下層のモンスターは中層のモンスターよりも格段に強いが、Lv3で「龍の手」のスキルを使った俺なら危うげなく戦えている。
水場がある地形であり、水中からいきなり飛び出してくることが多いモンスター達を相手に俺は、使い慣れてきた長剣の「一角」を振るっていった。
下層を流れる川から飛び出してきたレイダーフィッシュを下から逆袈裟斬りにして斜めに斬り裂いていくと、続けて水辺から現れたブルークラブ。
真正面から突っ込んできたブルークラブが左右で大きさが違う左右非対称な鋏を振るってきたが、関節の継ぎ目に「一角」の刃を通して左右の鋏を斬り落とす。
攻撃手段を失ったブルークラブの足の関節の継ぎ目を斬り、動けなくなったブルークラブは放置して次のモンスターに対して「一角」を構えた。
大蛇のモンスターであるアクア・サーペントの頭部を正面から振り下ろした一振りで両断。
戦っている最中も周囲の警戒を怠ることはなく、追加で現れるモンスター達に不意を突かれることはない。
高速で飛び回る燕型モンスターであるイグアスが突撃してきた瞬間に合わせて素早く「一角」を横に振るい、イグアスを真っ二つに斬り分ける。
現れたクリスタルタートルの首を斬り落としておき、連続で倒したモンスター達から魔石とドロップアイテムを回収しておいた。
金属蟹とも言うべきブルークラブのドロップアイテムは、ブルークラブの鋼殻であり、防具や武器の素材となるらしい。
椿としてはもう少しブルークラブを狩って、ブルークラブの鋼殻を集めておきたいようだ。
「もう10体ほど狩ってブルークラブのドロップアイテムを充分に手に入れたなら、手前がゲドに新しい剣を打とう」
そう言っていた椿は下層での戦いでも疲れた様子は全くない。
「新しい剣を打ってくれるのはありがたいが、俺ばかり優先していて他の仕事は大丈夫なのか?」
とりあえず俺は気になっていたことを椿に聞いてみる。
「他の仕事は先に終わらせてあるのでな、特に問題はないぞ」
にっこりと笑って答えた椿は、鍜冶師としての仕事を疎かにはしていないみたいだ。
「ならいいさ。それじゃあ椿に新しい剣を作ってもらえるように、頑張ってブルークラブを沢山倒しておくか」
自作しておいたデュアルポーションとエナジーポーションを飲み、スキルを使って消耗した体力と精神力を回復した俺は、鞘に納めていた「一角」を引き抜いて片手で持つ。
新しい剣というご褒美が待っているとなると、かなりのやる気が溢れてくるが、それは悪いことではないと俺は思う。
「うむ、ゲドなら直ぐにドロップアイテムを集められそうな気がするぞ」
頷いていた椿が、俺が倒したモンスターは必ずドロップアイテムを落とすことに気付いているのは間違いない。
それでもそのことについて深く追求してこない椿は、良いパーティメンバーだ。
その後も下層のモンスターと戦っていき、目当てのブルークラブを10体以上倒して手に入れたドロップアイテムであるブルークラブの鋼殻。
新しい剣を作るには充分な量の鋼殻は集まったと判断した椿が「今回は、この程度で下層の探索は終わらせるぞゲド」と言い出す。
椿の判断に従って、今回は25階層だけの探索だけで終わらせることになり、俺と椿は上の階層に戻っていった。
1度も止まらずに、疲労感を感じたらエナジーポーションを飲みながら移動して、凄まじい速さでダンジョンから出た俺と椿。
ギルドで魔石を換金すると下層の魔石は良い値段になり、それなりの額のヴァリスとなる。
あまりヴァリスは受け取らない椿にはドロップアイテムを全て渡しておき、俺と椿はそれぞれのファミリアに戻ることにした。
新しい剣を作るつもりの椿は、数日間は工房にこもりきりになるだろう。
しばらくはソロということになるから、ダンジョンの中層までにしかいけないが、中層の魔石でも良い稼ぎにはなるので問題はない。
とりあえず下層で戦ってきた俺なら、ある程度ステイタスが伸びている筈だ。
神ミアハにステイタスの更新をしてもらうことにした俺は、普段着に着替えるとミアハ・ファミリアのホームにある神ミアハの自室で上半身裸になり背中を晒す。
神血を媒介にして刻まれた神聖文字が宿る背に神ミアハの血が滴り落ちていき、神ミアハの指が背に触れるとステイタスの更新が行われていった。
なし遂げたことの質と量の値である経験値、エクセリアによって上昇していくステイタスが更新されていき、背中の神聖文字群が塗り替えられて付け足される。
「どうやらまた、新しいスキルが発現したようだぞゲド」
そう言った神ミアハから手渡された紙には、更新された俺のステイタスが書き込まれていて、新しいスキルも書かれていた。
発現した新しいスキルは「断ち切る力」と書いて「エレメント」と読むらしい。
実際にダンジョンで確かめてみる必要がありそうだ。
とはいえナァーザと約束したミアハ・ファミリアの店舗の手伝いもあるので、新しいスキルを確かめるのは明日になるだろう。
店舗の手伝いをしっかりと行っていき、接客も丁寧に行った俺は、エナジーポーションを買いにきた神ディアンケヒトと少し世間話をしながら、丁寧に商品を梱包して神ディアンケヒトに渡す。
そんな神ディアンケヒトは神ミアハにマウントを取れなくなってもミアハ・ファミリアのホームにやってきて、神ミアハにウザ絡みしていくことは変わらない。
人がそう簡単に変わらないように、不変の存在である神は、もっと変わらないのだろう。
ナァーザはやっぱり神ディアンケヒトが好きではないようで、神ディアンケヒトに対応するのは、だいたい俺か神ミアハになる。
俺が相手だと普通のテンションなのに、神ミアハが相手だと若干テンションが高くなる神ディアンケヒトは、わかりやすかった。
翌日の朝、以前作ったポーションとエナジーポーションの在庫が残っていたので、今日はポーションとエナジーポーションを作成することはない。
俺は全員分の朝食を作ると自分の分を食べてから、ダンジョンへ向かっていく。
素早く上層を越えて中層に向かったところで、現れたバグベアーを相手に、俺は新しいスキルである「断ち切る力」を試してみることにした。
攻撃を待ち、棒立ちしていた俺に突撃してきたバグベアーが腕を振り上げた瞬間にスキルを発動。
バグベアーが振るってきた腕を遮るように、俺を中心として形成されたバリアフィールドのようなものが確かにバグベアーの攻撃を防いでいる。
どうやらこれが「断ち切る力」というスキルの力であるようだ。
まるで空間の繋がりを断ち切られたかのようにバグベアーの攻撃は俺に届かない。
「断ち切る力」は「竜鱗鎧化」と同じく防御用のスキルであるが、性質はかなり違っていた。
「竜鱗鎧化」は身体を装甲で覆うことで防御力を上げるが「断ち切る力」は俺を中心にバリアフィールドのようなものを形成して、攻撃自体を身体に届かないようにしてしまう。
空間を遮断する「断ち切る力」を使っている間は、俺は守られているが、此方から攻撃することはできないようだ。
その点は「竜鱗鎧化」と違っているらしい。
防御しながら攻める時は「竜鱗鎧化」を使って攻撃していき、完全に防御だけに集中する時は「断ち切る力」を使うという使い分けをする必要があるかもしれないな。
それでも「断ち切る力」が有用なスキルであることは確かだろう。
使いこなすことが出来れば下層でも通用するスキルになる筈だ。
それからは「断ち切る力」の習熟を行う為に、中層のモンスター達の攻撃を「断ち切る力」を使って受けていく。
「断ち切る力」で形成されたバリアフィールドのようなものは、ヘルハウンドの火炎攻撃すらも防ぐことが可能だった。
物理的な攻撃以外であっても「断ち切る力」のスキルなら防ぐことできると知れたのは悪いことではない。
「断ち切る力」の体力と精神力の消耗は「竜鱗鎧化」よりも少し多いが、自作のデュアルポーションとエナジーポーションがあるなら連続使用は充分に可能だ。
それに「断ち切る力」の使い所を間違えなければ、あまり消耗することもないだろう。
今回は習熟という目的があったので多用したが、普段のダンジョン探索の時は、必要な時だけ使うようにしておけばいい。
「断ち切る力」を上手く発動するタイミングは掴んだので、とりあえず今日は、ミアハ・ファミリアのホームに戻っておく。
ホームの店舗ではナァーザの手伝いをして、ポーションの品出しと在庫の確認を行っておいた。
ダンジョンでは冒険者として、店舗では店員として、休まず働く忙しい日々をおくっていると、ミアハ・ファミリアのホームに椿がやって来る。
「剣が完成したぞ!ゲド!」
鞘に納まった長剣を片手に、満面の笑みを浮かべた椿が素早く俺の元へと近寄ってきた。
テンションが高い椿は、やはりまた寝ていないようだ。
「それがブルークラブの鋼殻で作られた剣だな。受け取っても良いか椿」
俺が剣を受け取らないと帰ることはない椿から剣を受け取る為に手を伸ばす。
「うむ、受け取れゲド!」
徹夜明けで完全にハイになっているテンションで鞘に納めてある長剣を差し出してきた椿。
長剣を受け取り、柄を掴むと鞘から引き抜いて剣身を見る。
色はブルークラブの鋼殻と同じく青いが、まるでダマスカス鋼のような模様がある剣身。
軽く振るってみると強度は、かなりのものであり、刃はとても鋭いようだ。
「その剣の名は「渦鋼」だ。手前の渾身の一作だぞ」
誇らしげに言った椿が、素晴らしい職人であることは間違いない。
「大切に使わせてもらうよ。ありがとう椿」
鞘に「渦鋼」を納めて、剣を作ってくれた椿に感謝をしておく。
「うむ、使い手がゲドなら、剣を打った手前も安心だ」
頷いていた椿は、剣士として俺が剣を大切に使っていることを知っていた。
何度もパーティを組んでいると、それなりに互いのことには詳しくなっていたのかもしれない。
それはきっと、悪いことではない筈だ。
断ち切る力
出典、アクエリオンEVOL、ジン・ムソウ
ジン・ムソウのエレメント能力であり、エレメント能力とはエレメント候補生達が持つ特殊能力で超能力のようなもの
断ち切る力は空間・現象の繋がりを切断する能力
ジン・ムソウが断ち切る力を発動した時は、バリア状のようなものが形成されて銃弾を防いだ