鍜冶師としての仕事を全て終わらせた椿と再びパーティを組んだ俺は、ダンジョンの中層の攻略を行っていった。
18階層の安全地帯で休憩している際に、リトルフィートで小さくしていたサンドイッチと水筒を元の大きさに戻してから椿にも渡しておき、一緒に安全地帯で食事をしていく。
「ゲドのその魔法は、相変わらず便利だの」
座り込んでサンドイッチをかじりながら言ってきた椿は、安全地帯ということもあり、リラックスしているようだった。
それでも武器は必ず手の届くところに置いている椿は、油断はしていない。
「だいたい何でも小さくできるからな。確かにこの魔法は便利だ。小さくすれば荷物を簡単に軽量化できて、ダンジョン探索に必要な品をしっかりと持っていくことができる。それにモンスターを小さくすれば弱体化させることすらも可能だ」
水筒を片手にサンドイッチを食べながら、俺は自分の魔法が便利である点を幾つか言う。
随分と魔法も使い慣れてきたのでマインドポーションをそれほど飲まなくてもマインドダウンになることなく、リトルフィートの魔法を連続で使えるようになってきていた。
「ダンジョン探索を続けていけば増えていくであろう魔石やドロップアイテムを小さくすることも可能なのは、他の冒険者に羨ましいと思われるかもしれんな。数が増えれば荷物になるのは変わらん」
サンドイッチを食べ終えて、俺が鞄にリトルフィートで小さくして入れておいた魔石やドロップアイテムを掌の上で転がしながら言った椿。
小さくなった魔石やドロップアイテムを見慣れない物を見るかのように見ている椿は、まじまじと小さくなっている魔石やドロップアイテムを見て、玩具を与えられた子どものような顔をしていた。
「俺がモンスターを倒すと毎回ドロップアイテムも手に入るんで、そうやって小さくしておかないと大きめの鞄でも直ぐに入らなくなるだろうな」
小さくなった魔石やドロップアイテムを興味津々に見ていた椿の手から魔石とドロップアイテムを回収しておき、鞄にしまっておく。
それから椿と一緒に出発する準備を整えて、18階層よりも下に向かうことにした。
上層とは比べ物にならないモンスターが現れる中層で戦いながら椿と一緒にダンジョンを突き進んでいき、19階層を越えて更に下の階層へと到着する。
現れたバグベアーの群れを相手に俺は「一角」を最適な動きで連続で振るい、毛皮に覆われたバグベアーの首を容易く斬り落としていった。
中層のモンスターが相手なら、まるで豆腐でも斬るかのように斬り裂ける「一角」が、素晴らしい剣であることは間違いない。
魔石とドロップアイテムを回収しておき、リトルフィートで小さくしてから鞄にしまうと、俺はマインドダウンをしないようにマインドポーションを飲んだ。
それからもモンスターと戦いながら先へと進む階段を探す。
下の階層に続く階段を発見したので、先に進むかどうか椿と話し合ってみた。
俺も椿も、かなり余裕を残したまま戦えているので、更に下の階層に下りても大丈夫だという判断を互いにしていた俺と椿は、更に下に向かう。
何度か階段で階層を下りていくと22階層を越えた先に進んでいた俺と椿。
問題なく中層のモンスターと戦えている俺は、普通の中層のモンスターが相手ではランクアップすることが出来ないことは確かだ。
ランクアップする為には強力なモンスターと戦う必要があるんだろうが、そう簡単に出会えるかはわからないな。
俺がそんなことを考えながら24階層に続く階段を下りていると、椿から話しかけてきた。
「そういえば一緒に食べたあのサンドイッチは美味かったが、何処の店で買ったのだゲド」
「あのサンドイッチは俺が作ったやつだが」
「なんと!ゲドは料理まで出来るのか!手前よりも間違いなく料理が上手いな!」
「椿は料理は、しないのか?」
「料理を作る暇があるなら、手前は鍜冶をやっているだろうな」
「ああ、それは何か想像通りだ」
「作れん訳ではないのだぞ。それでも手前は、料理よりも鍜冶仕事を優先したいのだ」
「まあ、やりたいことをやるのは悪いことじゃないな」
「うむ、そうであろう。手前は鍜冶師として更に腕を上げたいと思っているのでな。いずれは主神様すらも超える鍜冶師となることが手前の目標だ」
「さて、そろそろ次の階層だ。準備は良いか椿」
「ああ、行くぞゲド。次は24階層だ」
階層を下りていく最中に行っていた椿との会話を終わらせて、到着した中層の24階層。
怪物の宴で現れた大量のモンスター達を相手にしていても、俺と椿は息を切らすことはない。
エナジーポーションを作っておいて良かったことの1つは、ダンジョンの探索で感じた身体の疲労を回復することが可能になったことだろう。
「ここまで来たなら、宝石樹から宝石の実を収穫してみんかゲド」
全てのモンスターを斬り伏せて、魔石とドロップアイテムの回収をしていると椿が言い出した。
「宝財の番人のグリーンドラゴンが居る筈だな」
24階層最強のモンスターであるグリーンドラゴンが宝石樹を守っていると、ギルドの担当アドバイザーの人が言っていたことを俺は覚えている。
教えられた情報が正確なら、宝石樹の番人であるグリーンドラゴンは、Lv2の冒険者でも1人では倒せない程に強いらしい。
「手前が倒すので問題はないぞ」
Lv2の冒険者では1人で倒せないグリーンドラゴンでもLv5の椿にとっては、容易く倒せる相手なのは確かだ。
椿ならグリーンドラゴンを簡単に倒せることは間違いないが、任せきりというのは良くないだろう。
「椿に任せれば安全なのは確実だと思うが、グリーンドラゴンの相手は、俺にやらせてくれないか」
Lv2でも1人では倒せないというグリーンドラゴンに興味があった俺は、椿に提案してみた。
「確かにゲドなら問題ないかもしれんが、危険だと判断したら手前は割り込むぞ」
そう言ってくれた椿は、パーティを組んだ仲間である俺のことを心配してくれているようだ。
「割り込まれないように頑張らせてもらうさ」
会話しながらも手を動かして回収を続けていき、魔石とドロップアイテムを鞄にしまった俺と椿。
椿の案内する方向に移動して、到着した宝石樹がある場所。
宝石樹の前には、まさしく番人のようにドラゴンの姿がある。
グリーンドラゴンと言うからには体色は緑かと思っていたら、身体の色は黒いドラゴンだった。
椿は明らかに黒いドラゴンを警戒しており「気をつけろゲド、あのグリーンドラゴンは普通の個体ではないぞ。通常の個体と色が違っておる」と言い出す。
どうやら黒い色をしているグリーンドラゴンは普通ではなかったらしい。
グリーンじゃないグリーンドラゴンという冗談のような存在ではあるが、確実に強化種のインファントドラゴンよりも強いドラゴンだと、戦わなくても理解できた。
龍の手というスキルも発現している俺は、ドラゴンと縁があるのかもしれないな。
俺が黒いグリーンドラゴンの前に向かっていくと、此方を見た黒いグリーンドラゴンは大音量で咆哮をする。
敵を見つけたモンスターが行うことは1つであり、それは黒いグリーンドラゴンであろうと変わることはない。
襲いかかってきた黒いグリーンドラゴンが身の丈の割りには俊敏に動き、飛びかかりながら前足の爪で此方を切り裂こうとしてくる。
後方に跳躍して、横に振り抜かれた爪を回避した俺は「一角」を振るおうとしたが、黒いグリーンドラゴンが続けて行ってきた攻撃により「一角」を振るうことは出来なかった。
爪を横に振り抜いた勢いを止めずに凄まじい速さで、その場で1回転しながら尻尾による攻撃を行ってきた黒いグリーンドラゴン。
素早く地面に伏せ、振るわれた尾による攻撃を避けた俺の頭上を、空気をなぎ払う尾が凄まじい速さで通過していく。
当たれば痛いでは済みそうにない黒いグリーンドラゴンの攻撃に、当たってやるつもりはない。
伏せた状態から両腕の力で跳ね上がり、立ち上がった俺に黒いグリーンドラゴンが再び身体を横に回転させる。
「龍の手」のスキルにより2倍になった身体能力に加えて、更に跳躍力も2倍にし、高く跳んだ。
横に回転しながら行う黒いグリーンドラゴンの爪と尾による攻撃を跳躍して回避した俺は、黒いグリーンドラゴンの頭上で構えた「一角」を振り下ろす。
堅く強靭な黒いグリーンドラゴンの鱗に覆われた頭部は「一角」による攻撃を奥まで通さなかった。
刃筋をしっかりと合わせていても刃が浅くしか通らないのは、皮膚と鱗に肉と骨の強度が段違いであるからだろう。
この黒いグリーンドラゴンが中層レベルのモンスターではないことが、実際に斬ってみるとよく理解できた。
浅くでも斬られたことに怒ったのか黒いグリーンドラゴンの攻撃が更に苛烈になっていく。
攻撃が俺に当たらず空振る度に、更に強く、更に速く、向上していくグリーンドラゴンの攻撃。
負けじと此方も「一角」を振るっていき、黒いグリーンドラゴンの身体に傷をつける。
無傷の俺と、傷だらけの黒いグリーンドラゴンだったが、互いに有効打となる攻撃は1度も受けていないことは確かだ。
血が出ているとしても黒いグリーンドラゴンにとって致命傷となる傷は1つもない。
全く動きが衰えることのない黒いグリーンドラゴンは体力も優れているようだ。
まるで暴風雨のような黒いグリーンドラゴンの攻撃の数々を回避していきながら、俺は怯むことなく接近していく。
黒いグリーンドラゴンに致命の一撃を与える為に、狙う箇所は既に決めていた。
片手ではなく両手で持ち、しっかりと構えた「一角」で瞬時に突きを放つ為の体勢になると、力強く地面を踏み込みながら渾身の力を込めた突きを放つ。
身体能力を、腕の力を、踏み込みの力を、長剣である「一角」の斬れ味を、そして突きの威力を倍加した一撃は、黒いグリーンドラゴンの目を貫き、確実に脳にまで到達した。
遂に倒れた黒いグリーンドラゴンは、もう起き上がることはない。
倒した黒いグリーンドラゴンからは魔石とドロップアイテムである甲殻が残る。
「このドロップアイテムは手前に預けてくれんか、この甲殻でゲドの防具を手前が作ろう」
「椿が作るなら良い防具になりそうだから、是非とも頼みたいところだな。このドロップアイテムは椿が好きにしてくれ」
黒い甲殻を椿に渡しておき、宝石樹の実も回収して、ダンジョンから戻ることにした俺は、椿と一緒に階層を上がり、地上まで戻っていった。
エナジーポーションのおかげで寝ずに移動を続けても、全く疲れていない俺と椿。
ギルドで魔石と宝石の実を換金して、多目に俺がヴァリスを貰ってから、俺と椿はそれぞれのホームへと帰っていく。
到着したミアハ・ファミリアで早速ステイタスの更新をしてもらったが、やはりランクアップが出来るようになっていたらしい。
黒いグリーンドラゴンとの戦いは偉業であったようだ。