ゴライアスの硬皮を防具にしてもらう為に椿の工房に向かうと、椿は黒いグリーンドラゴンが残したドロップアイテムである黒い甲殻を軽装なアーマーに加工している真っ最中だった。
既に大体の形は完成しているアーマーは黒い甲殻を元に作られていたからか、黒色のアーマーとなっている。
集中して鍜冶仕事をしていても周囲の変化には気付ける椿は、此方を見てアーマーを加工していた手を一旦止めた。
「ゲドか、防具はもう少しで完成といったところだが、手前に何か用か?」
加工作業の手を止めて聞いてきた椿は、鎚を片手に汗を拭う。
窓を開けていても熱気がある中で作業をしていた椿は大量の汗をかいていたようだ。
疲れているかもしれない椿の仕事を増やすようで申し訳ないが、せっかく手に入ったゴライアスの硬皮は良い防具になると評判なので是非とも椿には防具を作ってもらいたい。
「ゴライアスの硬皮が手に入ったんでな。椿に防具にしてもらおうかと思って持ってきた」
そう言ってから俺は、リトルフィートで小さくしていたゴライアスの硬皮を鞄から取り出して、元に戻すと椿に手渡しておく。
「うむ、この硬皮はかなり質が良いな、今度はゴライアスを倒したのかゲドは」
ゴライアスの硬皮の表面を触りながら言った椿は、俺がゴライアスを倒したと確信していた。
「俺がゴライアスを倒したことは内緒にしておいてくれ」
言いふらすようなことは椿ならしないとは思うが、一応椿にも口止めをしておくことにする。
「確かにLv3に最速でランクアップした後に、ゴライアスまで倒したとなると、悪目立ちするかもしれんな、手前も黙っておくとしよう」
納得したように頷いていた椿なら俺がゴライアスを倒したことを吹聴するようなことはない筈だ。
「忙しいかもしれないが、ゴライアスの硬皮を使った防具を頼めるか椿」
手に入れたドロップアイテムであるゴライアスの硬皮での防具作成は信頼できる職人である椿に任せたい仕事だった。
「うむ、手前に任せておけゲド、このアーマーが完成してからになるが、それは構わんな」
突然工房に押しかけて新しい仕事を頼んだとしても、快く了承してくれた椿。
「ああ、急いでいる訳じゃないから大丈夫だ」
椿を急かすことなく集中して職人の仕事に取り組んでもらえるように時間には余裕があることを伝えておく。
用件を済ませて椿の工房から立ち去ろうとした俺に向かって椿は言った。
「手前が作る渾身の一作は、少々高いぞ」
ニヤリと笑う椿に対して俺も言葉を返す。
「それじゃあダンジョンで稼いでおかないとな」
俺の言葉を聞いて更に笑みを深めた椿に背を向けて、椿の工房から外に出た俺は、ダンジョンに向かっていった。
ソロで中層に行き、モンスターを倒して魔石とドロップアイテムを回収していく。
「龍の手」や「竜鱗鎧化」のスキルを使用しなくとも中層のモンスターを容易く倒すことが可能になっていたのは、ランクアップしてLv3になったからだろう。
ソロでなければ更に下の階層に行くことができるレベルになっていることは確かだ。
しばらく加工の作業に入っているであろう椿と再びパーティを組むことが出来るようになるには、時間がかかりそうだった。
1人でダンジョンを探索し、中層での活動をしばらく続けていると見慣れないモンスターと遭遇することになる。
上半身は女性であり背中に翼が生えていて、下半身は蛇のようになっているモンスターは、間違いなくヴィーヴルという竜女のモンスターだ。
襲いかかってくるヴィーヴルは、両手の鋭い爪で此方を引っ掻こうとしてきた。
ヴィーヴルの攻撃を避け、力強く地を蹴って踏み込んで「一角」を振るい、ヴィーヴルの首を斬り落としておく。
ヴィーヴルの魔石以外にも当然のようにドロップアイテムがあり、それがヴィーヴルの涙と呼ばれる紅石であることは間違いない。
幸運の石とも言われるヴィーヴルの涙は、相当な高値で取引されるらしいが実際にどの程度のヴァリスになるかは、換金してみないとわからないだろう。
という訳で足早にダンジョンを後にした俺はギルドへと向かった。
魔石とドロップアイテムを換金してもらった後に、ヴィーヴルの涙を見せてみるとギルドの換金担当者が「直ぐに上司を呼んできますから待っていてください!」と言い残してギルド内に向かって全力疾走していく。
その後、ギルドの上の人が現れてヴィーヴルの涙を確認すると「ギルドのヴァリスだけでは換金できませんので、オークションに出してみるのはどうでしょうか」と提案してきた。
少々大事になってしまったが、まとまったヴァリスが手に入るなら問題はないので了承しておくと、喜んでいたギルドの上の人。
ギルドにヴィーヴルの涙を預けてからホームに戻って、神ミアハとナァーザにヴィーヴルの涙を手に入れたことを伝えてみると物凄く驚いていた。
何故かナァーザは笑顔で俺のことを拝んできたが、その理由を聞いてみると「ご利益がありそうだから」と答える。
それを聞いていた神ミアハまでもが「うむ、確かに」と言うと俺のことを拝んできた。
まるで福をもたらす神のように拝まれていた俺は「とりあえず拝むのは止めてくれませんか」と言っておく。
いつものようにミアハ・ファミリアでポーションとエナジーポーションを作成した俺は、店舗にポーションとエナジーポーションを並べる作業も手伝っておいた。
「今日もエナジーポーションを買いにきてやったぞ、ミィーアァーハァ」
という感じで相変わらずミアハ・ファミリアのホームである店舗にやってきては神ミアハにウザ絡みをする神ディアンケヒト。
ナァーザがやる気がないので、完全に神ディアンケヒト係のようになっている俺が丁寧に接客していくと、神ディアンケヒトはエナジーポーションを20本ほど買っていく。
「エナジーポーションのご購入ありがとうございます」
丁寧に頭を下げて接客する俺に神ディアンケヒトは機嫌良く帰っていった。
それからもエナジーポーションを求める客達が、大勢訪れる。
忙しなく働くナァーザと神ミアハに俺は、営業時間が終わるまで休むことはない。
忙しい日々を過ごしたところでミアハ・ファミリアの全員がエナジーポーションのお世話になった。
疲労が回復されたので、これで明日も頑張ることができるだろう。
ミアハ・ファミリアのホームにあるそれぞれの部屋に戻って眠った全員。
起床して全員の朝食を作っておいた俺は自分の分を食べ終わると、店舗に並べるポーションとエナジーポーションを「創薬師」のスキルを用いて作っておく。
その後、ダンジョンに向かい、モンスターを倒して魔石とドロップアイテムを回収してから、ギルドで換金。
稼いだヴァリスをナァーザに渡しておき、店舗の手伝いも行う。
ポーションの品出しと接客も丁寧に行い、頻繁に現れるようになった神ディアンケヒトへの対応も俺がしていった。
そんな日々を過ごしているとオークションに出品されたヴィーヴルの涙が凄まじい高額で売れたらしく、ギルドの取り分を充分に確保しても、とてつもない額のヴァリスがミアハ・ファミリアに転がりこんでくる。
あまりにも凄まじい額のヴァリスに気が遠くなっていた神ミアハが倒れそうになったので、倒れないように支えておいた。
この凄まじい額のヴァリスをどうするかということになったが、俺としてはミアハ・ファミリアの借金の返済に使いたいと思っていることを神ミアハに伝えておく。
「本当に、それで良いのかゲド」
「ええ、構いません。この際借金を全部返済しておきましょうよ」
ミアハ・ファミリアの借金は、かなりのものだが、これだけのヴァリスがあれば借金の返済を完了させることも可能だろう。
ヴィーヴルの涙で稼いだヴァリスを持って、ディアンケヒト・ファミリアにまで向かうことにしたミアハ・ファミリアの全員。
凄まじい額のヴァリスは全て俺が運んでいる。
到着したディアンケヒト・ファミリアで神ディアンケヒトを呼び出してもらい、現れた神ディアンケヒトにヴァリスを支払った。
「どうやってこれだけのヴァリスを稼いだのだ!」
「神ディアンケヒトにだから教えますけど、俺がヴィーヴルの涙を手に入れたんですよ」
「ヴィーヴルの涙だと!ゲドが嘘を言っていないようだから信じるが、どういう運をしておるんだ」
「昔から運は良い方なので、日頃の行いも良かったのかもしれません。これだけあればミアハ・ファミリアの借金は、利子を含めて全て返済できますよね」
「ぐぅっ!確かにこれだけあればミアハ・ファミリアの全ての借金の返済は、充分に可能だ」
「じゃあ、借金返済は完了ということでよろしいですね、神ディアンケヒト」
「ぐぬぬぬっ!し、仕方あるまい認めようではないか」
何故か悔しそうにしている神ディアンケヒトは、神ミアハにマウントを取れる機会が無くなることが悔しいのかもしれない。
それでもちゃんと支払いを受け入れてくれる神ディアンケヒトは、悪い神ではないだろう。
ミアハ・ファミリアの借金を全て返済した帰り道、晴れやかな顔をしていたナァーザが「ありがとうゲド」と言ってきた。
自分の為に借金までしてくれた神ミアハに報いる為に、今まで頑張ってきていたナァーザにとってミアハ・ファミリアの借金の返済が完了したことは、とても喜ばしいことであるのは間違いない。
借金が無くなったミアハ・ファミリアの未来は、明るいものになる筈だ。
あとは、神ミアハが冒険者達にタダでポーションを渡すようなことがあるので、それをなんとかやめさせておく必要がありそうだな。
神ミアハは冒険者達に、タダでポーションをくれる神様だと思われているんじゃないだろうか。
そのイメージを払拭する為にも神ミアハには、もうちょっと気をつけてもらわなければいけない。
ヴァリスが全く無くて、ポーションが買えないならバイトでもしてヴァリスを稼いでから買えば良いだけの話だ。
仕事を探すことなく明らかにタダでポーションを貰いにきている冒険者達にポーションを渡すのは、良くないことだと神ミアハに理解してもらうとしよう。