ディアンケヒト・ファミリアでも風邪薬を売り出すようになり、ミアハ・ファミリアの風邪薬の売り上げが少し落ちたが、それ以外の薬については売り上げが更に伸びていたようだ。
ミアハ・ファミリアを訪れるお客さんの量が凄まじいことになっており、押しかけ弟子のアミッドにまで接客を手伝ってもらうことになる。
なんとか全てのお客さんに商品を売ることができたが、神ミアハとナァーザにアミッドが疲れきっていたので、特製のエナジーポーションを作成して俺以外の全員に渡しておいた。
特製エナジーポーションを飲んだ全員の疲労は回復したようで、これからも頑張れそうだったが、ちょうど客足が遠のく時間帯になったので俺以外の全員には休憩してもらう。
エナジーポーションで疲労が回復していても休める時は休んだ方が良いと俺は思っているからだ。
Lv5の俺が1番体力があるので疲れているということはなく、今の俺の状態なら休憩をしなくても問題はない。
まばらにやって来るお客さんを相手に俺が接客していると神ディアンケヒトが店舗に現れた。
「ミィーアァーハァ、はおらんのか。まあいい、エナジーポーションを30本用意するのだ、ゲド」
頼まれたエナジーポーション30本を俺が丁寧に梱包していると話しかけてきた神ディアンケヒト。
「風邪薬とやらは中々悪くない薬だな。わしのファミリアでも売り出せるようになったのはアミッドがお主から作り方を教わったからだが、お主は何故アミッドにも作り方を教えたのだ」
「風邪薬の作り方が長く残るようにですかね。そうすれば助かる人も増えるでしょう」
「どうやらお主には、良からぬ気持ちや風邪薬の作り方を独占しようと思う気も無いようだな」
呆れたような顔で此方を見る神ディアンケヒトは、俺が嘘を言っていないことを理解していた。
「だが、それについてはまあいい、いやあまり良くはないが、良いということにしておくぞ。話が進まんからな」
続けて言ってきた神ディアンケヒトは、まだ何か言いたいことがあるらしい。
そろそろエナジーポーション30本の梱包は終わるが、神ディアンケヒトの言いたいことを聞いておくとしよう。
「ダンジョンにアミッドを連れていくなら、必ずアミッドを守りぬけ!五体満足で無事にアミッドをわしのファミリアにまで連れて戻ってこい!」
神ディアンケヒトが大きな声で言った言葉は、眷族であるアミッドを大切に思っていることがわかる言葉だった。
「約束しますよ、神ディアンケヒト。アミッドは必ず守りぬいてみせます」
神ディアンケヒトに嘘を言うつもりはない俺は、約束したこの言葉を嘘にするつもりもない。
「うむ、ならば良し」
頷いていた神ディアンケヒトはアミッドを本当に大切に思っているのだろう。
「オラリオ最高のヒーラーを失うことはわしのファミリアにとって大きな損失であってだな、わしは別にアミッドのことを心配している訳ではないぞ」
そんなことを慌てて付け加えるように言っていても神ディアンケヒトがアミッドを心配している気持ちは隠せていない。
そんな神ディアンケヒトが、俺は嫌いではなかった。
梱包した30本のエナジーポーションを神ディアンケヒトに渡して代金を受け取る。
「まあ、その、なんだ、お主も無事に帰って来い、ゲド」
最後に小さな声でそう言うと神ディアンケヒトは去って行った。
神ディアンケヒトは、どうやら俺のことも心配してくれていたようだ。
やはり神ディアンケヒトは悪い神ではない。
そんなことがあった翌日、すっかり常連になったフィン・ディムナさんが今日も胃薬を買っていく。
「これは、とても胃に優しい良い薬だね。つらい毎日もこれがあると頑張れるよ」
嬉しそうに胃薬が入った紙袋を抱えながら言ったフィン・ディムナさんは、日々胃薬に助けられているみたいだ。
フィン・ディムナさんが毎回買っていくのは常用の胃薬ではあるので毎日飲んでも問題はない。
頻繁にフィン・ディムナさんは胃薬を買いに来るが、毎日欠かさず飲んでいるから消費が早いのかもしれないな。
それだけストレスを感じていることになるが、最初に店に来た時のように腹部を押さえているようなことが無くなったのは、胃薬がしっかりと効果を発揮しているということだろう。
苦しんでいる人を助けることが出来ているなら、薬師としての仕事を出来ているような気がする。
そんなことを思っていたら、数日後に何故か変わり果てた姿で現れたフィン・ディムナさんがミアハ・ファミリアのホームである店舗に足を踏み入れたところで、ばたりと倒れた。
流石に放置することは出来ないので、店舗の接客等の仕事を神ミアハとナァーザに任せて、倒れたフィン・ディムナさんを俺の自室に運んでベッドに寝かせておく。
精神的にも肉体的にも疲労が溜まっている様子だったフィン・ディムナさんが起きるまでしばらく待っていると、数十分後にようやく目を覚ました。
見知らぬ場所だと気付いて、周囲を確認しようとしたフィン・ディムナさんは警戒しているようだったが、俺を視界に入れると安堵して警戒を解いたようだ。
「ここは何処かな」
「ミアハ・ファミリアのホームにある俺の自室ですよ」
「僕がどれくらい寝てたかわかるかい」
「数十分くらいですね」
「数十分か、そんなに寝れたのは5日ぶりだね」
「いくら冒険者でも、寝ないと身体に悪いですよ」
「急ぎの仕事は、なんとか終わらせたんだけど、ちょっと問題があってね。解決するまで寝られなかったのさ」
「問題の内容については聞きませんが様々な疲労が蓄積しているようですし、この特製のエナジーポーションを飲んでもらいますよ」
ベッドから身体を起こしているフィン・ディムナさんに、普通のエナジーポーションよりも効果がある特製のエナジーポーションを手渡しておいた。
「ちょっと普通のエナジーポーションとは違うみたいだけど、きみが作ったものなら問題ないんだろうね。ありがたくいただくよ」
肉体的な疲労だけではなく精神的な疲労にも効果がある特製エナジーポーションを一気に飲み干したフィン・ディムナさんの身体は完全に疲れが吹き飛び、元気を取り戻したみたいだ。
「これは凄いね。24時間戦えそうな気がしてきたよ」
何処かのエナジードリンクのキャッチコピーのようなことを言い出したフィン・ディムナさんは、特製のエナジーポーションで疲労が回復したことで妙なテンションになっていたのかもしれない。
「身体を休めることも仕事の内ですから、しっかりと休んでおいてください」
「僕がやらなきゃいけない仕事も終わらせたし、暇ではあるんだけど、身体を鈍らせたくなくてね。ついつい身体を動かしたいと思ってしまうんだ」
「そうなんですか」
「ファミリアのしがらみに捕らわれないで、ダンジョンで自由に槍を振るいたくなる時もあるかな」
「大手のロキ・ファミリアの団長ともなれば、大変なことも多いと思いますし、そんな気分になる時もあるんでしょうね」
「たまには単なる冒険者に戻りたいとも思うけど、1人でダンジョンに潜るのは団長の立場としては避けなければいけないんだ」
深々とため息を吐きながら言ってきたフィン・ディムナさんは溜め込んでいた気持ちも言葉にして吐き出しているようである。
「普通は団長1人ではダンジョンに潜りませんから、基本的には同じファミリアでパーティを組んでいるみたいですね」
また疲労やら何やらを溜め込んで店の中で倒れられたら困るので、吐き出させることも必要だと判断した俺は、フィン・ディムナさんと会話を続けていった。
「ロキ・ファミリアでパーティを組んだら、やっぱり団長の仕事をしないといけなくなるから、自由とは程遠いかな。それは嫌ではないけど、たまには解放されたいという気持ちも無くはないよ」
「まあ、貴方が疲労していた原因がロキ・ファミリアなのは間違いないですからね。たまには解放されたいと思ってしまうのは当然かもしれません」
「そうなのかな」
「そうだと思いますよ」
確実にストレスの原因となっているロキ・ファミリアから解放されたいという気持ちが、フィン・ディムナさんにあってもおかしくはないと俺は思う。
「ロキ・ファミリアの団員じゃなくて、僕とロキ・ファミリアに物怖じしない度胸と実力があるパーティメンバーが何処かに都合良く居ないかなあ」
何処か遠くを見ながら言ったフィン・ディムナさんは、そんなパーティメンバーは何処にも居ないと思っているようだ。
「それなら貴方も俺のパーティメンバーに加わってみませんか。他のメンバーは、椿とアスフィさんにオッタルさんとアミッドになりますが」
フィン・ディムナさんが望むパーティメンバーが、何処にも居ない訳ではないと教えるついでに、ものは試しと俺はフィン・ディムナさんもパーティメンバーに誘ってみることにした。
「Lv5が2人にLvは3でも希代のアイテムメイカーが1人、現オラリオ最強のLv7が1人に、Lvは2でもオラリオ最高のヒーラーが1人って凄いパーティじゃないか」
集まっているパーティメンバーが豪華なことに、とても驚いていたフィン・ディムナさん。
「どうやってこれだけのメンバーを集めたんだい?」
「まあ、縁があったとだけ言っておきますよ」
どうやってこのパーティメンバーを集めたかに興味を抱いていたフィン・ディムナさんに、多くを語ることはない。
「それで、貴方もパーティメンバーに加わりますか?特に無理強いはしませんよ」
まだフィン・ディムナさんからの答えを聞いていないので、俺は続けて聞いてみる。
「きみのパーティに是非とも僕も参加させてもらうよ」
フィン・ディムナさんからの返答は笑顔での了承であり、俺のパーティに新たなメンバーが加わった瞬間だった。