フランスの悪魔   作:林部

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【前回までのあらすじ】
最も歪みが少なく難易度の低い第一特異点 百年戦争中のフランスへ降り立ったカルデアのマスター達は現地で出会ったサーヴァント ジャンヌ・ダルクらと、ジル・ド・レェらフランス兵と共にラ・シャリテを拠点とし、調査を開始していた。
しかし、リッシュモンとジャック・ブラウン率いる連合軍により疑いの目を向けられたジャンヌ・ダルクとジル・ド・レェは地下牢に連れて行かれ尋問されることに。
カルデアのマスター達は、意を決し、恐ろしい風貌の黒騎士相手に2人を解放するよう交渉することになったが、意外にも黒騎士は前向きに応じる。
彼は提示した条件は、兵士から信頼を得ること。そのために、ティエールの物資を調達するよう依頼した。快くその依頼を承諾した兄 藤丸立香は黒騎士の思惑に気づく事なく、数名のサーヴァントを引き連れティエールに向かってしまった。



第11話 1431年6月21日

藤丸六香 - 5

 

「ねぇ…初めから、立香達を殺すつもりで送り出したの?」

 

声が震える。黒騎士は、はい、とも、いいえ、とも言わなかった。

 

「仮に今が本当に人類の危機だったとして。この世界で君達のうち、どちらか1人が生き残れば問題ないのだろう?」

 

代わりに彼はそう言った。藤丸立香の身内である私を前にして淡々と告げた。兜の隙間から見える、何の感情もない紫色の二つの光が私を見下ろしていた。私はその時ようやく思い出した。

この男がフランスの悪魔と呼ばれていることを。

 

 

私がジャック・ブラウンの恐ろしさを思い知ったのは、兄がラ・シャリテを出発してから数時間経ってからだった。

 

「君達の仲間は、個性的だね」

 

兄と共に全サーヴァント達の見送りをした後私はすぐに将軍の執務室に向かった。彼の方から来るようにと言われていたからだ。目的は仲間のサーヴァントの情報収集だった。どんな戦い方をするのかは勿論、彼ら彼女らがどういった人物なのかも知りたいと言われたので、知りうる皆の話をした。…全て以前マシュから聞いた話なのは秘密にしておいた。

 

エリザベート・バートリー(血の伯爵夫人)マリー・アントワネット(フランス革命)清姫(竜へ変貌した少女)ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(世界有数の天才作曲家)が1番まともだな…」

 

実はアマデウスが1番変態でキテレツな人なんだけれど。サーヴァント達の正体を聞いて既に若干引いているようなので黙っておこう。

 

「そもそもサーヴァントは、ある程度の知名度が重要なんだったね。この程度は序の口なのだろうか」

「分かりませんけど……でも、将軍もサーヴァントになるんですよ」

「私が?困ったな。彼らと戦う事になったら、勝てる気がしないよ」

「そんな事ないですよ。将軍もかなり有名だって皆言ってましたよ」

 

…あくまで敵も味方も騙した裏切り者として有名だって話だけど。

 

「…。ジャンヌ・ダルクが、救国の聖女か」

 

兜の隙間から紫色の光が消える。目を閉じているのだろうか。

 

「そうか…それは、とても」

 

その先に続く言葉は何もなく、兜の隙間から再び紫色の光が見えた。

 

「私もサーヴァントになるという事は、未来でそこそこ語られているのか。気になるな。私はどんな風に認識されているんだい?」

「…えぇっと……。百年戦争を、終戦させた英雄として語られます」

 

しどろもどろになりながら、なんとか答えた。流石に本人を目の前に悪評を語れるほど、私は肝が据わっていない。

 

「百年戦争?もしかして、この長い戦争の事かな…そうか。それで、私はどんな悪者になるんだい?」

「えっ…」

「ジャンヌ・ダルクが聖女と呼ばれるという事は、彼女の処刑に与した私は、悪魔のような男になるのではないか?」

 

驚いた。察しがいいにも程がある。どうして、これだけの情報で分かったのだろう。私は終戦させた英雄としか言っていないのに。

 

「…将軍は、未来が分かるの?」

「未来が分かるのは聖女の方だと思うよ」

「一つ、聞きたい事があるんです。ジャンヌのことについて…ッ!」

 

場の空気が一変した。

何をされた訳でもないのに、息苦しい。言葉を発することもなく、重圧をかけられている。

 

「構わないが、彼女は敵国の将軍だ。私よりもリッシュモンに聞いた方が良いだろう」

「…っ」

 

構わない、なんて嘘だ。ここで発言を間違えれば殺される。凡人でも分かるほど張り詰めた空気を前に身がすくむ。

 

「……やっぱり、何でもない」

「おや?何でもなさそうな顔には見えないな。どうしたんだい、未来の英雄。まさか私程度の人間に怖気付く訳もあるまい。好きなだけ聞いてみるといい」

「ひぇぇっ…」

 

咄嗟に引き換えそうと、誤魔化したのに退路を塞がれたんだけど。

聞いてみたら死。聞いてみずとも死。そんな状況下で私が出来ることといえば、開き直すことだけだった。

確実に地雷な気がする。気がするが、引き返せないのなら、もう聞くしかない。

 

「…なんで…ジャンヌを、殺したんですか」

「祖国を守る為だよ」

 

意を決した問いかけは、思いの外あっさり答えてくれた。だけど、それは納得のいくものではない。

 

「どういう事ですか?だって、貴方は」

 

だって、貴方はフランス人で、ジャンヌは幼馴染の子なのに。

フランスへ寝返るつもりなら、ジャンヌを追い詰める必要なんてなかった。ううん、守るべきだったはずなのに。

 

”悔しいものですね。私の人生はほぼ全て彼と共にあったはずなのに。彼のことは何でも知っている自信があったのに。私は彼のことを何も分かっていなかった”

 

いつかのジャンヌの言葉を思い出した。あの様子からして2人が不仲という事はないと思う。少なくとも、ジャンヌは将軍に好印象を持っているようだった。

でも、あれはあくまでジャンヌ目線の話だ。将軍からジャンヌはどう見えていたのかは、まだ一切分かっていない。

 

「ジャンヌのことは、どう思っているんですか」

「どうとは?」

「その…どんな印象を持っていたんだろうと思って…ジャンヌは、将軍のことを気にかけているように見えたので、気になって」

「非常に答えづらい質問だな。正直にいうと、答えは無になる」

「え?」

「敵国の女将軍を殺したのは、あの少女が初めてだったが……今までだって祖国のために多くの人を殺してきた。今更少女1人殺したところで何とも思わないさ」

「……」

 

空気が重い。

聞きたかったことはジャンヌを手にかけてどう思ったか、ではなかったのだけれど。今更それを訂正できる雰囲気ではなかった。

 

「けれど…気の毒に思うよ。王から見放され私から死刑宣告を受け民衆の前で見せ物のように火あぶりにされたのだから……この戦争に関わらなければ、村で1番強くてかっこいい人と結婚して子供を育てて…そんな幸せな人生を送れただろうに」

 

先ほどまでの優しい口調から打って変わって彼は淡々と告げた。それなのに、悲しんでいるように見えるのは何故だろうか。

 

「ジャック!!どういう事だ!!!」

 

バン、と大きな音を立てて扉が開かれる。そこにいた人は…知らない人だけど服装からして将軍のところの兵士さんだ。

 

「こら、大きな声で私を呼び捨てにするな。他の兵士達に示しがつかないだろう」

「一部の避難民とカルデアの子達がティエールに向かったと聞いた。命令したのはお前なのか!?」

「…ウィリアム。その話は後で聞く」

「さっき、ティエール付近に竜の魔女の仲間と思われる奴がいると聞いた!」

「えっ…」

 

ティエール付近に敵サーヴァントが…?そんな話、一言も聞いていない。

 

「落ち着け。それは今ここで話すべきことではない」

「お前には1番最初に報告したと言っていたぞ!!!知った上であの子達をティエールへ行かせたのか!!?相手は異国の子供だぞ!!お前、あの子達は保護下におきたいって言ってたくせに何で…ッテイラーや他の奴らに何か言われたのか!?」

 

どういうこと?ティエールには竜の魔女の仲間がいて。将軍はそれを知った上で立香をティエールに行かせた…?

何で?私達はティエールには物資があるからそれを回収してこいとしか聞かされていない。何で将軍は言わなかったの?言い忘れた…?いや、そんなまさか。

 

「物資を回収すればいいって言ったよね……何で、敵がいること教えてくれなかったの?」

「!?ぁ、君、は…」

 

ウィリアムさんは部屋の隅にいた私に驚きの声をあげた。

 

「ウィリアム、思いやりがあるのは大変結構な事だが、周囲が見れなくなる事はいただけない。その癖を克服してくれ」

「……。ジャック。どうしてカルデアの子達と避難民を危険なところへ行かせたんだ」

「今ここで話すべき事ではないと言ったばかりだろう」

「いいや、ここで答えるべきだ。彼女にも知る権利がある」

 

将軍は私を見る。部屋から出て行こうとしない私に気付いたのか彼はため息をついた。

 

「言っておくが同行した避難民は皆荷物が運べそうな奴のみだ。うちの兵士だって行かせている」

「危険地へ行くのであれば兵士のみで行くべきだろう!どうして、わざわざ民衆を巻き込んだ!?それもかなりの人数を」

「それを聞くということは、もう答えは分かっているだろう」

「…口減らしか。ただでさえ少ない食料。そこに避難民が大量に来たことで、どうしようもなくなった。だから戦力ではない避難民を中心にこの砦から追い出した…ッそうする事で一時的に食料の問題から解放される」

「そんな…っ」

 

兵士をつけると言ってたのに。兄に同行した人達のほとんどが兵士ではなく避難民だった、なんて。

何で将軍は私たちに嘘をついたの。その理由が口減らしだったとして。何で兄まで巻き込んだの。

 

「そんなことをしても問題を先送りにしているだけだろう!根本的解決にはならない!!」

「先送りにできればそれでいい。バスティーユ要塞には既に物資の支援を申請している。その物資が届くまでの間食い繋げれば問題ない」

「また食料が尽きたらどうする気だ?…まさかまた同じことを」

「食料が尽きる前に奴らを壊滅させる」

「…出来るのか?」

「出来るか出来ないかではない。やるしかない。奴らに勝つには短期戦以外勝利の道はない」

 

2人は話し続ける。私はそれをぼんやりと聞きながら考えていた。どうして兄まで巻き込まれたのか。その理由を。そして一つの答えを導き出した。

 

「……。ねぇ…もしかして。初めから…立香達を殺すつもりで送り出したの?」

 

声が震える。将軍は、はい、とも、いいえ、とも言わなかった。沈黙こそが彼の答えだった。

 

「ッどうして!信じてくれるって言ったのに……あれも嘘だったの!?」

「信じているさ。君達の言うことが真であるのなら、この程度試練にもならないとね」

「ッわざわざ、こんな事しなくていいじゃない!!」

 

感情が昂る。声量が抑えられない。そんな私を前に彼は淡々と告げる。

 

「君たちは人類を救うのだろう?ここで死ぬようであれば、どのみち君達に人類を救うことなどできない。君達にその大義名分は重すぎたということだ」

「っ……」

《立香君に通信が繋がらないんだが…これも君の仕業だと判断していいかな》

 

通信機からダ・ヴィンチちゃんの声が響く。

 

「通信が繋がらないって…」

《昨日立香君が君に通信機の説明をした際、通信機を手渡していた。どんな機械なのか分かるようにね。あの時、通信機を壊しただろう》

 

ハッとし将軍を見る。禍々しい兜に隠された表情を読み解くことはできない。僅かな隙間から見える紫色の瞳も何を考えているのか分からない。

 

《口減らし作戦を私達から立香君にバラされることを恐れて通信機を破壊したんだろうが、早計じゃないかな。通信機がなければ彼は周囲の危険に気付けない。我々からの意思疎通手段を失う。それは即ち彼の命の危険性を引き上げる。君は我々を信じていないようだが、もし我々が真実だった場合、君が守りたい祖国ごと人類は滅びの運命を辿ることになる》

「あぁ。そのために保険をかけておいた」

「保険?」

「そう。君という保険だ」

「私…?どういうこと?」

「仮に今が本当に人類の危機だったとして。この世界で君達のうち、どちらか1人が生き残れば問題ないのだろう?ここで彼が討たれようと君さえ生きていれば希望はある」

 

顔が引き攣っていくのを感じた。これが彼の素なのだろうか。だとしたら、あまりにも…。

 

《特異点はここだけではない。この先ここより厳しい戦いが待ち受けているんだ。それを六香ちゃん1人で耐えろと言うのかい?》

「君達から見ると、ここが1番優しい世界なのか。であれば尚更、こんなところで死ぬような奴に人類は救えないだろうね」

「ジャック…なぁ、お前。取り返しのつかないこと…してないだろうな…?」

 

黙って私たちの会話を聞いていたウィリアムさんが恐る恐る将軍に聞く。

 

「勝算はあるよ。なにせ、この子が私に言ったんだ。自分達は役に立てますとね」

「ッ!」

 

”どうか、話を聞いてもらえませんか。私達は、きっと貴方達の役に立てる!”

 

脳裏によぎる声。

それは初めて将軍と対面した時の、私の言葉だ。

あの時、自分達を守る為に、その場しのぎに出た虚勢の言葉。それを逆手にとられた。あんな事言ったせいで、兄が危険な目にあっている。

 

「私は一度もティエールへ行けと強要していないよ。彼は自らの意思でティエールへ行った。選んだのは彼だ。同席した君であれば、覚えているだろう?」

「っそうだけど!…最初から危険だって分かっていれば行かせなかった…せめて、もっと準備して」

「何を言っているんだ。危険だと伝えたじゃないか」

「何を…っ!」

 

思い出した。確かに、危険とは言っていた。

 

”外はとても危険だろうから気をつけなさい。あぁそうだ。君たちのうち、どちらか1人はここで待機するように”

 

子供に語りかけるように穏やかに言っていた。

将軍は、嘘をついていない。

 

「ッ…!」

 

ずるい。

ずるい。ずるい…!

頭が良いくせに。ううん、頭が良いから、嘘つきにならないラインで私達を貶めようとしているんだ。

 

「その上で準備せずに出発したという事か。…はぁ。まぁ、大丈夫だろう。君達はサーヴァントを無敵のように語っていたから、多少慢心したところで問題なく遂行できるに違いない」

「馬鹿言わないで!!相手もサーヴァントなんですよ!」

「だから何だ。我々は相手が人間であれドラゴンであれサーヴァントであれ命懸けで戦うぞ。どんなに不利な状況でも戦う。だと言うのに、どうして君達だけ特別に用意された戦場だけ戦うなんてことが許されると思っているんだ」

「それは…そういう問題じゃなくて」

「我々と共に竜の魔女共を殺すであれば…その為に全てを捧げる覚悟があるのならば示せ。君達にその覚悟と力があるということを証明しろ」

 

「できなければ未来に逃げ帰るがいい。この程度で音を上げるような奴らは、足手纏いにしかならない」

 

 

 

「………。………」

「いやぁ危なかったよ。死ぬかと思った」

「いや普通に助かるんかい」

「え?」

「……。ううん…何でもない」

 

はぁーっと大きなため息が出た。あれだけ死亡フラグ立ててたのに兄は無傷で帰ってきた。本当に良かった。

 

「はぐれサーヴァントはいなかったよ」

「そっか」

「街も破壊されてしまって生き残っている人は、いなかった……でも物資は沢山回収できた」

 

…ああ、そうか。ようやく昨日将軍の発言に、合点がいった。

 

”ティエールには貯蓄庫があるんだ。今我々は物資が枯渇していてね。どこを歩いても命の危険が伴う今、君達がティエールにある物資をここまで運んでこれれば信頼を勝ち取れるだろう”

”成程……でも、その物資を持っていったらティエールにいる人達が困るんじゃ”

”その点は問題ないさ。どうだ。行ってくれるか?”

 

あの時言ってた問題ないって…皆死んでしまったから勝手に物資を運んでも問題ないって意味だったんだ。

 

「途中で竜の魔女のサーヴァントが一人きたけれど皆で頑張って戦って、なんとか向こうを撤退させれたんだ」

「やっぱり来たんだね」

「え?うん。襲ってきたのは、バーサーク・アサシン。エリザベートさんの未来の姿だって言ってた」

「エリーの?」

「うん。なんか凄い格好した女の人だったよ。ちょっと怖かった」

「…そう。よく全員無事だったね…避難民の人も怪我してないって聞いたけど」

「うん。通信機が壊れちゃって直前までサーヴァントがいることに気付かなかったし、そのサーヴァントも強かったから本当に大変だった。けどマリーさんやアマデウスも皆頑張ってくれて。それで何とかって感じだった。ブラウン将軍は今自室かな?報告しないと」

「それなら私が行くよ。疲れているでしょ。ゆっくり休んで」

「いいの?…六香、ブラウン将軍と何かあった?」

「どうしてそう思うの?」

「凄い眉間に皺寄ってるから。嫌なこと言われたのか?」

 

兄はそんな呑気がことをいう。

嫌なこと、で片付けられない程酷いこと言われたよ。

 

「立香、将軍には気をつけた方がいいかもしれない」

「どうして?」

「あの人、ティエールに竜の魔女の仲間が来ることを知ってたのに私達に何も言わなかったんだよ。立香の通信機壊したのも、あの人」

「えっ」

「立香と一緒に行った人達も。兵士って言ってたけどほとんどは避難民の人。本当は口減らしをすることが目的だったんだって」

「口減らし……そっか」

「気をつけよう。あの人はジルさんやジャンヌとは違う」

「……それは、どうかな」

「え?」

 

兄は顎に手を当てうーんと考える。考えて、へらっと笑った。

 

「大変な目にあったけど…だからってそんなに警戒することないんじゃないかな」

「えぇぇ…私の話聞いてたよね?」

「聞いてたよ。聞いた上で何で将軍はそんな事したんだろうって今考えた。六香は何でだと思った?」

「それは…信用できない私達を効率的に処分するためとか。疑わしきは罰するってやつ」

「あー、確かに。そういう考えもあるのか」

 

兄は感心した方に、ほうほうと言う。それ以外にどういう考えがあるというのだろうか。

 

「俺は多分、あの人俺たちを信じたかったんじゃないかなって思うんだ」

「信じたかった?」

「前に将軍が、ジャンヌさんを庇う俺たちを信じるのは難しいって言ってただろ。多分あれ本音だ。竜の魔女に散々仲間を殺されているイングランド軍のトップだから立場上信じたくても信じられないんだ。もし俺たちが裏切り者だったら。ただのお荷物だったら、あの人は仲間から責められる。立場を失う。最悪内部崩壊をする。それでも彼は俺たちを信じたかった。だから俺たちの実力を見たかったんじゃないかな」

「……一歩間違えれば殺されていたかもしれないって自覚は、あるよね?」

「うん。でも、将軍は悪人ではないと思う。話し合えば、きっと分かり合えるって思ったんだ。多分、将軍もそう思ってくれている」

「だったら何で通信機を壊して、避難民ばかり連れて行かせたりしたっていうの」

「イングランド軍の兵士達が俺たちを敵視しているからじゃないかな。それこそ、もし移動中に兵士たちが俺たちを攻撃してきたりしたら…そんな状況で、あのサーヴァントが来たらもっとまずい状況になっていただろうし。それか兵士も不足しているって言ってたから自分達の戦力を失わせない範囲でやらないと不味かったからとか…通信機は、多分通信は不安定になることもあるって言ってたからじゃないかな。ドクター達の支援を受けられない状態でも本当に竜の魔女を倒す戦力になるのかを知りたかったんだと思う」

 

意外と説得力のある推理をする兄に驚いた。結局は楽観的なことに変わりないけれど、有り得ないとも言い難い話だ。

 

「…もしそうだとしても、もっとマシな方法があったんじゃないの」

「そうだね。俺も、将軍のやり方が正しいとは思わないけれど…もし六香の言う通り俺たちを効率的に処分したいのなら、サーヴァントなしで行けって言うんじゃないかな。将軍が気をつけてって言ってくれたから、仲間を沢山連れて行って、結果こうして戻ってこられた訳だし」

「……それは、そうかもしれないけど」

 

結果論に聞こえる。兄の考えはあまりに将軍を好意的に受け取りすぎていないだろうか。相手はジャンヌやジルさんとは違う。出会い頭から問答無用でジルさんを拘束してジャンヌを殺そうとした人だし、情報を隠して、兄を危険な目に合わせた人だ。許せないと思う。

けれど、兄の言う事も一理ある。

 

”俺は多分、あの人俺たちを信じたかったんじゃないかなって思うんだ”

”信じているさ。君達の言うことが真であるのなら、この程度試練にもならないとね”

 

…本当に、信じてくれているんだろうか。信じているから、試練を与えたんだろうか。

一体何のために、試練を与えたんだろう?

 

「六香…?」

「…とりあえず報告に行ってくるから、立香は休んでて」

「あ、うん!ありがとう!」

 

いってらっしゃいと手を振る兄を尻目に私は将軍の部屋へと向かった。

 

 

「君の仲間達が戻ってきたようだね。怪我もしていないと聞いた。安心したよ」

 

相変わらず、おどろおどろしい兜からは想像つかない程優しい声だ。

 

「物資もかなりの量届けてくれた。予想以上の成果だ。これで数十日分は持つだろう。ここにいる人数が増えなければの話だが」

「…あの。将軍は、私達を信じてくれているんですか?」

「勿論だよ」

 

即答だった。

数時間前、平気で人の兄を死地へ送り込んだ人とは思えない態度だ。

 

「なら、何でこんな酷い事をしたんですか」

「……。良いよ。ちょうど、奴も出払っている。腹を割って話そうか」

 

奴って一体誰のこと?

私がそう聞く前に将軍は話を切り出した。

 

「私の計画では、数日前にジャック・ブラウンは死ぬ予定だった」

「は?」

「ある日、ジャック・ブラウンがスパイではないかという根も歯もない噂が立ち、彼は取り調べを受けることになった。そこへフランス軍が突入してきて。取り調べ中だったから武器どころか防具すらない彼はあっさり殺されてしまった。彼へ相当恨みが溜まっていたであろうフランス兵は、とても口に出来ないことをしたようだ。誰なのか分からぬ程悲惨な遺体だったらしい」

「…何の話をしているんですか?」

「君はフランスの貴族を知っているか?私は、恥ずかしいことに友人が少なくてね。あまり知らないんだが、数少ない友人から、数ヶ月後にフゥベー公爵の養子が1人増えるらしいと教えてもらったんだ。ま、フゥベー家はよく養子が増えるから、大した情報じゃないんだけどね」

「あの、さっきから一体何の」

「ソイツは変わり者で、黒い鎧を好むそうだ。大した戦績もないから黒い鎧で敵の戦意を削るつもりなんじゃないかな」

「…!」

 

黒い鎧。その言葉で、気付いた。

黒騎士は敵も味方も騙した英雄という事。フランス側に戻ってきた時もイギリスにいた時と同じ、黒い鎧で戦ったという事。

…じゃあ、今の話って、本来この世界で起こったはずの出来事ってこと…?

 

「本来死ぬはずだったジャック・ブラウンは、竜の魔女の出現により死ねなくなった。そのせいでフゥベー家の計画に関わった全ての人物は、それなりの被害を受けた。竜の魔女が大暴れしてくれているおかげで、あまり表沙汰になっていないだろうが、その者達は少なくともブラウン氏に非協力的になっただろうね。なにせ、竜の魔女はジャック・ブラウンを名指ししている。つまり、ブラウン氏は後ろ盾がほとんどない。連合軍のイングランド側トップを任されたのも、その証拠だ。それらしい立場にある者のうち、最も邪魔な者に全責任を押し付けた」

「押し付けた?イングランドのトップが将軍なのは、貴方が一番強いからじゃないの?」

「極東の国はジョークが上手いな。残念ながらイングランド王は聡明であられる。私のような右も左も分からない若造が、こんな大舞台を任されるということは、トカゲの尻尾切りにちょうど良いからなんだよ。私が死ねば、私の無能っぷりが知れ渡る。反対に私が場を収めれば、そのうち、私は寝首をかかれるか、竜の魔女が私の名を出した事で戦犯にでも仕立て上げて処刑するか…いずれにしても何らかの形で排除されるだろう」

 

絶句した。そんなの、あんまりな話じゃない。

いくら過去の世界とはいえ、紳士の国イギリスで、そんな事が曲がり通るなんて思いたくない。

 

「私も自分の命は惜しい。せめて自分の部下に寝首をかかれる事だけは避けたいんだ。だから君の兄をわざと死地へ向かわせた。悪い事をしたと思っているよ。本当は、こんな事したくなかった。けれど、私達は、ついこの間までフランス人と殺し合いをしていたんだ。そのフランス人の王妃を名乗る女と、魔女として処刑したはずのジャンヌ・ダルクを率いる君達を無条件で連合軍へ迎え入れる訳にはいかなかった」

「連合軍にフランス人もいるのに?」

「その通り。両者とも表向き手を取り合っているが、この一時的な同盟はいつ破綻してもおかしくないほどの緊張状態にある。君だって、自分のご両親の命を奪った者と四六時中同じ家の中でいたら、リラックスできないだろう。あの場で私が君達を受け入れれば、暴動が起こる。無意味な殺し合いは極力避けたいんだ。もう、知り合いの死体は見飽きている」

 

ため息と共に吐き出された言葉の重みが伝わってくる。

サーヴァントとかワイバーンとか、どこか非現実的な事ばかり起こっているから、つい忘れそうになる。

この時代は、戦争中なんだということ。人が人を殺してしまう事が正当化されてしまう状態。将軍の言葉に嘘はなくて、本当に多くの人の遺体を見てきたのだろう。

 

「今回、君達が予想以上の成果を持ち帰ってくれたおかげで兵士からの信頼度は上がった。この調子で君達が連合軍にとって信頼のおける勢力であると見せつければ、牢の2人も解放できるだろう」

「まだ解放してもらえないんですか」

「まだ、その時じゃない。心配しなくても、時がくれば解放するよ。大丈夫」

 

その時って、いつくるんだろう。

釈然としないけど、あんな話を聞かされた後で2人の解放を強行してほしい、とは言いにくい。

悶々とした気持ちを抱え、何も言えないでいると、突然扉が乱暴に叩かれた。

 

「閣下!!閣下はおりますか!?至急ご報告したいことが!!」

「入れ」

 

バンと大きな音を立てて乱暴に開かれた。

 

「スペンサーか…どうした」

「閣下…!!あ、あぁああぁあああ…っっ!!!」

 

え、えっなに。

涙を流し膝から崩れ落ちたイングランド軍の兵士 スペンサーさんについていけない。

 

「お、おい。どうした…?」

 

ギョッとする私とおそらく同じ反応をしていたであろう将軍が慌ててスペンサーさんに駆け寄る。

 

「ブラウン領が…ッ!ブラウン領がおちました…ッッ!!」

 

ブラウン領…イングランドの領地だろうか。ブラウン領って言うって事は…。

おそるおそる将軍の様子を窺う。

 

「……。そうか。報告ご苦労。詳細を頼めるか」

「…っ、は、はい。襲撃日は、おそらく」

「おっと、その前に。カルデアのマスター達には次の仕事を頼むとしよう」

 

あんまりショックを受けていなさそうな様子で、将軍は私にこう告げた。

 

「穴掘りは得意かい?」

「は?」

 




【TIPS】
紳士の国 イギリス
この頃はまだ紳士の国ではない。

ジャック・ブラウンの価値
敵の意表をつく戦い方ばかりするため、フランスからはかなり警戒されている。イングランドからも一定の評価を得ているが、この時点の彼は親の七光りから抜け出せていない。


戦況
【カルデア陣営の主なメンバー】
・ぐだーず(マスター)
・マシュ(シールダー)
・ジャンヌ(ルーラー※能力制限あり)
 ┗地下行き
・マリー(ライダー)
・アマデウス(キャスター)
・清姫(バーサーカー)
・エリザベート(ランサー)
・ジル・ド・レェ(人)
 ┗地下行き

【連合軍の主なメンバー】
<ブラウン軍>
・ジャック・ブラウン(人)
 ┗右手の指3本欠損
 ┗ジルとジャンヌに関する全権利を獲得
 ┗ブラウン領 壊滅 ←NEW!!
・ユリウス・テイラー(人)
・フランク(人)
・スペンサー(人)
<リッシュモン軍>
・アルテュール・ド・リッシュモン(人)
 ┗ジルとジャンヌ以外のカルデアメンバーの保護権を獲得

【竜の魔女陣営のメンバー】
・ジャンヌ(竜の魔女)
・ジル(キャスター)
・プレラーティ(キャスター)
・デオン(???)
・聖女マルタ(ライダー)
 ┗消滅
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