本日2回目の更新です
新たな武器である黒剣「黒風」を手にダンジョンへと潜り、モンスターと戦う中で、少しずつ黒剣を手に馴染ませていく。
到着した深層のコロシアムで無限に現れるモンスターを相手に黒剣を振るい、戦っていると完全に手に馴染んできた黒剣。
今日はこの程度にしておこうかと考えていると、コロシアムへと飛び込んできたのは、白い騎士のような姿をした怪物。
真っ直ぐ此方へと突撃してくる白騎士の目当ては俺であるようだ。
手に持つ白剣で、襲いかかるモンスター達を斬り捨てながら此方へと迫り来る白騎士。
此方の真正面に立った白騎士が、そのまま白剣で斬りかかってくるかと思えば、白剣の剣先を地に刺して柄頭に手を乗せた白騎士から感じられた知性。
まるで本当に騎士であるかのような高潔さすらも感じた俺の前で、白騎士は口を開く。
「貴方の名を聞かせてもらいましょう」
怪物が人間の言葉を喋るという異常事態に困惑は間違いなくあったが、それでも名を聞かれたのなら、俺は名乗っておくことにした。
「ゲド・ライッシュ」
「ゲドですね。覚えました。私の名はアルビオン。かつて貴方と戦った黒いヴィーヴル、その記憶を宿して私は生まれ変わりました」
どうやらアルビオンは以前戦った黒騎士ヴィーヴルが生まれ変わった存在であるらしい。
「燃えるような瞳の輝きを持つ貴方と戦い、かつての私は敗れました。その時、私は貴方と再び戦いたいと思ったのです」
「なるほど、きみが俺に望むのは」
「ええ、ゲド。どうか、再戦を」
間違いなく以前よりも強くなっている白騎士、剣の竜女アルビオンが望む再戦。
それを受ける義理も義務もないが、戦いを望んできた相手との戦いは、これまで俺は断ったことはなかった。
「わかった。来い、アルビオン」
「行きますよ、ゲド!」
振るわれた黒剣と白剣が打ち合わされた瞬間に嵐のような風と、凄まじい衝撃波が周囲に広がり、コロシアムのモンスター達が此方に近付くことが出来なくなる。
剣を合わせた瞬間に感じた確かなことは、剣の竜女はまだ本気ではないということであり、全く油断できない相手であるのは間違いない。
剣を打ち合わせる度に力強くなっていく剣の竜女の斬撃。
Lv9の冒険者と対等以上に剣を交じ合わせる剣の竜女は凄まじい怪物ではあるが、知性も理性もあるアルビオンは、ただの怪物だと割り切れる存在でも無さそうだ。
大幅に更新されたステイタスによる身体のズレが、剣の竜女と斬り合っている内に改善されていき、本調子を取り戻した此方の身体の動きが鋭くなる。
「ふむ、ゲドの身体のズレは完全に改善されたようですね」
「待たせてしまったかな」
「最も強い貴方を倒さなければ意味がないので、これからが本番でしょう」
白剣を構えた剣の竜女が紫に輝いた瞬間に消えた姿。
正確には、Lv9でも視認出来ない速度で動いていた剣の竜女は、魔力放出によって加速した勢いを乗せた斬撃を繰り出す。
反応速度を上昇させる「戦場の支配者」のスキルを瞬時に用いて、超高速で斬撃を放つ剣の竜女の動きに反応した俺は、薙ぎ払うように振るわれた白剣を黒剣で受けた。
凄まじい威力と衝撃に身体ごと吹き飛ばされた此方へと、振り下ろされる白剣。
黒剣を間に挟み、斬撃を受ける此方へと連続で繰り出される白剣による剣撃。
致命の一撃となるものだけは確実に避けたが、斬り裂かれた身体は血で染まっていく。
瞬発的に噴射された魔力により、格段に運動能力を高めた剣の竜女アルビオンの斬撃は鋭い。
剣の技量は此方が上だが、瞬間的な一撃の速度と威力は剣の竜女が上だった。
白い剣の竜女は、そう簡単に倒せる相手ではないが、そうでなければ偉業にはならないだろう。
これがLv9を超える為の最後の壁であるなら、俺はそれを超えるだけだ。
白剣で絶え間無く身体に刻まれた裂傷を、スキル「秘伝の治癒」で塞ぎながら振るう黒剣。
白剣と黒剣が交差する度に生まれる暴風と衝撃波は、コロシアムの他のモンスター達を寄せ付けない。
白と黒の剣が打ち合うごとに激しい金属音が鳴り響く。
一挙一動が魔力によるジェット噴流を帯びているのも同然な、剣の竜女の激しい攻撃。
それら全てを受けた黒剣を握る手に、更なる力を込めて斬撃の嵐に対抗する。
荒れ狂う風の如き、怒濤の攻めを黒剣で受けて防ぎ、紙一重で避け、攻めに転じて繰り出す斬閃。
白剣の防御を潜り抜けて、騎士の鎧に似た白い甲殻を浅く斬り裂いた黒剣の一撃。
今度は踏み込んで黒剣を振るい、渾身の斬撃を放つと、白剣に防がれて鍔ぜり合いの状態となった。
鍔ぜり合いを行いながら魔力放出を行う、剣の竜女の白剣を黒剣で受け流す。
幾度も見た直線的な魔力放出の動きを完全に見切り、受け流した剣の竜女を地に叩きつけた瞬間に、脚力を「龍の手」で倍加した俺は素早く間合いを詰めて、黒剣を振り下ろした。
剣の竜女アルビオンを深々と斬り裂いた黒剣により、傷から溢れた血が白い甲殻を赤く染めていく。
致命に近い一撃を受けても立ち上がった剣の竜女は、まだ戦うつもりであるようだ。
白剣を構え、紫に輝いた剣の竜女は魔力を凝縮してから放出し、これまで以上の速度で此方へと迫る。
剣の竜女の最高速で、放たれた白剣の一撃は真正面からの振り下ろしであり、此方に避ける間はない。
最高の速度に最強の威力が込められた一撃は受け流すのも難しそうだ。
それでも、一瞬でも言葉を発する時間があれば使える手はあった。
黒剣で斬撃を受けて、一瞬だけでも白剣を止めた瞬間に、剣の竜女に片手を向けた俺が唱えるのは速攻窃盗魔法。
「スティール」
速攻窃盗魔法により、剣の竜女の白剣は俺の手に収まり、得物を奪われた無防備な剣の竜女へと俺は、黒剣と白剣を用いた十文字斬りを叩き込んだ。
剣士としてなら使わないような手段でも冒険者なら使うと理解していなかったのが、剣の竜女アルビオンの敗因だろう。
致命的な攻撃を受けて、倒れ込んだ剣の竜女は血を吐きながら口を開いた。
「まさかあんな手があるとは、思ってもいませんでした」
「油断したな、俺は剣士じゃなくて冒険者だ。使えるものは何でも使うさ」
「そうでしたね、貴方なら何をしてもおかしくはない。それを忘れた私が負けたのも当然のことだったのでしょう」
「これで俺の2勝だな」
「勝ち越されてしまいましたか。悔しいですが再び戦うにはこの身体は傷つき過ぎました。もう助かることはないでしょう。魔石を抜き取って、トドメを刺してください。勝者の貴方にはその権利がある」
「やなこった。勝者に敗者を殺す権利があるなら、生かす権利だってあるだろう」
「既に私は死ぬ運命です。助かりませんよ」
「それならその運命とやらを変えてやるだけだ」
そう決めた俺は魔法の詠唱を始めていく。
「心理之王、御調子者、調子者」
唱えるのは後半の詠唱によって効果が変わる詠唱変化魔法。
「道化の星よ、運命を変える奇跡をここに」
そして今回使う効果は、運命を改変する効果だ。
「ムードメーカー」
俺が唱えた魔法により死の運命が消え去った剣の竜女の致命傷は消えて、身体には浅い傷だけが残っている。
「貴方は何故、モンスターである私を助けたんですか?」
不思議そうに俺に聞いてきた剣の竜女は、命を助けた理由を知りたいらしい。
「冒険者としてはモンスターは殺すべきだが、俺個人としては生きていてほしいと思ったからだな。それに俺が本調子になるまで待ってくれた借りを返したかったんでね」
近寄ってきたコロシアムのモンスターを倒しながら剣の竜女の疑問に答えておき、白剣を剣の竜女に手渡す。
「そんな理由ですか」
「まあ、そんな理由だな。それにきみは俺以外の冒険者を狙うつもりはないだろ?」
「確かに私は貴方以外の冒険者に用はありませんが」
「ならいいさ、きみが更に強くなったら、また戦おう。張り合いのある相手がちょうど欲しかったところだ」
黒剣を振るう俺の隣で白剣を使い、モンスターと戦う剣の竜女は宣言する。
「今度は負けませんよ。次は私が勝ちます」
「次も俺が勝つさ」
笑みを浮かべて、そう言う俺に剣の竜女も笑った。