ある日からオラリオに病が蔓延することになり、抵抗力の弱い冒険者以外の人々が病に倒れた。
それはギルドの職員も例外ではなく、多くのギルド職員が病に侵されているようだ。
今は少数のギルド職員でなんとか仕事を回しているみたいだが、それにもいずれ限界は来るだろう。
冒険者以外のオラリオの人々が病に伏しているこの現状が長く続けば、物流が完全にストップしてしまうのは間違いない。
蔓延している病自体も厄介なもので、安静にしていれば治るという類いのものではなかった。
俺が持つ「創薬師」のスキルで解ったことだが、この病の特効薬となる薬を作る為には、カドモスの泉水が必要になるらしい。
オラリオの全ての人々に提供するには数が足りていないカドモスの泉水を急いで集める必要があるだろう。
オラリオの物流が完全にストップすれば飢え死にする人々まで出てくるかもしれないからだ。
早めに特効薬を作り、完全に病を根絶する為には、カドモスの泉水を素早く確保して、迅速に持ち帰る必要があった。
俺はダンジョンに潜る為の装備を用意して身に付けると、唱える詠唱の後半を変えることによって効果までもが変化する魔法を唱えていく。
「心理之王、御調子者、調子者」
今回使うのは空間操作による空間転移。
「流れる星よ、空を開け」
繋ぐ場所はダンジョンの安全階層の50階層。
「ムードメーカー」
空間転移を行って移動したダンジョンの50階層から、素早く51階層に移動してカドモスの泉水を回収する為に先を急いだ。
道中で遭遇した黒犀の形をしたモンスターのブラックライノスを「白断」で斬り、巨大な蜘蛛型のモンスターであるデフォルメススパイダーを真っ二つにして、魔石を回収して進む。
巨大な蠍のヴェノムスコーピオンやサンダースネイクにシルバーワーム等も現れたが、問題なく処理して魔石を忘れずに回収すると、先に進んだ。
到着したカドモスの泉水が湧き出る場所には、当然のように宝財の番人であるカドモスの姿がある。
手早くカドモスを倒してカドモスの泉水を回収すると、50階層まで戻り、空間転移で自室に移動してから蔓延した病の特効薬を作成したが、まだまだオラリオの住人達全てに行き渡る数ではない。
神ミアハとナァーザに特効薬を渡しておき、病に侵された人々に配布するように頼んでおく。
今回は非常事態ということで無料配布になるが、病を根絶することが先決だ。
何度もカドモスの泉水を回収していくとカドモスが襲いかかってきても容易く倒すことが可能になっていた。
数回程、そんな作業を繰り返していると再び現れるカドモス。
しかし今回のカドモスは通常のカドモスと違っていて、額からまるで一角獣のように立派な銀色の角を生やしている。
明らかに亜種と言える一角のカドモスは此方を見据えて咆哮を上げると、立派な角を突き出しながら凄まじい速度で突進してきた。
フレイヤ・ファミリアの「女神の戦車」が振るう槍よりも速いカドモスによる突進。
スキル「龍の手」で身体能力を倍にしてようやく避けることが可能になった一角のカドモスの突進は、とてつもなく速い。
なんとか一角のカドモスの突進を避けたところで「白断」を振り下ろすと、瞬時に身を翻したカドモスは銀色の角で此方の大剣を受け止めた。
「渦鋼」でも斬れないものを容易く斬ることが可能な「白断」でも斬れない銀色の角は、かなりの強度を持っているようだ。
銀色の角で「白断」を弾き上げたカドモスの力は、以前戦った白いウダイオスよりも高い。
亜種のウダイオスよりも間違いなく強い亜種のカドモス。
身体能力を倍にしただけでは力負けすると判断し、それ以外も「龍の手」で倍にしていき、腕力や脚力も倍になったところで再び攻勢に移る。
此方が連続で振るう「白断」に合わせるかのように、素早く動いて銀色の角で「白断」を受け止め続けるカドモスは、角以外で受ければダメージを受けると理解しているみたいだ。
どうやら亜種である一角のカドモスは通常のカドモスよりも知能が高いらしい。
「白断」を片手持ちにして突進突きを放つとカドモスは銀色の角を真正面から振り下ろして、突進突きを角で受け止めた。
その瞬間に「竜鱗鎧化」を発動した俺は、一旦「白断」を手放すと力強く踏み込んでカドモスへと間合いを詰めて拳を握る。
そして身体能力と腕力と拳の威力と「竜鱗鎧化」の強度を倍にした状態で繰り出す拳撃を、一角のカドモスの頭部に叩き込んだ。
凄まじい強度を持つ「竜鱗鎧化」によって形成された竜鱗のような装甲に覆われた拳は、かなりの威力を発揮して、確かにカドモスへとダメージを与えた。
一角のカドモスの弱点となる部位が頭部だったらしく「竜撃会心」も発動していたようで、特大のダメージを喰らったカドモスが少々ふらついていたのは間違いない。
手放した「白断」を拾い上げて、此方を睨むような眼差しで見ている一角のカドモスに再び「白断」を振るう。
銀色の角に弾かれる「白断」を休まずに振るい続けていき、徐々に間合いを詰めていくと、一角のカドモスは此方の腕を見て警戒を深めているようだ。
また殴られるのではないかと警戒しているカドモスは、明らかに此方の腕ばかりを見ている。
知能が高いからこそ学習し、次に備えているカドモスは、並みのモンスターとは違っていた。
しかし視線が腕に集中しているということは、他が疎かになっているということだ。
「白断」を持ったままカドモスとの距離を縮めた俺は、身体能力と脚力と蹴りの威力を倍にした状態で廻し蹴りを放つ。
「竜鱗鎧化」の装甲で覆われた足で放った廻し蹴りはカドモスに直撃し、2度目のダメージを与えていく。
感じた痛みに咆哮を上げているカドモスは憎々しげに此方を見た。
「白断」以外でもダメージを与える手段があると理解したカドモスは、此方の全身を警戒しているようで、些細な動きにも反応するようになる。
フェイントを織り混ぜながら攻撃を叩き込んでいく此方に怒り狂った一角のカドモスが、荒々しく暴れまわり始めた。
力と速度が亜種のウダイオスよりも高い一角のカドモス、そのカドモスが力任せに暴れるだけで凄まじい脅威となるだろう。
吹き荒れる暴風のようなカドモスの攻撃を避けていきながら、握った「白断」を振るっていく。
少しずつ斬り傷が増えていく一角のカドモスの身体。
止まることのないカドモスの荒々しい攻撃の数々。
凄まじい速度と威力を持つ一角のカドモスの攻撃がかする度に、砕けていく「竜鱗鎧化」で形成された装甲。
かするだけで身体の内部に響く痛みは、直撃すればただではすまないことを証明していた。
ドラゴンとは強力なモンスターであり、強竜と呼ばれるカドモスもまた強力なドラゴンである。
更にその亜種の一角のカドモスは、それ以上に強力なモンスターであることは間違いない。
銀色の角を振るうカドモスの一撃一撃が必殺の威力を持つ。
それら全てを紙一重で回避して、力強く踏みしめた足から伝わっていく力を、連動させるように腰、胴、肩、肘へと進ませて、最後に力が届いた腕。
その腕に掴んでいる「白断」に力と勢いを乗せて振り下ろす。
一角のカドモスの身体に深々と傷をつけた一撃。
カドモスの胴体に刻まれた深い裂傷から溢れていく血液。
深い傷を負ったとしても動きを止めることはない一角のカドモスは、更に荒々しく暴れまわる。
生命力の強いドラゴンというモンスターは多少の負傷では止まることはない。
振るう「白断」を絶えずカドモスの血で濡らしながら、斬撃を叩き込む。
素早く距離を取った一角のカドモスは全身に裂傷を刻まれていても力強く立っていた。
四肢に渾身の力を込めた一角のカドモスが再び行う突進は、これまで以上の速度がある。
直撃すれば、ただでは済まない。
俺は以前ダンジョンで手に入れてリトルフィートで小さくしていたオリハルコンの扉を取り出す。
「大きさよ、戻れ」
一角のカドモスが突進してくる進行方向に、大きさを戻して放り投げたオリハルコンの扉。
カドモスの銀色の角が容易くオリハルコンの扉を貫いたが、突進が止まった。
角に刺さったオリハルコンの扉を外そうとしているカドモスの隙を逃さず、刃筋を合わせた「白断」の一撃で一角のカドモスの首を斬り落とす。
倒した一角のカドモスから魔石を抜き取ると、カドモスの立派な銀色の角がドロップアイテムとして残っていた。
オリハルコンの扉に突き刺さったままだったので、銀色の角を引き抜いてから、オリハルコンの扉と銀色の角をリトルフィートで小さくして鞄にしまっておく。
それから再びカドモスの泉水を集める作業を繰り返して、持てるだけのカドモスの泉水を集めてから50階層まで移動。
50階層で再度空間転移を使って自室に戻ると、蔓延している病の特効薬を大量に作成した。
大量に配布していった特効薬により、病に侵された人々が少しずつ減っていき、それからも何度かダンジョンにカドモスの泉水を取りに行くことになったが、オラリオに蔓延した病を根絶することができたようだ。
忙しい日々を過ごすことになったが、蔓延していた病も無くなったので、オラリオの流通がストップするようなことはないだろう。
一仕事終えたところで神ミアハにステイタスの更新を頼んでみた。
Lv5
力:SS1092→SSS1580
耐久:SS1076→SSS1521
器用:SSS1357→SSS1694
敏捷:SS1089→SSS1576
魔力:SSS1340→SSS1750
ステイタスが凄まじく上昇していたのは深層での戦いと、51階層での一角のカドモスとの戦いが原因だろう。
神ミアハによれば、偉業も達成しているのでランクアップすることも可能であるらしい。
どうやら一角のカドモスとの戦いは偉業であったようだ。
全てがSSSに到達していて、充分なステイタスもあるのでランクアップしても問題はない。
発展アビリティは、剣士、頑強、格闘の3つであり、どれか1つを選ぶ必要がある。
とりあえず俺は、格闘を選ぶことにした。