フランスの悪魔   作:林部

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【前回までのあらすじ】
最も歪みが少なく難易度の低い第一特異点 百年戦争中のフランスへ降り立ったカルデアのマスター達は現地で出会ったサーヴァント ジャンヌ・ダルクら、ジル・ド・レェらフランス兵と共にラ・シャリテを拠点とし、調査を開始した。サーヴァントを除いた現地最大勢力の連合軍からは竜の魔女の仲間なのではないかと疑いの眼差しを向けられていたが、実力を示したことで彼らの仲間と認めてもらえることになった。
一方、連合軍イングランド側トップ ジャック・ブラウンはサーヴァントの強さを目の当たりにした事で、カルデアの脅威に対策を打とうと躍起になっていた。その際、本当に物理攻撃の通用しないカルデアのサーヴァントと、物理攻撃が通った竜の魔女との差に疑問を持つようになる。一刻も早く竜の魔女達を倒すため、カルデアが捕獲した敵サーヴァントから情報を得ようと尋問を開始した。


第14話 1431年6月24日

ジャック・ブラウン - 5

 

「……。朝から面白いものを見せてくれたな」

「朝?」

「惚けるつもりか。全く。珍しく食堂に顔を出したかと思ったら、あんな大胆なことを」

 

リッシュモンは頭を抱え息を吐き出した。確かに今朝は食堂に顔を出した。朝食を取るためではなく1人の少女に会うために。正しくは、私のものを彼女に渡すために。

 

「似合っていると思いませんか?」

「紋章が入ったものを女性にプレゼントとは…この意味が分かっているのか?」

「昨日報告したはずですよ。私は藤丸六香に惚れていると」

「…確かに、君の恋愛事情に口をだすつもりはないと言ったが……何故よりにもよって食堂で渡したのだ。全員見ていたぞ」

 

当たり前だ。全員に見せるために、わざわざ食堂まで出向いたのだから。

 

「少し気が急いでいたようです」

「…君のせいで今日は朝から全員仕事に手がつかない様子なのだが?」

「人の恋情にそこまで揺れるとは、鍛錬不足ですね。うちの兵士には強く言っておきます」

「…はぁ。以前から思っていたが、本当に。私には君が何を考えているのか、まるで分からないよ」

「ご存知ですか大元帥。恋は人を変えるもののようですよ。出来れば彼女に専属の護衛をつけたいのですが」

「ならん。以前からカルデアの護衛は両軍から1名ずつと決めたはずだ」

「カルデアではなく、藤丸六香の専属護衛です」

「彼女がカルデアに所属する以上、それは無理な話だ」

 

…マリー・アントワネットに専属の護衛をつけさせたのは、誰だったのか忘れたのだろうか。

まぁ良い。元より彼女に護衛をつけるつもりなんて最初からないのだから。重要なのは、カルデアをこちら側に置いておくこと。そのために藤丸六香との関係性を強くする。未来の正妻という立場ほど特別な関係性はない。

 

「第一、君はジャンヌのことを愛していたのではなかったのか?」

 

背筋が凍りついた。誰にも打ち明けた事なんてないはずなのに、何故彼が知っているのか。

焦ったそぶりを見せないよう、ゆっくりと視線を外し記憶を辿る。そういえば一度、言い当てられた事があった。

 

"僕が…私が、勝手に贈る物だから。できる限り負担になりたくないんです。彼女が気にもならないほどの軽いものがいいんです"

 

いつかの自分の情けない声が蘇る。あの時一緒にいたのはジル・ド・レェだった。そこから漏れたのだろう。畜生が。過去の自分を殴り殺しにしてやりたい。

 

「ブラウン伯爵?」

「…いえ、なんでも。私は、敵将軍に想いを寄せるほど間抜けにはなれませんから」

「まぁ、君がそう言うのなら構わないが。であれば、ドラゴンスレイヤー捕獲作戦にジャンヌを連れて行く、異論はないな?」

「まだジャンヌ・ダルクの疑いを完全に払拭できた訳ではありません。この状態で戦場に彼女を同行させるなど正気ですか」

「疑っているのは君のところの一部の兵士だけだろう。寧ろ、彼らからすれば、ジャンヌが離れた方が安全にここを守ってくれるだろう。好都合なのではないか?」

「…それは」

「カルデアからは、マリー王妃・ジャンヌ・マシュ。マスターの立香を同行させる」

「承諾できかねます!足をもつマリー・アントワネット(ライダー)はともかく、ジャンヌ(ルーラー)マシュ・キリエライト(シールダー)は防御に特化したサーヴァント。バランスが悪い上にこちらの防御が薄くなる」

「…今、王妃を愚弄したか?」

「ッ…」

 

正面から圧を受けた。言い方を誤ったか。…クソ、やりづらい。こちらの言いたい事はマリー・アントワネット(ライダー)の話ではないというのに。

 

「とにかく、ここにも硬い盾が必要です。ジャンヌ(ルーラー)はこちらの防御に置かせていただきたい」

「しかし、ジャンヌの能力はフランス兵の方が活かせるのだろう?」

「……。では、マシュ・キリエライト(シールダー)をこちらに置かせてもらいます」

「彼女は立香と契約している。マスターと契約しているサーヴァントが離れては能力が十分に発揮できない」

「ならば、藤丸立香もこちらにつかせてもらいます。そちらには藤丸六香を同行させる。マシュ・キリエライト(シールダー)の代わりに、彼女と契約している清姫(バーサーカー)をそちらにつかせれば、敵サーヴァントが現れても貴方は攻撃に転じやすくなるのではないですか?」

「ふむ、悪くない。寧ろその方が望ましいが、良いのか?六香は渡したくないのかと、こちらは気を遣ったつもりなのだが」

「…えぇ。まぁ。ラ・シャリテが落とされては元も子もありませんから」

 

出来れば藤丸六香を手元に置いておきたかったが、仕方がない。同行するフランス兵はリッシュモンの騎士道に共感する者達だ。私の紋章を身につけている少女に近づこうとは思わないだろう。それよりも、フランスのサーヴァントが2騎同行する方が気になる。マリー・アントワネット(ライダー)とリッシュモンとの関係性が深まる事は仕方がないとして、そこにジャンヌ(彼女)と加わるとなると…まずい。かといって、竜の魔女疑惑を利用することは悪手になる可能性がある。ジャンヌ(彼女)だけをこちらに引き抜けば、ブールジュの守りが薄くなる。そのせいでブールジュを手放す、なんて事になれば、もう目も当てられない。

…今は、こうするしかない。いずれ何かきっかけを作り、ジャンヌ(彼女)とシールダー、藤丸立香と藤丸六香をトレードする。

 

「ところで、大元帥。貴方のところに銃兵はいないようですが、作るおつもりはありますか?」

「銃?ないな。弓よりも討つまでに時間がかかるものを誰が使いたいものか。第一、自らを安全地帯に置き敵を攻撃するなど、私はあまり好みではない。君のところだって、銃兵などあまりいないだろう?」

「えぇ。これから拡充させる予定です。うちの研究者が大砲の研究をしているのですが、その副産物として良い銃が作れそうだと言うので」

「研究者?そんな者が君の軍にいたのか」

「本業は砲兵で、空いた時間に研究させているに過ぎない者達ですが。どうでしょう。良い物を作れましたら、そちらにもお譲りします、ご一考いただけないでしょうか?」

「ふむ。大砲なら協力するが、銃兵は認められん。そちらは悪いが、君達だけでどうにかしてくれ。」

「…承知しました」

「我々は作戦通り、これからブールジュに向かうが、話は以上で構わないか?」

「はい。どうか、お気をつけて」

「ははっ、ありがとう。なに、案ずるな。我が軍には王妃と聖女がついているのだから」

 

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藤丸六香 - 8

 

「ぶーるじゅ?」

「あぁ。ここから西に50キロ程進むとブールジュという要塞都市がある。そこにサーヴァントがいる可能性が高いとの情報を得てな。君達の探しているドラゴンスレイヤーかもしれん」

 

リッシュモンさんの書斎にて。午後一でくるように呼ばれた私達は大きなソファーに座り、リッシュモンさんと向かい合って作戦を聞いていた。

因みにここに来るまで私は散々人目に晒された。多分、今朝食堂で堂々と渡された(というより、強制的に羽織らされた)マントのせいだと思う。背中に大きな紋章が入っているし、素人の私が触っただけで分かるくらいには上等の素材。常に身に纏っておくようにと軽い殺気を飛ばしてきた今朝の将軍の姿が頭にやきついている。これ、多分昨日のよく分からない告白と関係していると思うんだよね。惚れているって言った相手に殺気を向けて贈り物してくる将軍、控えめに言ってヤバすぎだろ。おかげで全く恋愛感情なんてないんだねって分かったから良かったといえば良かったのかもしれないけど。

だけど、兵士達はそう思わなかったのか、出くわす度にすんごい目で見てくるし、あれが噂の子の。何で将軍があんな子供に。みたいな囁き声が耳に入ってきて無駄に精神力を削られた。

 

「じゃあ今すぐそこに行きたいです!ドラゴンスレイヤーでなかったとしても、味方のサーヴァントかもしれないし」

「そう焦るな。既に準備は整っている。作戦名はドラゴンスレイヤー捕獲作戦だ」

「ほかく?」

「命名者はあちらの将軍だから文句はそちらに言いなさい。この作戦では、我らの軍とカルデアの一部のメンバーで出陣する。第一の任務はサーヴァントを味方につけること。第二は、ブールジュの守りを強化すること。第三は、ブールジュとここを繋ぐ道を作ること。この3つの任務達成を目標とする、この通り、やる事が沢山ある重要な任務だ」

「道?」

「そうだ。フランスは広大であるが故、ラ・シャリテだけを拠点とするのはあまりにも心許なさすぎる。こうして少しずつ我らの拠点を増やし、安全に移動できる道も確保するのだ」

 

なるほど。確かに安全な道が出来るって凄く良いな。でも、カルデアの一部のメンバーってことは、もしかして、また兄とはなればなれにさせられるって事だろうか。

 

「この作戦には、六香、マシュ、マリー王妃、ジャンヌ、清姫に同行してもらう」

「え、私?」

「あぁ。これは連合軍の決定だ。申し訳ないが君に来てもらう」

「それは良いんですけど」

 

将軍から変な因縁をつけられていたし、てっきりまた、ここで待つ事になるのかと思った。

連合軍の決定という事は、将軍が賛成したってことになる。…あの人、私を外に追い出したりマント被せたりして、一体何がしたいんだろう?

 

「あの、俺は…」

「立香。君は引き続きここを守るんだ。ブールジュの作戦指揮は私が。ラ・シャリテの指揮はブラウン将軍がとる。っと、そうだ。君に彼から伝言を授かっている。敵サーヴァントが来るまでは地下通路の任務につけと」

「……また穴掘りかぁ」

 

兄がしんどそうな顔をしている。うん、気持ちめっちゃ分かる。早朝から日の入りまで穴の掘り続ける作業は、しんどい。体力的にもメンタル的にも。兄には悪いけれど、作戦参加する側で本当に良かった。

 

「案ずるな。君だけに辛い仕事を押し付けたりはせん。我々も第三の任務では、全員穴掘りをする事になるからな」

「…え゛゛」

「準備が出来次第、正門前に集合してくれ。悪いが時間はない。急ぎたまえ」

 

 

「襲撃は受けていないようですね…良かった。これなら目的の奴。ドラゴンスレイヤー、でしたっけ?彼も生きていそうですね」

「あぁ、門に傷一つない。まだここにいるな。我々は間に合ったようだ。おい、私が来たと門兵に伝えてくれ。私の名を告げれば開門する手筈になっている」

「はっ!」

 

リッシュモンさんの命令を受けたフランス騎兵は馬からおり門兵に駆け寄る。身軽でカッコいいなと眺めているとマリーが振り返った。

 

「六香。降りられる?」

「無理。ごめん。手伝ってもらっていい?」

「勿論よ」

 

ブールジュへは私達も馬で移動した。この時代は馬移動が普通らしい。私以外の全員は難なく馬を乗りこなせていたけど私は勿論、乗馬なんてしたことないのでマリーの後ろに乗せてもらっている。

この件について、清姫が自分の後ろに乗らないことで一悶着あったが、そこは割愛させてもらう。とりあえず清姫は引き下がってくれたけど今も私の手を取って馬から下ろしてくれたマリーを蛇のような恐ろしい顔で見ている。怖い。ついでにマリーの護衛隊の人が、マリーの手を取った私をゴミを見るような目で見てくる。怖い。こんな目に合うんだったら、ラ・シャリテで慎ましく過ごしていた方が良かったんじゃないだろうか。

 

「門が開いたな。馬を置いたらサーヴァント捜索開始だ」

「「はい」」

 

さっきまで私にすんごい視線を送っていたマリー護衛隊の人は、何事もなかったかのように馬を引き連れ門を通っていった。…ヨーロッパの人って切り替え凄いんだね。

 

「六香、どうかして?」

「ううん、なんでもない。私達も行こう!」

「はい。ますたぁ。”私と共に”参りましょう」

「…うん」

 

ちょっと胃が痛いかもしれない。そう思いながら私も門をくぐった。

 

 

「結構賑わってるね」

 

入った瞬間走り回っている子供達が見えた。子供達だけではなく街全体が活気溢れているようだ。まるで、ここだけ戦争も何も起こっていないように感じる。

 

「モンリュソンは何度かワイバーンの襲撃を受けたと聞いていたが…」

「そうなんですか!?その割には痕跡が何も…それに街の様子も」

「あぁ。優秀な傭兵がたった1人で撃退したらしい。おそらくサーヴァントだ」

「お待ちしておりました。リッシュモン大元帥」

 

少し離れたところから鎧姿の男の人達が近づいてくる。門兵と同じ鎧だ。この人もブールジュの兵隊なんだろう。

 

「こちらへ。ベッドフォード侯爵夫人がお待ちです」

「ベッドフォード公爵夫人?こちらに避難されていたのか…いや、しかし。その前にここの領主と話をしたいのだが」

「…領主様は、先日お亡くなりになりました」

「亡くなった?まさか…」

「…はい。ワイバーンが破壊した城壁の…瓦礫の下敷きとなり、そのまま……。ですが、今はその復興も済んでいますし、領主様のご遺体も埋葬が済んでいます」

「そうか。それは、何よりだ。心配する事はない。君達の領主は神の元へ行っただけなのだから」

「はい。私もそう信じています」

 

ブールジュの兵士は寂しそうな顔で微笑んだ。ここの領主は兵士達に慕われていたんだな。

 

「今、ここを指揮しているのは、ライダー様とベッドフォード公爵夫人です。挨拶にいかれるようでしたら、ベッドフォード公爵夫人でよろしいかと」

「…ふむ。では、夫人のところへ参るとしよう。この者達…カルデアというのだが、彼女らはライダー殿に用がある。案内を頼めるか?」

「承知いたしました。ちょうど、ライダー様からカルデアと名乗る組織が現れたら通すように申しつかっております。おい、この者達をライダー様のところへお連れしろ」

「はっ!カルデアの方々、こちらへどうぞ」

「はい」

 

先導する兵士の後に続く。リッシュモンさんは別方向に案内されているようだ。

 

「ドクター。ベッドフォード公爵夫人ってどんな人か分かる?」

《この時代のイングランド王 ヘンリー6世の叔父 ベットフォード公と結婚された公女だよ…ベットフォード公は摂政を勤めていたからかなり重要人物だね》

 

王様の叔父さんが旦那さん…ってことはイギリス王家の人がここにいるってことか。想像以上に凄い立場の人だった。本人は、どんな人なんだろう。マリーみたいに接しやすい人だといいな。

 

「ますたぁ、お下がりください」

「清姫?どうかし」

 

目の前を子供が勢いよく通過していった。危な…もう少しでぶつかるところだった。

 

「すみません…避難民が集まってからというものの、躾のない子供が一定いるようで。私から、よく言いつけておきますので」

「い、いえ。ここってそんなに避難民多いんですね」

「はい。竜の魔女が現れてからというものの、多くの街が犠牲に遭いました。ここもライダー様がいらっしゃらなかったら、どうなっていたか……ここが安全だという情報が伝わったのか、色んな都市から避難民がきているのです。ベッドフォード公爵夫人は訪れた避難民を全員受け入れてくださったので。この通り、活気に満ちた都市に変わりました」

 

品はなくなりましたが。

困った顔で兵士さんはそう続けた。

 

「そういえば、連合軍のイングランド側のトップはブラウン伯爵と聞きました。ブラウン領の方々は、そちらにお連れできるよう、手配しておきますね」

「ブラウン領って…しょうぐ…ブラウン伯爵の、領土って事ですか?」

「はい。そこで住んでいた人達も、ここに避難されたので」

「避難…」

 

はたと思い出した。

 

”ブラウン領が…ッ!ブラウン領がおちました…ッッ!!”

 

数日前に聞いた、将軍の部下の言葉。

そうだ。そうだった。伯爵の領土は、もう竜の魔女に襲撃されて、なくなってしまったんだった。

 

「……」

「ほら、あそこ。あの女の子…確か、名前は……オリヴィア」

 

兵士さんがまっすぐ前を指出す。その先には、1人で地面の土を掘っている女の子がいた。

 

「オリヴィア!おいで」

 

声に反応し女の子が駆け寄ってきた。

 

「オリヴィア。こちらは、君の領主がお世話になっている方々だよ」

「子爵さまが?」

「伯爵さまだよ。ブラウン伯爵に子爵様なんて言ったら怒られてしまうよ」

「おこらないよ。子爵さまは、やさしいから」

 

目の色も髪の色も将軍とは全然違う。領民は血が繋がっている訳じゃなさそうだし、別に似てなくて当然か。

 

「ブラウン伯爵はご無事のようだ。君も、いずれあの方に会えるよ」

「子爵さまに会えるの?本当?」

「本当だ。オリヴィア達は、遠いブラウン領からここまでよく耐えてくれたからね。きっと主のお導きさ」

「ふふっ、うん!あの男の人、こわくて。ぜんぶ、おかしくなっちゃったと思った。でも、子爵さまが助けてくれるって信じてたから。がんばったの!」

「そうか。オリヴィアは伯爵が好きなんだね」

 

うん!っと女の子は力強く頷いた。可愛い。

将軍ってちょっと怖いイメージあるけれど、領民の子は意外と普通の子なんだな。私達の時代にいる子供と同じ無邪気で元気のある良い子だ。

 

「すみません。余計な時間をとらせましたね」

「いいえ。…良い子ですね。お転婆だけど礼儀正しくて。ご両親に愛されている子なんだなぁって思いました」

 

走り去っていく女の子 オリヴィアちゃんを見送る。彼女はさっきまでいたところに戻って、また土を掘って砂遊びをしている。

 

「あぁ、あの子は愛人の子でしてね…捨てられないよう良い子であろうとしているのかもしれません」

「え…?」

「だって、ほら。愛人の子は、ねぇ……礼儀作法はブラウン伯爵が教えてくださったようですよ」

「…そうなんですね」

 

驚きすぎてつい返事が適当なものになってしまった。

愛人の子。確かに、それは褒められたものではないけれど、オリヴィアちゃん自身は何も悪くないはずなのに、兵士さんはまるでオリヴィアちゃんが悪いように話す事に驚いたし、将軍が教えたという事にも驚いた。…将軍って私が思っているよりも、ずっと良い人なのかもしれない。

 

「あの方も、出生に関しては黒い噂がありますし。かつての自分と似た存在を前に、放っておけなかったのかもしれませんね」

 

立て続けに衝撃の事実を告げられる。似た存在って事は、将軍も愛人の子ってこと?あの人は確か、ジャンヌと同じ村出身の人で…確か今は、ブラウン家に養子に引き取られたんじゃなかったっけ?何で愛人の子なんて噂がたっているんだろう?

 

「どうぞ。ライダー様はこちらの医務室においでです」

 

兵士さんが建物の前で立ち止まり、扉を開けてくれた。医務室…ライダーは怪我をしているんだろうか。さっきリッシュモンさんが何度か襲撃されているって言ってたし。

…何度も襲撃されているってことは、今日襲撃されるかもしれない。気を引き締めないと。

 

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アルテュール・ド・リッシュモン - 1

 

「長旅でお疲れでしょう。どうかお座りになって」

「いえ。この程度、何ともございませぬ」

「そう。それは素晴らしい事ですが、私は落ち着いて会話がしたいわ」

「…失礼致します」

 

椅子に座るだけだというのに、正面にいらっしゃるのがこのお方というだけでこうも緊張するものなのか。

テーブルにはワインが2つ。間違いなく最高級のものだ。イングランド王やフランス王より実質的な権力を持つブルゴーニュ公爵家の公女であり、ベットフォード公 ジョン・オブ・ランカスターの妻であるこのお方の前に最高品質のワイン以外が運ばれる日は来ないのだから。

 

「ブルージュは、夫人の尽力により守られていると伺いました」

「そうね。冬用に備えた物資の解放と民間人からの志願兵の徴収はしましたわ。けれど、ここがまだ陥落していないのはサーヴァントのおかげでしょう」

「!流石、お耳が早い。サーヴァントの存在までご存知とは」

「ふふ、公爵家の情報網がありますから」

 

口角を上げ夫人は微笑む。ベッドフォードとブルゴーニュ、どちらの権力を併せ持つこのお方の情報収集能力はとてつもない。このお方がイングランドあるいはフランスにつけば、百年続いているこの戦争もすぐに決着がつくだろう。

 

「こちらにはライダークラスのサーヴァントがいるそうですね」

「えぇ。ライダーとセイバー2騎いらっしゃいます。残念ながらセイバーは今、戦えないようですが」

「戦えない?一体何があったのです?」

「それはセイバーに直接聞いた方が良いでしょう。私もサーヴァントに関しては素人ですから」

「では、セイバーはどちらに?」

「医務室です。あのままでしたら死に至るとはいえ、彼にはできるだけ長く存続してもらう必要がありますから」

 

死に至る?どういうことだ。サーヴァントとは、サーヴァント相手でないと攻撃を受け付けない無敵の存在ではなかったのか?…もしや過去の襲撃で痛手を受けたのか。

 

「それより、ブラウン伯爵はどちらに?」

 

意外な方向に話をかえられた。このお方が間違えるはずがないから、先代ではなく、彼のことを指しているのだと思うが。驚いた。彼はブラウン伯爵の養子になって、さほど経っていないというのに。このお方が気にかけてくださる程親密な関係を築いていたとは。

 

「ラ・シャリテです。今頃決戦に備えているところでしょう」

「そう。ここにはいらっしゃらないのですね。それは残念です」

「彼と親交が合ったのですね……きっかけは妹君でしょうか?」

「えぇ。仲良くさせていただいておりますの。…あの方は、私に心を許してくれないでしょうが」

 

思わずワインを飲む手が止まった。なんて直接的な表現だ。…思うに、とても仲良いとは言い難い間柄なのだろう。

 

「ねぇ。貴方から見て、ブラウン伯爵はどんな方かしら?」

「…一言でいえば、優秀に尽きます。彼が味方でいてくれるのは心強い」

「最近は話す機会も多いのでしょう?どんなお話をされているの?」

「他愛ない会話を…といっても、ほとんど煙に巻くような言葉ばかり返されているので。彼の心根は分からぬままです」

「そう。きっとあの方は、繊細な方なのでしょうね。いつか本当に仲良くしてくださるといいのだけれど」

 

夫人は目を細める。ペリドット色をした彼女の瞳が光る。このお方の容姿を褒める時、皆その瞳を褒め称えていたことを思い出した。青や紫といった優雅だが同時に刺激的な色の瞳の持ち主が多い中、緑色の彼女の瞳は一際目立っていた。控えめながらも温和な色は周囲に癒しを齎す。何より彼女の、明るく穏やかで皆を照らす太陽のような良き人柄を表すかのような色合いで、私も常々美しい瞳だと思っていた。

だが、私はこのお方が穏やかで周囲の人間を癒してくれるだけの女性でない事を知っている。故にこの時、平静を装いつつ彼女が次に発する言葉を待っていた。

 

「残念だけど、繊細な方は連合軍のトップには向かないわ。貴方もそう思うでしょう?」

「トップは互いに王です。これは権力を示す目的もあります故、交代することはないでしょう」

「えぇ勿論。ですが残念ながらイングランドの有力な将軍の多くは殺害されています。フランスには大元帥。貴方のように優秀な将軍がいるので問題ないでしょうが……。最近は、まるで狙ったかのようにイングランドの戦力が削られています。いつ、イングランド王が崩御されてもおかしくないと考えてしまうほどには、イングランド側が追い詰められています」

 

一気に緊張が走る。もう世間話は終わりと言わんばかりに、彼女は、いきなり私ですら知らない戦況を語ってみせた。このお方の情報収集能力の高さは重々承知していたが、このような状況下で、一体どうやって情報を仕入れているのだろうか。

 

「この状況、どう見ますか?」

 

眼光が鋭い。ジャック・ブラウン(どこかのスパイ)のような圧を感じる目だ。

 

「早急に竜の魔女を倒すべきかと」

「では、倒した後は?」

「倒した後、ですか」

「えぇ。彼女を倒せば全て解決するのでしょうか。彼女やワイバーンを倒した後も停戦状態が続けば平和が訪れるでしょうが、そんな未来を貴方は思い浮かべる事ができますか?」

 

私は数分思案した後、首を横に振った。

 

「おそらく直後は停戦状態のままとなるでしょう…しかし、ある程度両国が復興したところで、また再戦されます…フランスはまだ、フランス領を支配したイングランドを追放できていないのですから。目的が果たされるまで、あるいは王が降伏するまでは戦い続けるでしょう」

「そうですね。竜の魔女によって戦力差がついた今、フランスにとっては絶好のチャンスですもの。復興を待たずイングランドを攻めてもおかしくはありません」

 

夫人は目を伏せたが、すぐに真っ直ぐこちらを見つめた。

 

「ところで、竜の魔女が戦いを仕掛けた理由は判明しているのでしょうか?」

「復讐と聞いています…自身に理不尽な罪を与え火あぶりとしたイングランドへ。そして、そんな彼女を救えなかったフランスへの復讐の為、彼女は魔女として蘇った…」

「本当にそれが正しい理由なのかしら」

「……。夫人は別の目的があると考えられているのですか?」

「仮にジャンヌ・ダルクが魔女として蘇った事が真実だとしても、私には彼女が復讐のために人々を虐殺するとは思えません…いいえ。たとえ、どんな大義名分があろうとも、あの子は虐殺できるような子ではないと思っています。少し言葉を間違えましたね。私が聞きたかったのは、竜の魔女のあの言動が本人の意思なのかという事です」

「…何を」

 

何を言っているのだろう。その言い草では、まるで竜の魔女が何者かに従わされているようではないか。

 

「ブラウン領の被害をご存知ですか?」

「…酷い有様と聞いています。」

「あそこの遺体の損傷は極端でした。人の形を保てていない惨い状態の遺体もあれば、首元を切られ即死したであろう生存状態が綺麗なもの。大体この2種類に分けられました。悲しい話ですが、犯人の姿が掴めない以上、彼らの手に侵された遺体は彼らの人物像が明確になる唯一のものです」

「夫人…まさか、貴女自ら遺体を」

「いいえ。ですが、その惨状は知っています。犯人が2人いることは明確。竜の魔女は遺体を灰になるまで燃やしますから、この2人は竜の魔女ではありません」

「では、竜の魔女配下の者達の仕業でしょう。なんて惨い…」

「本当に配下なのでしょうか?」

 

探るような目でこちらを見上げられた。疑われている。…どうして、私が疑われているのだろうか。

…まさか、私が竜の魔女に属していると思われているのか?…何故、そんな。

 

「私は竜の魔女をこの目で見たことはありませんが、ジャンヌ・ダルクは会ったことがあります」

「彼女と…?」

 

そうか。そういえば、イングランドが実施したジャンヌ・ダルクの異端審判に夫人は協力していた。それも、未婚の彼女が処女検査(魔女なのか)を確認する重大な役を引き受けたと聞いた。

 

「言葉を交わした時間はほんの僅かでしたが、すぐに分かりました。あの子は人を惹きつける才能がある。カリスマ性と呼ぶべきでしょうか。地方の農民の子とは思えない恐ろしい才能です。あの才能さえあれば、多くの人の心を掴むことができる」

「えぇ…私も何度か彼女と共に戦いましたが、仰る通りです。しかしあれは、あの子の善性に人々が惹かれているだけでしょう」

「えぇ。私もそこを問題とは考えていません。問題は、彼女のそれを悪用されたところにあります。おそらく、あの才がなければ彼女は火あぶりにされなかった」

 

そうかもしれない。彼女のカリスマ性がフランスの士気を高め快進撃を続けていたからこそ、イングランドは彼女さえいなければと思い極刑に処したのだろう。事実、彼女が散々な扱いを受け火あぶりにされたという話を聞いた騎士達は、絶望し、もう戦いたくないと言い出すものまでいた。ジル・ド・レェもそのうちの1人だ。

 

「悪用した人物は…あえて申し上げます。ブラウン伯爵でしょう」

「!……。何故そう思われるのですか?」

「彼女を火あぶりにしたのはブラウン伯爵ですから」

「婦人の仰るとおり、ジャンヌを処刑台に導いたのは彼ですが…あれは王命だったのではないでしょうか。彼が自分の意思で火刑に処すことはあり得ません」

「何故、言い切れるのですか?貴方にブラウン伯爵のお心は分からないのでは?」

 

鋭い眼差しをぶつけられ、全身から汗が吹き出した。

ジャック・ブラウンがジャンヌ・ダルクの幼馴染と知るのはごく一部の人間のみ。その中に夫人はいなかった。極秘情報を彼女に渡すわけにはいかない。だが、一体何を言えば納得してもらえるだろうか。私よりも遥かに賢い、このお方に何を言っても秘密を暴かれてしまうような緊張感が走った。

 

「少し意地悪が過ぎましたね。私、彼がどういった立場にある存在かは知っていますわ。だからこそ悪用したのだと思っています。彼の言い回しを使うのであれば、祖国をイングランド(侵略者)から救うために。そして今回も悪用したのでしょう」

「…!夫人、貴女まさか…ご存知なのですか?」

「ご存知とは何を?ドンレミ村の青年の話ですか?」

 

まるで世間話をするかのように彼女は話す。

…知っているのだ、このお方は。ドンレミ村の青年がブラウン家の伯爵になっていることも。その青年がフランスに寝返ることも。そうでなければ、先ほどの言葉が出てくるはずがない。

一体どこから情報が漏れたのか。否、それよりも知っているのなら何故このお方は彼を疑っているのだろう。

 

「勿論彼も復讐が理由ではないのでしょうけど、何かしらの目的があるはずだわ」

「何故そう思われるのですか?」

「人の行動には、必ず目的があります。特に今回のような大掛かりな事を何の目的もなく実行する人はいませんわ。竜の魔女は、おそらくその目的を覆い隠すために用意された、言わば人柱のような存在なのでしょう。あのカリスマ性を利用するためジャンヌ・ダルクを名乗らされている哀れな子のように私には見えます」

「……夫人、貴方は何故、ブラウン伯爵をそこまで疑うのですか?」

「ジャック・ブラウンが死んだ後、彼はどんな名で生まれ変わるか、ご存知ですか?」

「いいえ。そこまでは」

「ジャック・ド・フゥベー。彼自身が生まれ先に公爵家を指定したため、フゥベー侯爵の養子となるようです」

 

フゥベー公。あまり良い噂をきかない公爵家だ。広大な土地を所有しているが辺鄙な土地である為、あまり栄えていない。その影響なのか、子供は何人もいたはずだが、ほとんど病死したと聞いている。

 

「祖国を救済するため自ら司令塔となれるポジションが欲しかった、という理由らしいですが……祖国を救済した後、彼は何をするのかはご存知?」

「いいえ」

 

首を横にふる。そもそも彼が祖国を救済すると知ったのも数日前の話だ。こんな状況でその先の事など想像したこともなかった。

 

「私も知りません。おそらく、彼は誰にも話していないのだと思います。ですから、ここから先は仮説の話です」

「……構いません。教えていただけませんか」

 

私の願いに夫人は微笑みで返し、ゆっくりと口を開いた。

 

「もし彼の目的が、祖国を救済という言葉が敵国兵を追い出すことだけではなく、祖国を自らの理想郷とすることが目的なのだとしたら、彼の真の目的は玉座となります。敵国兵を追い出せば彼は大英雄となる。そこに公爵という立場があれば、ある意味で王すら凌駕する存在となり得るでしょう」

「なっ…!?」

「勿論、全て私の憶測です。ですが、ジャンヌ・ダルクが魔女として蘇って復讐劇をする、なんて突拍子もない話よりは、よっぽど説得力のある物語でしょう?」

「………」

 

…話が飛躍しすぎている。けれど夫人の言う通り、ジャンヌ・ダルクが復讐するというより、ジャック・ブラウンが玉座を狙っている方が現実的だ。

王命とはいえ、かつてはあんなに彼女を守ろうと奔走していたというのに、2年後にはその存在を最悪の刑に処したのは事実。命令に従順だったのはスパイだから、ではなく利害の一致だとしたら。彼の理想郷にジャンヌが邪魔になった事が理由だとしたら。

……本当にそうなのか?本当に、そんな事をするような男なのか?確かに彼は騎士のくせに騎士道を重視しない半端者だ。しかし今の時代、そんな半端者の方が大半を占めている。

遺体を使う作戦を聞かされた時、コイツは人間の皮を被った悪魔かと思った。けれど、あの突破口がなければ我々はラ・シャリテを占拠できなかった。

 

それらも全て、夫人のいう通り理想郷を作るためなのか…?

 

「イングランドもフランスも窮地に陥っているこの状況、王や我々公爵家を除いた第三勢力が勢力をひっくり返すには、うってつけですね」

 

頭を抱える私の耳に、夫人の穏やかで冷たい声が届いた。

 

「……。数日前、私のデスクに依頼書が置かれていました。送り主不明のそれは、こんな状況だというのに、ある人物を殺害してほしいと」

 

顔を上げる。夫人は落ち着いた様子でワインに口をつけていた。

 

「指定された人物は、影響力ある名家の当主です。そこらの貴族が簡単に潰せるような相手ではない…妙だと思っていました。もし中流程度の貴族が目をつけているのなら、この戦況を利用し彼を戦争犯罪者に仕立て上げ、公式に処分するよう努めるはず。その方が明らかに成功率は高い。だからイングランド王はベテランの上流貴族ではなく、爵位を引き継いだばかりの若手の彼に連合軍のイングランド側の指揮を任せた」

「あら、それは酷い話ですわ。まるでトカゲの尻尾ぎりのよう」

「こんな依頼を出せるのは、よほどの権力者だけのはず。それもブラウン家よりも長く続き、爵位も信頼性も上の、上級貴族」

 

話しながら慎重に夫人の表情に注視する。もう何が言いたいかくらい伝わっているはず。

夫人はワインを楽しみながらも私の話を聞いていた。聞くだけで発言しようとしない。あくまで聞かれない限り答えないつもりなのか。…否、全く動揺する様子が全く無いあたり、本当に何も知らないのかもしれない。

 

「夫人。ジャック・ブラウン暗殺命令を出したのは、貴方ですか?」

 

ようやく夫人がグラスを下す。

 

「ねぇリッシュモン大元帥。竜の魔女戦争。これを引き起こした方は、一体どなたかしらね?」

 

上品に微笑まれた。これは、どっちだ…?否定も肯定もされない、思わせぶりな質問返しに更に困惑する。

 

「私はただ平和を祈っているだけですわ。今まで通り皆が幸せな暮らしを送れるように…それを脅かす者が現れたならば、排除する。それが力を持つものの務めではなくて?」

「…ブラウン伯爵が民衆を脅かす存在だという事ですか。ですが、それは憶測を出ないのでしょう?」

「何故私が貴方にこんな話をしたか、お分かりですか?目的のためには、人を火あぶりにし、遺体をワイバーンに食べさせるといった凶悪な考えを持つ危険人物の側にいる貴方にこんな話をするという事は、それだけリスクがあるという事。私とて、彼が怖いのです」

 

そこまで言われて初めて気付いた。私が彼にこの事を伝えれば、夫人は彼を敵に回す事になる。夫人からすれば、無法地帯となった現状はいつ彼に殺されても不思議ではない状況だ。

 

「貴方だけが頼りなのです。長年騎士道を重んじ、かつては貴方と同じように高い志を持った一族さえも率先して賄賂で儲ける中、それでも貴方の屈強な意志は変わらなかった。それ故に世渡り上手なフランス王から不当な扱いを受けても決して屈する事のなかった貴方を私は誰よりも信じています」

「…夫人」

「貴方のような方には、あえて直接的な表現をした方が良いのかもしれませんね」

 

このような言い方は好みではないのだけど。と前置きを置いて夫人は告げた。

 

「どうか竜の魔女だけに気を取られないで。敵は既に、貴方の首元まで迫ってきていますわ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

シュヴァリエ・デオン - 3

 

「そろそろ、もう少しまともな情報を吐いてくれないか」

 

頭上から声が降ってくる。ここ2・3日で何度も聞いた男の声。

…今は、ここに入れられて、何日目なのだろうか。1週間経っている気がするが、一日も経っていない気もする。

 

「もう…きおく、している、こと、は、ぜんぶ、はなした」

「嘘をつけ。初日からそう言っておいて、後出ししてくるじゃないか」

 

初日。初日と言うのなら、少なくとも一日以上はここにいるんだな。

 

「バーサーク・セイバー シュヴァリエ・デオン。バーサーク・ランサー ヴラド3世。 バーサーク・キャスター ジル・ド・レェ。バーサーク・アサシン エリザベート・バートリー。そして、お前が玉座を離れた後に追加で呼ばれているであろうサーヴァント。死刑執行人(ムッシュ・ド・パリ)。以上が竜の魔女に集うサーヴァントだということを、お前は今日思い出したのか?都合のいい頭しているね」

「っきおくが、混濁、している。聞いた言葉が、なんなのか理解して、思い出すことが、うまく、できていないんだ。もう、これ以上は、なにも、思い、出せない」

「いいや、お前は思い出すよ。次は、そうだな…竜の魔女の正体とフランソワ・プレラーティという少年を思い出そうか」

 

非情な声が降ってくる。

何で…私が正気を失えば、自分だってただですまないと分かってくるくせに。この砦で、自分達が保護している人間全員危険に晒されると分かっているくせに。どうして、こんな事を、するんだ。こんな誰も得にもならないことを。

 

「失礼します!敵サーヴァントらしきものが接近しているようです!ワイバーンも引き連れているとのこと!どうかご指示を!!」

「カルデアを向かわせろ。弓兵は持ち場でワイバーンを撃退せよ。騎兵・歩兵は前線前で待機」

「はっ!!」

「あと連絡は口頭ではなく通信機で…っておい!…全く」

「おぉ!!アイツ、あの黒騎士を無視して上に上がっていったぞ!なんて自殺願望の高い兵士なんだ!!」

 

もう一つの聞き慣れた声が聞こえた。

そこに、いたのか。サーヴァント。

…まずい。こんな近くにいて、全く気づけていなかった……誰よりもその手に聡いはずの私が、全く気付けなかった。

 

ゾッとした。

有り得ない。

私はスパイとして記録されたサーヴァントなのだから、アサシンでもないサーヴァントの気配に気付かない訳がない。つまり、これは。侵食されていっているんだ。もう既に染まったと思っていたこの身体は、今も更なる狂化に犯され続け、いずれは完全に自我を失うのだろう。

 

「邪魔が入ってすまないね。続きをしようか。デオン。さぁ次は竜の魔女のことを思い出すんだ」

 

 




【TIPS】
・オリヴィア
ブラウン領の領民の子。本編第11話が初登場。

・ベットフォード公爵夫人
名前だけ本編第13話に登場。ジャンヌ・ダルクの裁判にて、彼女の処女検査を担当していた。
絵に描いたような優美な上級貴族。夫がイングランド王の摂政をしており、表向きはどちらかといえばイングランド側に立っているように思われている。嫁ぐ前はブルゴーニュ家の公女だったこともあり影響力は絶大。また、独自の情報収集能力を持っているようで、誰も彼女に表立って歯向かう事はできない状態である。
ジャック・ブラウンとは面識があるものの、仲良しではないらしい。


戦況
【カルデア陣営の主なメンバー】
・ぐだーず(マスター)
・マシュ(シールダー)
・ジャンヌ(ルーラー※能力制限あり)
・マリー(ライダー)
・アマデウス(キャスター)
・清姫(バーサーカー)
・エリザベート(ランサー)
<レェ軍>
・ジル・ド・レェ(人)

【連合軍の主なメンバー】
<ブラウン軍>
・ジャック・ブラウン(人)
 ┗右手の指3本欠損
・ユリウス・テイラー(人)
・フランク(人)
・スペンサー(人)
・エイル(人)
・ルイ(人)
<リッシュモン軍>
・アルテュール・ド・リッシュモン(人)
・ダニエル(人)

【竜の魔女陣営のメンバー】
・ジャンヌ(竜の魔女)
・ジル(キャスター)
・プレラーティ(キャスター)
・デオン(セイバー)
 ┗地下行き。狂化侵攻中。
・ヴラド3世(ランサー)
・エリザベート(アサシン)
・????(???)
・黒いバーサーカー?(バーサーカー?)
・聖女マルタ(ライダー)
 ┗消滅
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