椿がキャラ崩壊してるかもしれませんが、それでも良ければどうぞ
バロールが残したドロップアイテムであるバロールの単眼。
通常の生物の眼球とは違い、光線を発射するバロールの単眼は結晶のような物質となっている。
その強度は凄まじく高く、バロールの単眼は、オリハルコン以上の強度を持っていた。
しかし巨大な巨人であったバロールの単眼は、そこまで巨大なものではなかったので、防具として加工したとしても、籠手が2つ程度しか作れない。
そして、並みの鍛冶師では加工すらもできない強度を持つバロールの単眼を加工できる鍛冶師は、最上級の腕を持つ鍛冶師だけだろう。
俺の専属鍛冶師である椿なら、バロールの単眼を加工することが可能な筈だ。
ヘファイストス・ファミリア団長でもある椿の腕なら間違いはないだろうし、信頼もしている。
問題があるとすれば、椿の工房に向かった際の出会い頭に、椿に抱き締められそうになるであろう俺の心構えだろうか。
下は服を着ていても、上半身がサラシだけしか身につけていない褐色美人な女性の抱擁とか、刺激が強すぎるだろう。
もう少し椿には自分の魅力を理解してもらいたい。
それに、男は直ぐに勘違いするものなのだから、無防備な姿を女性があまり見せるものではないと言いたいところだな。
俺が勘違いしてそういうことをしようとしたら椿だって、きっと困ると思う。
そこらへんを椿にわかってもらう為には、直接会って話すしかないか。
バロールの単眼の加工を頼む為に、どのみち椿に会わなければいけないなら、いつまでも引き延ばしている訳にはいかない。
という訳で、オラリオを移動して向かった椿の工房の入り口。
扉を開けて工房の中を覗いてみると、俺が以前プレゼントした天然武器の黒い石刃を加工して作ったであろう黒い刀で試し斬りをしている真っ最中だった椿。
どうやら黒い刀は完成したばかりのようで、夢中になって刀を振るいながら試し斬りをしていた椿は此方に気付いていない。
いきなり抱き締められることは無さそうだと安堵したが、いつまでも椿の試し斬りを眺めていても仕方がないだろう。
「椿」
とりあえず名前を呼んでみると、此方を振り向いた椿は、眩い笑顔を見せてきた。
「おおっ、ゲドではないか。ちょうどお主に貰った天然武器で、手前の新しい武器が完成したところだ」
そう言いながら手に持っていた黒い刀を掲げて見せてくる椿。
見るからに鋭い刃を持つ黒い刀は間違いなく名刀だ。
「業物だな」
「うむ、お主に貰った素材が良かったのだろうな。良い刀ができたのは間違いないぞ」
嬉しそうに笑いながら満足気な椿は、鍛冶師として良い仕事ができたと思っているようだった。
俺が最初に武器を作ってもらった時と比べて間違いなく腕を上げている椿は、鍛冶師として先に進んでいる。
「その刀の名前は、決めてあるのか?」
「この刀の名は「黒曜」と決めてある」
椿が黒い石刃から作り上げた黒い刃を持つ刀の名は「黒曜」であるみたいだ。
まるで黒曜石のような黒い石刃から作られた刀には、確かに相応しい名前なのかもしれない。
「頼みたい仕事があるんだが、急ぎじゃないからゆっくり時間を使ってくれて構わないぞ」
「ほほう、手前に頼みたい仕事か。お主は、また何かしら手に入れたようだのう」
にやりと不敵な笑みを浮かべた椿は、完全に鍛冶師の顔になっていた。
そんな椿に渡す為に、リトルフィートで小さくしてから鞄に入れて持ってきていたバロールの単眼を取り出して、元の大きさに戻す。
「バロールのドロップアイテムであるバロールの単眼だ。これで籠手を作ってもらいたい。手以外を覆う形であれば形状は指定しないので、形は椿に任せるよ」
「むう、まさかバロールまで倒してしまうとは思っておらんかったぞ。だが、Lv6に至っておるお主であるなら不可能ではないか。この素材で籠手を作ればよいのだな、手前に任せておけ」
バロールの単眼を受け取って堂々と胸を張った椿は、加工を引き受けてくれた。
仕事の依頼は、これで終わりだが、俺から椿に言いたいことがあったので言っておくことにする。
「椿、以前椿が俺を抱き締めようとした件だが、椿は自分の女性として素晴らしい魅力というものをわかっていないからあんな行動に出たんだと思う」
「んんっ!?突然どうしたゲド!?」
此方を見ながら若干戸惑っている椿に言いたいことは沢山あった。
思い浮かんだことを今日は残さず椿に言っておくことにしよう。
「まず、椿は美人だ。綺麗な褐色の肌に美しい黒髪、容姿だって女神にも負けていない。とてもとても美しいと俺は思っている」
「ぬあっ!?」
何故か唸り声のような声を上げながら此方の言葉を聞いている椿は、褐色の肌を赤らめていた。
「性格だって悪くはない。快活でさっぱりした椿の性格は、見ていて気持ちがいいし、嫌いになるようなところはないだろう」
「ぬうっ!?」
やっぱり唸り声のような声を上げていた椿は、赤く染まった褐色の肌を静かに揺らして震えている。
「椿と一緒にいて嫌な気持ちになったことは無いし、いつも良い仕事をしてくれる椿は、頼れる大切な仲間だと思っているよ。そんな椿には、まだ言いたいことがあるから聞いてくれ」
「まだ続くのかっ!?」
全身が赤くなっている椿は普通に恥ずかしがっているみたいだが、此方は、まだ言いたいことは全て言えていない。
「美女と言っても間違いない椿が、下は服を着ているとしても上半身がサラシだけを巻いている状態なんて無防備な姿を見せるのは女性として自覚が足りていない。もっと自分の素晴らしい魅力を椿に自覚してもらわないと、此方は物凄く困る」
「むうっ!?」
褒められながら注意されているという状況に混乱している椿は、此方を見ながらモジモジしているようだ。
「基本的に男というものは馬鹿なので、思わせ振りな行動をされると好かれているんじゃないかと勘違いするから、明らかに薄着で男性を抱き締めようとするのは良くないと思うよ。もうちょっと女性として危機感を持った方がいい」
「手前は、お主なら大丈夫だと思ったのだが」
普通に心配されていることがわかった椿は、俺なら大丈夫だと思っていたらしい。
「椿だって、俺にいきなりこうやって抱き締められたらびっくりするだろう」
そう言いながら俺は椿のことを軽く抱き締めてみる。
俺の方が体格が良いので、椿は俺の腕の中にすっぽりと収まってしまっていた。
「にゅわっ!?」
まさか俺にいきなり抱き締められるとは思っていなかったのか、椿は凄まじく戸惑いながら驚いていたが嫌がってはいない。
「こうやっていきなり強引に抱き締められたら誰だってびっくりするんだから、そういうところも考えてくれると助かる」
腕の中に閉じ込めていた椿を解放してみると、石化でもしたかのようにしばらく固まっていた椿。
「それじゃ、バロールの単眼の加工は任せた」
無言でゆっくりと此方を見る椿に手を振って、俺は椿の工房から立ち去っていく。
最後に椿を抱き締めたのは、ちょっとやり過ぎだったのかもしれないが、いきなり抱き締められたら誰だってびっくりするということをこれで椿もわかった筈だ。
思っていたよりも椿の反応が可愛かったのは、やっぱり椿も女性ということなのだろう。
自分が女性ということを椿が少しは理解してくれたのなら、今回の俺の行動は無駄ではない。
まあ、元々誰彼構わず抱き締めるような椿ではないだろうが、これで此方を抱き締めようとするのを自重してくれるようになればいいんだがな。
実際どうなるかは、次に椿に会うまでわからないか。
椿に渡したバロールの単眼が、籠手になって防具として完成するまで、気長に待つとしよう。
それから数日間、ミアハ・ファミリアのホームで接客をしたり商品の配達をして、フレイヤ・ファミリアのホームで女神フレイヤやオッタルさんに料理を作ったりして日々を過ごした。
そしてついに、ミアハ・ファミリアのホームに現れた椿。
「バロールの単眼を使った籠手が完成したぞっ!」
いつも通りのように見える椿だが、白い籠手を此方に渡す際に、俺と椿の手が若干触れた瞬間、素早く手を引っ込めた椿は間違いなく此方を意識している。
まるで乙女のような反応をしていた椿は、確かに恥じらいを持っていた。
数日前に俺がした行動は、結構効果があったみたいだ。
「その籠手の名は「バロールガントレット」だ」
若干此方から距離を取りながら言った椿は、ちらちらと俺の顔を見て、頬を赤く染めているようである。
椿の反応が可愛らしいと思いながらも「バロールガントレット」を装備して腕を動かしてみたが、並みの金属製の籠手よりも軽い「バロールガントレット」は身体の動きを邪魔することはない。
オリハルコン以上の強度を持つバロールの単眼を加工して作られた籠手である「バロールガントレット」は、凄まじい強度を持っていながら重すぎないという素晴らしい防具だ。
手以外の前腕部上部を覆う、白い籠手は元がバロールの単眼だったとは思えない程に、滑らかな流線形の形をしていた。
椿の加工技術は、ヘファイストス・ファミリアに所属する鍛冶師の中でもトップクラスだということだろう。
「いつも良い作品を作ってくれてありがとう椿」
素直に椿に感謝の言葉を伝えておくと、胸を張った椿が言った。
「うむ、手前はお主の専属鍛冶師であるからな。渾身の作を毎回提供するのは当然だと思っておるぞ」
鍛冶師としての自信に溢れている椿が、素晴らしい腕を持つ鍛冶師であるのは間違いない。
「それじゃあ「バロールガントレット」の料金として5000万ヴァリスを渡しておくよ」
金庫から取り出した5000万ヴァリスを椿渡す際に、再び椿と俺の手が触れ合って、やっぱり素早く手を引っ込めた椿。
どうやらまだ椿は、乙女モードだったらしい。
「で、では手前は帰るぞ」
顔を真っ赤に染めながら5000万ヴァリスを抱えている椿がミアハ・ファミリアのホームを出ていこうとした。
「送っていくよ」
そう言って椿の隣に立った俺から少し距離を取った椿だが、嫌がってはいないようだ。
会話をしながら椿の工房まで送っていく道中、いつもと違う椿の姿を沢山見ることができた。
椿が慣れるまでは、ずっとこんな感じなのかもしれないな。
まあ、椿が女性としての自覚を持ってくれたのなら、それは悪いことではないと俺は思う。