本日2回目の更新です
自分達ならば大丈夫だと、自信を抱いていた。
このヘルメス・ファミリアなら、そして頼れる団長が居るのなら、例え下層であっても問題はないとも思っていた。
それが覆るようなことが起こる訳がないと、そう思っていた。
階層主であるアンフィス・バエナは倒されていて、再出現する1ヶ月後まで現れることはないという情報も入手していた団長に従い、下層まで向かったヘルメス・ファミリアの面々は楽観視していたのかもしれない。
それは下層でのアイテム収集を順調に行えていて、団長の指揮下であったのなら、下層のモンスターとも戦えていたからだろう。
目的を達成し、後は帰るだけとなったヘルメス・ファミリアの面々は、気を抜いてしまっていた。
上がった先の25階層で、居る筈のない階層主であるアンフィス・バエナと遭遇することなり、ヘルメス・ファミリアの団長は逃走を判断し、指示を出す。
団員達が全力で走る最中に、アンフィス・バエナが凄まじい咆哮を上げると、崩落した天井が下層の出入り口を塞いだ。
団員達の筋力では崩落した天井を簡単に動かすことは出来ず、直ぐには逃げられないと判断したヘルメス・ファミリアの団長は、団員達が逃げる隙を稼ぐ為にアンフィス・バエナと戦うことを選ぶ。
双頭の竜だと聞いていたアンフィス・バエナが3つ首であることは奇妙に思ったが、それでも戦うつもりであった団長。
空を飛ぶことが可能な自作のアイテムである靴を用いて空を飛び、アンフィス・バエナの注意を引き付けながら、アイテムで攻撃をくわえていったヘルメス・ファミリアの団長は、3つ首であるアンフィス・バエナの頭を1つ爆発させて消し飛ばすことに成功する。
それを見たヘルメス・ファミリアの団員達は、団長なら大丈夫だと信じていた。
むしろアンフィス・バエナに団長なら勝ってしまうんじゃないかと思う団員達も少なからず居たことは確かだ。
しかし、そんなヘルメス・ファミリアの希望は絶望へと変わる。
何故ならアンフィス・バエナの中央の首が光ると、団長が消し飛ばした筈の頭が瞬く間に生えてきて再生されたからだ。
そして再生されたその頭は、より強靭に、より強力になっていて、更に素早く動くようになっていただけではなく、新たな能力まで身に付けていた。
瞬時に放たれた細く蒼い熱線が、ヘルメス・ファミリアの団長の脇腹を貫く。
団長が動きを一瞬止められたところにアンフィス・バエナが噛みつくと、振り回してからダンジョンの壁面に団長を放り投げたアンフィス・バエナ。
脇腹にある熱線での貫通傷に、腹部にはアンフィス・バエナに深々と噛みつかれた傷がある団長は、ダメージがある状態でダンジョンの壁面に叩きつけられたことで意識を失ってしまう。
ハイポーションを使っても完全には回復しない傷に、止まらない団長の血。
アンフィス・バエナをなんとかしようと立ち向かう団員達もいれば、団長を逃がす為に出入り口を塞ぐ崩落した天井を動かそうと頑張る団員達もいた。
団長のことを任されたルルネ・ルーイは、ハイポーションを何度も使いながら団長の傷を癒そうとしていたが、治ることはない傷。
ルルネ・ルーイ以外の団員達も団長の為に頑張っていたが、1人、また1人とアンフィス・バエナの攻撃に倒れていく。
いつしか動けるのが自分だけになっていたことにルルネ・ルーイは気付いた。
倒れ伏す団員達、塞がらない団長の傷、1人だけ残されたルルネ・ルーイは思わず誰かに何度も助けを求めてしまう。
届く筈がないと思っていたその助けを求める声を、聞いていた男が居たことを、直ぐにルルネ・ルーイは知ることになった。
崩落した天井で塞がれていた下層の出入り口が突如として開通し、下層に入り込んできた男。
重傷の団長を見て、迷わずマーメイドの生き血を使った治療を施して全快させた男は、ルルネ・ルーイに言った。
「助けにきたぞ」
1番の重傷者であった眼鏡の女性を助ける為に必要だと判断して、マーメイドの生き血の回復効果を「龍の手」のスキルで2倍にして使用すると、完璧に治療することができたのは確かだ。
恐らくは重度の毒も受けていたので、ポーションだけでは回復することは出来なかっただろう。
1人だけ負傷していない犬人の女性は、眼鏡の女性のことを任されていて動いていなかったから、アンフィス・バエナに狙われることが無かったのかもしれない。
「その女性は、もう大丈夫だが、ここは危険だ。今の内にその女性を連れて逃げろ」
「あんたは、どうすんの」
「負傷者は、まだ居るからな治療を施して避難させておく」
「あんな化け物がいるのに、どうして逃げないのよ」
「助けにきたって言っただろう」
それだけ言って負傷者の救助に向かった俺をアンフィス・バエナが攻撃してきたが、放たれる熱線を避けながら、負傷者達を回収していくのは結構大変だった。
回収した負傷者に、高品質なハイポーションに「龍の手」のスキルを使って、2倍の回復効果を与えて回復させていきながら、1人1人助けていく。
持ち込んでいたハイポーションを全て使い切ったところでちょうど最後の負傷者を治療することができたが、デュアルポーションとエナジーポーションは残り少ない。
そして中層に負傷者達を全員逃がす為には、誰かが囮になる必要があった。
1番元気に動ける俺が適任だと判断して、アンフィス・バエナと戦うことを決めた俺が、魔剣である「氷河」を振るって水場を氷結させて足場を作ると、アンフィス・バエナに近付いていき跳躍。
「閉じてろ!」
両手で持った「渦鋼」をアンフィス・バエナの蒼い頭の口を縫い付けるように突き刺して、蒼炎を吐かせないようにした。
「今の内に行け!」
負傷していた者達は、まだ本調子ではないが、動ける全員が必死に逃げていく。
下層に俺とアンフィス・バエナだけになったところで、突き刺していた「渦鋼」を引き抜いた。
それから連続でアンフィス・バエナを斬りつけていき、傷だらけになったアンフィス・バエナの中央の首が光ると瞬く間に再生していく傷。
蒼い頭は蒼炎で積極的に攻撃、赤い頭は紅い霧を吐き魔法を拡散させて防いで防御、中央の黄色の頭は回復といったところか。
攻、防、回復とバランス良く揃っているが、まず最初に斬り落とす必要がある首は、回復だろう。
そう考えていた俺に、水上でも燃え続けるという蒼い炎のブレスが近付いてきた。
俺はスキルである「断ち切る力」を使い、自身に迫る蒼炎と俺の間にバリアフィールドのようなものを形成して防ぐ。
その間に、最後のデュアルポーションとエナジーポーションを飲んでおき、体力と精神力の回復を行っておくと、今度は「竜鱗鎧化」のスキルを使用する。
形成された竜の鱗のような装甲に覆われた身体は、大抵の攻撃を防ぐことが可能だ。
燃え続ける蒼炎の中を突っ切り、アンフィス・バエナに近付いた俺は、次に「竜の手」のスキルを用いて身体能力と跳躍力を2倍にするとアンフィス・バエナの背に飛び乗った。
左右の首を動かして此方に攻撃をしようとするアンフィス・バエナの噛みつきを回避して、辿り着いた首の根元で、中央の首を斬り落とす。
激しく暴れまわり咆哮を上げるアンフィスバエナから振り落とされないように、長剣である「渦鋼」を背に突き刺して耐えていた。
アンフィス・バエナの咆哮によって天井が崩落し、下層の出入り口が再び閉じられてしまう。
背中にいる俺ごと潜水しようとしたアンフィス・バエナに突き刺していた長剣を引き抜き、背から飛び降りて避難すると水に潜ったアンフィス・バエナ。
潜水していたアンフィス・バエナが再び顔を出したところで魔剣である「氷河」を再び振るい、割れていた氷の足場を再び氷結させて道を作った。
蒼い頭から連続で放たれる蒼い熱線を避けながら進み、渾身の力を込めた斬撃で、蒼い頭を生やしている首を斬り落とす。
最後に残った赤い頭を生やしている首を斬り落として、終わったかと思っていたら、中央から新たな頭が生えてきた。
新たな紫色の頭が生えると、熱線も炎も吐けて、魔法を拡散する紅い霧を身体中から噴出することも可能になっていたアンフィス・バエナ。
紅い霧を目眩ましとして大量に噴出させてきたことで、アンフィス・バエナの姿が見えないような状態になっていたが、何も問題はない。
次にアンフィス・バエナが行う攻撃が噛みつきであると予想していた俺は「竜鱗鎧化」のスキルを発動して全身を装甲で覆う。
ついでに「龍の手」のスキルも使って「竜鱗鎧化」の強度も2倍にしておいた。
現れたアンフィス・バエナの頭が予想通り噛みついてくる。
紫色の頭のアンフィス・バエナの噛みつきは、俺の「龍の手」のスキルで強化された「竜鱗鎧化」で形成された装甲が軋みを上げる程に強力だったが、それでも何とか突破されてはいない。
「龍の手」のスキルで強化されていなければ、突破されて喰いちぎられていたかもしれないが、そうなっていないなら俺の勝ちだ。
噛みつかれた状態で「渦鋼」を振るい、アンフィス・バエナの口を裂く。
噛みついていたアンフィス・バエナの顎の力が完全に抜けたところを見計らって、噛みつきから脱出すると、怯んだアンフィス・バエナに近付いていった。
放たれた熱線を避けながら駆けると、アンフィス・バエナが暴れまわったことで宙に浮いた氷塊を踏み台に跳躍。
全力の力を込め、そして刃筋を合わせた「渦鋼」の一撃。
それがアンフィス・バエナの最後の首を斬り落とした。
今度こそ完全に倒すことができたアンフィス・バエナから魔石とドロップアイテムを回収しておき、リトルフィートで塞がれていた下層の出入り口を開通させると、俺は階段に座り込んだ。
流石に今回は、かなり疲れたが、誰も死なせていないなら俺の勝ちだろう。
ゆっくりと帰ることにするが、そういえば助けたファミリアが、どこのファミリアか聞いていなかったな。
まあ、助けられたのならどこのファミリアだろうと構わないか。