黒いゴライアスの硬皮を弦に使った弓に「ゴライアスボウ」と名前をつけておき、念の為に対人用の矢も作成しておくことにした。
ダンジョンの中層、大樹の迷宮に生えている木を斬り倒すと、リトルフィートで小さくしてから運んで、安全階層の18階層で矢の加工を行っていく。
完成した対人用の木製の矢には鏃をつけていないので、ブルークラブの鋼殻で作成した矢ほどの威力はない。
木製の鏃が無い矢だとしても、ダンジョンの頑丈な木を使って作成した矢は、対人用にするなら充分な威力がある。
たとえ鏃が無い矢だとしても人の頭を狙うのは止めておいた方が良さそうだ。
対人用の矢を更に作っておいた方が良いかと思ったので、ダンジョンの中層に再び向かって木を伐採していると、奇妙なものを見つけてしまった。
それはどう見ても金属製の扉であり、凄まじく頑丈そうに見える。
金属製の扉を実際に触ってみて強度を確かめてみると素手で破壊するのは難しそうだった。
アダマンタイトよりも強度が高そうなこの扉は、もしかするとオリハルコンで作られているのかもしれない。
魔道具作成者として扉を見てみて解ったことは、この扉を開けるには何かしらの魔道具が必要になるということだ。
まあ、それでも俺の魔法を使えば、扉自体が開かなくても扉の奥に進むことはできるな。
扉の奥に何があるのか気になるところではあるが、とりあえずオリハルコンの扉だけ貰って帰るとしよう。
「リトルフィート」
速攻縮小魔法を唱えて大きさを小さくしたオリハルコンの扉を鞄に入れておき、ダンジョンから立ち去る。
武器は今のところ「白断」と「ゴライアスボウ」だけで足りているので、持ち帰ったオリハルコンの扉を武器に加工してもらうつもりはない。
オリハルコンの扉は大きさを戻せば盾代わりに使えそうだから、小さくした状態で常に持ち歩いておこう。
そんなことがあった次の日、ミアハ・ファミリアのホームにやって来たオッタルさん。
今回はミアハ・ファミリアの商品を買いに来た訳ではないようで、以前ダンジョン探索で俺が提供した品々の中で、オッタルさんが特に気に入って食べていた燻製肉の作成を頼みに来たみたいだ。
「材料費も持ってきている。お前に燻製肉の作成を頼みたい」
燻製肉の材料費のヴァリスもしっかりと持ってきていたオッタルさんは、ミアハ・ファミリアへの依頼ではなく、個人的な頼みとして俺に燻製肉の作成を頼んできた。
「ちょっと仕込みに時間がかかりますけど、材料がちゃんと集まれば、3日後には燻製肉が完成すると思いますよ」
「そうか」
無表情で短い返事だったが嬉しそうに猪耳を立たせているオッタルさんは、よほど燻製肉を気に入っていたらしい。
「3日後を楽しみにしている」
それだけ言って立ち去ろうとしたオッタルさんに、ちょっと聞きたいことがあったので引き止めることにする。
「ウダイオスの白剣の加工をゴブニュ・ファミリアに頼むって言ってましたけど、オッタルさんの剣は、どんな剣になりました?」
「気になるのか」
「ええ、同じドロップアイテムを手に入れた者として、とても気になりますね」
「良い剣であることは確かだが、そこまでお前が気になるのなら実物を持ってくるとしよう」
「良いんですか」
「構わん。少し待っていろ」
そう言いながらミアハ・ファミリアを出ていったオッタルさんは、20分もしない内に白い大剣を背負って戻ってきた。
「この大剣は「極白の剣」と名付けられている」
背負っていた大剣を手に持ち、掲げて見せてきたオッタルさんが大剣の名前を言う。
「極白の剣」と書いて「きょくはのけん」と読むらしい。
間違いなく第1等級の武器である「極白の剣」は、ウダイオスの白剣を元に加工された大剣であり、ゴブニュ・ファミリアの鍛冶師の腕前が見事なものだと理解できる大剣だった。
「白断」よりも大振りな大剣である「極白の剣」はオッタルさんが使いやすいように作成されていることがわかる。
オッタルさんの為だけに作られた「極白の剣」は、とても良い剣だと思える剣だ。
「その大剣は良い剣ですね。ちょっと待っていてください、俺の剣も持ってきます」
オッタルさんに少し待っていてもらって、部屋から「白断」を持ってきた俺は、オッタルさんに「白断」を見せてみた。
「この大剣は「白断」という名前です」
「椿・コルブランドが作った大剣か。良い腕だ」
「白断」を見て頷いていたオッタルさんも「白断」を良い剣だと認めてくれたようだ。
同じ素材で作られた大剣だとしても加工した者が違えば、大きな違いが出るのは当然だろう。
それでもどちらの大剣も良い剣だと言えるのは、鍛冶師の腕が良いからだった。
「極白の剣」をゴブニュ・ファミリアのどんな鍛冶師が作ったかは知らないが、俺に「白断」を作ってくれたヘファイストス・ファミリア団長の椿が鍛冶師として素晴らしい腕を持っていることを俺は知っている。
ちなみにオッタルさんが本気で振るっても壊れない「極白の剣」には、不壊属性が付与されているみたいだ。
不壊属性が付与された武器は、斬れ味が少し下がるが、基本的に壊れることはないらしい。
俺の「白断」には不壊属性は付与されていないようだが、凄まじい強度があるのは確かだ。
素材となったウダイオスの白剣が良い素材だったのだろう。
互いに剣を見せ合って感想を言い合い、満足したところで帰っていったオッタルさん。
それから3日後、用意しておいた燻製肉をバスケットにしまっておき、オッタルさんを待つ。
燻製肉を受け取りに来たのはオッタルさんだけではなく、何故か女神フレイヤも一緒だった。
「穏やかに暖かさを与える火のような魂を持つ貴方のおかげで、オッタルの魂が更に輝くようになったわ」
微笑みながら嬉しそうに言ってきた女神フレイヤは間違いなく喜んでいる。
女神フレイヤは、魂を見ることができるようだ。
「貴方の風邪薬に助けられたこともあったから、それについての感謝もしておくわね。ありがとう、助かったわ」
続けて感謝をしてきた女神フレイヤは笑顔を絶やすことはない。
「薬師としての仕事をしただけですが、感謝されるのは素直に嬉しいですね」
女神フレイヤからの感謝を受け取り、俺が笑みを浮かべていると、何故か此方をじっと見てきた女神フレイヤ。
「どうかしましたか」
女神フレイヤに見られていた理由が気になったので、俺がそう言うと女神フレイヤは口を開いた。
「貴方の魂の火が、炎になって燃え盛る時は来るのかしら?」
期待しているかのように俺に聞いてきた女神フレイヤからの問いかけに答えておく。
「自分では確認できないんで、燃え盛る炎になっていたら、報告してもらえると助かります」
神に嘘を言っても仕方がないので俺は嘘をつくことなく正直な気持ちを答えておいた。
「ふふっ、そうしておくわね」
とても楽しげな女神フレイヤからの了承も貰ったので、いずれ俺の魂が炎のように燃え盛っている時があれば、女神フレイヤが教えてくれるだろう。
「それじゃあ、オッタルさん。燻製肉は、このバスケット3つに入ってますから、全部持っていってください」
重ねた3つのバスケットをオッタルさんに手渡しておくと、受け取ったオッタルさんが僅かに笑みを浮かべていた。
「感謝する」
嬉しそうなオッタルさんの猪耳が元気に立っていて、喜びを露にしているのは間違いない。
「またオッタルの魂が輝いてるわね。とっても喜んでるのがよくわかるわ」
オッタルさんを見ながら、そんなことを言っていた女神フレイヤは嬉しそうに微笑んでいる。
自分の眷族の魂が輝いていることが、女神フレイヤにとっては嬉しいことなのかもしれない。
「行きましょうフレイヤ様」
「せっかちねオッタル。強引に着いてきたことを怒ってるのかしら、それともそれを早く食べたいの?そんなに美味しいのなら私も食べてみたいわね」
「フレイヤ様の口に合うかはわかりませんが」
「あっ、今悲しそうな顔したでしょう。一人占めしたかったのね」
「フレイヤ様が、ご所望であるならお望みのままに」
「オッタルの魂が凄い勢いで曇っているのだけれど、そんなに食べたかったのね。そこまで食べたい燻製肉がどんな味なのかは気になるけど、輝いていた貴方の魂を曇らせてしまうぐらいなら我慢するわ。貴方一人で全部食べて良いわよ」
「感謝しますフレイヤ様」
「オッタルの魂がまた輝き出したわね。やっぱり気になるから今度彼に燻製肉を作ってもらう時は私の分も用意してくれないかしらオッタル」
「承知しました」
そんな会話を終わらせたオッタルさんと女神フレイヤがミアハ・ファミリアから立ち去っていった。
とりあえずオッタルさんは俺が作った燻製肉を物凄く気に入っているようだ。
数日後、燻製肉を全て食べきったオッタルさんが再びミアハ・ファミリアまでやってくる。
「今度は俺だけではなくフレイヤ様の分も頼む」
以前よりも多目に材料費のヴァリスを渡してきたオッタルさん。
今度は女神フレイヤの分も用意する必要があるらしい。
「量が量なんで、今回は4日後に来てくださいね」
「ああ、楽しみに待っている」
帰っていったオッタルさんは、無表情でも嬉しそうにしていた。
4日後、俺が気合いを入れて用意した燻製肉を取りに来たオッタルさんの猪耳がピンと立っているのが見える。
「この5つのバスケットに入っているのが、今回の燻製肉です。持っていってください」
「感謝する」
嬉しそうに燻製肉が入った5つのバスケットを受け取ったオッタルさんは、口端を僅かに笑みの形に緩めていた。
オッタルさんが5つのバスケットを抱えて去っていく姿を見送り、ミアハ・ファミリアでの仕事を行っていく。
ミアハ・ファミリアの現団長としてギルドに提出する書類も書くことになったが、それほど難しい内容ではないので問題はない。
ギルドに書類も提出し、ミアハ・ファミリアのホームに戻って店舗で接客を行う。
そんな日々を過ごしていると、オッタルさんがミアハ・ファミリアにまで、またやって来る。
燻製肉の作成をまた頼まれるのかと思っていたら、今回は違うみたいだ。
「お前に、フレイヤ様が食べる料理を作ってほしい」
そう頼んできたオッタルさんは疲れたような顔をしていた。
どうやら女神フレイヤは、俺が作った燻製肉をかなり気に入ったようで、俺が作る他の料理の腕も気になってしまったらしい。
気になってしまうと我慢ができない女神フレイヤは「実際に作ってもらいましょう」と言い出して、俺を連れてくるようにオッタルさんに命じたようだ。
「まあ、料理ぐらいなら構いませんよ」
特に嫌なことを頼まれた訳ではないので、俺は快く了承しておく。
「すまんな」
へにょりと猪耳を倒して申し訳無さそうな顔をしているオッタルさんが主神である女神フレイヤに振り回されているのは間違いない。
「それで、何処に向かえばいいんですか」
「フレイヤ・ファミリアの本拠地だ」
オッタルさんに案内されて向かった場所は、都市第5区画にあるフレイヤ・ファミリアの本拠地。
そこは、フレイヤ・ファミリアの面々が日々殺し合いのような戦いを繰り返している場所だった。