今回はかなり短めになります
1つ上の階層で待つヘルメス・ファミリアの団員達を束ねる立場であるアスフィ・アンドロメダは、深層で階層主と戦う椿・コルブランドを見守っていた。
37階層の階層主であるウダイオスを相手に、アスフィの手を借りることなく単独で戦う椿の身体は既に傷だらけだ。
Lv6に相当する格上の相手に、その手に握った黒い刃を振るう椿は、止まらずに動き続ける。
先程まで椿が居た場所に、地面から伸び上がる槍のように突き出してくる漆黒の柱達。
それら全てを紙一重で回避して前に出た椿は、ウダイオスに斬撃を叩き込んだ。
一撃一撃に渾身の力を込めて、振るわれる黒い太刀は、遂にウダイオスの片腕を斬り落とす。
追撃を行うよりも速く、地から連続で突き出てきた黒い柱。
それによって後方に追いやられた椿を、追尾するかのように突き出し続ける黒柱が止まらない。
地面から放たれる無尽蔵の逆杭が椿の動きを阻害している内に、ウダイオスの眼前に現れた巨大な黒柱は、1本の黒剣と化す。
指骨に握られて、振りかぶられた黒大剣が超速度で薙ぎ払われ、放たれる衝撃波が範囲外に避けていた筈の椿すらも吹き飛ばした。
凄まじい勢いでダンジョン内の壁面に叩きつけられた椿の身体。
痛む身体を動かして、立ち上がる椿の闘志には陰りがない。
今の自分では足りないと、殻を破る為に望んだ戦いから椿は退くことはなく。
太刀を握る手に力を込めて、駆ける足は止まらずに、敵を見据える椿の隻眼は力強さを増した。
「試し斬りだ。手前の太刀と、お主の剣。どちらが上か試してやろう」
不敵に笑い、太刀を構えた椿は前進し、ウダイオスの黒大剣と刃を交える。
幾度も響き渡る金属音。
数え切れない程に打ち合った太刀と黒大剣の刃。
互いに得物を振るう手を止めることはなく、続いていた打ち合い。
絶え間無い攻防に刃こぼれを始めた黒大剣とは違って、椿の太刀には傷1つなく、どちらの武器が優れているのかは一目瞭然だった。
上段に構えた太刀を振り下ろした椿の一撃が、遂に黒大剣を半ばから両断。
「どうやらお主の剣よりも、手前の太刀の方が上であったようだな」
黒大剣という武器が破壊されたウダイオスに接近した椿は、縦横無尽に太刀を振るい、ウダイオスを斬り裂き続ける。
魔石すらも斬られたウダイオスの身体が灰と化し、半ばから断たれた黒大剣だけが残った。
「うむ、手前の勝ちだな」
頷いて笑みを浮かべ、そう言った椿が笑顔のまま倒れたが、酷使した身体に限界が来ていたらしい。
慌てた様子でアスフィが近寄り、数本のハイポーションの中身をぶちまけるように、椿にかけていく。
ハイポーションで椿の傷は塞がったが、疲れまでは取れなかったようで、眠ってしまった椿。
「仕方ないですね。しばらく寝かせてあげましょう」
半ばから断たれた黒大剣の上半分と下半分を縄で一纏めにしたアスフィは、縄で縛った黒大剣を片手に持ちながら器用に椿を背負って運び始める。
37階層での戦いは終わり、Lv5でウダイオスの単独討伐という偉業を達成した椿は、アスフィの背で眠ったまま笑った。
ヘファイストス・ファミリア団長、鍛冶師である椿・コルブランド。
彼女は今日、冒険者として冒険をした。
新たなスキルを使いこなす為、空間転移でダンジョン50階層に移動してから51階層に行き、深層のモンスター相手に「雷霆招来」のスキルを用いて戦ってみる。
球体状に圧縮された雷を手から放つと、モンスターに着弾した瞬間に半球状に広がって周囲のモンスターすらも巻き込む雷。
凄まじい威力がある雷が直撃したモンスター達は、残らず灰と化す。
魔力に応じて雷の威力が上昇する効果により、深層のモンスターであろうと一撃で倒すことが可能だった雷の威力は高い。
攻撃用の魔法を持たない俺にとって、魔法のように雷を放つことができる「雷霆招来」のスキルは、とても役立つスキルだ。
雷の威力が高過ぎてモンスターの魔石まで破壊してしまうみたいだが、魔石が必要な時は普通に戦えば問題ないな。
とりあえず今は「雷霆招来」のスキルを使いこなす為に、51階層でひたすら戦うとしよう。
「雷霆招来」で放った雷で凄まじい数のモンスターを灰にしていった俺は、スキル「龍の手」を用いて、放つ雷の数や威力を倍にしてみたりもした。
スキルの併用は精神力の消費が通常よりも激しくなるが、2つに増えて威力すらも倍になった雷は、かなり強力である。
数と威力が倍加された雷が直撃すると瞬く間に灰と化していくモンスターの身体。
残されるのはモンスターのドロップアイテムだけとなるが、雷の威力が高過ぎた結果、ドロップアイテムは黒焦げになってしまっていることが多い。
並みのモンスターでは耐えることすらできない雷を放つことが可能な「雷霆招来」のスキルは、まさしく必殺技と言えるものだろう。
そんなスキルを幾度も使用していると、少しずつ「雷霆招来」のスキルを使いこなすことができるようになってきた。
スキルで放つ雷で80体以上のモンスターを倒した俺は、黒焦げになっていないドロップアイテムだけを回収しておき、50階層にまで戻ると自室にまで空間転移で移動する。
それからギルドまで普通に徒歩で向かい、深層のモンスターのドロップアイテムを換金。
50階層より下の深層で手に入れたドロップアイテムだった為、換金するとかなりのヴァリスになった。
ある程度纏まった稼ぎが手に入ったので、椿に新たな装備の作成を頼んでみるのも悪くはない。
そう考えて椿の工房に向かってみたが、まだ椿は帰ってきていないようだ。
試し斬りにしては随分と長いような気がするが、椿は何を斬りにダンジョンに向かったんだろうな。
そんなことを考えていると、ボロボロになった服を着ている椿を背負ったアスフィさんが、椿の工房に近付いてくる姿が見えた。
服がボロボロになった椿を背負うアスフィさんが片手に持っているのは、半ばから断たれたウダイオスの黒剣。
上半分と下半分を縄で縛られて一纏めにされているウダイオスの黒剣は、持ちやすいように縄で持ち手まで付けられているみたいだ。
普通に寝ている椿を背負い、ウダイオスの黒剣という荷物を持って運んでいるアスフィさんは、完全に疲れきった顔をしているな。
「大丈夫ですかアスフィさん」
「ああ、ゲドくん。この鍛冶馬鹿を運ぶのを手伝ってくれると助かります」
とりあえず疲れきっているアスフィさんを手伝うことにして、アスフィさんが背負っていた椿を代わりに運ぶことにした俺は、眠ったままの椿を背負って運んだ。
椿を工房に運んで、仮眠用の寝具に寝かせた後、疲れていたアスフィさんにエナジーポーションを渡しておく。
素早くエナジーポーションを飲んで元気になったアスフィさんが「忙しいので今日は、これで失礼しますね」と立ち去っていったところで、俺も今日はホームに帰ることにした。
数日後、椿がLv6になったという知らせがギルドによって広まったが、どうやら椿はウダイオスを単独で討伐してランクアップしたらしい。