外傷を治療するポーションや毒に対する解毒剤は存在していても風邪薬などの様々な薬が存在していないオラリオ。
そんなオラリオにこんな薬があったら良いんじゃないだろうかと思って様々な薬を「創薬師」のスキルを用いて作成してみる。
風邪薬を筆頭に、胃薬、二日酔いに効く薬、頭痛薬等の身体の内部に効果がある薬や、ハンドクリームや美容に効果がある身体の外側に使う薬等を、ミアハ・ファミリアのホームである店舗で細々と売り出してみた。
様々な薬の使い方は売る際にしっかりと教えておき、用法用量を間違わないように教えておく。
初めて見る薬を物珍しさに買っていく客がおり、そして実際に使ってみて効果を実感した人々から噂が広まっていったようで、ポーションやエナジーポーション以外の薬が目当ての客が増えていった。
オラリオの一般の人々には幅広く様々な薬が売れており、あかぎれに効果があるハンドクリームが好まれているらしい。
冒険者達にも薬は売れていて、二日酔いの薬をよく買っていく冒険者達が多いようである。
ある日、ロキ・ファミリアの団長であるフィン・ディムナさんが店舗に現れて「胃に効く薬を売ってくれないかな」と腹部を押さえながら言ってきた。
どうやらフィン・ディムナさんはストレスで感じていた胃の痛みをポーションで今まで誤魔化してきたらしいが、それにも限界がきていたみたいだ。
腹部を押さえているフィン・ディムナさんの状態を見て、普通の胃薬では効果が薄いと判断した俺は「創薬師」のスキルで、今のフィン・ディムナさんに最適な胃薬を作成して渡しておく。
受け取った胃薬をその場で直ぐに飲んだフィン・ディムナさんは、胃の痛みが瞬く間に改善されたようで「これは凄いね」と驚いていた。
「とても良く効く薬だと評判だったけど、こんなに効果があるとは思ってなかったよ」
そう言ったフィン・ディムナさんの顔は、解放感に満ちた爽やかな笑顔であり、胃の痛みに苦しんでいた苦悶の表情とは程遠い。
「貴方に何があったのかは聞きませんが、胃痛をポーションで誤魔化すのは止めた方が良いですね。一時的に治っても、また再発しますよ」
「それで胃に限界が来ていたのかもしれないね。これからは、ここで胃薬を買わせてもらうよ」
「常用するならこの胃薬が良いですよ」
胃痛に苦しんでいたフィン・ディムナさんには常用に向いている胃薬をお薦めしてみる。
「胃薬にも種類が幾つかあるんだね、さっき作ってくれたのは緊急用なのかな」
「そうですよ、普通の胃薬だと効果が薄いと判断して作りました」
「その判断は、きっと正しかったんだろうね。おかげで僕は胃の痛みからようやく解放されたよ」
とても晴れやかな顔をしていたフィン・ディムナさんは、胃の痛みから解放されたことを心の底から喜んでいるようだ。
「再発しないように気をつけてくださいね。ご購入されるのは胃薬だけで良いですか?」
「それじゃあ二日酔いの薬も買っていこうかな、ロキとか団員達が二日酔いになって苦しんでる時もあるからね」
「毎度ありがとうございます」
俺は丁寧に胃薬と二日酔いの薬がそれぞれ入った瓶を紙袋に詰めていき、フィン・ディムナさんに手渡す。
そして用法用量を守るように胃薬と二日酔いの薬の使い方と適量もフィン・ディムナさんに教えておいた。
「ちなみにこれを守らなかったからどうなるのかな」
「用法用量を間違えても身体に害はないようにしていますが、正しい使い方をしなければ効果が無かったりしますよ。二日酔いの薬は二日酔いには効きますが、胃薬にはなりませんから」
「うん、用法用量はしっかり守った方が良さそうだね。間違えないように気をつけるよ」
袋の中身を確認しながら言ったフィン・ディムナさんは、薬の代金を支払うと立ち去っていく。
大手のファミリアであるロキ・ファミリアの団長ともなれば苦労は絶えないのかもしれない。
フィン・ディムナさんが胃を痛めていた原因を語ることはなかったが、お客さんの個人情報は知らない方が良さそうだ。
薬師として薬を用意して、売るだけに留めておくとしよう。
それからも薬を売る日々を過ごしていると、店舗に入ってきたディアンケヒト・ファミリアのアミッドが迷いなく一直線に俺の方に向かってきたかと思えば「風邪薬の作り方を教えてください!」と直角90度に頭を下げながら言ってきた。
何故そんなことをアミッドが言ってきたかというと、オラリオ最高のヒーラーと言われているアミッドでも治せなかった女神フレイヤの重い風邪を治したのが、俺の作った風邪薬だったと知ったことが理由であるようだ。
自分に出来なかったことが出来たことに悔しいと思うよりも自分では助けられなかったことを悔やむアミッドは、今度は助けられるようになりたいと考えて、俺に風邪薬の作り方を教わりたいと思って行動に移したらしい。
ちなみに引き止めようとする神ディアンケヒトを途中まで引き摺ってきたらしく、力尽きて手を離した神ディアンケヒトを放置し、ミアハ・ファミリアのホームにまでやってきたアミッドの意志は固いのだろう。
とりあえずアミッドには一旦ミアハ・ファミリアのホームで待っていてもらって、引き摺られていた神ディアンケヒトが無事かどうか確認しにいってみた。
ディアンケヒト・ファミリアからミアハ・ファミリアのホームにまで続く道のりの途中で、力尽きている神ディアンケヒトを発見。
服が少々汚れてはいるが外傷はないようで、単純に力尽きて倒れているだけである神ディアンケヒトを背負い、ディアンケヒト・ファミリアのホームに運んでおく。
ディアンケヒト・ファミリアに神ディアンケヒトを預けてからミアハ・ファミリアのホームにまで戻ると、アミッドは陳列された薬を興味津々に眺めていた。
主神の扱いがあんなんで良いのかと思わなくもなかったが、様々な薬について知りたがって聞いてきたアミッドに詳しい説明をしていくと「是非とも師匠になっていただきたいです」と目を輝かせて言い出すアミッド。
「創薬師」のスキルがなくても、作り方を知っていれば様々な薬を作ることは可能だ。
俺がいずれ死んでも、様々な薬の作り方を知っている者が居れば、オラリオに普及した薬が無くなることはないだろう。
既にナァーザに教えている様々な薬の作り方を、アミッドにも教えることに抵抗はない。
とりあえず今回は風邪薬の作り方だけをアミッドに教えておくことにした。
「風邪薬の作り方を教えれば良いんだよな」
「はい、よろしくお願いします」
とてもやる気に満ち溢れているアミッドに風邪薬の作り方を丁寧に教えていく。
「こんな効能があったなんて」と驚きながらも風邪薬を実際に作っていったアミッドの手際は、とても素晴らしかった。
アミッドがオラリオ最高の治療師と呼ばれているのは伊達ではないようだ。
作り方を間違えることなく手際良く完成したアミッド作の風邪薬。
「実際に効果があるか確かめる為に、風邪をひいてきます!」
なんてことを言いながらミアハ・ファミリアのホームから飛び出していこうとしたアミッドを捕獲しておく。
「止めないでください!オラリオの医学を発展させる為には必要なことです!」
「普通に風邪ひいてる人を探して薬を飲んでもらえば良いだろ!」
「そんな都合良く見つからないですよ!」
アミッドを羽交い締めにして捕まえた状態で言い争いをしているとミアハ・ファミリアのホームにオッタルさんが来た。
「取り込み中に失礼するが、また風邪薬を用意してもらいたい。今度は大量に必要だ」
「何があったんですか」
「フレイヤ様が重い風邪をひいていたことを遅れて知ったファミリアの団員達が、自ら風邪をひくようなことをする事態が起きて、団員達に風邪が蔓延してしまったようだ。フレイヤ様に風邪が移ることがないように隔離はしてある」
「何でそんなことになってるのかは気になりますが、風邪薬は用意しますよ。此方のアミッドと2人で頑張ります」
そう言いながらアミッドを羽交い締めから解放すると、フレイヤ・ファミリアの団員達が使う風邪薬をアミッドと一緒に作っていく。
アミッドが作った風邪薬と俺が作った風邪薬を混ぜることなく別々に分けておき、それぞれをフレイヤ・ファミリアの団員達に使ってもらうことにした。
俺が作った風邪薬を飲んだフレイヤ・ファミリアの団員達は、直ぐに体調が良くなっていたらしい。
アミッドが作った風邪薬を飲んだフレイヤ・ファミリアの団員達は翌日になってから体調が良くなっていたようだ。
「創薬師」のスキル無しで作った風邪薬でも充分に効果があることがわかったので、他の薬でも作り方さえわかれば問題ないだろう。
悪用されたらまずい薬の作り方は教えるつもりはないが、生活に役立つ薬の作り方なら教えてもいいかもしれない。
そんなことを考えていたら「教わるばかりで貴方に何も返せないのは嫌です、私に出来ることが何か有りませんか?」と聞いてきたアミッド。
オラリオ最高のヒーラーがパーティメンバーに加わってくれたならダンジョン探索は捗りそうだと思ったが、神ディアンケヒトの許可を貰わずにアミッドをパーティメンバーに加えることはできないだろう。
そうアミッドに伝えてみると「ちょっと待っていてください」と言いながらアミッドはミアハ・ファミリアから飛び出していく。
数十分後、戻ってきたアミッドは「神ディアンケヒトに許可は取ってきたのでダンジョンに行けますよ」と言ってきた。
どうやって許可を取ってきたのかを聞いてみても「それは秘密です」と言うだけでアミッドは答えてくれない。
何をしたんだとは思うが、アミッドがパーティメンバーに加わってくれるなら、ポーション以外の回復手段が増えることは確かだ。
パーティメンバーにアミッドが加わってくれたことは、ありがたいことだと素直に思っておこう。