群れで襲いかかってきたのは黒い外皮に赤い体毛で頭から生えた2つの角を持つモンスターであるバーバリアン。
大量のバーバリアンを相手に前衛で大剣を振るうオッタルさんを強敵だと判断したのか、バーバリアンはオッタルさんを避けて此方へと向かってくる。
「撃つんだ、アンドロメダ」
中衛のフィンさんの指示に従った遊撃のアスフィさんが、筒状の魔道具から改良爆炸薬が詰まった瓶を射出すると、強烈な爆炎で此方に近付いていたバーバリアン達を一掃することができたようだ。
新たな魔道具が深層でも通用する武器であると証明することができたアスフィさんは、とても喜んでいたな。
ちなみにバーバリアンのドロップアイテムは赤い毛で、バーバリアンの毛は油分を含んでいることから、火を着ければ水辺でもよく燃えるらしい。
迷宮構造となっている道を進むと今度はリザードマンエリートにスカル・シープとルー・ガルーが混合した群れが左右の分かれ道からやってきて襲いかかってきた。
凄まじい物量に前衛だけではなく中衛と遊撃も戦う必要が出てきており、後衛のアミッドを守りながら俺も戦っていく。
天然武器の石刃を振るってくる一際大きいルー・ガルーは明らかに強化種だが、武器の扱いに慣れているようで、身体能力だけで武器を振るっている冒険者よりも技を身に付けていたことは確かだ。
ルー・ガルーが上段に振り上げた石刃が此方に振り下ろされるよりも速く、横一文字に振るった「渦鋼」でルー・ガルーの両腕を斬り落とし、ルー・ガルーの頭部に突きを叩き込んで倒す。
それからも1歩も下がることなく「渦鋼」を休まず振るい、目の前のモンスターを斬り倒していくと数が減っていくモンスター達。
大量に現れたモンスター達は全て倒されて、残ったものは魔石とドロップアイテム。
それらを回収し、袋に詰めてからリトルフィートで小さくしてから鞄にしまっておいた。
更に深層の先に進むと、次はオブシディアンソルジャーが大量に現れたが、移動速度がそれほど速くはないオブシディアンソルジャー達を、アスフィさんの魔道具から射出された新たな薬による爆発が呑み込んでいく。
爆炸薬とは違って爆炎は発生しないが強烈な爆発を引き起こす爆裂薬という薬の魔道具をアスフィさんは作成していたみたいだ。
魔法が効きにくい黒曜石の身体を持つ岩石系モンスターであるオブシディアンソルジャー達だったが、魔道具による爆発は効果があったらしく、完全にオブシディアンソルジャー達の身体は破壊されていた。
オブシディアンソルジャーのドロップアイテムは、魔法が効きにくい黒曜石だが、とても高値で売れるようなので忘れずに回収しておきたい。
破壊されたオブシディアンソルジャー達が動くことはなく、全員で魔石を回収していくとドロップアイテムの黒曜石を発見。
幾つか黒曜石を回収することができたが、確かに魔法が効きにくくリトルフィートを使っても直ぐに小さくはならなかった。
それでもLv5になって魔法の効果が上がった俺のリトルフィートなら、魔法が効きにくい黒曜石でも少し時間があれば、小さくすることは可能だ。
黒曜石が小さくなるまでの時間は休憩時間ということにしておき、パーティメンバーの全員には、しばらく休んでもらう。
ダンジョンの壁を軽く斬って傷をつけておけば、ダンジョンからモンスターが生まれるまで、しばらく時間がかかるので直ぐにモンスターに襲われることはない。
休憩時間に、軽食として用意しておいたビスケットや燻製肉を提供してみると、かなり好評だった。
「ロキ・ファミリアの遠征にも持っていきたいね。何処で買った物なのかな?」
そんなことをフィンさんが聞いてくる程度には気に入ってもらえたようだ。
「両方とも自作なんで、買った物ではないですよ」
特に嘘を言う必要も無いので俺が作ったものだと正直に答えておくと納得して頷いていた椿とアスフィさん以外が物凄く驚いている。
「美味しい燻製肉はともかくとして、このお菓子も師匠が作ったんですか!」
ビスケット片手に近付いてきたアミッドは、特にビスケットを気に入って食べていたので衝撃が大きかったらしい。
「そのお菓子も俺が作ったものだけど、不味くはないだろう」
「確かに美味しいですけど、お菓子作りも出来るんですね師匠は」
驚きを隠せていないアミッドにとっては、俺がお菓子作りも出来るとは思っていなかったようだ。
アミッドとそんな会話をしていた俺に、燻製肉を沢山食べていたオッタルさんが不意に聞いてくる。
「ミアハ・ファミリアで燻製肉を売り出したりはしないのか?」
「今の所は食料品を売り出したりはしないと思います」
「そうか」
俺の答えを聞いたオッタルさんの返事は短かったが、へにょりと倒れていた猪耳を見れば、オッタルさんが残念だと思っていることは一目で理解できた。
「売り出したりはしませんが、材料費を出してくれるなら俺が個人で作ったものを渡すくらいは大丈夫ですよ」
「そうか」
俺が続けて言った言葉への返事は短かったが、ピンと立った猪耳を見れば、オッタルさんが喜んでいることは直ぐにわかる。
オッタルさんの猪耳は感情表現がわかりやすい。
しっかり休憩することができて、小さくなった黒曜石も鞄にしまっておき、更に先を目指して進んでいく全員。
負傷者を出すこともなく順調に階層を下りていくと、再び現れるモンスター達。
バーバリアンにルー・ガルーとスパルトイが混合した白兵戦が強いモンスター達だったが、アスフィさんが連続で射出した爆炸薬と爆裂薬により壊滅。
魔石まで砕けていたので回収は出来なかったが、モンスターを素早く排除できたことはアスフィさんに感謝しておく。
「まだまだ爆炸薬と爆裂薬は有りますので頼りにしておいてくださいね」
筒状の魔道具を構えながら言ってきたアスフィさんは、とても張り切っていたが、やる気がないよりかは良いのかもしれない。
Lv2のアミッドの体力のことも考えて、ときおり休憩を挟みながらダンジョンの深層を進んでいくと、風景が変わる。
深層の迷宮のような階層が44階層からは、まるで火山のようになっていた。
遭遇するモンスターを倒し、全員に各種ポーションを提供しながら先へ先へと進む。
到着した49階層は広大な荒野になっていて遮蔽物が無く、フォモール達が大量に押し寄せてくる姿が見えた。
「撃ちまくれ、アンドロメダ」
指示を出したフィンさんに従ったアスフィさんの魔道具から連続で射出された爆炸薬が遠く離れた場所に居るフォモール達を爆炎で呑み込んで倒していく。
「全員、魔剣を用意するんだ。僕の合図に従って一斉に魔剣を振ってくれ」
続けてフィンさんは、椿が用意した魔剣を構えながら爆炸薬で数がかなり減ったフォモールを完全に全滅させる為に指示を出す。
「今だ!」
フィンさんの合図に従って全員が魔剣を振るうと放たれた魔法がフォモール達に直撃。
椿の魔剣は並みの魔剣以上の威力があり、ダメージを喰らったフォモール達の動きは完全に止まっていた。
「前衛、突撃!」
フィンさんの指示に従った前衛のオッタルさんが動きが止まっているフォモール達を容易く狩っていき、あっという間にフォモール達は全滅。
それから魔石を回収した後に安全階層の50階層まで移動し、鞄からリトルフィートで小さくしておいた人数分のテントを取り出して元の大きさに戻す。
パーティメンバー全員に個別のテントを用意しておき、食料品と水も提供しておいた。
「全員武器を出せ、手前が武器の手入れをしよう」
俺を含めた全員が椿に近接武器の手入れをしてもらい、ついでに魔剣の状態も確認してもらう。
「ふむ、魔剣を使えるのは後数回といったところか。魔剣だけに頼りきっておる者は、おらんから問題はないがな」
魔剣の確認と、武器の手入れを終わらせた椿は全員に武器と魔剣を返却して、自分のテントに戻っていく。
椿に武器の手入れをしてもらった俺も自分のテントに戻って眠ることにした。
翌日になり、朝食として燻製肉と野菜を入れたスープとパンを全員分俺が用意していると、起きてきた他の面々。
しっかりと朝食を全員が食べてから後片付けをして、片手鍋に食器やテントをリトルフィートで小さくして鞄にしまう。
51階層にまで向かい、カドモスの泉水を回収してから帰ることにしたが、オッタルさんが1人で泉水を守っていたカドモスを瞬殺。
その後、全員で手分けして泉水を集めたが、それなりの量のカドモスの泉水を手に入れることができたようだ。
マッピングしておいたダンジョンの道を逆走していき、今度は上の階層へと上がる。
俺がアミッドを肩車して走り、他の面々も立ち止まることなく走って移動していった。
進行に邪魔なモンスターだけ倒して突き進んでいき、徐々に階層を上がっていくと、あと数階層で深層から下層だ。
迫り来るモンスター達を突撃して突破していく俺達は一丸となって階層を上がっていく。
途中でしっかりと休憩も挟み、各種ポーションを提供して回復も行っておくと、移動速度を落とさずに進むことが可能だった。
到着した37階層。
「皆、止まってくれ」
あと1階層上れば下層といったところで、フィンさんが俺達に止まるように指示を出す。
「僕の親指が凄まじく痛んでいるということは、この先に、とてつもない危険がある筈だから気をつけるんだ」
冷静に言い聞かせるように言ったフィンさんには、危険を察知する能力があるみたいだ。
この先に危険があると理解していても、ダンジョンから帰る為には進むしかない。
全員で進んだ先には、37階層と36階層を繋ぐ出入り口の前を塞ぐかのように生えている巨大なモンスターが居た。
「明らかに異常な場所に、異常個体の白いウダイオス」
痛んでいるらしい親指を押さえながらフィンさんがモンスターの名前を言うと、白いウダイオスは両手にそれぞれ1本ずつ持っている白い剣を此方に向けて振るう。
2本の白い剣から放たれた扇状に広がる衝撃波。
「全員俺の後ろへ!」
肩車しているアミッドごと守るように俺の「断ち切る力」で空間を断ち切ることで、形成されたバリアフィールドのようなものが衝撃波を防いだ。
肩車しているアミッド以外の全員を「断ち切る力」で覆うことは出来なかったが、扇状に広がる衝撃波の盾となることはできた。
此方が攻撃を防いだことを確認した白いウダイオスは、今度はスパルトイ達を生み出す。
白いウダイオスから生み出されたスパルトイは額から角を生やしていて、此方のスパルトイも異常な個体であることは間違いない。
「帰宅途中だ、押し通らせてもらうぞ!」
大剣を構えてオッタルさんは力強く言い放つ。
「きみを倒せば親指の痛みも止むだろうし、倒させてもらうよ」
槍を構えてフィンさんは静かに白いウダイオスを見据えた。
「私の爆炸薬の出番ですね!」
スパルトイ達に筒状の魔道具を向けて連続で爆炸薬を射出しながら言ったアスフィさん。
「手前も一働きするか」
長刀を上段に構えた椿は、スパルトイ達を待ち構えている。
「回復は任せてください!」
オラリオ最高のヒーラーと呼ばれるアミッドもやる気満々だ。
「それじゃあ、やりましょうか階層主退治」
「渦鋼」を構えて言った俺のその言葉を合図に、オッタルさんとフィンさんが白いウダイオスに突っ込んでいった。
出てきた階層主には悪いが、負ける気がしない。