椿とアスフィさんの緊迫した空気も無くなり、ようやく普段の2人に戻った。
落ち着いたところで、毎週行っている魔道具の作成を今日もアスフィさんに教わりながら行うことにしたが、どうやら椿も見学していくらしい。
「お主らが何を作るのか興味があるのでな」
そう言っていた椿が見守る中でアスフィさんに指導されながら作成していった魔道具。
完成した品々を興味深そうに見ている椿。
「既に充分な基礎は身に付いています。次は貴方の自由な発想で魔道具を作ってみてください」
アスフィさんに言われたように、次は自分1人だけの発想で魔道具を作ることになり、何を作ろうか考えてから手を動かす。
魔道具の材料は充分足りているので、今回は材料採取でダンジョンに向かう必要はない。
完成した魔道具に名前を付けるとするなら、ウォーターボトルという名前になるだろう。
水筒型の魔道具であるウォーターボトルは手に持った状態で、設定された魔法の名前である「クリエイトウォーター」を言うと魔法が発動。
魔法と言っても大規模なものではなく、飲料水として飲むことも可能な水を生み出す「クリエイトウォーター」の魔法は、1回では大量の水を生み出すことはできないように設定してある。
とはいえ壊れるまでは何回でも水を生み出すことが可能なウォーターボトルは、ダンジョン探索でも役立つ魔道具だということは間違いない。
試しにアスフィさんと椿にウォーターボトルを使ってみてもらい使用感を確かめてもらった。
2人がそれぞれウォーターボトルを持った状態で「クリエイトウォーター」を唱えるとウォーターボトルから水が生み出されていく。
用意した3つのコップに注がれる生み出された水。
まず最初に俺が飲んでみると味わいはミネラルウォーターのような味わいだった。
安全が確認できたのでアスフィさんと椿にもコップを1つずつ渡して水を飲んでもらうと、美味しいと好評である。
「これは便利ですね、1つ私にくれませんか」
「確かに便利だ、手前も1つ欲しいぞ」
完成品のウォーターボトルを実際に使ってみたアスフィさんと椿が自分用に1つ欲しがる程度には便利であるようだ。
何個か作ってあるウォーターボトルをアスフィさんと椿に1つずつ渡しておき、しばらく試しに使ってもらうことにした。
翌日、椿の工房に向かうと黒いペルーダの皮を防具に加工している真っ最中だった椿。
強度が凄まじく高い黒いペルーダの皮を加工するのは一苦労であるようだが、椿なら加工することは不可能ではないらしい。
「お主が深層にいずれ向かうなら「灰皮」では防御力に不足があるのでな。この黒いペルーダの皮なら良い防具になるであろう」
そう言いながら淀みなく手を動かす椿の手によって、加工されていった黒いペルーダの皮。
完成したのは黒いコートとマフラーであり、名前は「ペルーダコート」と「ペルーダマフラー」であるようだ。
身に付けてみると「灰皮」よりも軽いが、強度は比べ物にならない程高い。
これをよく防具に加工できたと思うが、椿の技術がそれだけ素晴らしいということだろう。
「ペルーダコート」と「ペルーダマフラー」を受け取っておき、用意していたヴァリスを椿に支払っておいた。
この防具があるなら深層のモンスターからの攻撃も防ぐことができる筈だ。
いずれ向かう深層への備えが1つできたが、深層に向かうにはまだ早い。
しっかりと準備をしてから深層に向かうとしよう。
それから数日後、ウォーターボトルの使用状況を報告に来たアスフィさんと椿の2人。
アスフィさんはダンジョン探索に使用してみて、自由に水が使えるありがたさを感じたらしい。
椿は鍛冶仕事の合間の水分補給に使っていたみたいだが、充分な水が補給できたことで、新しく水を取りに行く必要がなく、鍛冶仕事が捗ったようだ。
それぞれ使い方は違うがウォーターボトルを便利な魔道具だと思ったことに違いはなく、これからも使っていきたいと言ってきたアスフィさんと椿の2人。
そんな2人にはこれからもウォーターボトルを使ってもらうことにして、この魔道具が売れる商品になるのかどうかを実際に使用した2人に聞いてみた。
「ダンジョン探索系のファミリアに売り込めば確実に売れると私は思います」
「手が出る値段なら冒険者以外にも売れそうな魔道具であるな」
ダンジョン探索系のファミリアに売り込むことを薦めるアスフィさんと、低価格なら冒険者以外にも売れそうだと言った椿。
どちらも売れないとは言っていないので、ウォーターボトルは売れる商品になる魔道具なのかもしれない。
値段が安く十数回使える簡易用と値段が高く数百回以上使える長期用の2つを新たに作成してみて、試しにミアハ・ファミリアの店舗で売り出してみることにした。
すると簡易用が冒険者を含む幅広い層に売れて、長期用を大手のファミリアが複数買っていくということになる。
実際にウォーターボトルを使用した人々からの評判も悪くはないみたいだ。
ウォーターボトルが人気である理由の1つは、誰でも簡単に使える実用的な魔道具だからだろう。
そして誰でも「クリエイトウォーター」の魔法が使えるようになる魔道具なウォーターボトルを使えば、ちょっとした魔法使い気分を味わえることも人気の理由であるらしい。
簡易用なら魔剣よりも遥かに安い値段であるので冒険者ではなくても手が届く値段ではある。
その為、オラリオのいたるところから「クリエイトウォーター」を唱える声がよく聞こえるようになったりもした。
売れる商品になりそうな魔道具は他にも思い浮かんでいたが、犯罪に使われる可能性があるので、それは作ることはない。
小さな火で着火をする「ティンダー」の魔法が使えるようになる魔道具も作ろうと思えば作れるが、放火などの犯罪に使われてしまうかもしれないから、作らない方が良いだろう。
ポーションやエナジーポーションに魔道具のウォーターボトルなどを作成してはミアハ・ファミリアで売る日々を過ごしていると、珍しい客がミアハ・ファミリアを訪れた。
その客が猛者の2つ名を持つLv7の冒険者、オッタルさんであることは間違いない。
店内に入ってきたオッタルさんは真っ直ぐ此方へと向かってくると「ここに水を生み出す魔道具があると聞いた」と言ってくる。
どうやらオッタルさんもウォーターボトルを買いに来たようだ。
「それはこのウォーターボトルのことですね。簡易用は十数回しか使えませんが安価です。長期用は数百回使えますが簡易用よりも高いですよ」
一応客ではあるようなので俺はオッタルさんに2種類のウォーターボトルについて説明しておいた。
「そのウォーターボトルとやらの長期用を10個もらおう」
説明を聞き、しっかりと値段を確認してから迷うことなく言ったオッタルさんは長期用を買っていくつもりらしい。
オッタルさんからヴァリスを受け取ってウォーターボトルの長期用を10個取り出す。
「ありがとうございます、袋はご利用になりますか?」
「ああ、頼む」
水筒型の魔道具であるウォーターボトルを袋に丁寧に詰めてからオッタルさんに差し出すと、オッタルさんは丁寧に商品を受け取った。
「ありがとうございました」
商品が入った袋を持って背を向けたオッタルさんに感謝の言葉を言っておく。
「また来させてもらおう」
立ち止まり、それだけ言うと立ち去っていったオッタルさんは、その言葉通り、時おり店に来るようになった。
オッタルさんは毎回しっかりと商品を買っていくので、お客さんとして毎回丁寧に接客している。
最近オッタルさんはエナジーポーションが気に入っているのか、大量に購入していくことが多い。
試しにオッタルさんにエナジーポーションについて聞いてみると「味も不味くはないが、効能も悪くはない」という感想が返ってきた。
そして今日もエナジーポーションを買っていくオッタルさんの猪の耳はピンと立っていて、心なしか嬉しげでもある。
そんなオッタルさんの耳がへにょりと倒れているのを数日後に目撃することになったが詳しく話を聞いてみると、どうやら主神である女神フレイヤが重い風邪をひいてしまったみたいだ。
女神フレイヤが重い風邪をひいたことで、フレイヤ・ファミリアの団員達は奔走しているらしい。
明らかにオッタルさんが困っていることは間違いないので「創薬師」のスキルを用いて風邪薬を作っておき、オッタルさんに渡しておく。
「感謝する」
短い感謝の言葉を言うと、風邪薬を持ってオッタルさんは走り去っていった。
更に数日後、ミアハ・ファミリアにまで再び感謝に来たオッタルさんによれば、俺が渡した風邪薬で女神フレイヤの風邪は、すっかり完治したようだ。
風邪薬を女神フレイヤに飲ませる前に、耐異常を持っていないLv1の団員達で毒味をしてから飲ませたみたいだが、問題がないと判断してから飲ませるのは当然のことかもしれない。
風邪薬という薬自体が今まで存在していなかったから、警戒するのも仕方ないだろう。
「お前には感謝をしている。深く礼を言いたい」
真剣な顔でオッタルさんは、女神フレイヤの風邪を風邪薬で治した俺に言った。
「お前に大きな借りができたが、どう返せばいい」
続けて言ってきたオッタルさんは、俺に大きな借りができたと考えているようだ。
別にそこまで気にしなくても良いとは思ったが、オッタルさん本人は真面目なので、借りを返そうとすることは間違いない。
どうしようかと考えていたところで思いついたことが1つ。
「これは、オッタルさんが良ければの話なんですが、俺のパーティメンバーになってくれませんか」
そう頼んでみると都合が合う時だけという条件でオッタルさんは了承してくれた。
これで深層に向かう戦力は、過剰な程に充分になったが、一応回復魔法が使えるパーティメンバーも探してから深層に向かうことにしよう。
クリエイトウォーター、ティンダー
出典、この素晴らしい世界に祝福を、カズマ
カズマが取得した初級魔法
クリエイトウォーターは水を生み出す魔法
ティンダーは小さな火で着火する為の魔法
カズマはこの2つの魔法を使ってコーヒーを作ったりする