それ、立香のIS?」

「そうみたいだね。……これがあれば、誰にだって勝てる気がする」

「確か、マシュさんの円卓、だよね?」

「うん。誰よりも大切な後輩の、命の証だよ」

 

そっと待機状態のISを撫でる。小さなモスキート音が聞こえて、そこに一抹の嬉しさがこもっているように感じる。

簪もそれを隣から覗き込み、それが気になる様子でじっとキーホルダーを見つめていた。

 

「立香のISの名前って、マシュさんの仮想宝具から取ったんだね」

「そう、なのかな?名前とかはカルデアの皆に任せきりだったから、わからないや」

 

そこで少し会話が途切れる。10秒にも満たない沈黙だったが、それが無常にも心地よかった。

アリーナで始まった第二試合の様子を眺めながら、次の出番までにISの仕様を振り返るとともにやるべきことを終わらせることにした。




てことで#8でした。ご読了ありがとうございます。

ここからはいつもの蛇足タイム。つらつら書いていきます。

>藤丸くん人生の難易度ハードモードすぎない?
書いてて思った。しかもまだ人理漂白は何も書いてないっていうね。
……簪ちゃんのメンタル大丈夫かな?

>更識姉妹結局どうなるん?
それを決定するためのアンケートだったわけです!ということでアンケートの結果ですが……

はい:137
いいえ:35
どっちでも:62
ちくわ大明神:164

ということで最多票のちくわ大明神がヒロインになります。もちろん嘘です。
まあ順当にいけば簪ちゃんはヒロインルートです。ちくわ大明神はそのうち出します。楯無さんはわからん。
なんで君たちちくわ大明神に入れたのさ……

>仕掛け人とロマニ
実はロマニも仕掛け人です。そのうち幕間で書きたい。
今言えることとしたら、何の加護も持たないただの一般人である簪がアヴァロンになぜいられたのか、ですね。マーリンはあくまでも彼女を夢に呼んだだけですから。

>他たくさんの感想
ありがとうございます!いつも皆さんの感想が励みになってます!

てことで今回の感想返信はここらへんになります。
いつの間にやらUA80000件を突破してお気に入りも2485件まで増えていて感激しています。ここまで多くの人に見ていただけることを誇りに思い、見てくれた人に最大の感謝をお伝えしたいと思います。いつも閲覧していただき、改めてありがとうございます。
これからも皆さんに物語を伝えられたらいいなと思います。

少なくともこの小説はエタらずに完結させたいなぁ……(頑張ります)

今回のお話の感想・評価もお待ちしております。あと支援絵も気がむいた絵描きニキネキさん何卒。

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それでは、また次のお話にてお会いしましょう。

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