藤丸六香 - 1
「どうか、今度こそ私に貴方を守らせてほしい!もう、貴方をあのような目に合わせはしない!」
聖女ジャンヌ・ダルクの元へ跪く彼を見て純粋にかっこいいなと思った。
「貴方の道を阻む者全て私が蹴散らすと誓いましょう」
ジャンヌ・ダルクは少し戸惑った顔で私の兄 藤丸立香の顔を見る。立香は大きく頷いた。ジャンヌは頷き返し自分の前に跪いた騎士を見つめた。
「ありがとう。貴方とまた共に戦えること。私は誇りに思います」
にこりと微笑む。優しいその笑みはまさに聖女と言えよう。どうして彼女がこの世界で魔女と言われてしまっているのか。どうして彼女がフランス人、イングランド人を虐殺していると言われているのか。未だその理由は分からぬまま。
私達カルデアは、レイシフトした先で出会ったサーヴァント ジャンヌ・ダルク、マリー・アントワネット、アマデウス、清姫、エリザベート・バートリー。そして混乱する兵士達をまとめ上げ指揮していたイケメン騎士と、ここラ・シャリテで手を組むことを誓い、この特異点を攻略することになった。
これまでの経緯を説明しよう。
私、藤丸六香と双子の兄 藤丸立香は色々あって人類絶滅の危機を救うことになった。カルデアのマスターとして特異点の調査及び修正、そして特異点先で聖杯の入手及び破壊することを目的に、まずは1番歪みが少ない特異点であるここ百年戦争後期のフランスへレイアシフトした。
レイシフト先ではジャンヌ・ダルクが竜の魔女となってフランスとイギリスを襲っているだとかオルレアンはもう魔女に占拠されたとか空にはワイバーンがいっぱいいるとか、ちょっとよく分からない状況に…否、全然意味分からない状況になっていた。これが一番歪みの少ない特異点ってマジか。他の特異点これより訳分からんことになってるってマジか。戦慄しつつ、とりあえずオルレアンと竜の魔女になってしまったジャンヌ・ダルクが特異点の原因と仮定した私達は、レイシフト先で出会ったサーヴァント達と手を組んだ。更にはサーヴァントではなく現地で兵士を仕切っていたイケメン騎士とも手を組むことにした。
何故、彼ら彼女らと手を組むことになったのか。
元々カルデアはこちらに敵意がないサーヴァントは仲間にする方針だった。サーヴァント1人いれば一つの軍並の力にはなり得るらしいので、なるべく仲間にできるサーヴァントは仲間にしたいと思うわけだ。そんな訳で該当したサーヴァント ジャンヌ、マリー、モーツァルトは仲間になってくれとこちらがお願いする形で仲間になってもらった。幸いな事に彼ら彼女らは快く承諾してくれた。清姫とエリザベートは勝手についてきた。
では、どうしてサーヴァントではないイケメン騎士も仲間になったのか。
これは、はっきりいうと私達からお願いしたのではなくイケメン騎士の方が共に戦いたいと言い出したからだ。ヴォークルールでジャンヌと出会い、ジュラでマリー、アマデウスと出会い仲間になった私達は、今回の特異点の原因の地となっているオルレアンへ向かうことを目的にしていた。けれど、流石にいきなり敵地に乗り込むには流石に危ない。まずはもう少しこの特異点の情報を集めてからオルレアンに向かおうと、ラ・シャリテという都市に向かうことにした。が、ラ・シャリテは既にワイバーンに攻め入られており兵士達が必死で戦っているものの苦戦を強いられていた。私達はすぐに兵士達を助けるためワイバーンを倒した。そしてどうにかワイバーンを倒し終えた時、ラ・シャリテの兵士達を取りまとめていた兵士達のトップのイケメン騎士が私たちのところへ来た…私達、というよりはジャンヌのところへ来たと言った方が正しいかもしれない。その騎士は多分最初からジャンヌしか見えていなかった。
騎士はジャンヌが生き返ったことを喜び貴方こそが本物のジャンヌ・ダルクだといい。そしてジャンヌとまた戦いたいと懇願した。懇願された本人は厳しい顔をしていた。これは後から聞いた話だがこのイケメン騎士とジャンヌは生前共にフランス軍として戦っておりとても仲が良かったそう。竜の魔女と呼ばれてしまっている今の自分と手を組むことで彼の立場が危うくなるのを心配していたらしい。とても素敵な友情だと思うが、如何せんこちらは人類史の危機なのだ。なんとしても特異点を修復しないといけない。聖杯を持ち帰らないといけない。そのために味方は多いに越したことはない。相手はサーヴァントではないとはいえ、現地の軍を味方につけられるのだ。この意味合いは大きい。ジャンヌには申し訳ないが私は断ろうとするジャンヌを説得した。彼女は不服そうな顔をしていたが最終的には納得してくれた。
そんなこんなで今私達はイケメン騎士の軍が取り仕切っている砦に寝泊まりをしている。
ところで諸君。私は世界史が苦手だ。いや、もっと正直にいうと日本史も苦手だ。
なんというか、あの丸暗記をしなければならない感じが苦手で何一つ覚えられなかった。恥ずかしながら学校では歴史教科は赤点の常連だった。
流石に英仏 百年戦争というワードは知っていたけれど。その後期で英雄といわれるほど活躍した人物は知らない。
「ところでジャンヌさんってすごい人なの?」
そして何を隠そう。この兄も私と同様に歴史が苦手だ。苦手なものまで一緒とか双子って怖い。
この兄は心の底からいい奴だし、いい奴すぎて童貞という可哀想な奴なのだか、空気を読むのが苦手だった。私も正直ジャンヌって名前は聞いたことあるけど何した人かまでは知らんよって思っていた。思っていたけれど空気を読んであえて何も聞かず、大の男が跪くくらいだから凄い人なんだなと思うに留めておいた。というのにこの兄は…。
周囲の人物が驚愕している。うん。やっぱジャンヌってとんでもなく凄い人なんだね。見た目私達と変わらない年齢っぽいのにね。昔の人って若い頃から活躍していて凄いよね。
「あら知らないの?教えてあげるわ!ジャンヌはねフランスを救うべくに立ち上がった救国の聖女なのよ」
マリーが自慢げに語る。流石の私や兄でも知っているフランスの王妃マリー・アントワネットは、本当にジャンヌのことが大好きなようだった。
「そうなの?ジャンヌさん、国を救ったんだ。凄いね」
「いえそんな…それに私は、聖女ではありません……」
「え?聖女じゃないの?」
「マスター。少しは空気読んでください」
マシュが兄の頬を引っ張る。兄が痛い痛いと悲鳴をあげてもマシュは止めなかった。
いつの間にこの2人はこんなに仲良くなったのだろうか…少し前まではマシュはもっと気を遣っていたと思うのに。やっぱり契約を結んだ2人は心の距離も近くなったのだろうか。まだサーヴァントと契約した事のない私にはよく分からないけれど、今後サーヴァントと契約していくに辺り、1番大事なのは、そのサーヴァントとの絆だとダ・ヴィンチちゃんが言っていた。ということはあの2人は順調に絆が深まっているという事なのだろう。良いことだ。
《それにしても仲間になったのがフランスの聖女で良かった……悪魔の方だったら今頃胃が痛くなっていたよ……いや、敵になるくらいなら仲間になってもらった方が…》
「悪魔?」
ドクター・ロマンの呟きに私は首を傾げた。いくら昔の時代とはいえ中世ヨーロッパの時代に悪魔が実在していたとは考えられない…と思う。いや、私が知らないだけで中世にも悪魔がいたのかな。困った…こんなことならちゃんと歴史勉強しておくんだった。
「黒騎士 ジャック・ド・フゥベーのことですね」
云々唸っているとマシュが助け舟を出してくれた。さすが優秀な後輩だ。
「黒騎士?」
「その名の通り漆黒の鎧で戦っていたことから黒騎士と呼ばれた偉人です。黒騎士は百年戦争の中で前期にも後期にも登場しますが、この時代の黒騎士は歴代の黒騎士の中でも色んな意味で最も有名な人物。ジャック・ド・フゥべーです……が、ここで彼の話は控えましょう。彼は、その…この時代の人々に良くないイメージを抱かれている可能性が高いので」
「へー」
全身漆黒の鎧とか厨二病感凄いなとか思っていた時にマシュが真剣な顔でそんな事を言ってきたものだから、とんでもなく棒読みな返事をしてしまった。彼女にも私が真面目に聞いていなかったことが分かったのだろう。聞いていますか先輩、とマシュが怒った。私はごめんごめんと笑って彼女の頭を撫でた。
「………」
ふと、一瞬視界に入った人物が凄い顔をしていた気がして私は二度見した。
「…レディ。どうされましたか?」
「あ、ううん。ごめんなさい。なんでもないです」
ニコリと微笑まれる。私は慌てて愛想笑いをした。それから、ふと思った。
そういえば、このイケメンの名前。さっき自己紹介してもらったんだけど……なんだっけな。
「お疲れですか?無理もない…最近は連日ワイバーンに襲われて…兵士である我々ですら疲弊している。ただでさえ慣れない環境に置かれたあなた方が疲れるのは当たり前のことです」
「あはは…まぁ、私達はサーヴァントに助けてもらっているので…兵士さん達の方が毎日怪我を負ってしまっていて……増援とか、ないんですか?このままじゃ」
「…ワイバーンが暴れているのは、ここ。ラ・シャリテだけではありません。増援は来れないでしょう」
イケメン騎士は苦笑する。なるほど。私が思っていた以上に状況は厳しいみたいだ。
「そう険しい顔をなさらないでください。確かに状況は厳しいですが、こちらには本物のジャンヌ・ダルクがいます。彼女はフランスの希望の子。神の子です。決して魔女になど屈しはしない。たとえそれが自分自身であったとしても」
「そっか。そうなんですね。じゃあ、大丈夫ですね」
「えぇ。今ここに誓いましょう。彼女の元へ集った我々に敗北などあり得ないと」
にこりと微笑む彼に曖昧に笑い返した。横目でジャンヌを見ると、ちょうど祈りを捧げようとしていたのだろうか。胸元から取り出した十字架のネックレスを見つめていた。
…木製、だろうか?聖女が持つにしては簡素なものに見えて私は思わず彼女をじっと見つめていた。
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ジャック・ブラウン - 1
私は目を逸らした。その間も街から悲鳴は聞こえていた。
信じられない。信じたくない。あれがジャンヌ・ダルクのせいだなんて思いたくない。
けれど、もし。本当にジャンヌ・ダルクのせいだったとして。
もしジャンヌが憎しみを抱いてしまった結果がこの惨劇だというのであれば。
それは、間違いなく。僕のせいだ。
ジャンヌ・ダルク処刑から三日後。私は所有していた鎧や武器全てを奪われ身柄を拘束。ボルドーの砦へと連行された。
イングランドの黒騎士を引き継ぎ、爵位も伯爵である私がどうしてこのような扱いを受けるのか。理由はわかっている。私にフランスのスパイ疑惑がかけられているからだ。元々フランスのスパイの中に裏切り者が紛れ込んでいたのは分かっていた。元はその裏切り者のせいだが私への疑いが加速したのは、きっと私がイングランドの前王 ヘンリー5世の実の妹であるイザベラを殺したからだろう。
よりにもよって、このタイミング。フランスの国王 シャルル7世から帰国命令が出された直後に己が尋問にかけられることを知り私は頭を抱えた。
ジャック・ブラウンは適当な戦地へ赴き不慮の事故で死ぬ予定だったのに。この疑惑のせいで戦地へ行くどころではなくなった。何故こうも間が悪いのか。私は散々悩み抜きボルドーの砦へフランス軍を呼ぶよう手筈を整えた。急遽「ジャック・ブラウンは尋問中フランス軍の襲撃により死んだ」事に変更したのだ。無論、私の尋問役を任されるイングランド兵達には口封じのために死んでもらうしかない。それは仕方がないことだ。そう思った。思うことに決めた。
私の尋問役が全員、私の大切な部下だと知った時。そして彼らが私に殺される夢を見た時、私はまた頭を抱えた。
全て私のせいだと分かった上で、どうして私が殺さないといけないんだと思った。こんな役回り、もう、うんざりだとも思った。
でも。それでも、やらなくては。
私が、祖国を救わなくてはならないのだから。そのために私は、世界で1番大切な人に手をかけたのだから。
”閣下、何故…ッ何故ですか!?貴方は…、まさか噂通り
”ッぁあぁこ、殺さないで!!”
私は私に忠誠を誓ってくれた大切な部下を殺した。
私を疑うことすら罪悪感を感じ悲痛な顔をした大切な部下の剣を奪い、その胸に突き立てた。
私を労り禁じられているはずの食事を持ってきてくれていた彼らの喉を切り裂いた。
私を敬愛していると言ってくれた可愛い部下を背後から切り裂いた。
私に怯え戦意喪失した彼の心臓に剣を突き刺した。
床が彼らの血に染まっていく。私はその様子をぼんやりと見つめていた。
私は正しい。この選択は間違っていない。フランスを救いたい。これはその願いを叶えるために必要な行為なのだから。
だが、そう分かってはいても、どうしたって自分の手で大切な人の命を奪うのは想像以上に、堪えた。
「…大切な、部下だったのではないのですか」
私の補佐官であり同じフランスのスパイであるユリウス・テイラーが問う。
あぁ、大切な部下だったよ。どいつもこいつも、私なんかの部下になるには惜しい人材だった。こんな戦争に巻き込まれた彼らが不憫でならなかった。彼らが幸せになることを私はずっと願っていた。
私はグッと拳を握った。そうすれば溢れる思いを抑え込めると知っていた。
「あぁ大切な部下だった。私も手をかけたくなかったが、どうせ彼らは死ぬ定めなのだから仕方がない」
「……あんた、一体、何を言っているんだ」
「ここで生かしておくと彼らが無意味に人を殺してしまう可能性があった。殺人行為は少ないに越したことはない。言っただろう、私はもうこれ以上大切な人が死ぬところを見たくないと」
「ッ意味が、分からない!!あんた一体何がしたいんだ!?!?フランスの希望の子ジャンヌ・ダルクを死に追いやった後はイングランドの大切な部下を殺して!!あんたは殺人狂か!?!?」
「まさか…君の言ったどちらも私は死んでほしくなかったさ。これは本当だ。だがそのどちらも死ぬ定めだった」
「…全員、あんたが、殺したんだろうが…!!」
テイラーの殺気が私に向けられる。
「……少なくとも、あんたはジャンヌ・ダルクを火あぶりにした。そんな惨い罰を受ける必要のない子をあんたが無理やり話をでっちあげ彼女に罪を被せた」
「…テイラー。私は君を信頼している。だから正直に言おう。私はジャンヌ・ダルクを愛している」
「はぁ…?」
「私がスパイになったのはジャンヌの為だった。彼女の為にイングランドの情報をフランスへ流そうとしていた。彼女の為に私は完璧なスパイになりきった。彼女の為にフランス人を殺した。私の行動の中心にはいつも彼女がいた」
「ッ笑えない冗談だな!では何故!ジャンヌ・ダルクを殺した!?!?何故彼女を!敬虔なキリスト教徒を!!一番最悪な刑にかけた!?!?」
「……。祖国のためだ」
私はもう一度拳を握り直してから、彼の問いに答えた。
「フランスのためだと」
「そうだ。祖国のために私は彼女の死期を明確にする必要があった。祖国にとってジャンヌ・ダルクは重要な存在だった。祖国を救うため、その計画のため私は彼女の死期すらずらす訳にはいかなかった」
「は…?」
「もしかしたら君にもいつか分かる時が来るかもしれない。これは受け売りだが君にこの言葉を贈ろう」
私は真っ直ぐテイラーを見つめた。
「私は祖国のため愛する人を犠牲にした。祖国のために愛する人が死んでしまうのであれば、それは仕方がないことだ」
テイラーは大きく目を見開いた。それから怒りに溢れた目で私を見た。彼のその姿が、かつて父からこの言葉を聞いた時の私と重なって見えた。皮肉だ。私と父は正反対な選択を選んだというのに。
"どうか祖国を救ってくれ。この国を地獄から救ってくれ"
思い出すのは父の遺書。その最後に書かれた一文だ。素晴らしいことに父は最期までイングランドの勝利を願っていた。なんて父らしいのだろうか。その文字を見た時、虚無感に苛まれたことをつい先程の出来事のように覚えている。
「おい。待て。なんだ、あれは…」
テイラーの声にハッと我にかえり顔を上げる。彼は窓を見つめていた。彼につられるように私は立ち上がり窓の外を見た。
「え……」
情けない男の声が漏れた。それくらい信じられない光景が窓の外には広がっていた。
これは、一体どういうことだ。
ありえない…こんなこと、あってはならない。
竜が。
「ッ……!?」
私は剣を捨て窓を突き破って外へ飛び出した。こんな光景はありえない。これはこの窓が見せた幻だと。そう思い込みたくて外へ出た。生い茂る木々の間を走り抜け、街を一望できるその位置まで真っ直ぐ走った。
見えたのはワイバーンがイングランド人を喰べる姿だった。
「な……ッ」
あまりの光景に胃から吐き気が込み上げてくる。気持ち悪い。震えが止まらない。
なんなんだ。これは。
なんで。どうして。こうなった。
こいつらは、一体どこから現れた。
「ブラウン、伯爵…?」
聞こえた声に顔を向ける。そこには数名のイングランドの兵士ががいた。
「ブラウン伯爵、ですね?良かった…ッよくご無事で!」
「ッこれは…これは、一体なんなんだ!?あの竜は一体どこから現れた!?」
「落ち着いてください。伯爵。我々もまだ正確な情報は掴めておりません…が、一つだけ確かな情報があります」
兵士は一瞬目を伏せ、それからはっきりと私を見た。
「魔女 ジャンヌ・ダルクが蘇りました。今度は人を騙すのではなく、竜を従える魔女として」
耳を疑った。聞こえた単語を理解することができなかった。
「……君は、何を、言っているんだ。死者が、蘇っただと…本気でそう言っているのか?」
「えぇ。理解、できないでしょう。我々も直接奴らを見るまでは理解ができなかった。しかし我々ははっきりとこの目で見たのです。蘇ったジャンヌ・ダルクを。私はあの女の処刑を見ておりました。だからあの女の顔ははっきりと覚えている。あれは、あの黒い女は、間違いなくジャンヌ・ダルクだった」
「…いや、いや。そんなはずはない」
「伯爵。どうか信じてください!奴は数日前から竜を従え街を蹂躙しイングランド人を竜へ喰わせているのです!!目の前の光景を見てください!!あれは全てジャンヌ・ダルクの仕業です!!」
兵士が街を指さす。遠くから悲鳴が聞こえた。
嫌だ。助けて。喰われたくない。そんな声が街から聞こえた。
「ッ仮に君の言う事が全て真実だとしよう!!であれば何故!!何故ジャンヌ・ダルクがこんなことをする!?彼女を捉え処刑したのは、この私だ!!何故罪なきイングランド人を狙う!!?」
「復讐…」
「なに…?」
「復讐だとジャンヌ・ダルクは言いました。自身を救おうとしなかったフランス、そして自身を処刑したイングランド。その両国への復讐だと」
聞こえた単語に頭が真っ白になった。
復讐。それはジャンヌ・ダルクという少女にとって縁遠い言葉だった。
どれだけ悲惨な目に遭わされようと。戦場という互いを殺し合う場にいようと。彼女はイングランド兵の遺体に祈りを捧げていた。どんな時でも差別なく。平等に祈りを捧げていた。
決して誰も恨むことなく。決して勝利しても喜びに浸ることなく。フランスを救うという願いを抱えたまま、イングランド人を恨むことをしなかった。
「……偽物では、ないのか。誰かがジャンヌ・ダルクの名を語っているのでは」
「いいえ。先程も申し上げた通り、我々はこの目ではっきりと見ました。見間違いなどではない。あれはジャンヌ・ダルクだった」
「………ジャンヌ・ダルクに竜を操る能力など、なかったはずだ」
「えぇ。おそらく死後、その術を得たのでしょう」
私は目を逸らした。その間も街から悲鳴は聞こえていた。
信じられない。信じたくない。あれがジャンヌのせいだなんて思いたくない。
けれど、もし。本当にジャンヌのせいだったとして。
もしジャンヌが憎しみを抱いてしまった結果がこの惨劇だというのであれば。
それは、間違いなく。僕のせいだ。
僕が、彼女を殺す決断をしたから。僕の手で彼女を殺さなければならないと。仕方がないことだと僕が思ったから。そう判断してしまったから。
彼女はきっと僕に殺されるなんて夢にも思わなかったはずだ。
味方だと信じていたはずの僕に裏切られ殺されたことに、怒りを覚えるのは、あまりに自然なことだ。
「そん、な……ッぁ…あ、あぁ…ッ!」
僕は頭を抱えた。
僕が彼女を魔女にさせてしまった。
僕が彼女に憎しみを植え付けた。
僕が、彼女に人殺しをさせてしまった。
僕が。
僕が。
僕が。
「ぁあぁっあぁああぁあ…ッッ!!」
僕は、取り返しのつかないことを、してしまった。
「…か。閣下!!!」
怒鳴り声にへたり込んだ身体がビクリと震えた。目をやると苛立った様子のテイラーが立っていた。あれ。どうしてテイラーがここにいるんだろうか。彼は砦にいたはずなのに。拘束されていた縄はどうやって解いたのだろう。
……砦にいる、僕が、殺した。大切な、部下は。
「閣下!!!気を確かに!!我々の監視役をしていた
「………お前」
一瞬で我に返った。テイラーはギラギラとした目で私を見ていた。すぐに察した。
この男は、私が殺した5人の遺体を砦から落とし、ワイバーンへ喰わせたのだ。私が部下を殺したという証拠を隠滅させるために。自分達がスパイであると、イングランドへ確信させないために。
「あのワイバーンはイングランドだけではない。フランスも狙っています。これにより戦争は急遽休戦となりました。我が王はフランスと同盟を結ばれました」
私は動揺を悟られないようにゆっくりとテイラーから兵士へと視線を移動させた。
「本国より命令です。ブラウン伯爵…いえ。我が祖国の英雄 黒騎士様。直ちにフランス国王シャルル7世のもとへ赴き、フランス軍と合流。連合軍として全てのワイバーン、そして魔女 ジャンヌ・ダルクを全滅させよ」
彼の後ろに立っていた兵士は抱えていたものを私に見せた。
それは、私の鎧だった。わざわざ真っ黒に染め上げた鎧。
更に私の長弓。そして黒い箱。その中身は魔剣だ。
「今までの数々のご無礼をお許しください。そして、今一度黒騎士として戦ってください。どうか祖国をお救いください」
私が最も最前線に立っていた頃の武器と鎧を彼らは私へ差し出した。
「……私に、もう一度ジャンヌ・ダルクを殺せというのか」
「…ブラウン、伯爵?」
手を伸ばしたまま受け取れずにいる私を兵士達は困惑した様子で見る。
「……いや」
私は兜を手に取った。わざと禍々しく作られたそれは味方ですら見たくないと言われるほどのデザイン。黒騎士 ジャック・ブラウンの象徴ともいえるそれを手に取った。
「………」
”貴方はどうか、長生きしてください”
優しいその声がまた聞こえた気がした。その声を聞いて、ようやく私は自分のなすべき事を理解した。
優しいあの子が私のせいで悪に堕ちた。私は決して贖うことのできない大罪を犯した。今その罰を受けているのだろう。
であれば私は何をするべきか。この罰を受け入れ、ここで嘆き悲しんでいればいいのか。あの子に謝罪をすればいいのか。この命をあの子に差し出せばいいのか。
違う。
私のなすべきことは変わらない。
私の進むべき道はただ一つ。悪に堕ちたジャンヌ・ダルクを殺し祖国を救うことだ。
「勿論だとも。私は一度ジャンヌ・ダルクを殺している。であれば二度目が出来ぬ道理はない」
私は立ち上がった。もう一度ジャンヌ・ダルクを殺すために。
元よりこれ以外の選択肢などなかった。私はジャンヌ・ダルクに手をかけた。その瞬間から私の選択は決まっていた。
あの時から私はもう、止まることなど許されない。
「状況を報告しろ。現在の損害は。何割の兵士が生き残っている。どこの軍が動けている。フランス国王はどこにいる」
迷うな。目的に徹しろ。
躊躇うな。戦え。
何が何でも叶えたい願いがあるのならば、自分自身は勿論のこと、全てを犠牲にすることを受け入れろ。
殺せ。
殺せ。
もう一度ジャンヌ・ダルクを殺せ。
祖国を救うために。
諸事情につき、カルデアマスターはぐだ子もぐだ男も登場しております。
悲報 スランプにつき、更新頻度更に下がる見込みあり。
カルデアによびたい英霊
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聖女
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復讐者
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黒騎士
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貴族