「おんなおとこ!!」
今日も今日とて虐められる。こんな日常もう、うんざりだ。どこか遠くに行きたい。
「うわコイツまた泣きやがった!!男のくせに気持ち悪い!!」
「また変な音立ててる!!気味悪い!!」
”まずは泣かないこと”
母さんにそう言われた翌日、僕はまた泣いていた。擦りむいた膝が痛くて。容姿を揶揄われたのが恥ずかしくて。何も言い返せない自分が情けなくて涙が零れ落ちていた。
”泣き虫ジャックの汚名返上することから始めなさい”
母さん。無理だよ。だって僕、痛くて、悔しくて堪らないんだ。自分が恥ずかしくて涙が止まらなくなってしまうんだ。泣いたら息が苦しくなってしまうからダメだって母さんに何度言われても涙が出るし喉からはまたヒューヒューと変な音が出てしまうんだ。
「悪魔だ!悪魔だから変な音がするんだ!!」
「…っあく、まじゃ……な…!ぃ」
「うわ悪魔が喋ったぞ!!石を投げろ!!」
泣きながら反論して必死に相手に掴み掛かるが、あっさり突き飛ばされる。体格差がありすぎるんだ。小さくて骨と皮しかない身体ではどうすることもできなかった。
「…ぁく、まじゃな、い…!ぼくは…っ」
ボロボロと涙が溢れ出る。反論さえもろくにできずにいた。ただ両手で顔を覆い投げられる小石が目や口に入らないようにするので精一杯だった。
「こらぁ!!何してるの!!!」
遠くから女の子の声が聞こえた。
「ぅわ、ジャネットだ…」
「どうする…」
小石を投げていた子らが嫌そうな顔をする。女の子 ジャネットはこの村では力のある家の子だった。
「やめよーぜ。怪我させたら母ちゃんに怒られるだろ。アイツ、女のくせに腕っ節強いし」
「だな。ははっ、まーたあの、おとこおんなに守ってもらえてよかったなぁ。おんなおとこ」
苦しさのあまり膝をついて呼吸を整えようと躍起になっていた僕の横を彼らは通り過ぎる。すれ違い様、脇腹を蹴られ僕は地面に転がった。
「あっ!!じゃっく!!!」
無様に地面に横たわる僕に彼女は近づく。
「血がたくさん出てる!かあさんに手あてしてもらわないと!!」
生憎それは鼻血だ。運悪く鼻に投げられた石が当たったせいで派手に出た鼻血だ。そんな鼻血よりもこの息苦しさをなんとかしたかった。けれどジャネットにそれを伝えるよりも先に僕は意識を手放した。
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「あっ!!起きたのね!!」
再び目を覚ますと視界いっぱいにジャネットがいた。驚き言葉を失っていると彼女は自身の母親を大声で呼んだ。すぐに彼女の母が現れ僕を見ると優しく微笑んでくれた。
「気がついたのね。体調はどう?ご両親はもう少ししたらいらっしゃるだろうから我慢、ね?」
呆然としている僕をそっと抱きしめ笑いかける。僕は顔が真っ赤になった。
恥ずかしかった。またジャネットに助けられた。またジャネットの母親に迷惑をかけた。
僕は男でジャネットは女の子で。僕は9歳でジャネットは6歳なのに。小さな子供に守られているという現実が僕を更に辱めた。ジャネットは6歳の割に8歳くらいの子と変わらない背丈をしていて、僕は9歳の癖に7歳くらいの子と変わらない背丈をしていた。僕らを初めて見た人は、きっとジャネットの方が僕より年上で頼り甲斐があると思うだろう。
僕はそれが、たまらなく恥ずかしくて嫌だった。
「なんで、いつも僕を助けるの」
「え?だっていつもジャックが虐められているから」
さらりとジャネットが言う。きっと彼女に悪気はない。
「向こう3人とかずるいよね」
「ずるいのかな…」
「ずるいよ!!きっとジャックが頭良いから一対一じゃ勝てないと分かっているんだよ!」
「一対一でも僕が負けるよ…」
「どうしてそう思うの?一対一で負けちゃったの?」
「いや、イジメだし…一対一でなんてなったことないよ」
「じゃあ分からないじゃない!!ジャックは私の知らないこといっぱい知ってるんだから!本だってジャックは読めるんだから!アイツらに負けるはずがないもん」
ジャネットは怒っていた。どうして怒っているの、と聞くとジャネットは、だってジャックがすぐ諦めるから、と言った。
「何でいつも悪い方に考えるの。そりゃあ向こうの方が私たちより身体が大きいけれど私たちだって大きくなるよ。いつか追いつける。でも私はジャックみたいに賢くはなれない。あの子達だって」
「ただ本が読めるだけじゃないか…それも父さんが教えてくれた文字だけで紡いでいってるだけで…僕は本の内容全てを理解しているわけじゃないんだよ」
「私は自分の名前も書けないし読めないよ」
「父さんに教えてもらえば…」
「この間教えてもらったけれど分からなかったよ」
それはジャネットが少し人より頭がよろしくないだけじゃないだろうか。口から出そうになったその言葉を飲み込んで、ジャネットの、だからね、と言う声に耳を傾けた。
「どうかいじけないで、ジャック。貴方のその力を私はとても凄いと思っているの。だから、私の凄い人を、どうか嫌わないで」
ぎゅっとジャネットは僕の手を握って訴えた。
僕は泣いた。
「ジャネット!!貴女目を離した隙にジャックを泣かせて」
「えっ!?ご、ごめんなさいジャック…嫌だった?でも、私も嫌だったの。ジャックがジャックのことを嫌がるのが」
嬉しかった。男のくせに女の子より弱く。走り回ることすらろくにできやしない、この村一使えない僕を凄いと言ってくれたことが嬉しかった。認めてもらえたみたいで堪らなく嬉しかった。文字の勉強はそんなに好きではなかったけれど、今まで教えてくれた父さんに心の底から感謝した。これからもっと励もうと思った。
僕はこの時ジャネットに恋をした。
作者は歴史知識薄いのでお手柔らかにお願いいたします。
ここまでお読みいただきありがとうございます。