第1話
はぁはぁと息が上がる。ヒューヒューと喉から音が鳴っていて気味が悪い。
そういえば昔はいつもこんな音を立てていた。体力がなくてすぐにへたり込んで。村の子からは女みたいと笑われ虐められ泣いていた日々。あの頃は地獄だと感じていたけれど思い返してみればあの頃が1番幸せだった。
何故ならいつも彼女は私を助けてくれた。いつも手を差し伸べてくれた。
そんな彼女を、私は殺した。
カランと軽い音がした。剣が手から抜け落ちたのだ。己の手に目を向ける。そこで初めて自分が震えていることに気付いた。
「……さ……な」
あり得ないところから声がした。もう死んだと思っていたのに。私は咄嗟に剣を拾い直し構える。彼の言葉に表情に動きに注視する。彼は今にも死に絶えそうだというのに、まだ言葉を発し続けていた。
「…くも……ァ…ヌ…を」
致命傷を負わせたはずなのに何故まだ生きているのだろう。外したなんてことはない。あんなに人を殺し続けてきた私が今更外すなんてことあり得ない。彼はきっと驚異的な生命力で命を繋いでいるだけなのだろう。もう一度、今度は首を狙おう。そう思った時だった。
元帥はギっと私を睨んだ。
怒り。憎しみ。悲しみ。それらを含んだ鋭い目で見られ不覚にも私は動くことができなくなった。
「ゆ、る…さ、ない…!きさま、だけは…ぜったい、に…!」
悪魔に取り憑かれているのかと思うほど元帥ははっきりと言った。そこで私の足はようやく動き出した。
「殺し、てやる……!!」
「……。元帥。生憎と、その願いは受け入れられない。何故なら私は祖国を救うまでは死ねないからだ」
「っのろって、やっ…」
今度は冷静に急所を狙った。
元帥は亡くなった。私に殺された。
はぁはぁとまた息が荒くなる。カランとまた剣が手から零れ落ちる。
あぁ。あぁ。もう嫌だ。
何でまた殺さないといけないんだ。何でこうなるんだ。元帥は殺す必要なんてなかったはずなのに。私は彼を迎えにきたはずなのに。
何故。
「閣下、お見事です」
第三者の声が聞こえた。いつからそこにいたのか私の部下が私に近寄ってきた。
「見事な、ものか…元帥は、私に殺されたのだぞ」
「ジル・ド・レェは元帥ではありません。元帥になるのは、貴方だ」
彼は床に落ちた私の剣についた血を拭く。
「気を確かに。閣下。我々にはもう貴方しかいない。貴方なしでは祖国は救えません」
黒々しい血が消えた私の剣を彼は差し出す。
「さぁ、立てジャック。祖国を救うために」