フランスの悪魔   作:林部

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ぐだ子→竜の魔女視点です。



第2話 1431年6月13日

藤丸六香 - 2

 

「あの男は、ユダなのだから」

 

地の底から這い上がったような。恐ろしく低く憎悪に満ちた声、顔。それらを見て私は恐怖のあまり呼吸の仕方を忘れた。

 

 

 

「今度はオーセールから増援要請が来ておりますが」

「申し訳ないが応えられないと回答しろ。こちらも手一杯だ」

「…本当によろしいのですか」

「…。あぁ。今こちらを手薄にしてはならない」

 

貴族の朝は早い。というか中世の人の朝は早いらしい。この時代灯りは貴重だったから皆日の出と同時に活動を始め日の入りするとすぐ就寝するとマシュが言っていた。それは嘘ではなかったらしい。与えてもらった部屋のベッドが硬すぎて上手く寝ることができず早朝から散歩していたらイケメン騎士が他の兵士達と会話をしていた。私と会話する時と違い深刻そうな表情をしている。

 

「それより物資の補給はどうなっている。最近全く届いていないが」

「それが…補給ラインで何かが起こったらしく」

「ワイバーンか…補給ラインを叩かれるのは痛いな…しかし、どうしようもない、か」

 

朝から何か込み入った話をしているなぁと眺めていたらイケメン騎士とばっちり目があった。

 

「おや。おはようございますレディ」

「おはようございます。もうお仕事ですか」

「えぇ。まぁ。貴方こそ、こんな朝早くからどうされました?」

「あ、あー…その、目が覚めちゃって」

 

流石に部屋を与えてもらっておいて、あの部屋のベッド寝心地最悪すぎて寝れませんでした。とは言えず。あははと笑いながら適当なことを言う。騎士さんはニコリと微笑むだけで言及してこなかった。

 

「普段から早起きなのですね。素晴らしいことです」

「…あはは」

 

いい感じに勘違いしてもらえた。実は昼過ぎまで寝てるタイプだけど、あえてそれを言う必要はないだろう。私はまた笑って誤魔化した。

 

「あぁそうだ。ジャンヌを起こす係を貴女にご担当していただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「え?ジャンヌを?」

「はい。彼女はあまり朝が得意ではないので」

「え!?そうなんですか?」

 

驚いた。知り合ってまだ少ししか経っていないけれど、かなりのしっかり者のイメージだったのに。ジャンヌ。朝苦手なんだ。なんか親近感湧くなぁ。

 

「最近はそうでもなくなりましたが。昔はかなり酷かったんですよ」

 

騎士さんはニコニコと笑って話す。なんだか楽しそうだ。

 

「オルレアンの時なんて決戦の日に寝坊していましたからね。まぁ結局間に合ったので大問題にはならなかったのですが。もしもっと寝坊していたらイングランドに勝てたかどうか」

「えぇえ。本気でまずいやつじゃないですか」

「えぇ。今でこそ笑い話ですが当時はヒヤヒヤものでした」

「起こしてくれた人に感謝ですね」

「……。起こしてくれた人」

 

突然、騎士さんの顔から笑顔が消えた。背筋がヒヤッとした。あれ。これ、なんかまずいこと言っちゃったやつだ。

 

「あ、あの…」

「……そうですね。起こしてくれた人に感謝、ですね」

 

「あれ。六香?どうしたの。早起きだね」

 

能天気な声が聞こえた。兄 立香だ。少し離れたところから右手を降ってアピールしていた。

 

「ジルさんもだ!おはようございます!」

「おはようございます。リツカ」

 

そこで私は思い出した。そうだった。この騎士さんの名前はジルさんだったと。

 

「お二人とも早起きなようで。このジル・ド・レェ感心いたしました」

「え?」

 

立香はきょとんとした顔をした。実家にいた頃休日は毎回昼過ぎに起きてくる私を知っているから当然の反応だろう。

 

「そ、そうだ立香!まだジャンヌと会ってないよね!?寝てるだろうから起こしにいこうかな」

「ジャンヌさん?さっきマリーさんと話しているのを見たよ」

「あれ。もう起きてたんだ」

「そりゃサーヴァントだし」

 

あ、そうか。サーヴァントって別に寝なくても大丈夫なんだっけ。すっかり忘れていた。

 

「そうそう。さっきジャンヌさん達と話していたんだけど今日はジュラの方へ行くことになったよ」

「ジュラってどこ?」

「それは知らない」

「…また、外へ出られるのですか」

 

イケメン騎士、もといジルさんは険しい顔をしていた。彼は私達がここから出る事を好意的に思っていなかった。

 

「はい。味方がいるかもしれないので!」

「ジャンヌも、行くのですか」

「はい。ジャンヌさんは凄く強いので毎回助かってます」

 

兄はにこやかにジルさんの質問に回答していく。ジルさんの顔は相変わらず険しいままだった。

 

「そうですか……その、貴方がたにこんな事を言うのもどうかと思うのですが…どうかジャンヌを連れて行くのは控えていただきたい」

「え?」

「彼女は今、魔女と疑われています。もし他の軍が…特にイングランド軍が彼女を見でもしたら問答無用で襲いかかってくるかもしれません。ですからどうか、彼女はここで待機するよう貴方がたから説得していただけませんか」

「それはできません。ジル」

 

凛とした声が響く。振り返ると噂の人 ジャンヌが少し離れたところからこちらへ向かってきていた。

 

「ジャンヌ…」

「私はオルレアンを奪還しもう1人の私を倒します。これは私の意思です。今は、神の声も聞こえませんし、あの頃より戦力もないけれど。それでも私は成し得なくてはなりません」

「ッ危険すぎます。如何に今の貴方が我々より強力な肉体を得ていたとしても。下手をすれば我々以外の全てを敵に回してしまうかもしれない!」

「そうだとしてもです。私は最初から、たとえ1人きりであっても戦うつもりでした」

 

ジルさんはジャンヌの言葉に顔を歪ませた。あぁどうしよう。空気が重い。頼む兄よ。なんか喋ってくれ。

 

「大丈夫ですジルさん。目立たないように行動しますしマリーさん達も一緒ですから!勿論俺達も。それに危なくなったら逃げますから」

 

祈りが通じたのか兄は見ているこちらが気が抜けてしまうような締まりのない笑顔でそう言ったジルさんもそんな兄にあてられたのだろう。険しい顔が和らいだ。

 

「…絶対。絶対ですよリツカ」

「はい!」

 

兄は元気よく返事をした。

 

 

「ジルさんってジャンヌさんのこと凄く好きだよね」

 

ワイバーンを倒し終えた後、不意に立香がそう言った。彼なりにジルさんのジャンヌへの気持ちが気になっていたようだ。

 

「生前では共に戦場で戦った仲ですから」

「なるほど。戦友。生死を共にした熱い友情か」

「…友情、かな」

 

思わず口を挟む。立香はきょとんとした顔で私を見た。

 

「何か気になる感じ?」

「うん……や、2人の仲が良いのは良いことだし。ジルさんがジャンヌのこと本当に大事に思っていることは分かるし。ジャンヌもジルさんのこと信頼してるから良い関係なんだろうな、とは思うんだけど…」

《あぁ分かるよ六香ちゃん。彼は決して悪人ではないけれど。ジャンヌ・ダルクへ向けた彼の思いは、友情というよりは盲信に近い。今はまだ良いけれど。あのままいってしまうと………いや、いってしまったから、きっと彼は…》

「ドクター、何か知っているの?」

《……。ジル・ド・レェは、百年戦争で戦った優秀な騎士だった。けれど彼はその後の行いの方が有名だ。大量殺人貴族としての方がね》

「え…?」

 

聞こえた言葉に驚いた。大量殺人。あの優しいジルさんが。人を守ろうとしているジルさんが何で。横目でジャンヌを見る。彼女も驚いていた。

 

《ジャンヌ・ダルクの死後、彼は道を踏み外してしまうんだ。彼はジャック・ド・フゥベーに殺されるまでの約3年間非道な行いを繰り返していたという》

「なんで。そんな…」

《……その行動の理由は分からないけれど、ジャンヌ・ダルクが処刑されていなかったら彼は道を踏み外すことはなかったと言われているよ》

「…。そうですか」

 

ジャンヌが小さな声で言う。彼女になんて声をかければいいか分からなくて私はただ彼女を見つめていた。

 

「ジャック・ド・フゥベーさんは、ジャンヌさんの知っている人?」

 

兄が聞く。ジャンヌは暫く考えてから首を横に振った。その反応に何故かロマンがえ?っと驚いた。

 

《…あぁ!そうか。今ここにいるジャンヌは復権裁判の内容を知らないから》

「復権裁判?」

《ジャンヌ・ダルクの復権裁判だよ。ジャンヌ・ダルクはイングランドに異端審問にかけられ魔女とされてしまった。フランス国王シャルル7世は戦後、復権裁判を行い彼女の名誉を取り戻したんだ。その際フランスを勝利へと導いた英雄ジャック・ド・フゥベーの正体が明らかに…ってあ!サーヴァント反応だ!物凄い勢いでこちらに向かってきている!》

 

「こんばんは皆さま。寂しい夜ね」

 

ドクターの慌てる声に被せるように彼女は突然現れた。

 

「何者ですか貴方は」

 

ジャンヌが問う。

 

「そうね。私は何者かしら。聖女たらんと己を戒めていたのに、こちらの世界では壊れた聖女の使いっ走りなんて」

「壊れた聖女…」

「けれど、そうね。信じます。きっと私はこの為に遣われたのだと」

 

ビリビリと身体が痺れる。戦ったことなんて、ないけれど。それでも分かる。このサーヴァントは明らかに強い。

本能が告げる。逃げるべきだと。

 

「ッて、てったい」

「させないわ。ライダークラスの私相手に逃げ切れると思わないで」

「ッ…!」

「六香、大丈夫です」

「ジャンヌ…?」

 

ジャンヌはにこりと微笑み、震える私の前に立った。

 

「皆います。恐れる必要はありません」

「えぇ。いいわ。戦いましょう…!ジャンヌ・ダルク!!我が真名はマルタ!」

《マルタ…!?聖女マルタか!?気をつけろ皆!彼女はかつて竜種を祈りだけで屈服させた。つまり彼女はライダーとして最上位のドラゴン・ライダーだ!!》

「なっ……!?」

 

それは突然現れた。ワイバーンよりもずっと巨大で、恐ろしいドラゴン。一言鳴くだけで地面を揺らすほどの威力。

 

「この身は狂気に侵されし バーサーク・ライダー…!!さぁ殺し合いましょう!!」

《あぁそういうことか!この異常な強さは!皆!彼女は今狂化がかけられている!本来なら聖女マルタに狂化なんてかけられないはずなんだけど、おそらく聖杯の力で無理矢理》

「狂化って何!?」

《その名の通り英霊に狂気を付与する能力さ。狂化を受けた英霊は凡そ全ての能力が底上げされる!けれどその代わりに理性を奪われマスターの言いなりになってしまうんだ》

「じゃ、じゃああの人は無理矢理戦わされてるってこと…?どうにか出来ないのドクター!」

《無理だ…それこそ聖杯レベルのものがない限りは》

「ッ…!!こんなの、あんまりじゃないか!!」

 

兄が叫ぶ。敵であるサーヴァントの状況に彼は悲しんでいた。

 

「…それでも戦わなければ前に進めぬのなら、倒します…!!」

 

ジャンヌは真っ直ぐサーヴァントを見据え、旗を構えた。

 

「えぇ。そうこなくてはね。私のなけなしの理性が残っているうちに一気に決めましょう」

「魔力反応増大!?宝具です!マスター!!」

 

マシュは立香の前に立ち、盾を構えた。

 

「主が5日目に作りたもうたリヴァイアサン。その仔にして数多の勇者を屠ってみせた凶猛の怪物。今は私と共にあるタラスク。愛しらぬ悲しき竜」

 

ゴウ、と耳を覆いたくなるほどの輝く音を聞いた。それと同時に巨大な竜 タラスクの身体が白く変化し

 

「太陽に等しく沸る熱を操り今ここに!!」

 

彼女の声に応えるようにタラスクは凄まじい音とともに空へと飛んだ。

 

愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)!!!

 

そして、真っ直ぐ私達目掛けて襲いかかってきた。

 

「マシュ!」

「はい!皆さん私の後ろに下がってください!!」

「いいえ。マシュ。ここはどうか私に譲ってください」

「えっ、でも…」

「私の宝具も貴女と同じく攻撃を防ぐ類のもの。それに、彼女は私に言いました。戦いましょうと。であればこれは私が受けるべきです。どうか」

「分かった。助かるよジャンヌさん。俺もマシュには無理してほしくなかったんだ」

「ま、マスター…」

 

兄はニコリと笑いマシュを下がらせた。ジャンヌも微笑みで返し今もなおこちらへ襲い掛かろうとしているタラスクを見つめた。

 

「主の御業をここに」

 

ジャンヌは旗を掲げた。真っ白なその旗はとても美しかった。

 

「我が旗よ。我が同胞を守りたまえ」

 

我 が 神 は (リュミノジテ)こ こ に あ り て(エテルネッル)

 

瞬間、真っ白な光が全てを包んだ。

 

 

 

「ぁ…っ!」

 

気がついた時にはジャンヌの旗がマルタを貫いていた。ジャンヌの身体はマルタの血で染まっていた。

 

《聖女マルタの霊核を貫いた…藤丸君達の勝ちだ!》

「……ごめんなさい。ジャンヌ・ダルク。血で…汚しちゃったわね。代わりに…少しだけ……教えてあげる…から」

 

霊核を貫かれたことで狂化が解けたのか、マルタはゆっくりと話してくれた。リオンへ行けと。空の竜をどうにかしたいのであればリオンにいるドラゴンスレイヤーへ会いに行けと。

 

「聖女マルタ…貴女は」

「そんな顔しない…良いのよ。これで、良いの……全く」

 

彼女の身体が消滅していく。けれど彼女は出会った頃よりもずっと穏やかな表情だった。

 

「聖女に…虐殺させるんじゃ、ないってぇの…」

 

その言葉を最後に彼女の身体は光となり、完全に消えた。

 

 

「というわけで、明日はリオンに行く予定です」

「なるほど。聖女マルタが。あのようなお方でもお目にかかることができるとは…」

「狂化されていたので、あれは本当のマルタさんじゃないんでしょうけどね…いつか本当のマルタさんと出会えたらいいなぁ」

 

夜。再びラ・シャリテのジルさんの砦へと戻った。彼は無傷のジャンヌを見て安心していた。それから私達を見て怪我がなくて良かったと言ってきた。あれは完全にジャンヌのついでに慌てて確認した感じがした。まぁ良いんだけど。

 

「サーヴァントとは素晴らしいですね。亡くなった人に再び会うことができるとは」

「正確には亡くなった人っていうより英雄になった人、らしいんですけど…だから架空の人物も呼べるらしいんです」

「な、なるほど…では、君が昨日紹介してくれたフランスの王妃というのは」

「マリーのことですか?マリーは実在した人ですよ…」

 

言いながらあれ、と思った。マリーは日本じゃ大人気なんだけど、何でフランス人のジルさんが知らないんだろう。

 

《マリー・アントワネットはこの時代より後の人だからね…ジル・ド・レェが知らないのは当然だよ》

 

そんな私の疑問に気付いたのかドクターがフォローに入ってくれた。

 

「あぁなるほど!だからマリーはジャンヌのことを憧れの人って言ってたんだ」

《彼女の時代にはジャンヌ・ダルクが聖女であるって認められているから。嫁ぎ先の女性の英雄は特別な存在に思えたんだろう》

「……ジャンヌも、死んでしまったんですね…」

 

沈んだ声に思わず口を閉ざした。悲痛な顔の彼になんて言ったらいいか分からず黙ってしまった。

 

「いやなに…分かってはいるんです……私は彼女の死に際に立ち会えなかったけれど。彼女が火にかけられた時の悲鳴を今でもよく覚えているから」

「ジルさん……あの」

「目を閉じれば、いつも聞こえてくるんだ……彼女の、火にかけられた時の悲鳴が」

 

目を閉じながらジルさんは言う。彼の耳には私達では想像できないほど悲痛の声が聞こえているのだろう。ジルさんはゆっくり目を開け遠くでマリーと楽しそうに話しているジャンヌを見つめる。

 

「あんな風にしている彼女を見ていると、彼女があんな惨い思いをさせられたことを忘れられそうだ」

 

穏やかな瞳のその中に見てはいけない何かがあった気がした。

 

 

「恋バナをしましょう!!」

 

突然キラキラした声が耳に飛び込んできた。

 

「…マリー?」

「恋バナをしましょう六香!こんなにも女の子がいっぱいいるんだもの!恋バナがしたいわ!女子トーク!」

「い、良いよ…?」

「本当!?ありがとう!じゃあ後で私とジャンヌのお部屋で女子会しましょうね!絶対よ!」

「う、うん」

 

マリーの勢いに押されるがまま返事をする。マリーは満足したのかジャンヌの元へ帰っていった。2人は仲良く廊下を歩いて行った。多分部屋に戻って女子会のための準備でもするんだろう。

 

「おーい六香ー、マリーさんが探してたよー。あれ、ジルさんと一緒だったんだ」

 

手を振りながら立香がやってくる。珍しくマシュがいない。

 

「女子会するから来てほしいって言ってたよ。興味あったら2人の部屋に来てって」

「あぁさっきマリーから聞いたよ」

「あ、そうなんだ。そういえばさっきマシュと話していたんだけど多分、はぐれサーヴァントにジャック・なんとかっていう黒騎士がいる可能性が高いって。さっき兵士さんに聞いたんだけど身内相手でも歯向かう人には皆殺しにするような人なんだって」

「こっっっっわ…黒騎士って、ドクターが怖がっていた人かぁ」

 

クラスは何だろう。怯えるほど怖い人ならバーサーカーなのかなぁ。どのクラスでも良いけれど会話が通じるタイプがいいなぁ。

 

「とりあえず今の話マリー達にも伝えておくね」

「頼んだ!」

 

「…今、なんと」

 

ニカっと笑う兄に笑い返すと隣から低い声が聞こえた。あまりに低すぎて私も兄も聞き取れず、何ですか?と2人して聞き返していた。

 

 

「今、なんと、言った」

 

ジルさんの顔が険しくなった。あまりの変化に声が出なかった。

 

「ひぇっ…ま、マリーさん達が六香と、じょ、女子会を…」

「黒騎士と、言ったか。あの男が、サーヴァント……ジャンヌと同じ、英霊としてこの地にいると…?」

「へ?…あ、はい。もしかしてお知り合い、だったり?」

 

ジルさんが立香を睨みつける。とんでもない殺意を込めて睨むものだから震え上がった。何で怒られてるのか分からなかった。きっと黒騎士っていう人がジルさんにとって良くない存在なんだろうけど…それ以上のことは分からなかった。一体何があったんだろうか。

 

"ここで彼の話は控えましょう。彼は、その…この時代の人にあまり良くないイメージを抱かれている可能性が高いので"

 

…マシュやドクターにちゃんと聞いておけば良かった。今更ながら後悔した。

 

「……サーヴァント。あの男が、この地に2人……悪夢か、これは」

「…ジル、さん?」

「私は野暮用ができましたのでこれで。失礼します」

 

ジルさんは血走った目で廊下を早足で歩いていく。

 

「…あぁ、そうだ」

 

かと思えば突然歩みを止め振り返りこちらを見た。変わらず目が血走っていて怖かった。

 

「もし黒騎士と名乗る男が現れたらすぐに逃げるように。あの男の言う事に耳を貸さないように。いいですか。味方になるなんて思ってはいけない。決してあの男を信用してはいけない」

 

「あの男は、ユダなのだから」

 

地の底から這い上がったような。そんな恐ろしく低く憎悪に満ちた声。顔。それらを見て私は恐怖のあまり呼吸の仕方を忘れた。

 

 

「私なんて思春期真っ只中ですから恋とか愛とか大好きでたまらないの!」

「な、なるほどね…」

 

ジャンヌ&マリー部屋にて。マシュ、清姫、エリザベート、私が2人の部屋にお邪魔していた。マシュとジャンヌは戸惑っているようで少しおどおどしている。

 

「ねぇエリー?話してくださらない?生前の恋の話とか」

「生前…は、結婚してたけど……。今のアタシはその前の姿だし。でも一度だけ、あったかな。ここじゃない、どこかで」

 

恥ずかしそうに、けれど楽しそうにエリザベートは話す。

 

「では私もお話ししましょう。生前まさに燃えるような恋をしました」

 

清姫も照れながらも話してくれた。

 

「お相手は安珍様という旅の僧侶の方。私一目で好きになって思いを伝えました。断られてしまいましたが安珍様は再会を約束してくれました。ですが安珍様は会いに来てくださらなかった。私を恐れ逃げたのです。嘘をつき裏切ったのです」

 

「だから私、追いかけました。追いかけて追いかけて」

 

「悲しみで怒りで憎しみで、いつの間にか私、竜になっていました。そして追いついた先の御寺の鐘に隠れた安珍様を竜の火炎で鐘ごと焼き尽くしたのです」

 

すごい。圧倒的恋バナ(これ)じゃない恐ろしいエピソードが出てきた。

 

「それじゃないわよ!もっとポップでキュートなのにしなさいよ!!」

「失礼な!!逃げ惑う安珍様はキュートでしたわ!!」

「レイカは恋したことありまして?」

 

マリーがにこやかな顔でこちらに話題を振ってきた。

 

「あー…まぁ。これでも女子高生なんで」

「まぁ!まぁまぁまぁ!!」

 

キラキラと王妃の目が輝く。期待してもらっているところ申し訳ないのだけれど本当に普通の恋愛しかしたことがない。告白してもらって付き合って。遊園地とか水族館とか行くデートをして。という如何にもな定番を何回か経験しただけだ。

 

「十分素敵よ!!やっぱり恋って素敵だわ!!」

「あ、はは…ご期待に添えたようで何より。あ、ジャンヌは?」

 

これ以上追求されると面倒なことになりそうだなぁと思ってジャンヌに聞くと彼女はまだ戸惑っていた。その顔を見てからしまったと思った。この子私とそんなに歳変わらないのに国救った子なんだから、きっと恋愛なんてしている余裕なんてなかったのだろう。咄嗟に謝りたい衝動に駆られたけれど、それもそれで失礼な気がして何も言えなかった。

 

「…私は……私の場合は。なんと言いますか……ええっと、失恋しか、経験が……」

 

けれど私の予想を裏切って彼女はおずおずと己の恋愛談を話した。聞こえた単語に私は驚愕した。

失恋!?こんな可愛い子が!?こんなスタイルのいい子が!?一体どこのどいつだ非の打ち所がないこの子をフリやがった男は。どんな価値観してんだソイツ。信じられない。

 

「失恋は、苦しいものね…えぇ。えぇ。分かるわ」

 

マリーが本当に苦しそうな表情でジャンヌに寄り添う。ジャンヌは困った顔で笑っていた。

 

「確かに苦しいものでしたし…胸がとても痛くなりましたけど。でも私は最期に恋をしたことを誇りに思ってます。この人生にも。おそらく私が捕まらなければ彼とは会うことができず。この恋が芽生えることもなかったでしょう」

「え……」

 

思わず声が出る。私が捕まらなければ彼とは会うことができなかった、って、それって…ていうことは。

 

「……敵兵、だったの?」

 

聞いていいか迷った末聞いた。小声になってしまったのは申し訳なさがあったからだ。ジャンヌは穏やかな表情で頷いた。

 

「それは…」

 

なんと言っていいか分からず私は目を泳がせた。一体どうして敵に恋をしてしまったのか謎だけれど。きっと戦場で生きるもの同士何か通じ合う部分があったのかもしれない。そこまで考えて、私はあれ、と思った。

 

”おそらく私が捕まらなければ彼とは会うことができず。恋が芽生えることもなかったでしょう”

 

捕まらなければ会えない、ということはジャンヌとその敵兵は、戦場では会っていない…?

 

「私の恋は皆さんが思っているほど悲劇というわけではないですよ。私は彼に恋をし、彼には想い人がいましたが…それでも彼は恋とは別の形で私を愛してくれていたと思います」

「……そっか」

 

そういうのって余計に辛くなるやつだよなぁと思いつつも。余計なことは言わず私はそれ以上の追求をやめた。

 

「…マリー。マリーの恋バナが聞きたいな」

「あら」

 

私はマリーに笑いかける。マリーはニコリと微笑んでくれた。

 

「では初恋の話を…あれは私が7歳。彼がまだ6歳だった頃シェーンブルンでの演奏会で私たちは出会ったの。緊張していたのかしら。彼は床に滑って転んでね。私が手を差し出すとキラキラした目で見つめてこう言ったの。”ありがとう素敵な人。もし貴女のように美しい人に結婚の約束がないのなら僕が最初でよろしいですか?”そう言ってくれたの!あんなにときめいたのは生まれて初めてだったわ!」

「それでそれで!彼とはその後どうなったの!!?」

「それっきり何も。7年後には私は結婚してしまった」

「そっかぁ…」

 

聞きながら切なくなる。マリーは王族だからきっと決められた相手と結婚したのだろう。たとえその初恋の人と結ばれたくても叶わなかったのだろう。

 

「でもね、その彼とは皆もう会っているわ」

「え……」

 

全員が固まった。それはそうだろう。だって、マリーと同じ時代の人で召喚されているのは。

アマデウスしか、いないのだから。

 

「それって、まさか…」

「うふふ♪」

 

マリーが恥ずかしそうに、けれどそれ以上に楽しそうに微笑む。それが答えだった。

その後全員の驚きの声が響き渡ったのは言うまでもない。

 

 

「あぁそうだ。皆に共有しないといけないことあるんだった」

「共有?」

「うん。多分はぐれサーヴァントに黒騎士がいる可能性高いって」

 

ジャンヌの顔が驚きに染まった。

 

「あら、そうなのね。こんな状況だもの。呼ばれるのはジャック・ド・フゥベーね……彼はこの時代を生きているはずなのだから、2人いるって事になるのかしら」

「……ジャック・ド・フゥベー」

「あ、やっぱりマリー知ってるんだ」

「勿論よ」

 

マリーはニコリと微笑む。

フランスの悪魔って呼ばれているくらいだからフランスの英雄だもんね。ジャンヌ達より後の時代のマリーが知ってるのは当然か。

 

「敬愛している方だもの。彼のことを裏切りの英雄、だなんて呼ぶ人もいるけれど。私は彼の事を心から尊敬しているわ」

「裏切り…」

「そうなんだ…ドクターは黒騎士のことを悪魔って言っていたけれど」

「え…」

「あぁそうね…そう呼ぶ人もいるわ」

 

裏切りの英雄とも悪魔とも呼ばれているってことか。裏切り行為を悪魔って言われているってことかな。ふぅんと納得し、ふと横を見るとジャンヌが驚愕の顔をしていた。

 

「…ジャンヌ?大丈夫?」

「……。はい……えぇ。そう…ですか。彼は、後世の方に、そう呼ばれてしまうんですね」

 

ジャンヌが目を伏せる。悲しんでいると誰が見ても分かった。

 

「……ジャック・ド・フゥベーは、ジャンヌ・ダルクの幼馴染でした」

 

困惑した私にマシュが小さな声で教えてくれた。

 

「彼自身はフランスで生まれフランスで育ちましたがイングランド派の父の影響を受けイングランドにつきました。ですがジャンヌ・ダルクが亡くなるとフランスへつき、フランスを勝利に導きました。ジャック・ド・フゥベーはフランスを勝利に導いた際の彼の名前です」

 

イングランド派の父…。何でお父さんがイングランド派だったんだろう?敵国の味方をするなんて、そんなのあっていいんだろうか。

 

「彼が何故フランス側へついたかの理由は定かではありません…彼の立場であれば絶対にイングランド側に立つべきでしたし彼がフランス側につくメリットはありませんでした」

「じゃあ何で」

「これはあくまで仮説の域を出ない話ですが、ジャンヌ・ダルクの審問を最後に担当したのは彼です。彼はジャンヌ・ダルクと会話したことで感化されたのではないかと言われています」

 

おそるおそるジャンヌを見る。ジャンヌは真剣な顔でマシュの話を聞いていた。

 

「そう、なのですね」

「…ジャンヌ」

「私は…彼について、あまりにも何も知らなかったのですね……彼の父とは何度も話したことがあったのにイングランド派だったなんて今、初めて知りました」

 

ジャンヌはぎゅっと拳を握った。

 

「どうしてイングランドの騎士になっていたのか。その後どうしてフランスに帰ってきてくれたのか…その全てを私は知りません。私に感化されてという話も正直、腑に落ちません」

 

寂しそうな表情でジャンヌは語る。

 

「…悔しいものですね。私の人生はほぼ全て彼と共にあったはずなのに。彼のことは何でも知っている自信があったのに。私は彼のことを何も分かっていなかった」

「ジャンヌ…」

 

ジャンヌはどこか遠くを見つめて呟く。私はなんと声をかけていいか分からず目を泳がせた。マシュも困った顔をしていた。

 

「あら。なら、これから分かればいいのではなくて」

「え…?」

「この特異点に彼は2人いるのでしょう?会話する機会も2倍に増えているのだから知らなかったこと、分かっていなかったこと。いっぱい彼に教えていただきましょう」

 

ね、とマリーはジャンヌの手をとる。ジャンヌはマリーの勢いにおされるがまま頷いた。

もう時間が遅くなっていたこともあり、その日の女子会はそこで解散されることとなった。女子会自体はまた不定期に開催するから是非来てほしいとマリーに言われた。

 

 

「黒騎士かぁ…」

 

与えられた自室で1人呟く。

フランスの兵士さんがいうには、身内相手でも歯向かう人には皆殺しにするような人で。

ジルさんがいうには、信用してはいけないユダで。

マリーがいうには、敬愛している人で。

ジャンヌがいうには、ずっと一緒にいたはずなのに理解できなかった人で。

マシュがいうには、イングランドにいたけれどフランス側についた裏切りの英雄で。

ドクターがいうには、フランスの悪魔。

 

……なんだかよく分からない。嫌な評判ばかりなのが気になる。はぐれサーヴァントの彼と出会った時ジャンヌやマリーのように快く仲間になってくれるかどうか怪しい。裏切り者らしいし仲間になってくれてもその後、裏切られる展開も考えておかないといけないよなぁ。うーん、楽観的に考えても今までのようにすんなり仲間に、とはならないんだろうなぁ。

 

「でも、そうはいっても進む以外道ないもんなぁ…」

 

とりあえず、やるべき時に備えて今はゆっくり眠りにつこう。そう思い、私はベットに入り眠りにつく。

 

 

数日後、どうして黒騎士が悪魔と呼ばれているのか。その理由を嫌でも思い知らされることになるとは知らずに眠気に身を任せていた。

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ジャンヌ・ダルク? - 2

 

「バーサーク・ライダーが討たれましたか……まぁ良い。代わりのサーヴァントを喚びましょう。それよりもキャスター。あのセイバーまだ生きているようですが?私は殺せと命じましたよね?何故、殺さなかったですか?」

「あは、ジャンヌちゃんすっごい怖い顔するねぇ。怒ってるの?」

 

明らかにこちらを挑発する物言いに苛立ち彼を睨む。彼はニコニコと楽しげに笑うだけだった。それが余計こちらの神経を逆撫でした。

 

「命令は守ってるよ。心配しなくてもいずれ死ぬさ。なんていったって、いっぱい呪いをかけてあげたんだから。あれだけの英雄が民衆の悲鳴を聞きながら呪いに苦しむことしかできないんだ。あっはは!最高に好いシナリオだと思わない!?彼は死ぬよりずっと辛い思いをするんだよ。聖処女が凌辱されるのと同じくらい辛い思いをね!!」

「……セイバーが死ぬよりも先に貴方を殺してあげましょうか」

「怖いなぁジャンヌちゃんは。でもいいね真っ黒で。そんな風に歪んだ君を見れて僕はとても嬉しい」

 

…本当にこのキャスターは何を言っても楽天的に受け止める。なんて疲れる英霊なんだろうか。

 

「まぁいいです。ちゃんと死ぬのであれば今回だけは不問とします。それよりキャスター。私をパリへ連れて行きなさい」

「パリ?」

「えぇ。あの男の行き先がパリなのだから。ここから千里眼であの男を見てもあの忌々しい兜のせいでその素顔が見れない。であれば、無理やりその兜を引き剥がしに行けばいい。命令です。2人目のキャスター。私を彼の元まで案内なさい」

「あっは!いいね!いいね!最っ高だよその命令!流石ジャンヌちゃん!!」

 

キャスターは大袈裟に喜んだ。本当にやりずらいったらありゃしない。

 

「いいとも!ベストなタイミングで君を彼の元へ連れて行くよ。あぁ楽しみだなぁ。彼、どんな顔を見せてくれるのかなぁ」

「適度に遊ぶのは構いませんが……手を下すのは許しません。あれは、私がこの手で殺すと決めているのだから」

「勿論だよ。君の復讐を邪魔するだなんて、そんな無粋な真似はしないさ」

 

にぃっとキャスターは笑う。歪な笑みだった。キャスターは水晶に映され続けている黒い鎧の男に視線を移す。

 

「ようやく出会えるんだね僕たち」

 

まるで愛しい恋人と運命の再会を果たしたかのように。キャスターは頬を褒め嬉しそうに微笑んだ。

 

「嬉しいよジャック。僕はずっとずっと、この時を待っていたんだよ」

 

 

 

「君の心が壊れる瞬間をずっと見たかったんだ」

 

 

 




【カルデア陣営の主なメンバー】
・ぐだーず
・マシュ
・ジャンヌ
・マリー
・アマデウス
・清姫
・エリザベート
・ジル

【竜の魔女陣営のメンバー(現時点での情報)】
・ジャンヌ(竜の魔女)
・ジル(キャスター)
・聖女マルタ(ライダー)
 →消滅
・2人目のキャスター

カルデアによびたい英霊

  • 聖女
  • 復讐者
  • 黒騎士
  • 貴族
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