店舗で売り出す為に、俺がエナジーポーションを作成していると、ミアハ・ファミリアのホームに椿が木箱を担いでやって来る。
「完成したぞ、ゲド」
椿が担いでいた木箱の中身である防具一式を此方に見せて、嬉しそうに笑った。
「さあ、ゲドよ!身に着けてみるのだ!さあ!さあ!」
どうやら防具一式を寝ずに完成させたようでテンションが妙なことになっていた椿。
「とりあえずこれでも飲んで、落ち着け椿」
テンションが高めでも明らかに身体が疲れている様子であった椿には、出来立てのエナジーポーションを1本提供しておく。
一気にエナジーポーションを飲み干した椿は、疲労が回復されたことで妙な状態になっていたテンションが落ち着いたようだ。
「よし、防具を身に着けてみるのだゲドよ」
確かに椿は落ち着いたが、それでも防具を俺に身に着けさせようとすることは変わらない。
これはもう俺が防具を身に着けないと終わらないと判断した俺は、防具を身に着けることにする。
木箱から取り出した防具一式を着用し、ウンディーネ・クロスで作られたインナーの上から黒い軽装のアーマーを装備して、灰褐色のマントを羽織った姿になった俺を見て、椿は満足気に頷いていた。
水に耐性があるウンディーネ・クロスで作られたインナーは下層の攻略の為に用意されたもので間違いない。
黒い軽装のアーマーは「黒樹」という名であるそうで、異常個体であった黒いグリーンドラゴンの甲殻で作られていて軽く堅固。
灰褐色のマントの方は「灰皮」と名付けられており、此方はゴライアスの硬皮で作られており、重量があるが今のステイタスなら問題なく動ける。
どの防具も強度は高く、下層でも充分に通用する代物になっていたことは確かだ。
通常のマントよりも重さがあった「灰皮」は直ぐに外せるようにもなっていて、少しでも素早く動きたいときは「灰皮」を外して行動することになるだろう。
3つの新しい防具の値段を聞いてみると、それなりに高額ではあったが中層で稼いでいたので、払えない金額ではなかった。
椿にヴァリスを支払っておき、徹夜していて寝ていない椿には今日はもう休むように言っておく。
「うむ、それでは明日はダンジョンに一緒に向かうぞ、ゲド。いつもの場所で待ち合わせだ」
そう言って足早にミアハ・ファミリアのホームから立ち去っていった椿。
新しい防具の使い心地がどんなものであるか確かめるなら、実際にダンジョンに向かう必要がある。
恐らく明日は椿とパーティを組んでダンジョンに向かうことになるんだろうが、今日の内に色々と準備をしておいた方が良さそうだ。
店舗で売り出すポーションとは別に、ダンジョンで使う為のポーションも作成しておくとしよう。
各種ポーションを作成した後、ギルドに向かって担当アドバイザーの人に、椿とパーティを組んでいるなら下層に向かっても構わないか聞いてみた。
「Lv5の椿さんが一緒に居るなら下層に行っても問題ないと思うけど、気をつけてね」
そう言ってくれたギルドの担当アドバイザーの人は、俺を心配してくれている。
相変わらずこの人は、とても良い人だった。
「気をつけておきます。貴女とした約束は破りません」
ギルドの担当アドバイザーの人を安心させる為にも、無事に帰ってくることを俺は宣言。
約束を破るつもりはない。
それから下層で出現するモンスターについての情報も担当アドバイザーの人に教えてもらい、しっかりと忘れないように覚えた。
ギルドで必要な情報を入手した後にミアハ・ファミリアに戻ると、神ミアハとナァーザに明日からダンジョンの下層に向かうことを伝えておく。
「それじゃあ明日の朝は、エナジーポーションをいつもより多目に作っておいてねゲド。帰ってきたら店の手伝いも頼むわよ」
俺がダンジョンから帰ってくるまでの間に、エナジーポーションが売り切れてしまうことを気にしているナァーザ。
俺が無事に帰ってくることを全く疑っていないようなので、ナァーザには信頼されているのかもしれない。
「そうしておきますよナァーザ。大量に作って置いておくので管理は、よろしくお願いします。店の手伝いも任せてください」
明日の朝は、ちょっと忙しくなりそうだが頑張って各種ポーションを作成しておこう。
「頑張ってねゲド」
ミアハ・ファミリアの借金返済が完了してから笑顔をよく見せるようになったナァーザは、明るくなったのかもしれない。
それはきっと悪い変化ではないと俺は思った。
「お前なら大丈夫だとは思うが、気をつけていくのだぞゲド」
眷族である俺のことを大切にしてくれている神ミアハは悪い神ではなく善神だ。
オラリオには数多のファミリアがあるが、眷族を大切にしてくれるファミリアがどれだけあるのかはわからない。
「俺はちゃんと、ホームに帰ってきますよ神ミアハ」
俺は神ミアハの眷族になれて良かったと思う。
「うむ」
頷いていた神ミアハは、俺の言葉に嘘がないことを理解していたようだ。
その後、明日の朝の為に、各種ポーション用の素材を大量に集めておく。
ダンジョンに向かうことなく準備を整えることにした1日。
翌日、朝早くから大量にポーションとエナジーポーションを作成しておき、4日間程度なら俺が不在であっても品切れになることがないようにしておいた。
これだけポーションとエナジーポーションがあれば俺がダンジョンの下層で、しばらく過ごしても問題はない筈だ。
それからミアハ・ファミリア全員分の朝食を作っておき、手早く自分の分を食べた俺は、防具一式を着用して武器を装備すると待ち合わせの場所まで向かう。
既に待っていた椿は、直ぐにでもダンジョンに向かいたいようで、かなりはりきっている。
それでも昨日よりかは椿のテンションが落ち着いているので、しっかりと睡眠をとっているようだ。
椿と一緒にダンジョンに向かい、手早く階層を下りていくと到着した18階層の安全地帯。
一旦休憩をすることにして、リトルフィートで小さくしていた水筒と食料を元の大きさに戻して椿に渡す。
18階層の草原に座って食事をした俺と椿は、下層についての話しをしていった。
「下層の25階層から27階層までに出現するイグアスという燕のようなモンスターがおってな。その攻撃は体当たりなのだが、生半可な防具では貫通する威力があるのだ」
「イグアスが不可視のモンスターと言われるほど素早いモンスターだと、ギルドの担当アドバイザーの人が教えてくれたが、確かに頑丈な防具を用意するように忠告されたな」
「うむ、下層でも通用する頑丈な防具を装備していなければ危険なのは確実だ。イグアスに身体を貫通されて死亡した冒険者は少なくないのでな」
「この「黒樹」と「灰皮」なら問題は無さそうだ」
着用している「黒樹」と「灰皮」を撫でながら言った俺に頷いた椿が笑いながら言う。
「当然だ、それは手前の渾身の作だからな。イグアス程度に貫通はできん」
誇らしげに胸を張っていた椿が、職人としての仕事に手を抜くことはない。
イグアスに関しては問題ないことがわかったので、話しを変えることにした俺は気になっていたことを聞いてみる。
「そういえば下層には移動型階層主が居るそうだが」
「水竜のアンフィス・バエナのことか」
「Lv5相当で、水上の地形を考慮するとLv6になるらしいな」
「ギルドの情報は間違ってはおらんな。確かに下層の階層主であるアンフィス・バエナには、それだけの強さがあるだろう」
納得して頷いていた椿は、ギルドの情報が正しいと判断していたようだ。
「双頭の竜でもあるみたいだが」
「うむ、首は2つだったぞ」
まるで実際にアンフィス・バエナを見たことがあるような口振りをする椿。
「その口振りだと、椿は実際にアンフィス・バエナを見たことがあるのか?」
「ロキ・ファミリアの遠征に何度か参加した時にな。ロキ・ファミリアの主力が総出でアンフィス・バエナを倒しておったぞ」
どうやら椿は、ロキ・ファミリアの遠征に参加したことが何度かあるらしい。
「弱いモンスターではないということかな」
「階層主であるからな、弱いモンスターではないぞ」
「あの黒いグリーンドラゴンと比べるとどちらが強いんだ?」
「どちらも見たことがある手前が判断すると、戦う場所が水上の地形であるならアンフィス・バエナが上だと思うが」
椿が言っていることは間違いなく正しいのだろう。
水上の地形でなら黒いグリーンドラゴンよりも上だというアンフィス・バエナが、強いドラゴンであることは確実だった。
「それじゃあ、そろそろ休憩を終わりにしようか椿」
「うむ、そうだなゲド。下層にまで向かうとするか」
休憩を終わりにした俺と椿は、18階層から下りていき、中層を進んでいく。
今回は宝石樹の下に寄り道をすることはなく、到着した25階層へと続く階段。
「次から下層だ。気を引き締めて行くぞゲド」
「ああ、油断はしない。下層に行こうか椿」
短く会話をして、階段を下りていくと到着した下層。
現れた下層のモンスターを相手に俺は「一角」を構えた。