51階層から更に下に降りた52階層で、現れたモンスターを相手に戦っていると禍々しい竜の遠吠えが聞こえた。
それは間違いなく地面の下から聞こえていて、52階層よりも下の階層に竜が居ることを教えてくれる。
不意に嫌な予感がして、倒したモンスターの死骸から魔石を抜き取ることなく素早くその場から離れると、ダンジョンの地面が爆砕。
地面を突き破り昇る轟炎が、モンスターの死骸を蒸発させていきながら天井にまで到達し、51階層を突き破っていく。
此方の位置を捕捉しているのか、疾走して移動する度に先程まで居た場所が爆砕していき、地面を突き破って天井へと突き抜けていく紅蓮の大火球。
これこそが、58階層の砲竜ヴァルガングドラゴンによる階層無視の砲撃。
ギルドの情報は正しかったが実際に体験してみると、階層無視の砲撃とは、とんでもないな。
砲竜によって放たれる大火球の砲撃を、立ち止まることなく進むことで回避していると、地面に開いた大穴から現れる飛竜の群れ達。
尾まで含めれば3mはある飛竜の群れ達は、イル・ワイヴァーン。
紫紺のイル・ワイヴァーンの群れが飛来する度に、手に握った「骨喰」を振るい両断して先へと進んでいると、現れたのは漆黒で大きいイル・ワイヴァーンが1体。
明らかな異常個体のイル・ワイヴァーンを警戒して、此方が「骨喰」を構えた瞬間、旋回して飛んでいた漆黒の飛竜の姿が消えたかと思えば、身体に叩き込まれた凄まじい衝撃。
周囲に広がる衝撃波と全身に走る痛みは、何らかの攻撃を受けたことによるもので間違いない。
謎の攻撃によって「ペルーダコート」の下に身に付けていた「黒樹」が完全に砕けて破片を飛ばし、俺の身体は吹き飛ばされて地を転がる。
ダメージがあろうと立ち上がって、立ち止まることなく駆けていき、砲撃を回避しながら先へと進んだ俺に着いてくる漆黒のイル・ワイヴァーン。
攻撃をしてきた相手が漆黒のイル・ワイヴァーンだと何となく理解していた俺は、どんな攻撃なのか見極めることにした。
「竜鱗鎧化」を発動して、全身を竜鱗のような装甲で覆った俺には並みの攻撃は通用しない。
再び姿を消した漆黒のイル・ワイヴァーンを完全に見失った時、とてつもない衝撃が全身に叩き込まれる。
凄まじい衝撃波、吹き飛ぶ身体、砕ける「竜鱗鎧化」の装甲、身体には痛みが走っていた。
たとえ相手が透明になっていても気配を感じ取ることは不可能ではない。
ならば透明化ではない筈だ。
漆黒のイル・ワイヴァーンが消えた瞬間、気付けば攻撃を受けていることと発生していた衝撃波から察するに、Lv6の俺でも反応できない速度での攻撃だと予想できた。
あの漆黒のイル・ワイヴァーンが見えなくなるのは、まともに視認できない速度で動いていたからだろう。
視認できない速度で動く相手、そんな相手に適したスキルを俺は発現している。
漆黒のイル・ワイヴァーンと戦う為に発動するスキルは「戦場の支配者」であり、その効果は、時が止まっているかのように思える程に反応速度を上昇させるというものだ。
発動した「戦場の支配者」のスキル。
周囲の全ての時が止まったかのように感じる程に上昇した反応速度。
全て停止しているように見える世界の中で、通常通りに動いていた漆黒のイル・ワイヴァーンが更に加速する。
背から火炎を放出し、ジェット噴射の如く加速する漆黒のイル・ワイヴァーンは、まるで戦闘機のようだ。
此方が「戦場の支配者」を発動していても、素早く動いているように見える漆黒のイル・ワイヴァーン。
下層最速のイグアスを遥かに凌駕する速度で迫り来る漆黒のイル・ワイヴァーンを相手に、構えた「骨喰」を振り下ろす。
頭部に迫った「骨喰」の黒い刃に身を捻り、空中で身体を横にした状態で、開いた口に生え揃った牙で刃に噛みつくことで漆黒のイル・ワイヴァーンは、此方の斬撃を受け止めた。
そして更に背から噴射する火炎を強めた漆黒のイル・ワイヴァーンは、噛みついた「骨喰」を離すことなく螺旋回転。
「骨喰」を手離すことなく握っていた此方の身体も回転することになり、宙に浮く。
回転しながら加速した漆黒のイル・ワイヴァーンの勢いは止まることはなく、此方は押される形でダンジョンの壁面に叩きつけられることになった。
壁面が蜘蛛の巣状にひび割れて、凄まじい衝撃が身体に叩き込まれたが、それでも「骨喰」は離さない。
壁面に押し付けられながら引き摺られて、ダンジョンの壁面を背で削ることになっても「骨喰」を離すことなく握り続ける。
それは「骨喰」による攻撃を、漆黒のイル・ワイヴァーンに叩き込む為だった。
「骨喰」を握ったまま「龍の手」を発動し、身体能力と腕力に「骨喰」の強度と斬れ味を倍加。
漆黒のイル・ワイヴァーンの牙で挟まれて止められている「骨喰」を少しずつ押し込んでいく。
徐々に進んでいく「骨喰」の刀身が漆黒のイル・ワイヴァーンの口端を裂き始めたところで、漆黒のイル・ワイヴァーンが「骨喰」に噛みついたまま、牙の隙間から連続で火炎を吐いた。
至近距離で続けざまに放たれた轟炎が身体を焼いたが、それでも力を緩めることはない。
進んでいった「骨喰」の刀身が、完全に漆黒のイル・ワイヴァーンの牙を抜けた頃、黒い刃が上顎と下顎を分割していき、漆黒のイル・ワイヴァーンの下顎より上の部位が斬れていった。
上顎ごと斬り落とした漆黒のイル・ワイヴァーンの頭部。
これでようやく倒したかと思ったところで、漆黒のイル・ワイヴァーンの頭部が再生し、瞬く間に元通りになる。
どうやら漆黒のイル・ワイヴァーンは、自己再生能力まで持っていたらしい。
この漆黒のイル・ワイヴァーンを倒すには魔石を破壊する必要がありそうだ。
背の鞄から取り出した2つの小さな瓶を元の大きさに戻し、瓶の中身のデュアルポーションとエナジーポーションを手早く飲む。
消費した体力と精神力に疲労感まで回復し、旋回している漆黒のイル・ワイヴァーンを見据え、常に携帯している雲菓子飴を口内に放り込んで糖分を補給した。
「戦場の支配者」の連続使用には糖分の補給が必要になるが、それは酷使された脳が糖分を欲しているからだろう。
口内で雲菓子飴を転がしながら「戦場の支配者」を発動しておくと、ちょうど旋回を止めた漆黒のイル・ワイヴァーン。
加速する漆黒のイル・ワイヴァーンの突撃によって巻き起こる凄絶な衝撃波。
先程よりも速いそれを喰らって吹き飛ぶ身体を空中で立て直し、ダンジョンの壁面を蹴って一直線に漆黒のイル・ワイヴァーンへと接近する。
狙うのは、胸部の魔石。
此方が「骨喰」で放つ刺突の一撃を、背から火炎を噴射して加速することで回避した漆黒のイル・ワイヴァーン。
反応速度も並み外れている漆黒のイル・ワイヴァーンに攻撃を当てることは難しいが、当てられない訳ではない。
「骨喰」の黒刃による斬撃を、漆黒のイル・ワイヴァーンに叩き込んでいく。
傷だらけになろうとも自己再生していく漆黒のイル・ワイヴァーンは、此方の斬撃に慣れたのか徐々に回避することが増えていた。
ギリギリで避けられて、漆黒のイル・ワイヴァーンに当たることがなくなってきた「骨喰」の斬撃。
漆黒のイル・ワイヴァーンと高速戦闘を繰り広げていると、此方を完全には捕捉できていない砲竜の砲撃が、先程までいた場所に遅れて上がってくる。
数体のヴァルガング・ドラゴンによる砲撃があろうと、身体能力を倍加して高速で動き、反応速度も上昇させている俺には当たることはない。
52階層を疾走し、壁面すらも足場にして駆け抜けて、漆黒のイル・ワイヴァーンに肉薄する。
既に倍加されている身体能力に加えて、瞬間的に攻撃速度を「龍の手」で倍加し、今までギリギリで攻撃を避けていた漆黒のイル・ワイヴァーンが反応できない速度で翼を斬り落とした。
飛べなくなって落下していく漆黒のイル・ワイヴァーンの胸部へ「骨喰」を突き刺して魔石を破壊すると、灰となった漆黒のイル・ワイヴァーンの身体。
灰の中に残っていたのは、重さは軽いが強度が高そうな黒い甲殻だけだった。
漆黒のイル・ワイヴァーンと戦ったことで結構疲れたので、今回のダンジョン探索は、この程度にしておこう。
ヴァルガングドラゴンの砲撃が放たれる前に、ドロップアイテムである黒い甲殻を掴んで走り出した俺は、52階層を逆走していく。
砲撃によって床に開いている大穴の数々を飛び越えて進み、51階層に逆戻りしてから、更に50階層まで立ち止まらずに戻った。
飲めない程に濃縮しているポーションを全身にぶちまけて、身体に残っていた火傷を手荒く癒す。
それから詠唱によって効果が変化するムードメーカーの空間転移を用いると、ダンジョンの50階層から一気にミアハ・ファミリアのホームにまで転移。
帰ってきた完全に安全な場所で深く深く息を吐く。
度重なる戦闘とスキルの多用により精神的に疲れきっていた俺は、装備を外して普段着に着替えると、ベッドに横になって眠った。
夢を見ることなく続いていた眠りから目覚めると3時間は眠っていたようだが、精神的な疲労感は完全に無くなっていたので問題はない。
これから何をしようかと考えたところで、52階層で手に入れたドロップアイテムの黒い甲殻を思い出した。
漆黒のイル・ワイヴァーンが残した黒い甲殻は、珍しいドロップアイテムであることは確かだ。
俺が手に入れた珍しいドロップアイテムを見せることを約束している女神ヘファイストスに、ドロップアイテムを見せにいくのも悪くはない。
という訳で、女神ヘファイストスの元に向かい、黒い甲殻を見せてみることにした。
「これは、竜の甲殻のようね」
一目見て、今回のドロップアイテムが、どんな素材であるか理解していた女神ヘファイストス。
瞬時に素材を見抜く眼力は、流石は神匠と言われる鍛冶神といったところだ。
「漆黒のイル・ワイヴァーンが残したドロップアイテムです」
「貴方は竜の壺まで到達して、生きて帰ってきたのね」
「こうして今ここに生きて立ってるので、そうなりますよ」
「色違いのイル・ワイヴァーンは強敵だったのかしら」
「速度が、とんでもなく速かったうえに自己再生能力まで持っていたんで、倒すのにはちょっと苦労しましたね」
「そうなのね。ちなみにこの黒い甲殻だけれど、まるで羽根のように軽くて、これだけ凄まじい強度がある甲殻というのは珍しいわ」
「確かに軽いのに強度が高いですよね、その甲殻」
「貴方は、これで椿に何を作ってもらうのかしら」
黒い甲殻に触れながら言った女神ヘファイストスは、此方をじっと見ていた。
「愛用していた軽装のアーマーが、漆黒のイル・ワイヴァーンとの戦いで完全に破壊されてしまったんで、椿には新しい軽装のアーマーを作ってもらおうかと思っています」
「この素材を使えば良いアーマーができそうね」
そう言って黒い甲殻に触れたまま笑っていた女神ヘファイストスが、珍しいドロップアイテムを見れたことで喜んでいたのは間違いない。
「それじゃあ、また珍しいドロップアイテムが手に入ったら見せに来ますね」
「楽しみにしておくわ」
女神ヘファイストスの元から移動して向かうのは、椿の工房ではなく、ミアハ・ファミリアのホームにある神ミアハの自室。
扉をノックして、部屋に神ミアハが居ることを確認してから中に入ると、俺は神ミアハにステイタスの更新を頼んだ。
「これは驚いたな。ランクアップできるようだぞ、ゲド」
俺の背の神聖文字を見て驚いていた神ミアハが、Lv7へのランクアップが可能であることを教えてくれた。
どうやら漆黒のイル・ワイヴァーンとの戦いが偉業となっていたみたいだ。
「とりあえず、上がっているステイタスを更新しておくぞ」
神ミアハの神血によって行われたステイタスの更新。
俺の背の神聖文字を確認してから紙にステイタスを書き写した神ミアハ。
「これが今のゲドのステイタスだ」
ステイタスが書き写しされた紙を差し出してきた神ミアハに感謝して、紙を受け取る。
Lv6
力:B743→SSS1541
耐久:B711→SSS1798
器用:S922→SSS1637
敏捷:A897→SSS1624
魔力:S965→SSS1763
紙に書かれていたステイタスは、そうなっていたが、今回は耐久も凄まじく上がっているようだ。
現在のステイタスの確認を終えた俺は、ランクアップによって発現する発展アビリティがあるかどうかを聞いてみることにした。
Lv7で発現する発展アビリティは、剣士、頑強、敵感知の3つであるらしい。
とりあえずこの中では敵感知が気になったので、俺は敵感知を選ぶことにした。
敵感知
出典、この素晴らしい世界に祝福を、主人公のカズマ
敵感知は盗賊スキルの一つであり、近くにいる敵の気配を感知し数も把握することが出来る
相手を敵だと考えていれば、モンスターだけでなく人間も感知可能