マクロスΔwithドンブラザーズ   作:タクアン(沢庵)

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ヒトツ鬼の攻撃を受けて、別の世界に飛ばされてしまった俺。その世界は、歌と空を重んじる場所だった。
ここに飛ばされた理由はどうでもいい。答えは、自ずからわかってくるはずだからな。


ドン・Mission2 うたひめふたり

 メッサーのVF-31Fと、タロウのドンゼンカイオー。さながら異種格闘技の試合のような、波乱の模擬戦が幕を開ける。メッサーはドンゼンカイオーが人型であることに勝機を見出だしていた。

 

(いくら未知の技術であっても、飛行に最適化されていないフォルムでは……!)

 

 機体の底面に懸架されたガンポッドから、メインカメラが搭載されていると思われる頭部を狙って、ペイント弾を発射する。無駄撃ちはせず、一発に留める。これがハヤテやミラージュであれば、回避を焦って隙を晒すだろう。しかし、目の前の赤い巨人は最小限の動きで回避すると、高らかに笑った。人型とは思えない機動性の高さに、メッサーは舌を巻く。

 

「躱したか……!」

「ハーッハッハッハッ! 甘いぞ! ドンレッグバスター・ペイント弾!!」

 

 ドンゼンカイオーの右肩に装着された巨大ギアが右足に移り回転することで、連取性能に優れた機関銃が発動する。今回は模擬戦のため、相手と同じくペイント弾を発射する設定にしてある。

 

「右腕の剣だけが武器ではないか……!」

「今度はこちらから行くぞ! 唸れ、アバターソード!!」

 

 その右腕のアバターソードを構えて、ドンゼンカイオーが突撃する。その運動性たるや、舌を巻くものがある。物理法則ですら、彼には通じないようだ。メッサーもVF-31Fを人型のバトロイドに変形させると、左腕のシールドからアサルトナイフを抜き放ち、アバターソードと切り結ぶ。激しい火花が、両者の機体を鮮明に照らし出す。

 

「ほう……! 面白い!」

「どこからそんなパワーが出ている……!?」

 

 少しだけ驚いた様子のタロウだったが、油断はしない。鍔迫り合いをしたまま右足を上げると、すかさずドンレッグバスターを叩き込む。緊急回避するメッサーだったが、それでも躱しきれない何発かのペイント弾が、両足を掠めた。両者は一度距離を取り、間合いを見計らう。メッサーの額には一筋の汗が流れていた。

 

「この俺と互角に渡り合うとはな! 誉めてやる!」

「何者なんだ、コイツは……!」

 

 流石のメッサーも、未知の力の前には焦りを覚える。一方で、この状況に昂揚していることも事実だった。滾る気持ちを理性で制しつつ、久方振りに心の底に眠っていた闘志を燃やす。

 

「……面白い!」

「いい動きだ……!」

 

 すかさずファイター形態に変形すると、そのままドンゼンカイオーに向かって吶喊する。捨て身のように思える行動だが、メッサーには確かな自信があった。

 

「撃墜さえされなければいい……ッ!」

「見事な気迫だ! 応えなければ男が廃るッ!!」

 

 メッサーの気迫を受けたタロウはアバターソードを投げ捨て、あえて真正面からの戦いを選択する。ドンレッグバスターとガンポッドの照準がコックピットに狙いを定め、そして──! 

 

 

 夜。Δ小隊の一員チャック・マスタングが経営する飲食店船兼Δ小隊男子寮の「裸喰娘娘」の厨房に立つタロウは、Δ小隊やワルキューレのメンバーを相手に料理を振る舞う。ハヤテとミラージュは、あまりの美味さに無心になって食べ続けていた。

 

「なんだこれ、メチャクチャ美味い!」

「本当に、本当に何者なんですか、あなたは……」

「俺は俺だ。さあ、黙って食え」

 

 タロウと彼が保有する戦力については、アーネストとアラドの尽力もあってΔ小隊預かりとなり、タロウにはこの裸喰娘娘の2階にある部屋が割り当てられることになった。

 この食事会は、言うなればタロウの歓迎会のようなもの。少し風変わりなのは、本来なら歓待される立場にあるはずのタロウが料理人として振る舞っているところだ。これには理由があり、「どこの誰とも知らない自分に居場所を与えてくれたから」ということでこうなっている。

 

「あんた達が、ワルキューレのメンバーだな。桃井タロウだ。しばらく世話になる」

 

 料理をあらかた作り終えたタロウは、席に座ると銀河の歌姫達に挨拶する。ワルキューレは新加入のフレイアを含めて現在五人体制。その内、リーダーのカナメとフレイアについては既に顔を合わせてある。それ以外のメンバーについては、直接見るのは初めてだ。カナメに渡されたプロフィールを見た時点から思っていたが、ドンブラザーズに負けず劣らずの個性的なメンツだと感じる。

 

「はじめまして! 私はマキナ・中島。これからよろしくね!」

「……レイナ・プラウラー。よろしく」

「ああ。これで縁ができたな。……ところで、もう一人のメンバーがいないようだが」

 

 ワルキューレのメインボーカルである、美雲・ギンヌメールの姿がない。マキナが少し困ったような表情を浮かべつつ、事情を説明する。

 

「クモクモは一人で瞑想するのが好きだから、あんまり皆の前には出てこないんだ」

「どこにいるのか、知っているなら教えてくれ」

「えーっとね、この時間なら、たぶん海にいると思う」

「わかった。挨拶してくる」 

「……グッドラック」

 

 

 心地よい潮風を肌に受けつつ、タロウは砂浜を歩く。ここは本当にいい場所だ。人が笑い、自然に溢れ、笑顔に満ちている。タロウが元いた世界は、少し殺伐としていたように思えた。

 

(だが、あの世界こそが俺の帰る場所でもある)

「……ん?」

「《追いつけない 君はいつでも この場所から 何を見てた》」

 

 歌だ。悲恋を思わせる歌詞が、透き通るような、それでいて力強い歌声によって紡がれていた。タロウは黙って、歌に聞き入る。

 

「《I know your blues……》……あら?」

 

 終わった時、タロウは思わず拍手をしていた。そこでようやく、歌声の主──美雲は彼の存在に気づいたようだ。

 

「凄いな、あんた。文句なしの歌だった」

「ふふ、ありがとう。……あなたね。昼にメッサーと模擬戦をして、引き分けたのは。桃井タロウ、だったかしら?」

「そうだ。中々の強者だな、アイツは」

「Δ小隊のエースだもの。当然でしょ?」

 

 さて、答え合わせだ。未知の戦力を相手にしたメッサーは、果敢に挑み引き分けに持ち込んだのである。ドンレッグバスターから放たれたペイント弾はVF-31Fに描かれた死神のマークをピンクに染め、ガンポッドから放たれたペイント弾はドンゼンカイオーの胸部ど真ん中を青に染めた。文句無しの引き分けだったが、終わった後の2人の表情は非常に爽やかだったという。

 

「それで、何の用かしら?」

「顔ぐらいは合わせておくべきだと思ってな」

「ふぅん……」

 

 互いに模擬戦の結果に触れることはない。タロウの目的を聞いた美雲は、その赤い瞳で品定めをするように彼を見つめる。しばらくそうしていたが、やがて満足したように蠱惑的な微笑を浮かべた。

 

「あなたを見ていると、なんだか自分を見ているような気分になるわ。不思議ね」

「……俺もだ。縁があるな」

 

 タロウから見ても、美雲は非の打ち所がない完璧な彫刻のように思えた。まさに女神と言わんばかりの美貌と、均整の取れたプロポーション。女神の名を冠するユニットのエースとして、彼女ほどの適任者はいないだろう。だが、それと同時に、タロウは得体の知れない違和感も覚えていた。

 

(……俺には、目の前の彼女が幼い子供に見える)

 

 タロウには特殊な能力……と言うと大袈裟かもしれないが、人やモノの本質を直感的に見抜くことができる。例えば、誰かがなんらかの能力で外見を若返らせたとしても、タロウは正確に実年齢を言い当ててみせる。その結果、暴走してしまったヒトツ鬼もいるのだが、それはまた別の話。とにかく、そんな能力を有する彼の目には、外見上は少なく見積もって十代後半の美雲の本質が、幼い子供に見えてしまう。ヒトツ鬼の能力ならともかく、それが関与していないのにこんな事態になることは非常に珍しい。

 

「……そんなにまじまじと私の顔を見つめて、どうかしたの? ひょっとして、一目惚れかしら?」

「それはない」

「意外と失礼ね……」

 

 最後の呟きは聞かなかったことにして、タロウは踵を返す。これ以上何かを喋ると、彼のもう一つの特異体質が発動しかねない。不用意な会話は避けるに限る。

 

「邪魔したな。俺は帰る。……あんたの歌を、今度は大舞台で聞きたいもんだ」

 

 そんなタロウの言葉に、美雲は心底嬉しそうに笑った。ミステリアスクイーンや神秘の歌姫と言われてはいるが、その根底に流れるのはシンプルな歌への情熱なのだろう。

 

「なら、明後日まで待つことね。フレイアのデビューコンサートがその日なの。派手に行くつもりよ」

「楽しみだ」

(……いずれはわかる、か)

 

 疑問には一旦蓋をして、タロウは寮へと引き返すのだった。……美雲に隠された真実は、やがて銀河全域を震撼させることになるのだが、それはもう少し先の話となる。

 

 

 裸喰娘娘に帰ってみると、食器は綺麗に下げられ、洗い物も済んでいた。厨房の奥から出てきたチャックは、恰幅のいい身体を大きく動かしながら笑った。

 

「お、帰ってきたな。いやぁ、凄いね! あんな美味い料理を作れるヤツなんて、銀河広しと言えどあんたぐらいのもんだよ!」

 

 チャックの褒め言葉が本心からなのは、彼自身の気性を考えるまでもなく明らかだ。だからこそ、タロウも素直に称賛を受け入れる。

 

「まあな。……それよりも、厨房を使わせてもらった礼がまだだったな。ありがとう、チャック」

「いいってことよ。それで? 美雲ちゃんとは会えたのか?」

「ああ。不思議な雰囲気のヤツだったが、いい歌を歌うな」

「だろ?」

「……ここにいたのか」

「メッサー!」

 

 その時、メッサーが現れた。どうやらタロウを探していたらしく、彼の姿を認めると、近くの席に座る。

 

「何か用か?」

「……昨日のことだ」

 

 昨日のこと、と言うのはハヤテ達3人を叱責したことだろう。今日の決闘の発端も、そこだった。

 

「お前は俺に、こう言ったな。『歌の守護者が、その歌を妨害するのか』、と」

「ああ。ハヤテとフレイアの行動は、確かに甘かったと思う。だが、叱責は帰投してからでよかったはずだ」

「それでは遅いんだ。何かあってから、ではな」

 

 メッサーは苦い顔をしつつ、絞り出すように言う。その様子に、タロウも彼の過去に何か、取り返しのつかないことがあったのだと察する。

 

「……そうだな。昨日は悪かった。少し考えが足りなかったようだ」

「いや。むしろ、感謝している。お前の言葉を聞いて、Δ小隊の使命を改めて見つめ直せたからな。だが……」

 

 立ち上がったメッサーは、わずかに口角を上げて宣言する。

 

「次は勝つ。Δ小隊のエースとしても、1人のパイロットとしてもな」

「勝利の予告か。面白い!」

 

 タロウも勢いよく立ち上がり、メンチを切った。

 

「だが、覚えておけ。次に勝つのはこの俺だ。楽しみにしておくんだな!」

「フッ……」

 

 去っていくメッサーの背中を見送りつつ、タロウは新たなライバルの出現に胸を躍らせる。元いた世界にも、以心伝心の関係と言える最高のライバルがいた。クールで生真面目、それでいて義に篤く清廉潔白な、あの男。

 

(メッサー・イーレフェルトか。……アイツとも、そんな関係になりたいもんだ)

 

 

 

 フレイアのデビューに向けて、ワルキューレとΔ小隊は最後のリハーサルを行っていた。ではタロウはどうしたのかと言うと、イレギュラーながら仮にもΔ小隊の所属ということで、リハーサルに参加していた。とは言っても、歌うわけではないし、飛ぶわけでもない。タロウに課された任務は、会場周辺の警備だった。

 

「タロウ。お前が使うドンゼンカイオー……だったな。有事の際は、あれで迎撃をしてほしい」   

 

 ドンゼンカイオーの存在は、一般には秘匿されている。アラドがケイオスにドンゼンカイオーのことを伝えた際、上層部からは混乱を避けるために秘匿することを要求されていた。そのことはタロウにも伝えられており、仔細把握している。

 

「ドンゼンカイオーがバレてもいいのか? 面倒なことになるんだろう?」

「なぁに、面倒事をどうにかするのが俺の仕事だ。それに、出撃はあくまでも有事に限った話だ。滅多なことじゃ出すことにはならんさ。……滅多なことじゃ、な」  

「不思議だな。あんたの口ぶりだと、その『有事』とやらが、確実に発生するように思えるが」

 

 すると、それまで穏やかだったアラドの表情が一気に険しいものになる。周囲を見回して誰もいないことを確認すると、小さな声でタロウに告げる。

 

「……実はお前と出会った時、俺達はヴァールだけではなく、アンノウンとも交戦していた。空戦技術に優れた、正体不明の敵とな」

「ふむ……」

「ワルキューレの報告では、彼女達を狙って攻撃も仕掛けている。警戒するのは当然だ。まして、日程もわかっている。襲われないと考える方が、どうかしてる」

「部下にはどうするように伝えたんだ?」

 

Δ小隊の主目的は戦闘ではないが、いざとなれば迎撃する必要がある。隊員達には覚悟が求められると、タロウはそう考えたのだ。

 

「覚悟を決めておけとは言った。だが、それ以上に、戦闘よりワルキューレや市民の護衛を優先させるように伝えてある。……俺達は戦争がしたいわけじゃないからな」

「ああ、そうだな。いざとなれば、俺一人でもなんとかしてやる」

「嫌な仕事を任せてすまない。だが、これはチャンスだ。アンノウンが来たら、お前の実力を見せつけてやれ!」

 

 アラドの言葉を聞いたタロウは、不敵な笑みを浮かべる。そして、一つの対価を要求した。

 

「もう一つ。フレイアの前座として、アイツのデビューをお膳立てしたい。それはもう、盛大にな」

「カナメさんに掛け合ってみる。とにかく頼んだぜ、タロウ」

 

 その後、カナメへの交渉はあっさりと成功し、アラドはそれをタロウに伝えた。しかし、彼はタロウの言う「派手」の意味を軽く考えていたと言わざるを得ない。彼がこの言葉を噛み締めることになるのは、フレイアのデビュー当日のことになる。

 

 

 その日の夜。砂浜に座るフレイアは、浮かばない表情でラグナの海を眺めていた。

 

(ワルキューレの皆は、本当に凄い……。わたしなんて、まだまだやね……) 

 

 メッサーに叱責されたその日の夜、フレイアはカナメ、マキナ、レイナの三人が開いた歓迎会に参加。そこでは、各々の過去の話を聞かされ、ワルキューレであることの重みや覚悟を新たにした。しかし頭で理解はしても、身体が追いついたわけではない。トレーニングやレッスンはハードだし、迫るデビューに向けた不安は大きかった。

 

「わたしなんかに、本当にワルキューレが務まるんかね……」

 

 不安がそのまま言葉に出る。誰に向けたわけでもない独り言、のはずだった。

 

「務まるさ」

「ひょえっ!? ハ、ハヤテ!?」

 

 現れたのは、フレイアが今一番会いたいと思っていた青年だった。思えば、フレイアがワルキューレに加入できたのは、ハヤテとの縁があったからだ。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、ハヤテは穏やかな微笑みを浮かべる。

 

「横、いいか?」

「うん」

 

 横に座ったハヤテは、フレイアに向けてか、それとも自分自身に向けてなのか、淡々と諭すように語り始めた。

 

「……あの日、メッサーが来るまでさ。お前の歌のお陰で、すげぇいい感じだったんだ」

「ハヤテ……?」

「フレイアの歌を聞いてると、風を直接感じられた。空は好きだし、飛ぶことも好きだ。だけど、あんなに気持ちよく飛べたのは初めてだった」

「……わたしも」

「ん?」

「わたしもハヤテに合わせて歌うと、すっごく楽しいんよ。ただ歌うだけじゃ、こんな気持ちには……あ! そうだ、ハヤテ!」

 

 いつの間にか明るい表情に戻ったフレイアは、勢いよく立ち上がる。額のルンが、わずかに輝いていた。胸元に手を当てると、大きく息を吸ってから歌い始めた。

 

「《飛び交う無数の感覚のなかで 本当の自分さえも失くしてしまう》」

「フレイア……」

 

 響く歌声と、聞き入るハヤテ。その様子を、物陰からタロウが見ていた。彼もまた、フレイアの歌声に耳を傾ける。

 

(……なるほどな。これがフレイア・ヴィオンの真価か)

「《もしも僕じゃなかったら もしも君じゃなかったら こんな気持ちさえ知らずにいたね》」

(美雲と比べて粗削りだが……感情が伝わってくる。こちらもいい歌だ)

 

 タロウは二人に気取られないように、その場から静かに立ち去る。フレイアの伸びやかな歌声は、しばしラグナの海に響き渡ったのだった。




じかーい、じかい。

フレイアがワルキューレとして、とうとうデビュー!
……って、なんだよアイツらは!? 何をしてるんだよタロウ! その神輿はなんだって聞いてるんだよ!!

「ドン・Mission3 しょうげきホワイトナイト」

……というおはなし。

さぁ、楽しもうぜ!
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