ユリウス・テイラー - 2
「……私を、恨んでいるのか」
「あは。あはは、あっはははははは!!!!ジャックは賢いと思っていたけれど案外馬鹿なのね」
ジャンヌ・ダルクは心底愉しそうに笑う。ジャックは沈んだ表情で彼女を見つめた。
「当たり前じゃない!私はお前が憎くてたまらない!!私を裏切り!!私を穢し!!私を殺したお前を!!!一瞬でも忘れたことはない!!お前だけは絶対に許さない!!!たとえ神が邪魔だてしようともお前だけは!!私がこの手で殺してやる!!!!」
とてつもない殺意に私は震えた。音を出してはいけないと分かっているはずなのにガタガタと震えた。あぁ変わってしまった。本当に、噂通り魔女になってしまった。かつて聖女のようだった彼女がこの男に殺されたことで。国を救済する聖女から復讐者になってしまった。
「っ…であれば、何故今私を殺さない…?どうして関係のない人々を殺した!?君が憎いのは私なのだろう。なら殺すのは私だけで良かったはずだ!何で私を真っ先に殺さなかったんだ!?」
「その顔が見たかったわ」
「は…?」
ジャンヌ・ダルクはグッと彼に顔を近づける。困惑する彼の顔を満足げに見つめた。
「ねぇ、どう?貴方が守ったイングランド人を殺される気分は。ふふ、大切な人がどんどん死んでしまうのを見てどう思ったの?悲しい?辛い?私が憎い?」
「ッ…君は」
「不公平じゃない。私ばかり貴方に苦しめられて殺されて。なのに貴方をすぐに殺してしまうなんて。そんなの絶対に許さない。私が味わった以上の地獄を貴方に味わわせるまで死ぬなんて許さない…!私が味わった地獄はこんなものでは済まされない!!もっともっと苦しんでくれないと。あは、あっはははははは!!!」
女はひとしきり楽しそうに笑った後、極上の笑みで彼を見下ろした。
「貴方が教えてくれたんですよ?この世界は残酷だって。だから私も貴方に教えてあげましょう。地獄の炎でその身を焦がされるより冷酷で残虐な現実を」
「……君が、罪の無い人々を殺したのは、私のせいだというのか」
「えぇ、そうね。全部貴方のせいよ」
「………」
ジャックの目が揺らぐ。ジャンヌ・ダルクはそんな彼の様子を瞬き一つせず見ていた。
「……では何故、君はあの時微笑んだ」
「はぁ?」
「笑って、いただろう。私が君の罪を確定させたあの時。君は何の躊躇いもなくサインした…!」
「狂乱したのかしら。笑った?私が?笑えるわけないじゃない。イングランドに捕まってから私がどんな目にあったか。お前に!どんな目に遭わされたか!!そんな状況でいったいどう笑えと!?」
ジャックはハッとした顔でジャンヌ・ダルクを見た。何か思い当たる節があったのだろうか。彼の表情から動揺が消えた。
「……。狂乱、か。そうかもしれないな。なぁ、教えてくれないか。君が何故そこまで私を恨んでいるのかを」
「はっ!この期に及んでまだ自分の罪に気付いていないと!!?どんだけ愚鈍なのお前は!!いいわ!教えてあげましょう!!まず一つ目。私を裏切りイングランドに魂を売ったこと」
「変なことを言う。私は君がイングランド軍へ拘束されて初めて顔を合わせたが?もしや誰かと勘違いしていないか?」
えっ。と声が出そうになる。彼の正気を疑った。イングランド人相手にそう言うのであれば理由は分かるが、相手は彼の幼馴染のジャンヌ・ダルクだ。そんな何の意味のない嘘をついて一体何になるというのか。彼女の殺気に当てられ動けなくなった身体で私は目だけで彼を見た。彼は変わらぬ表情で彼女を見上げていた。
「…私を馬鹿にしているの……あぁそう。イングランドに魂を売ったときに私のことを忘れたってことかしら。だからイングランドの兵士達にこの身を穢された時も容認したってわけ」
「兵士達に穢されただと?」
「…見ていたじゃない。拘束され牢獄に入れられた私が凌辱されるのを。あれは牢へ入れられてすぐのことだったわね…私が穢されていく姿は見ていて愉しかった?」
「……。あぁ、なんだ。そんなことか」
男はにこりと微笑む。優しそうなその顔が不気味だった。
「意外だな。フランスでは神の子と呼ばれていたような子がたかが凌辱如きで腹を立てるか」
「……たかが?たかがと言いましたか」
「だってそうだろう。君はフランスを救おうと立ち上がった。それなのに、たかが数人の兵士の相手をさせられたことに怒りを覚えるとは…まるで乙女のようじゃないか」
カッとジャンヌ・ダルクの顔が赤らむ。これはきっと羞恥と怒りだ。この会話は一体なんだ?何故こんな会話をする?私は困惑しながら二人のやりとりを見守った。
「あぁ。ところで」
楽しげに話していた男が不意に真顔に戻る。そのあまりの変わりようにジャンヌ・ダルクは息を呑んだ。
「貴様は一体誰だ」
「ぁ、ガッ…!?」
次の瞬間、ジャックは彼女の首を掴み、床へ叩きつけた。ダンッと激しい音がした。とんでもない速さでジャンヌ・ダルクは床へ叩きつけられた。彼は馬乗りになり彼女の首が締め上げた。
「グッ…ッぁ、なせ…ッは、な…っせ!」
「凌辱された?ジャンヌ・ダルクが?イングランド軍に?貴様は私に殺されたいのか?それともただの煽り文句か?だとしたら煽る相手を間違えたな」
「な、に…ッを」
ジャンヌ・ダルクは必死に抵抗する。彼の手を引き離そうともがくが体勢が悪い。上から押さえつけられているこの状況では彼女はどうしたって抜け出すことはできない。
「貴様はイングランドの審問に疑いをかけた。ベッドフォード公爵夫人になんたる無礼な発言をしたか理解しているか。あのお方のご協力のもと行われたジャンヌ・ダルクの処女検査の結果を、貴様は今否定したのだ」
「ッ…?」
「………なるほど。知らないのか。教えてやろう。ジャンヌ・ダルクは異端審問にて処女検査を受けた。その結果、彼女の処女膜が確認され彼女は正式に処女であると認められた」
ジャンヌ・ダルクの目が大きく見開かれる。
「ジャンヌ・ダルクの異端審問は何ヶ月にもかけて行われた。何故時間がかかったのか。それは処女検査にて彼女が処女であることが認められてしまったからだ。この意味が分かるか?魔女は悪魔と契約した際、処女を失うと言われている。つまり処女であったジャンヌ・ダルクは悪魔と契約していないといえる。今まで審問にかけられたほぼ全ての女はこの処女検査で非処女だったがジャンヌ・ダルクは処女だった。この異例の事態への対応が遅れ審問は数ヶ月にも及んだ。私も骨が折れたよ。ジャンヌ・ダルクの罪を暴くことに」
「ッ、な…ッグゥ…!!」
「女。貴様はイングランド軍に凌辱されたと言ったな。兵士に凌辱されて処女のままでいられるとでも思っているのか」
みしみしと彼女の首から、してはいけない音がなる。このまま、ここで殺すつもりだ。彼女は必死に暴れようと試みるが彼押さえ込まれている。
「貴様はジャンヌ・ダルクではない。偽物だ」
「ッ…!!」
「もう一度問おう」
男は言う。かつて愛していたとされる女の細い首を両手で締めながら。一切力を緩めることなく。このまま彼女の首の骨を折ろうとしている。そんな状況で彼は問いを投げかけた。
「ぁ、がッ……ッや、め」
「女。貴様…」
苦しる彼女の声も引き剥がそうと両手を握られていることも、暴れる彼女の身体も全てを無視して彼は言う。
「貴様は、一体誰だ……ジルに、何をされた?」
彼女は大きく目を見開いた。
「ッ…わ、たし、は…!!!」
「っ!」
突然彼女の手から黒い剣が出現した。彼は素早く腰の剣を抜き、突き刺そうとする彼女の剣を弾いた。
「ッ!一体、どこから…っ!!」
彼女は素早く起き上がり、いつの間にか持っていた黒い旗で彼に襲いかかる。彼は左手でその旗を押さえた。
「私は…ッ!!私、はァア!!」
「っ…!」
彼女は思いっきり両手で旗を振る。彼は耐えきれず後ろへ後退した。その隙を見逃さず彼女は起き上がり旗を振り上げた。
「ゴホッゴホ……ッ私はジャンヌ・ダルク!!!お前の言葉など信じるものか!!!!これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮!!!!」
彼女はジャックを思い切り睨みあげ旗を振り下ろす。
「
瞬間、炎の渦がジャックを襲った。
「ぁっ、ジャッ」
「下がれぇえええぇええ!!!!」
「ッ!?」
「……!ぅ…っ!」
気がついた時、私の身体は壁に埋まっていた。背中が痛い。がそれ以上に腹が痛い。覚えているのは炎の渦がジャックへ目掛けてとんでくる直前、振り返り眉を釣り上げた彼がこちらを見たこと。下がれと叫びながら彼に腹を蹴り飛ばされたこと。あぁこの腹の痛みは彼のせいか。どれだけの力で蹴ったんだあの男は。部屋の扉を突き抜け廊下へ飛び出した私の体はそのまま壁に衝突し意識を失っていたらしい。
「カハッ……っぐ…」
どうにか起き上がる。と同時に腹が痛んだ。幸い骨に異常はない。数日は痛みを引きずるだけで済みそうだ。私はふらふらと部屋に近づいた。ジャックはどうなった…?あの男、私をあの炎から離れさせた後何をした?…部屋の中が異様に静かではないか?
「ッジャック!!」
彼は部屋の中で座り込んでいた。あれだけの炎に襲われたのだ。骨も残らず消し炭のようになったっておかしくはないというのに彼は人の形を保ち座っていた。
「……テイラー」
「…あの女は……」
「逃げられた…ッ実力を見誤った……さっさと、殺すべきだった。ッ畜生…また、街があの女に襲われる……また、犠牲が…ッ」
「責めなくていい……炎を操るような魔女なんですから、生きているだけ上出来です」
私は彼に近づいた。無傷ではなかった。右手から煙と異臭が立ち込めている。だがそれ以外、異変はない。流石、一騎打ちであれば無敵と言われるだけのことはある。炎なんて防ぎようのない攻撃を凌げるなんて化け物かこの男は。
私は彼の籠手を外した。
「な、何だ、これは」
外した瞬間、彼の小指らしい位置にあった真っ黒な塊がボロボロと崩壊した。隣の指も真っ黒。その隣の指も真っ黒だった。火傷らしくなっているのは親指と人差し指のみ。
「灰にされたらしい…放っておけば広がるようだ。切断してくれ」
「ッ何か斬るものは…」
「君の剣でいい」
「何を馬鹿な事を!清潔なものでなければ駄目に決まっているでしょう!最悪傷口が原因で病に」
「良い。私は死なない。それよりもこれ以上指を失う方が痛い」
「何故死なないと断言できるのですか」
「長生きすると約束したからだ」
「は…?正気ですか?」
「…私は祖国を救うまで絶対に死ねない。だから安心して私の指を斬り落としてくれ。早く」
辺りを見渡す。勿論都合よく清潔な刃なんてある訳がなかった。もう一度彼の右手を見る。この数分だけで灰と化した面積が広がっている。
「早く、テイラー」
「ッ…!」
私は自身の剣を手に取り彼の指を3本斬り落とした。
・
・
・
「親指が無事で助かった…運がいいな私は」
ダラダラと冷や汗をかいた彼は沈んだ顔でそう言う。
「笑えない冗談を言うくらいなら何も言わぬようがマシです。貴方は絶望的にジョークのセンスがない」
「テイラー…ジルだ」
「え?」
「ジル・ド・レェは、あの女の、関係者だ」
彼は私の話を聞かずにそう言った。
「現時点では、あくまで疑惑でしかないのでは?ラ・シャリテへ行くまでは分からないでしょう」
「いいや私は確信している。ジル・ド・レェは、あの女と何らかの関わりをもっていると」
「何故そう思われたのですか」
「あの女が、言ったからだ…ジャック・ブラウンは裏切り者だと。ジャンヌ・ダルクは、イングランド軍に凌辱されたと…」
彼は右手の親指と人差し指を動かす。2本だけとなったソレが正常に動くか確かめているような動作だった。
「イングランド人であればジャンヌ・ダルクが凌辱されたなどと言うバカはいない。ジャック・ブラウンが裏切り者だと知るのは、フランスの上層部と同じスパイだけだ。そして、その彼らは全員ジャンヌ・ダルクの異端審問の内容を正確に知っている。私が、全て伝えていたからだ。もしあの女の言った事が嘘ではなく、そしてあの女と同じ情報を持つ人物がいるのだとしたら。それは、フランスの上層部でもスパイでもないフランス人であり。たまたま私の顔を…私の正体を知ってしまった人物のみだ」
「………」
”馬鹿な…ッ君は、死んだ、はずだ……パテーの戦いで。君は死んだと!!ジャンヌが言っていた!!!何故君が生きている!?!?…ッ何故、イングランド軍にいる!?!?何故!何故…ッ何故君がジャンヌを殺そうとするんだ!?!?”
再び思い出した。
ジャック・ブラウンの罠にはめられた、あの日の
「では、あの女は何者ですか。確かにジャンヌ・ダルクと同じ姿ですが、全くの別人というのですか?」
「あぁ。造形がたまたま似た作りの女だったのか、それとも何らかの力を用いて寄せたのかは知らないがな。あれは我々の知るジャンヌ・ダルクではない。ジャンヌ・ダルクはもうこの世にいないのだから。死者は蘇らない。絶対に」
「…何からの力で寄せたって…本気で言っているのですか?」
「君も見ただろう。あの女は何もないところから剣や旗をとり炎を操った。最早我々の常識で考えることは無意味だ。ともかく、これではっきりした。ジル・ド・レェに情けは不要だ」
彼はグッと左手を握りしめた。
「あの男は、ユダなのだから」
ギラリと彼の目が光る。その瞬間、殺風景だったはずの部屋が一気に華やかになった。
「は…?」
言葉通り、
「ッー!?」
ジャックはすぐさま立ち上がり右手で剣を抜き左手に持ち替えた。
「凄い凄い!もうそこまで辿り着いちゃったんだ!流石だね!」
ちょうど同じくらいのタイミングだった。ふざけた子供のような声が聞こえたのは。まるで最初からそこにいたかのように、ごく自然にその少年は我々の目の前にいた。この状況にそぐわない笑みを浮かべて、そこに立っていた。
「どうかな。気に入ってくれた?田舎育ちの君は金ピカまみれよりも、こういうお花畑の方が好きでしょ?」
「…その口ぶり。これは貴様が我々に見せている幻だというのか」
「あれ、取り乱さないんだ?君、リアリストだから結構焦ると思ったんだけどなぁ……あぁ、それとも、こっちの方がお好みかな」
パチンと少年が指を鳴らす。次の瞬間、我々は花畑から見覚えのある場所へと移動していた。
「ここは……ルーアンの」
「そう。ルーアンの処刑台前だよ」
私の呟きに少年が反応する。ジャックは沈黙したまま少年を警戒し続けていた。
「ほら、あそこ。処刑人が歩いてくるよ」
少年が指をさす。その先にいたのは、金髪の少女。
「この魔女め!!」
「裁きを受けろ!!」
「異端者め!!!!よくも騙したな!!」
集まった民衆から罵声を浴びせられているその子は。
「あれは…!?まさか」
見覚えがある、なんてものではない。見違えるはずがない少女だった。
「君いい反応するね!そう、彼女だよ」
ジャンヌ・ダルクだった。彼女は縄で拘束され複数の兵士達に囲まれ歩くことを強要されていた。処刑台へ真っ直ぐ歩かされていた。あの日と同じように。あの日を再現しているかのように。否、ように、ではない。これは再現だ。本当に、あの日に戻ったと思うほど忠実に再現されている。
「君のせいで処刑されちゃった女の子が歩いてくるよジャック。ほら、僕じゃなくて彼女を見なくちゃ。止めなくていいの?今なら止められるよ」
少年はジャックの顔を覗き込む。
「君がやめろと言えば止められるかもしれないよ。ほら早くしないと。ジャンヌちゃんがまた殺されちゃう!また火あぶりにされちゃうよ!君のせいで!!生きたまま焼かれるのってどんな気分なんだろうね!きっと耐え難い苦痛を味わされるんだろうね!!可哀想に!!!彼女を誰よりも愛していた君がこの結末を望んだせいで豚の餌にもならない消し炭にされちゃうんだ!けれど今なら間に合うかもしれない!!」
ジャンヌ・ダルクが処刑台へ上がる。あの日と同じように彼女は抵抗することなく処刑台へ上がる。聖火を手に持った兵士が彼女の前に立つ。
「処刑しようとしてくる奴ら。あいつら全員殺して彼女の手を取って逃げればいい!かのランスロット卿が王妃ギネヴィアを助け出したようにね。そうすれば君は愛しい人と結ばれる!これ以上の幸福なんてないだろう!!」
「……そんなことに一体何の意味がある」
ようやくジャックが口を開いた。ゾッとするほど冷ややかな目で彼は少年を見下していた。
その後ろでジャンヌ・ダルクの足元にある薪に火がくべられる。同時に彼女の悲鳴が響き渡る。その悲痛な声に私は耳を塞ぎたくなった。だがジャックは一切動じることはなかった。
「私が彼女を殺したことを後悔しているとでも思っているのか?この幻を見せれば私が動揺するとでも思っているのか?舐められたものだな。私が何度彼女の死を見てきたと思っている」
「…あは、やっぱりダメかぁ。でも、これではっきりした。やっぱり君持ってるんだね」
会話を続ける彼らの後ろでジャンヌ・ダルクがイエス様の名を叫ぶ。
少年は彼女を無視するかのようにもう一度指を鳴らした。その瞬間ルーアンから殺風景の部屋に戻った。否、今のが全て幻だとすれば、それが解けたというべきだろうか。
「テイラー下がれ。この男は危険だ」
ジャックは私を庇うように前に立った。
「っしかし…貴方は負傷したばかりで」
「君よりは十分に戦える。下がれ。まともにやりあえば君は殺される」
「部下思いだなぁ。優しいねジャック。彼の代わりなんて、いくらでもいるのに」
「竜の魔女の手下如きが気安く私の名を口にしないでもらおうか」
「あれれ。僕と彼女が繋がっているって決めつけちゃっていいの?」
「このタイミング。それも竜の魔女と同じ怪しげな力を使う者が現れれば断定しない方がおかしいだろう」
「ふふ、うん。それもそうだね!それよりもさ、見た?さっきのジャンヌちゃんの顔!僕にここまで連れてこさせておいて、あんなにもあっさり言い負かされちゃってさぁ。ま、こうなることは初めから分かっていたんだけど。でも引き攣ったあの子の顔は見れてよかったよね。あれは凄い動揺してるよ。きっと暫くは自分自身という存在に怯えるんだろうな。あっはは!楽しい!!楽しいねこれ!ありがとうジャック!ジャンヌちゃんを追い詰めてくれて」
少年の言葉に私は耳を疑った。この少年はあの女の仲間ではないのか…?
「でもジャンヌちゃんよりもジャックの方が最高だったよ。ジャンヌちゃんが君の前にきた時の表情!!あれ!!あれ凄い良かった!もう一回してくれない?いや、やっぱだめ!ただ真似るだけなんてされても、つまらないや。あの時の同じくらいジャックを絶望させないと意味ないよね」
「……貴様は、一体何がしたい」
「冷たいなぁジャック。僕と君の仲じゃないか」
「巫山戯るな。少年の皮を被った化け物が。貴様とは初対面だ」
殺気立った空気だ。並の兵士であれば失神してしまう程ジャックは凄まじい殺意を放つ。だが、殺意を向けられた少年は信じられないことに楽しそうに笑った。
「あは。そっか。そうだったね。君は僕を無視したんだもんね。あ、それ以前にまだ僕は君を見つけられていなかったね。今は1431年の6月だっけ?君がお父さんの正体を知った頃かな?あっはは!あれは傑作だよね!!ねぇどう思った?強く賢く立派で自分を愛してくれていると思っていたお父さんの正体を知ってショックだった?ショックだったよね?君はずっとお父さんのこと敬愛してたのに向こうは君を自分と同じ奴隷に仕立て上げることしか考えていなかったんだ!悲しいよね辛いよね。ずっと信じていた人に、それもたった一人の身内に裏切られるのは到底耐えられるものではなかったよね!!でもジャンヌちゃんを殺しちゃった後だから割とどうでも良かったのかな?うーん…どうでもいいと思うしかなかった、が正しいかな。何度苦しみを与えられても君は正気を失わないもんね。そのせいで毎回傷つくのに、そうと分かっていてずっと理性を保とうとするなんて、まるで傷つけられたいみたい。あ、もしかしてそういう願望ある?だからお母さんも殺しちゃったのかな?」
突然興奮し出した少年は突然語り出す。その殆どを私は理解することができなかった。困惑しジャックを見る。彼の表情は固くなっていた。
「ッ貴様、何者だ!?」
「あ、ごめん。まだ名乗ってなかったね。僕の名前はフランソワ・プレラーティ。勿論サーヴァントでクラスはキャスター。そして君の信仰者だ。よろしくねジャック」
フランソワ・プレラーティ。知らぬ名前だ。少なくともイングランドやフランスで有名な貴族ではない。私はプレラーティを警戒しつつ、ゆっくりと彼らから距離をとった。
「Servantだと…主は竜の魔女だと言いたいのか」
「あは、あはははは!違うよジャック。僕が仕えているのは王さまだよ」
「なに…?」
「もしかして今のイングランド王とかフランス王を疑ってる?大丈夫だよ心配しなくても。僕はその程度の王さまに仕えたりしない。そんな平凡な王に仕えるなんてこと退屈すぎて我慢できないよ。僕を最高に楽しませてくれる王じゃないとね」
どういうことだ…?まさか他国の王がこの戦いに参入しているというのか…?否そんな訳が無い。王というのは何かの隠語か。もしくは王のようにこの少年が慕っている人物がいるというだけのはず。
「相手は誰だと思う?アーサー王かな?それとも獅子心王?まさかまさかの英雄王かもね。どうするジャック。皆強いよ。何せ神秘の度合いがこの時代とは比べものにならないからね。対する君は生身の人間だ。宝具を使うこともできない。君のお得意の奇策でも勝てるかな?」
「貴様は何を言っている?」
「あれ?あ、そっか。ジャックはまだサーヴァントが何かも聖杯戦争の存在も知らないんだもんね。突然こんなこと言われても理解できないか…うーん、どうしようかな。教えてあげようかな……おっと、ごめんね。タイムオーバーだ。帰還命令が来ちゃった。もう、ひどいなぁ。こんな感動的な出会い、もう2度とないっていうのに」
少年は、むぅっと少年らしく頬を膨らます。年相応のその仕草が、気色悪く思えた。
「またねジャック」
突然少年の身体が透けた。これも奴の幻なのだろうか。
「愛しの君よ。次会う時は君に最高のプレゼントをお届けすると約束しよう」
その言葉と共に少年は消えた。人の気配を感じない。奴は本当に消えたというのか。慌てて部屋から出たが少年はいなかった。
「…っ次から次へと」
ジャックは悪態をつき、剣の構えを解いた。
「あの、少年は一体…」
「テイラー。あの少年は後回しでいい」
「っ何を根拠に…奴は危険です!!」
「あぁそうだ。危険だ。だが今は奴について分かっていることは名前くらいしかない。嘘か本当かも分からぬ名前しかな。そんな奴に時間を費やしている余裕はない。"フランソワ・プレラーティ"という人物については国王に報告し調べさせる。そんなことよりテイラー、出撃の準備をしろ。明後日にはここを出る」
「え?」
「我々は一刻も早くこの状況から前進しなくてはならない。よって明日リッシュモン大元帥に作戦の合意を得る。そして明後日には作戦を開始する」
「作戦、ですか」
「あぁ、そうだ」
「祖国を救うため。まずはその一歩となるかもしれないジル・ド・レェの身柄を確保する。そのための作戦だ」
リッシュモンは本編の8話にて登場。
【カルデア陣営の主なメンバー】
・ぐだーず(マスター)
・マシュ(シールダー)
・ジャンヌ(ルーラー※能力制限あり)
・マリー(ライダー)
・アマデウス(キャスター)
・清姫(バーサーカー)
・エリザベート(ランサー)
・ジル(人)
【竜の魔女陣営のメンバー(現時点での情報)】
・ジャンヌ(竜の魔女)
・ジル(キャスター)
・聖女マルタ(ライダー)
→消滅
・??? プレラーティ(キャスター)
カルデアによびたい英霊
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聖女
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復讐者
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黒騎士
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貴族