人類滅亡の原因となる過去の特異点へと向かい、人類を救う任務 グランドオーダー。複数ある特異点のうち、最も歪みが少なく難易度の低い第一特異点 百年戦争中のフランスへ降り立ったカルデアのマスター達。
現地で出会ったサーヴァント ジャンヌ・ダルクらと、ジル・ド・レェらフランス兵と共にラ・シャリテを拠点とし、調査を開始していた。
しかし、突如として拠点へ大量のワイバーンが襲撃。攻め込んできたのはサーヴァントではなく、百年戦争で活躍した生身の人間 リッシュモンとジャック・ブラウンだった。
ジャンヌを竜の魔女と認識した彼らは、彼女と行動と共にしていたジル率いるフランス兵達に、竜の魔女の仲間として処刑されるか、自らジャンヌを殺すかの2択を迫る。
究極の緊張状態の中、カルデアのマスターが立ち上がる。
ーーーーーーーーーー
活動報告にて、黒騎士の宝具を募集しています。
ユリウス・テイラー - 4
「待ってください!!ジャンヌは!!彼女は竜の魔女じゃない!!竜の魔女は全くの別人なんだ!!!どうか、俺の話を聞いてくれ!!!」
その時、1人の少年がジャンヌの前に飛び込んできた。見慣れない格好をした男だった。変な顔立ちだ。明らかに我々とは異なる。異国の者だろう。しかし何故、フランス人とイングランド人以外の者がここにいる?
「誰だ貴様は!?」
連合軍は怪しげな少年を警戒し、すぐに剣を抜いた。
「ッカルデアのマスター!藤丸立香と藤丸六香です!!」
今度は別の声が聞こえた。女性の声だ。少年と同じような変わった格好をした少女がいた。
「わ、私達は未来からっ来ました。人類を救うために。あ、貴方達が人々を救おうとしているのなら、私達と利害が一致します!」
彼女は必死に黒騎士に話しかける。手足が震えていた。恐怖を堪えて彼に話しかけていることが痛いくらい伝わる。
「ッこんな話、突然されて信じてもらうなんて…難しいことは分かっています…けど!どうか、話を聞いてもらえませんか。私達は、きっと貴方達の役に立てる!」
少女は再度話しかける。彼は彼女らを見つめたまま何も答えない。暫く沈黙が続いた。
「話を聞こう」
声を上げたのは、リッシュモンだった。
「異論はあるか。ブラウン伯爵」
「…いいや」
「ジャンヌを助けてください!彼女は俺たちの仲間です!!」
少年が叫ぶ。
「少年。何故竜の魔女と手を組んだ?」
ジャックが問う。
「ジャンヌは竜の魔女じゃない!本当です!俺たちはずっとジャンヌと一緒にいました!彼女が虐殺する事なんて出来なかったはずだ!!!」
「では何故ジャンヌ・ダルクが虐殺したという目撃情報が多数ある?」
「それは、分かりません…けど彼女はやっていない!!!嘘じゃないんだ!お願いします。信じてください!!!」
「…随分と、君に都合の良いお願いだな」
彼は軽く息を吐いた。
「ならば証明しろ。今ここで。その女が竜の魔女ではないという証明を」
「ッそんなの…!どうやって」
「それくらい自分の頭で考えたらどうだ。君達は人類を救う大英雄なのだろう?であれば私如きを止められないはずがない。証明できないのであれば少年。君に人類を救うことなど、絶対にできやしない」
「ッ…!!」
少年はグッと唇を噛み、彼を睨む。随分と勇敢な少年だ。それとも、ただの馬鹿なのだろうか。貴族に不快な思いをさせれば死刑は免れないというのに。
「…証明は、既にできています!」
少年の後ろに隠れていた少女が声を上げた。
「だ…だって、貴方達はここへ来れた!もし、ジャンヌが竜の魔女だったのならワイバーン達なんて簡単に遠ざけたり倒したりできたはず!それが出来なかったから白旗を掲げた!貴方達に服従することを誓った!!貴方達がここへ来れたことが!ジャンヌが竜の魔女でない何よりの証明です!!」
「……」
「確かに、そうだ…」
「もし奴が噂に聞く竜の魔女だったら、逆にワイバーン共を俺達に向かわせていたんじゃないか…?」
「聞けば竜の魔女は問答無用で街を焼き尽くしたというじゃないか。そんな奴が黙って軍の指示に従うと思うか…?」
「ば、馬鹿が!魔女が何をするかなんて俺達に理解できる訳ないだろ!」
周囲がざわつく。兵士達の混乱が手に取るように分かった。
少女の発言に無言を貫いていた彼も無視できなくなったのか再び少女に目を転じた。少女は震えながらも、しっかりと黒い男を見ていた。
その時、第三者が現れた。
「魔女が何をするか理解できなくても良いのです。大切な事は、私達の国民が共通の敵に虐げられていること。そうでしょう?」
その声は、騒がしくなった広間でも、綺麗に聞こえた。異国の少女の背後から現れた美しい白銀の少女。これだけの人目を集めても狼狽えることなく、寧ろ注目されることが当然と言わんばかりの佇まい。隣国の上流貴族だろうか。しかし、何故そのような人物がこんなところに…?
「何者だ!?」
イングランドの兵士が声を荒らげる。
「そうね。ごめんなさい。私ったら、自己紹介もせずに話を進めてしまったわ。ravi de vous rencontrer. mes enfants bien-aimés」
白銀の少女は、この場にふさわしくない優雅な歩みを披露し異国の少女を庇うように前に立ち、堂々と宣言するように告げた。
「私はマリー・アントワネット。300年後の、この国の王妃です」
あまりにも理解しがたい告白をした。
……300年後の、フランスの王妃?
私の耳は、おかしくなってしまったのだろうか。横目で兵士達を見ると、彼らも唖然としていた。黒い鎧の彼はどんな顔をしているのだろうか。リッシュモンは、驚愕していた。が、すぐに真剣な面持ちで自身を未来の王妃だと語る彼女を見つめた。
再び流れた沈黙を破ったのは、イングランド兵だった。
「な、何を言っているんだあの女は!誰だ!あんな頭のおかしい女を連れてきたのは!?」
「あの女も魔女なんじゃないか!?後ろにいる女も!!ジャンヌ・ダルクを庇おうとする男もだ!!全員魔女だ!!そうに決まっている!!」
「見ているだけで、こっちまで頭がおかしくなりそうだ!!閣下!!あの女も殺しましょう!!」
口々に罵声が飛ぶ。品性のかけらもない兵士達に苛立ちが募る。彼は部下の発言に否定も肯定もしなかった。
「信じてもらえなくても構いません。時代が違っていても我が愛しの国を侵そうとする人がいるのなら、私は、その人達からこの国を守りたい。その為ならドレスを破っても構わないわ。何故なら、そう。私が、この国の王妃なのだから」
胸に手を当て訴えかけるその姿は、自然と心に響いた。何故、こんなにも惹きつけられるのだろうか。
酷い発言を繰り返していたイングランド兵ですら、口を閉ざし彼女に魅入っている。今この場を制しているのは、未来の王妃に違いないと思った時、再び沈黙が破られた。
「300年後の国王や王子は、どちらですか?」
王妃の表情が強張った。不躾な問いを投げたのは、ジャックだった。
「お1人でこのような場所へ?…お気の毒に。300年後のフランス王はよっぽど酷な性格をしておいでのようだ」
あまりの言い草に忠実な部下ですら、ぎょっとした顔で彼を見ていた。俯いた王妃の瞳が揺れている。300年後、フランスが辿る道が明るくない事を語っているように見えた。
王妃は顔をあげると穏やかな笑みを浮かべた。
「いいえ。国王も、私の子供達も、とても優しく素敵な人でした。それだけではないわ。国民も、私は愛していた。だから守りたいと思うのは、自然のことでしょう」
軽やかな足音が響く。王妃は、リッシュモンではなく黒騎士との距離を縮めようと歩みを進めた。
「初めまして。黒い鎧の貴方。会えて本当に嬉しいわ。私、ずっと貴方に会いたかったのよ」
瞬間、空気がピリついた。発言が逆鱗に触れた…否、彼女の発言に焦ったのか、彼が彼女に殺意を向けている。
「貴方に嘘をつきたくないから、本当のことを言うわ。私、自分でも何故この時代にいるのか分からないの。それにね、相手はとても強いから私では到底太刀打ちできないと理解しているわ」
彼の殺意に足を止めさせられた王妃は、それでも真摯に訴え続ける事をやめなかった。
「それでも、私は戦います。それが私がここにいる理由だと信じているから」
愛らしく凛とした声が広間を支配する。
これが王族の。否、マリー・アントワネットの風格。300年後のフランスの姿か。
ここにきて、初めて安堵した。今はこんなにも悲惨な姿になったフランスだけれど。300年後先の未来に彼女がいるのなら、この国には、まだ希望がある。
「王妃を客間にお連れしろ。お連れの方々もだ」
リッシュモンが部下に命じた。
「どういうつもりですか」
彼が不機嫌そうに問いただす。
「聞いての通りだ。300年後の我が国の王妃を、こんな所に置いていく訳にはいかない。せめて、ここで一番安全な場所にお連れするのは当然のこと」
「判断をする際は、両軍の同意が必要だったはずだ。私は賛同しかねます」
「どうか私の気持ちを理解してくれ。無駄な血は流したくないのだ。利口な君なら分かってくれるだろう、
不穏な言葉に空気がピリつく。
あのリッシュモンが、こんな脅しのような真似をするなんて。それもよりにもよって、こんな場面で。
彼は暫くリッシュモンを見つめるだけで、何も言わなかった。まさか彼からこんな言葉を受け取ると思っておらず動揺しているのだろう。ここは、大人しくリッシュモンの言う事をきくしかない。後ろに立っている少年少女はともかく、王妃の話を聞く価値はある。
数秒の沈黙の末、ようやく彼が口を開いた。
「…条件があります。そこにいる、ジル・ド・レェとジャンヌ・ダルクに関する全権利は私に委ねること。それで、手を打ちましょう」
「承諾しかねる。2人とも我が国の重要人物だ」
「いいえ。奴らはフランス人ではなく、魔女の可能性が非常に高い。どうか、我が国に多大なる被害を与えた魔女を隠蔽される真似はよしてください。魔女を庇うのは魔女だけです。リッシュモン大元帥。大切な友人である貴方に魔女の疑いをかける事は非常に心苦しい。どうか、私のためを思って、己の気高さを証明していただきたい」
これは、とんでもない方向に話を持っていったな。
リッシュモン相手に丁寧に喧嘩を売っているように聞こえる言葉に呆れた。
しかし、散々フランスと戦い続けたイングランド人からすれば、敵国の未来の王妃を名乗る人物を迎え入れるなんて気に食わないと思っても仕方がない。よく見れば周囲のイングランド兵は皆、いつもに増してリッシュモンやフランス兵達を警戒しているようだった。自身の部下の鬱憤を晴らしつつ、リッシュモン軍との衝突という最悪のシナリオを避けたのだとすれば、悪くない。最も、リッシュモンが穏便に済ませるタイプだからこそ、許された手法だが。
リッシュモンは不満げな顔をしていたが、イングランド兵達の警戒する顔を見て諦めたのか了承した。
「ジャンヌ・ダルクを拘束し、ジル・ド・レェと共に
「はっ!!」
レェ軍はほっとした顔で構えを解いた。ジャンヌ・ダルクは大人しくブラウン軍に拘束された。
異国の少女が突然床に座り込んだ。すぐに王妃が駆け寄る。少女に怪我はない。安堵して力が抜けただけだろう。子供のような柔らかい表情で王妃に感謝の言葉を告げていた。
・
・
・
「ご命令通り、ジャンヌ・ダルク、ジル・ド・レェともに両手足を縛り猿轡をいたしました。階を分けましたのでお互いの声も届きません。YESかNOで答えられる尋問を始めていますが。ジル・ド・レェの方が、いくら殴っても蹴っても、こちらの指示に従わず…どうすればいいか」
「元帥にまで上り詰めた男が簡単に吐いてしまう方が問題だよ。寧ろ、素直に従う方が異常だ」
「しかし、あのままでは、うっかり殺してしまいかねません。何か手を打たなければ」
数時間後、ジャックは当てがわれた部屋で部下の報告を聞いていた。
「そう簡単に死ぬような相手じゃあない。君達は安心して尋問を続けてくれ」
「あの、閣下…何故、猿轡をさせる必要があったのでしょうか?あれさえ外させれば、もっと色々情報が手に入るのではないでしょうか?」
「舌を噛み切って死なれては困るからだ」
「まさか!自らそんな罪を犯すとお考えで?」
「確かに我々にとって自ら命を絶つことは最も重い罪だ。自らそんな事をする教徒などいない。だがジャンヌ・ダルクは魔女。ジル・ド・レェもその可能性がある。もはや奴らに我々の常識は通じないだろう」
「しかし」
「外すべき時が来たら外すよ。今は、その時ではないというだけだ」
「……。承知しました」
不満そうな顔で彼はジャックの指示に従う。
「カルデアという連中はどうしている?」
「リッシュモン大元帥が直々に相手をしているようです」
「パリの状況は?」
「依然として変わりません」
「そうか……ひとまず、想定外の問題は起こっていないな。ご苦労。下がっていいぞ」
「はっ」
部下達は敬礼し部屋を出ていく。彼はその様子を見送り、完全に扉が閉まってから、息を吐いた。分厚い兜越しにも疲れている様が伝わる。ここまで1日もまともに休息をとろうとしなかったツケが回ってきたのだろう。
「テイラー、どう思う?」
「何のことでしょうか?」
「惚けるな。何を聞かれているくらい、優秀な君なら分かっているだろう」
面倒くさそうに頭を上げた彼と目が合う。心なしか睨まれているように見えた。
「300年後の王妃、というのは突拍子もない話ですが…嘘をついているようには見えませんでした。本当に王族か、もしくは同等の地位の方なのでしょう。ひとまず対立は避けたほうが良いかと。しかし、何故王や王子ではなく権力が弱い王妃が来られたのかが気になりますね」
「え…?」
「?…どうされましたか?」
「…本気で言っているのか?」
想定外の彼の言葉に困惑する。あちらも困惑しているようだ。滑稽な発言をしてはいないはずなのだが…一体今の発言のどこに彼が困惑しているのかが分からない。同じ言語を話しているはずなのに、意思疎通がとれないかのようなチグハグした空気が流れた。
「いや…僕が、言いたいのは。女性だからといって、必ずしも権力を持たない訳ではないということだ」
「それは…」
「今だって、そうだろう。ジャンヌ・ダルクのようなぽっと出で権力を持つ者だっている。貴族階級にだって、とびきり、素晴らしい方がいらっしゃるだろう」
「…ベッドフォード公爵夫人のことですか?」
「もしマリー・アントワネットが、あの方程素晴らしいお方だとすれば、フランスの将来は安泰だな。金に困ることなんてないだろう」
夫人に何か嫌なことでもされたのかと思うほどの皮肉っぷりだ。私の知る限り、ブラウン家とベッドフォード家はさほど癒着していなかったはずだが。
「君のいう通り、カルデアという組織と対立は避けたほうがいいだろうが、疑わしき奴らとつるんでいるのは、いただけないな」
「仰る通りですが…ここで争っても竜の魔女を喜ばせるだけです」
「そうでもない。私の大切な部下達は、彼女らと同じ食事をするより彼らの頭を吹き飛ばす方を好む子達が多いだろうよ」
せめて、彼女がフランスの王妃ではなくイングランドの王妃だったらな、と彼は呟く。確かに、イングランド人にとって今の状況は面白くない。そもそも敵国のフランス側と手を組まなければならない今の状況に不満を抱えているような状況だ。王妃を仲間として迎え入れるといえば、暴動が起こっても不思議ではない。
「彼女達をどうされるおつもりですか?」
「そう不安そうな顔をしなくても大丈夫だよ。あの戦力は手に入れたいに決まっているだろう」
「…王妃にそこまで戦力があるとは思えませんが。軍隊もいないようですし」
「王妃じゃない。カルデアのマスターだ」
「いや、何を言っているんですか。あの子こそ、到底戦えそうな子供ではなかったでしょう。それとも貴方には、あの少女が噂の少年のような化け物に見えたのですか?」
彼は首を横に振った。
「いいや。ルイどころか、まともに訓練すら受けたことのない、ただの子供に違いないだろうさ。だが、その子供がワイバーンの大群に8時間以上も耐えたのは事実だ」
「それは、レェ軍の実績でしょう。あの者達の実力ではない」
「彼の軍は寄せ集めの兵士達だ。いくら元帥が優秀であっても、彼らだけでワイバーンに対抗出来たとは考えられない。あの数は大元帥ですら苦戦を強いられるほどだぞ」
「だから、あの少女達のおかげであると?」
「羨ましいと思わないか?未来人であれば、あの状況に簡単に対処できてしまうんだ。必死で戦っている我々が、愚かに見えて仕方がないだろうな」
「……まさか、あの少女の言葉を全て鵜呑みにするのですか」
私の言葉を聞いた瞬間、彼はこちらをじっと見つめてきた。疑われているような嫌な感じだ。一体私は彼に何を疑われているのだろうか。
「そんなつもりはないさ…ただ、使えそうな武器になり得るとは思っている。あの子達も、王妃も。その為に、まずは実力があるのか示してもらわなければならないな」
「それは…」
一体どうやって、と尋ねようとしたタイミングで扉がノックされた。
「お忙しいところ申し訳ございません。至急報告させていただきたく」
「入れ」
彼は小さくため息をつき、部下を迎え入れた。扉を開け彼と向かい合った部下は重い面持ちだった。
「スペンサーか…どうした?奴らが逃亡でもしたか?」
「い、いえ。そのような報告は受けておりません…第5班がいうにはジル・ド・レェはともかく、ジャンヌ・ダルクは不気味なほど大人しくしていると」
「それは怖いな。言われずとも理解していると思うが、第5班には決してあの2人から目を離すなと伝えておいてくれ」
真面目で従順そうな部下は、イメージ通り彼の指示に素直に従った。その様子を眺めながら、ふと思った。
”羨ましいと思わないか?未来人であれば、あの状況に簡単に対処できてしまうんだ。必死で戦っている我々が、愚かに見えて仕方がないだろうな”
もし、あの少女達が本当に彼の言う通り、とんでもない力を秘めた存在ならば。それこそ、竜の魔女のような、とても人間とは思えない能力を有しているのならば、牢獄へ入れたところで、何の意味もないのでは、と。いつでも脱獄できるから、ジャンヌ・ダルクは大人しく捕まっているだけなのでは、と。
否、考えすぎだ。そもそも未来人なんて有り得ないだろう。こんな話を真に受けるなんて私らしくもない。きっと、あの子達はこの混乱に乗じて何か良からぬ事を企んでいるだけに違いない……が、それだと王妃の発言と嘘という事になる。
”私はマリー・アントワネット。300年後の、この国の王妃です”
「…ッ!」
その時、ハッとした。
どうして私は、王妃に。あの怪しげな女を、疑う事もせず王妃であると信じているのだろう。ただ、堂々たる姿を見ただけで信者のように今まで疑うという発想すらしていなかった。
信じられない出来事に、視界がぐらりと揺れる。
「テイラー?」
「っ!はっ、何でしょうか?」
「こちらの台詞だよ。いきなり頭を抑え出して、どうかしたのか?」
また、疑いの眼差しを向けられる。
…あぁ、そうか。さっきコイツが私を怪しんでいたのは、私があの女を無条件に信用しているような事を吐いたからか。
気持ちいいくらい納得できた。同時についさっきまでの自分が気持ち悪くてたまらなくなった。
あの時は、疲労で頭が正常に働いていなかっただけ、か…?今まで散々劣悪な環境下で過ごしていても問題なかったのに、今このタイミングで頭がおかしくなったのか…?それとも、これが彼の疑っている、カルデアのマスター達の力…?
いや、そんな事、あってたまるか。人を一時的に洗脳する力を有しているだなんて、そんな馬鹿な事あってたまるか。ただ疲れていただけだ。そうに、決まっている。
…一旦、やめだ。これ以上考えると頭が、おかしくなりそうだ。
「何でもありません」
「…そうか。なら、いい」
平然を装う私に彼はまだ怪しむような目で見られたが、すぐに目の前にいる従順そうな部下 スペンサーに目を向けた。
「それで、スペンサー。君の報告とは」
「はい…あ、の…ッ」
スペンサーは、口を開いたと思ったら、顔を真っ青にし硬直した。唇をわなわな震わせるだけで、言葉が続かないようだ。ジャックは何も言わず動かず、ただただスペンサーの言葉を待った。
数秒経過した後、スペンサーはようやく話し出した。彼の報告は2つあった。
1つ目は、イングランド支配下にあったルーアンが陥落したということ。ルーアンは、ジャンヌ・ダルクが処刑された場所だ。自分を火あぶりにした、あの地に復讐をと動くあの女の姿が容易に想像つく。スペンサーはそれ以上深くを語らなかったが、口にする事すら出来ないほど酷い有様だったのだろう。
2つ目は、ピエール司祭が虐殺されたということ。クズ野郎だが、あれでも司祭。すなわち、神に最も近い立場の人間だ。その人間が虐殺されたという事は、つまり神の慈悲を受けられる人間は、誰もいないと言う事。否、どちらかといえば神が、あの女の復讐を許した。神はあの女にすら慈悲をお与えになった、と思う方が正しいのかもしれない。
どちらにしろ、ピエール司祭の虐殺は人々に衝撃を与え、民衆どころか教会も混乱し、もはや機能していないとのこと。
「民衆には公表しないよう王命が下っていますが、おそらく時間の問題でしょう」
「そうか…報告ご苦労、スペンサー。いざという時は、もう来ていたようだね。もはや一刻の猶予も我々には残されていない」
彼は音を立てて椅子から立ち上がった。
「閣下、どちらに?」
「地下牢だ。言っただろう。穏便に済ませる余裕はなくなった。指数本くれてやってでも奴に吐かせる」
その言葉を聞いた瞬間、納得した。
”何故、猿轡をさせる必要があったのでしょうか?あれさえ外させれば、もっと色々情報が手に入るのではないでしょうか?”
自殺防止が猿轡の本来の目的ではない。目的は、アレをやらせないためだ。あの、一瞬で人間の指を灰に変えた恐ろしい術。
”お前の言葉など信じるものか!!!!”
”これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮!!!!”
”
あの技の使用条件に武器と、あの呪文のような言葉が必要だと考えたから、彼は従順なうちに猿轡をさせるよう指示を出していたのだ。
「…それ以上指を失えば、貴方の大好きな弓が握れなくなりますよ」
「それは困るな。指をなくさないように、頑張るよ」
「お言葉ですが閣下、やめた方がいいかと」
扉へと歩み寄った彼にスペンサーが声をかけた。
「尋問の現場は、見るに耐えないとききます。とても貴族がやる仕事じゃあない。閣下もお疲れでしょうし、今後のためにも、このまま第五班に任せた方が得策です」
「心配してくれてありがとう、スペンサー。君は本当によく出来た人だ。確かに休息は必要だ。けれど、彼らとは話すべきことがある。どうせ会話が必要なんだ。私が尋問した方が効率的だろう」
「…はあ。なるほど」
「それに頑固な彼らを吐かせられる人間がいるとしたら、それは私であるべきだと思うんだ」
【TIPS】
マリー・アントワネットの保有スキル「麗しの姫君(A)」
周囲の人を惹き付けるカリスマ性。Aランクのスキルを有するマリーは、ただ存在するだけで自分を守る騎士たる人物を引き寄せる。
かつてフランスを虜にしていた事から、マリー本人の意思関係なくフランス人は皆マリーに惹かれる。
戦況
【カルデア陣営の主なメンバー】
・ぐだーず(マスター)
・マシュ(シールダー)
・ジャンヌ(ルーラー※能力制限あり)
┗地下行き
・マリー(ライダー)
・アマデウス(キャスター)
・清姫(バーサーカー)
・エリザベート(ランサー)
・ジル・ド・レェ(人)
┗地下行き
【連合軍の主なメンバー】
<ブラウン軍>
・ジャック・ブラウン(人)
┗右手3本欠損
┗ジルとジャンヌに関する全権利を獲得
・ユリウス・テイラー(人)
・フランク(人)
・スペンサー(人)
<リッシュモン軍>
・アルテュール・ド・リッシュモン(人)
┗ジルとジャンヌ以外のカルデアメンバーの保護権を獲得
【竜の魔女陣営のメンバー】
・ジャンヌ(竜の魔女)
・ジル(キャスター)
・プレラーティ(キャスター)
・聖女マルタ(ライダー)
┗消滅