フランスの悪魔   作:林部

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【前回までのあらすじ】
最も歪みが少なく難易度の低い第一特異点 百年戦争中のフランスへ降り立ったカルデアのマスター達は、現地最大勢力の連合軍と手を組み、ラ・シャリテを拠点としていた。 敵サーヴァント・デオンの捕獲により信頼を得たカルデアは、リッシュモンと共にドラゴンスレイヤーを求めてブールジュへ向かう。そこでゲオルギウスと合流し、ついに英雄ジークフリートを発見するも、彼は重い呪いに侵され瀕死の状態だった。 一方、ラ・シャリテに残ったジャック・ブラウンは捕虜であるデオンを尋問していたが、デオンが不都合な真実を口にした途端、その口を永遠に閉ざしてしまう。 ブールジュではジークフリートの解呪を試みるが、そこへ5騎もの敵サーヴァントが接近しているという絶望的な報告が届くのだった。


第16話 1431年6月24日

藤丸六香 - 10

 

《たっ大変だ!!前方からサーヴァントの反応が!一騎真っ直ぐこちらに向かってきている!更にもう一騎、こっちは大分遠いけれど急速接近中…ッなんて速さだ!!今すぐそこを出ないと!》

《…それだけじゃない。少し離れているところに、サーヴァントが3騎いる。今は動きが鈍いけれど、ここに来るかもしれない》

「う、嘘でしょ」

 

敵サーヴァントが5騎も…?

信じられない報告に血の気が引く。こっちは、マリー、ジャンヌ、清姫とゲオルギウスがいるけど。

無理だ。勝てない。だって、ジークフリートは絶対守らないとだし。この街の人だって守らないと。

 

《六香ちゃん。とりあえずリッシュモン大元帥と合流しよう。考えるのはその後で》

「う、うん。ゲオルギウス、リッシュモンさんは…えっと、偉い人のところにいるはずなんだけど」

「ベッドフォード公爵夫人ですね。お待ちを。お二人とも、こちらにお越しいただくように手配します」

「うん。ありがとう」

《ラ・シャリテの方も一騎、さっきよりも近づいてきている!また繋がらない!?何でこんな時に限ってブラウン将軍に繋がらないんだ!?》

《多分またあの繋がりにくい地下にいるんだろう。そっちは立香君と将軍の部下に連絡済みさ。立香君はもう向かっているし、将軍の方は部下からエスカレされているだろうから、多分大丈夫》

 

《…私はどちらかというと彼が地下に篭って何をしているのかの方がよほど気になるよ》

 

なんでもないような口調でダ・ヴィンチちゃんが呟く。

そういえば、敵のセイバーを捕まえてから将軍はずっとアマデウスを連れて地下に篭っているみたい。尋問しているって聞いたけれど、そんなに何日もかかるものなんだろうか。

 

《六香ちゃん、考え事は後でね》

「!あ、うん。ごめん」

 

そうだった…今は自分たちの事をどうにかしないと。5騎もサーヴァントが来たら勝てるわけない。少なくとも私達の戦い方じゃ無理だ。

…。……でも、サーヴァントなしで私達に白旗を掲げさせた連合軍なら。この状況をどうにかできるかもしれない。 

 

「早くリッシュモンさんにこの事を伝えないと…!」

 

さっきまであんなに不安だったのに、不思議ともうそんな気持ちは消えていた。今はただ早くしないとと焦る気持ちでいっぱいだ。だって、連合軍の戦術の凄さは負けた私達が一番よく分かっているから。

こんな危機的な状況でも彼らなら、なんとかしてくれるような気がしてならなかった。

 

 

それがどんなに楽観的だったか、この時痛いほど気付かされた。

 

「サーヴァント5騎、だと?」

 

真っ青な顔でリッシュモンさんは呟いた。

 

「…まともに戦えば損害が計り知れない……やむを得ん。ブールジュ要塞化計画は放棄。この街から離脱する。夫人、全住民をラ・シャリテに避難させますが、よろしいでしょうか?」

「構いませんが、ラ・シャリテに、その余力はありまして?一度ブラウン伯爵に伺った方がよろしいのでは?」

「たとえ余力がなくとも、それが民衆を見放す理由にはなり得ません。弱きものを助ける事こそが我々騎士の役目です」

 

流石ですわねと微笑んだ女性はとんでもなく美人だった。この人が、噂の…すごい権力持っている人か。

 

「女性と子供を優先に避難を。六香、ジークフリート、ジャンヌ、マリー王妃も住民と共にご移動のほどお願いいたします」

「何でジャンヌとマリーが?」

「ジークフリートを護衛する役割が必要だろう。強大な敵に勝てるのが彼だけだというのなら、なんとしても死守せねばなるまい」

「…なるほど」

 

確かにそうだけど、その護衛役にサーヴァント2騎も必要なんだろうか。

敵サーヴァントは5騎くるかもしれないのに……いや、疑っちゃダメだ。こういう指示を出してくれたという事は、きっとリッシュモンさんの頭の中には清姫とゲオルギウスだけでどうにか出来る作戦があるんだから。

 

「大元帥、私は残るわ」

 

マリーが声を上げる。

 

「なっ!?なりません!5騎襲撃しにくる可能性があるのですぞ…そうなってしまったら、貴方様すら守れる保証ができなくなります」

「え…?り、リッシュモンさん。それ、どういう意味ですか…?」

 

思わず口を挟む。

リッシュモンさんの言葉が、まるで5騎の敵サーヴァントが来たら、ジークフリート達と住民を逃す代わりに、この場に残るメンバーが全滅するように聞こえたから。

 

「……5騎来ても、ちゃんと勝ち筋があるんですよね?」

「…ここに残るものは己の誇りをかけて戦う。無論、私もだ。どのような結末を辿ろうと全員悔いの残らない戦いをさせる。分かるだろう。たとえ死しても、同胞が生き延びていればいい。未来に繋げることこそが我々の使命だ」

「なにそれ。それって、もしかして清姫達を」

「六香、大丈夫よ。ここにいる誰も死なせたりしないわ」

「何を仰っているのですか。マリー王妃殿下、無礼を承知で申し上げますが、貴女はこの状況が分かっておいでですか」

「えぇ。今こそが、まさに窮地なのでしょう。だからこそ、私がここに残り戦います」

「は…?」

 

私"が"ここに残るって、まさか、マリーは1人で戦うつもりなの…?

信じられない発言に血の気が引いた。清姫とゲオルギウスでも勝ち筋がないって言われたようなものなのに。マリーは2人よりも戦いが得意ではないのに。殺されちゃうって分かっていて、どうしてそんなことを言うのだろう。

 

「…まさか、お一人で戦われると仰るのですか!?バカな…お考え直しください!貴女は未来のフランス王妃。我々の希望なのです。今、ここで貴女を失えばフランス軍の士気は著しく低下します。そもそも騎士とは主君を守るもの。我々は貴女を未来の主君と考えています。前線に出すなんてとんでもない」

「えぇ、その通り。私はフランスの王妃。貴女たちが私を慕ってくれるように、私にとっても貴女たちは大切な国民です。民衆を守ることは私にとって大切な使命なのです。だから、この戦いは私1人に委ねてくださりませんか?マリー・アントワネットの名にかけて、この街は私が必ず守りますから」

「ッマリー!一緒に!!一緒に戦いましょう!2人でならきっと」

「ノン。ダメよジャンヌ。貴女には貴女の役目があるわ。あぁ、そうだ。アマデウスには謝っておいてくださいね。ピアノ、やっぱり聴けなかったって…あと、ブラウン将軍にも。フランス王室の過ちを謝罪したかったのだけど…それも、いつかまた、どこかで出会えた時に」

「なりません、王妃」

 

首を横に振り、リッシュモンさんは悲しげな表情で訴える。

 

「貴女は民衆の希望なのです!分かっておいででしょう!貴女の代わり等いない!!貴女がいるからこそ我々がいる!貴女をお守りするために!!5騎のサーヴァントなど、お一人で耐えられるはずがない!!何故、そのような無謀なことを」

「ありがとうリッシュモン大元帥。でもね、きっと大丈夫よ。私は運がいい方だから、きっと1騎しか来ない。ねぇ大元帥、どうか私を信じて・・・・・」

「ッ…!」

「今ここに誓います。私は必ず。今度こそ私の大切な人たちを守るために。大切な国を守るために正しいことを正しく行います」

 

マリーは両手でリッシュモンさんの手を取り真っ直ぐ彼を見上げた。こんなにも可愛らしい声色なのに強さを感じられるのは何故なのだろうか。マリーはジャンヌよりも清姫よりも戦った経験なんてない。なのにどうして今、彼女なら大丈夫だと思えてしまうのだろうか。

リッシュモンさんですら息を呑むほど人を魅了するその姿。きっと当時のフランスは彼女に夢中になっただろう。

 

脳裏によぎったのは、彼女の最期の姿。もちろん、見たことはない。ギロチン自体もテレビでしか見たことがない。それでも、あの恐ろしい道具を見れば、どのような最期だったかを想像するのは容易だった。

マリーをあの場に導いてしまったのは、彼女を誰よりも愛していたはずのフランス国民だと聞いた。いまだに、どうしてフランス国民が彼女にあの仕打ちをしてしまったのか分からない。

 

「……承知、いたしました」

「ふふ、私の我儘を許してくれてありがとう。大元帥、どうか皆を頼みます」

「はい。もちろん、必ず。1人の犠牲もなく避難させます。必ず、必ず、この地を踏み荒らす愚者を倒し、貴方様の時代につないでみせます!」

 

彼女を愛するフランス人のイメージが、リッシュモンさんに重なる。マリーを誰よりも必要とし、止めるべきなのに、彼女を盲信している姿が、怖かった。当時のフランス人もそうだったんじゃないか。マリーを愛するがあまり盲目的になってしまって。だからこそ、マリー・アントワネットはあの結末を辿ったのだとしたら。マリー・アントワネットはフランス人のために、その結末を受け入れたのだとしたら。

 

今、まさに同じことが起こってしまっているんじゃないの。

 

「マリー…また皆の犠牲になるつもりなの?」

 

マリーは僅かに目を見開いた。

 

「ねぇ、私。清姫やゲオルギウスだけじゃないよ。ジャンヌもマリーも、ラ・シャリテにいる皆も誰もいなくなってほしくないんだよ。こんなの、全然大丈夫じゃないじゃん」

「六香…」

「1人で戦うなんて絶対ダメ。誰も人柱になんてさせない。貴女だけが犠牲になるなんて、おかしいでしょう。何でマリーだけ酷い思いしないといけないの。同じ女の子なのに」

「リツカ、落ち着きなさい。君の気持ちはよく分かるが、いたしかたないのだ」

「他に方法はないんですか…ッリッシュモンさん、すごい人なんでしょ。こんな状況だって、貴方ならなんとかできるんじゃないんですか。だって、そうじゃないと」

 

そうじゃないと、あんまりだ。この結末を受け入れるしかないなんて、嫌だ。

 

「襲撃されるまで、まだ猶予はあるはずです。もう少し作戦を練っていただけませんか」

「!ジャンヌ」

「ジャンヌ、君まで何を言い出すのだ。この決断は王妃陛下のお心遣いがあってのものだ。先の発言は、王妃陛下のお気持ちを無碍にすることになるぞ」

「構いません。たとえ、それで罰則を受けることになろうとも、私には友人をこの地に置いていくことの方がよっぽど耐え難い行いですから」

 

真っ直ぐ見据えるジャンヌをリッシュモンさんは歯痒そうに見つめる。

 

「頑固者が」

「それは重々承知しておいでだったのでは?」

「ではジャンヌ・ダルク。君に何か案はあるのか?君ともあろう者が、駄々っ子のようなことをしている訳ではあるまいな?」

「えぇ。しかし、ご存知の通り私は込み入った作戦を立てるのが得意ではありません。案は私からではなく、得意な人物から頂いた方が良いでしょう。幸いにも、我々の仲間に、サーヴァント6騎相手に白旗を上げさせた実績のある戦術家がいます」

「…まさか」

「連合軍 イングランドのトップ。ジャック・ブラウン将軍に今すぐ作戦を立ててもらいます」

 

その名前を聞いてハッとした。どうして、ジャンヌが口にするまで思い出せなかったのだろう。

 

"皆まで言わないが、作戦を考えたのは黒騎士だろう?"

 

サーヴァントが一騎もいない相手に白旗を上げさせられたのは、他でもない私達だというのに。

 

「我々カルデアには、その権限がありませんが。リッシュモン、貴方には、その権限がある。そうですよね?」

「彼に頭を下げろというのか。この私が」

「貴方方の間柄があまり良くないというのは私とて気付いていますが、これが唯一の希望です。リッシュモン、どうかご決断を」

 

「冗談じゃない!!」

 

悲鳴のような大声が部屋中に響き渡る。リッシュモンさんの背後に控えていたフランス兵が嫌悪をむき出しにした表情で叫んでいた。

 

「イングランド側の…それもブラウン家なんて長年イングランド王に近い一家の人間に任せるなんてあり得ない!」

「それも先代の方ならともかく、今の当主はダメだ。絶対。あんな何考えているかわからない奴に、それもこの場にいない状況で、任せられるわけないだろ!単身で軍隊に突っ込んでくるようなイかれた作戦やった奴だぞ!!…

リッシュモンさん、まさか」

「分かっている。そのような恥さらし、とても容認できる話ではない」

「ッ民衆より己のプライドを優先するというのですか!?リッシュモン!」

「これは私個人の話ではないのだ。分かっているだろう、ジャンヌ。ジャック・ブラウンはフランスの味方ではない」

「どういうことですか…リッシュモンさん。ブラウン将軍は味方でしょ」

「立香、連合軍が存在する限りイングランド軍とフランス軍は手を取り合う関係を約束しているが、互いの命を預ける約束はしていない。何より、この場はブラウン伯爵と合意の上、私に委ねられている。これは彼が私を信頼してくれている証でもある。故に彼に頼ることは彼の信頼を裏切ることに値する」

「それが民衆を犠牲にする理由になりえるのですか…!貴方ともあろう方が」

「……」

 

ジャンヌの必死の訴えを聞いてもリッシュモンさんは表情ひとつ変えなかった。

 

「無論、民衆は守るべきだ。しかし、我々にも信念がある」

「…さっきから、何を言っているの。どんな大人の都合があっても、マリーを犠牲にするのはおかしいでしょ。仲間が生き残れる可能性があるのなら、そっちに賭けてよ…大人の勝手な事情を私の大切な仲間に押し付けないで!」

「リツカ、もういいのよ」

 

後ろから優しい声が聞こえた。

 

「貴方やジャンヌがこうして私を思ってくれて、本当に嬉しいわ。それで十分」

「良くないよ。ねぇ、今からでもブラウン将軍にお願いしようよ。あの人なら、きっとなんとかしてくれるよ」

「私の身を案じてくれてありがとう。でもね、本当にいいのよ。私はきっと、こういうときのために召喚されたの。敵を憎んだり倒したりするんじゃなくて、人々を守る命として喚ばれたの。だから、お願い。私の役目を奪わないで」

「ッ…!」

「ごめんなさいね。そんな顔をさせてしまって」

 

眉を下げて謝罪するマリーを前にして、分かってしまった。何を言っても、もうどうすることもできないんだと。

 

「……ごめん、マリー…ごめん…ごめんなさい」

「何も謝ることはないわ。私の意思を尊重してくれてありがとう、リツカ」

 

正面から抱きしめられる。この暖かさも、ほんのりと甘い良い香りもこれが最後なのだと思うと、胸が締め付けられる。

 

《こちらは撤退直前まで敵の位置の監視を続けるよ。何か動きがあればすぐに報告をする。それでいいかな、マリー王妃》

「十分です。ありがとう」

 

すぐに私から離れたマリーは、いつもの凛とした声で返答した。

 

「マリー。私…っ私は…!」

「ジャンヌ。私、嬉しいわ。貴方にそこまで思ってもらえて。生前から貴女には憧れていたから」

「え…?」

「私は宮廷で貴女は戦場で…少女でありながら戦い抜いた。もちろん私の方が劣るけれど……ううん、劣るからこそ憧れた。300年以上前にそんな女の子がいたんだって。貴女と友達になれて本当に嬉しかった…だから。ねぇ、ジャンヌ。こらえて見送って?それが女友達の心意気でしょう?」

「っ……私、待ってますから…」

「えぇ。すぐ追いつくわ。私の馬はすごいのよ」

 

マリーは笑う。さっきまでの大人びた笑みではなく、いつもの子供のように無垢な笑みだった。

 

「…夫人も避難へ急いでください。貴女も、今失うわけにはいきません」

「えぇ。そうさせていただきますわ」

「閣下、物資の輸送はどういたしましょう?今はどの荷台も物資を積んであります。サーヴァント1人を運ぶ余裕は」

「無論、物資よりもジークフリートだ。一台だけ物資をここに捨てるように」

「しかし、よろしいのですか?ラ・シャリテも物資が豊富とはいえませんが」

「やむを得ん。今後の物資については、ラ・シャリテについてから考える…ラ・シャリテといえば、あちらも襲撃されていると聞いたが」

《あぁ、そっちはもう撃退しているから大丈夫だよ。1人の犠牲も出していない》

「ほう…そうか。それなら良かった」

 

つったっている私の横をいろんな人が通り過ぎる。

私はなんて無力なんだろうか。そりゃただの一般人でしかない自分にできることなんて、たかがしれていると分かっていたつもりだったけど。

 

「何をしている。早く行け。時間がないんだぞ」

 

後ろからフランス兵の冷たい声がとんでくる。

落ち込む時間すらない。分かっている。早くここから離れないとマリーの犠牲を無駄にすることになるかもしれないんだって。

でも、ここを離れたらもう二度とマリーに会えないかもしれない。そう思うと、足を動かすことすら嫌だった。

 

「六香」

 

マリーがこちらに駆け寄り、手袋を脱いでから私の手をギュッと握った。伝わってくる暖かい体温が彼女はまだ生きていると伝えてくる。

 

「また女子会しましょうね」

 

"恋バナをしましょう!!"

 

いつかの彼女の言葉が脳裏をよぎる。その時、ようやく気付いた。マリーは死ににいくつもりなんてないんだ。彼女は国民のために戦いたいと思っているし、そのために命をかける気でいるけれど、本気で私達のもとに帰ってこようと考えている。

だというのに、私が諦めているなんてあまりにも失礼だ。

 

「うん。また、絶対しようね」

 

彼女は笑顔で手を振って私達を見送ってくれた。

きっとまた会える。会えるに決まっている。マリーが会えるって思ってくれているんだから。

何度もそう言い聞かせて私は彼女と別れた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

藤丸立香 - 1

 

 

「君も少しは休んだらどうだ?そんな熱心に外を見つめたところで今日中には帰ってこないだろう」

 

振り返るとアマデウスが呆れ顔で立っていた。

 

「あれ?アマデウス、地下牢の護衛は大丈夫なの?」

「あぁ。そっちは終わったよ。何せ拘束したサーヴァント殺しちゃったからね」

「殺しちゃった!?アマデウスが!?」

「ブラウン将軍が」

「……そっか」

 

俺たちでは、彼らの狂化を解いてあげる事はできない。唯一の解決法は、サーヴァントの霊核を破壊すること。

だから将軍は間違っていないんだろう。

それでもモヤモヤした感情が広がった。

 

「じゃあ任務終えたってことだね。おかえり。アマデウス」

「あぁ、ただいま。君は良い子に穴掘りしていたかい?」

「…うん。毎日掘ってたよ。でも、日本は8時間労働が原則なんだって訴えたら、将軍は8時間に減らしてくれたから、大分楽になった」

 

それでも毎日穴を掘る作業は疲れるけれど。

 

「じゃあもう今日のお勤めは」

「うん、終わってる。

「そうかい。じゃあ君は今、暇を持て余して窓にくっついている訳だ?」

「…まぁ、そうだね。今、ブールジュに敵サーヴァントが向かっているみたいで…そんな話聞いたら、何もせずにはいられないだろ」

「けど君、窓の外を見ることしかできてないじゃないか」

 

何も言い返せなかった。ここを守る様に命じられた俺はレイカ達を追いかけることなんて出来ない。そもそも俺1人が出て行ったところで無駄死にだ。そう分かっていても、知らないところでレイカ達が危険な目にあってしまうんじゃないかと思うと、いてもたってもいられなかった。

 

「とはいえ、僕も退屈すぎて死にそうだ。ここは一つ、無駄話に付き合ってくれないかい?」

「いいけど…何の話?」

「なに。何の役にも立たない話だけれど、君の気を紛らわせるのにはちょうどいい話さ。この時代から約300年後に生まれた、この国の王妃の話さ」

 

慌てて窓から離れた。フランスの王妃という単語だけでアマデウスが何を話そうとしているかが分かった。間違いなくマリーさんの話だ。

 

「アマデウス、部屋に戻ろう。その話、皆聞きたいと思う」

「外を見るのは、もう飽きたのかい?」

「そういう意地悪はやめてくれ。マシュ、他の皆どこにいるか知ってる?」

「心当たりがあります。先輩達は先にお部屋に行っていてください。私は皆さんを呼んできますので」

「ありがとう」

 

マシュはすぐに廊下を歩き出す。その後ろ姿を2人で見送った。

 

「無害そうに見えて、君も中々に罪な男だよね」

「うん?何の話?」

「僕がカルデアにお呼ばれする頃には修羅場が完成していそうだ」

「アマデウス?」

 

マイペースに話し出す彼についていけず戸惑っていると彼はゆっくりと歩みを進める。ただ歩いているだけなはずなのに、その歩みを見ているだけで綺麗な音楽を聞いている様な錯覚に陥る。これが音楽の神才か。

 

 

「これは、ただの史実。彼女がどのように生き、どのように死んだのか。そんな、どこででも聞けるお話さ」

 

部屋に集まった全員を見回して、彼は最初にそう言った。

 

「マリー・アントワネット。ドイツ語名でマリア・アントーニアは僕と出会った7年後。14歳の時、結婚した。相手は後のフランス国王ルイ16世…政略結婚だった」

 

14歳という若さに、ぎょっとした。昔の時代、それに王家であれば、14歳での結婚なんてザラなんだろうか。そういえばルイ君は今14歳だといっていた。大人びていた彼でも結婚はいくらなんでも早すぎるように感じる。

 

「王妃となった彼女を待っていたのはベルサイユでの華やかな生活と陰謀 嫌味 渦巻く孤独なる戦い。それでも、政略結婚にもかかわらず夫と仲睦まじく子にも恵まれた彼女の生活は幸せだったと言える。また王族として民にもよく尽くした。飢饉においては宮廷費を削り寄付金とし貴族達に援助を求めた」

「えっ…」

 

思わず声が漏れた。マリー・アントワネットといえば、パンがなければお菓子を食べればいいじゃないと言った台詞で有名な、我儘なイメージが定着している。自分達のお金を市民のために渡すばかりか、他貴族にも援助を求めていただなんて、そんな話聞いたことがなかった。けれど、今俺達を助けてくれるマリーさんなら、確かに市民を放ってはおかないはずだろう。ふと思った。どうして、世間一般のイメージと本人がここまで乖離しているのだろう。

 

「だが、そんな彼女の思いは革命の熱狂に浮かされた民衆には届かなかった。現代まで続く醜悪なデマゴーグは人々の憎悪を煽り彼女達を処刑台へと導いた。息子であるルイ シャルルは虐待の末殺され、家族の死は唯一生き残った娘 マリー・テレーズの心に深い影を落とした」

 

アマデウスは続ける。

 

「民に全てを奪われた彼女に、その末期、民が向けたものは絶望と避難ではなく、希望と快哉だった」

「……悲劇的ね」

 

聞き終えたエリザベートさんは悲しそうな顔で言う。

 

「その場にアタシがいたら、民衆をアタシの歌でやっつけて、助けてあげたのに」

「友情には感動するが…色々台無しだ。で、どうだい?君が聞きたい話は聞けたかい?」

 

アマデウスは楽しげな表情で俺を見た。

 

「うん…マリーさんは、凄い人だなって思った。そんな目に遭ってもフランスを守る為に戦ってくれるんだなって」

「……。まぁ、今の本人はそんな目に遭う前の姿だ。そこら辺、実感は薄いんじゃないかなぁ。とはいえ、凄い人か…どうなんだろうね。僕には分からないな」

 

 

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フランソワ・プレラーティ - 1

 

 

「もしもーし、僕だよ。さ、君の番だ。フランスの王妃様をお迎えに行ってあげてよ」

 

「あ、やっぱりそう言う事言うんだ?もうサンソンを送っているから大丈夫!でも彼、狂化入ってるから、1人だと、うっかり殺しちゃうかもしれないでしょ。フランス最後の王妃とその王妃の首をちょんぎった処刑人の対決なんてさ、見る前から結果決まってるんだし」

 

「だからさ、可憐な首が床に転がる前に迎えに行ってあげて。サンソンだって殺し合うよりは、仲間になって一緒に大切な民間人殺す方が喜ぶだろうから。ほら、正義の味方ってやつ。そういうの、好きだろう?へぇ、そう。でも僕のマスターは好きだよ。フランス人を殺すくらいフランスが大好きだからね!だから行ってあげて。君の手でフランスに愛されフランスに殺された可哀想な王妃様を助けてあげて」

 

 

「それが終わったら、僕のとっておきを見せてあげるよ」

 




【TIPS】
マリー・アントワネットの保有スキル「麗しの姫君(A)」
周囲の人を惹き付けるカリスマ性。Aランクのスキルを有するマリーは、ただ存在するだけで自分を守る騎士たる人物を引き寄せる。
かつてフランスを虜にしていた事から、マリー本人の意思関係なくフランス人は皆マリーに惹かれる。

戦況
【カルデア陣営の主なメンバー】
<ブールジュ撤退組>
・藤丸六香(マスター)
・ジャンヌ(ルーラー)
・清姫(バーサーカー)
・ゲオルギウス(ライダー)
・ジークフリート(セイバー)
  ┗重い呪いにより瀕死。
・マリー(ライダー)
  ┗離脱。ブールジュに残り、単騎で敵サーヴァント5騎を迎え撃つ。
<ラ・シャリテ待機組>
・藤丸立香(マスター)
・マシュ(シールダー)
・アマデウス(キャスター)
・エリザベート(ランサー)
【連合軍の主なメンバー】
・ジャック・ブラウン(人)
 ┗右手の指3本欠損
・ユリウス・テイラー(人)
・フランク(人)
・スペンサー(人)
・エイル(人)
・ルイ(人)
<リッシュモン軍>
・アルテュール・ド・リッシュモン(人)
・ダニエル(人)
【竜の魔女陣営のメンバー】
・ジャンヌ(竜の魔女)
・ジル(キャスター)
・プレラーティ(キャスター)
サンソン(????)←NEW!!
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