深夜、世界の人間のほとんどが寝静まる時間、一人の少年の電話が震える。
少年が電話に出ると、少し低めの声が聞こえる。
「わりぃカノン、また仕事だ」
という声とともに、メールに送られる資料の数々。
また、という言葉の前には、「一昨日仕事が終わったばかりなのに」という言葉が省略されている。
「なるほど、了解」
少年は資料に目を通して、そんなことは気にしないといった風に短く答える。
「それで理解できんのがすげぇよ、まだ送って5秒も経ってないだろ」
彼が目を通した資料には「護衛任務」と書かれていた。
「慣れれば誰だってできるよ。
飄々と少年は言う。
「......それが異常だって言ってんだ。まあいい、頼んだぞ」
「分かった。長くなりそうだね」
「あぁ、長くなるぜ。なんせ一年だからな」
「俺のクラスは......Aか」
護衛対象と同じクラス。
まぁ、護衛対象と一緒じゃなきゃ守れないから、当然と言えば当然だが。
仕事内容は「1年間護りきること」。
これは最初の1ページに書いてあったもの。
あとのページは潜入......失礼、
敵性勢力から、一見何の罪も、特徴も、家柄もない少女を護りきるミッション。
俺がやることは、たったこれだけ。
そこまで難しくない仕事。
「入学式会場は......こっちだったな」
事前に送られていた封筒の中身を思い出し、一般の高校では体育館と呼ばれる場所へ足を運ぶ。
あの広さでは、「館」というより「ホール」だけれど。
さて、無事に中に入り、席に着いた。
それにしても、すごい人の数だ。
今年から共学になった女子学園のため、まだまだ男女比率は女子の方が圧倒的に多い。
見た感じは1:9か1.5:8.5ぐらいだろうか。
現に俺の周りには男は一人もいない。
まぁ、どうにでもなる。
俺は味方を作らないし、仲間や友人などと言った軽く終わるような関係は作らない主義だ。
それに、仕事が終わればそんな奴らとは永遠の別れとなるんだ、作っても意味が無い。
『これより、月の森学園入学式を、始めさせていただきます──』
退屈だった、何より講師の話が長すぎる。
どうしたらあんな長尺な原稿を考えられるのか。
その英知は是非とも生徒たちに分け与えるべきだと思う。
いや、まあ実際は同じようなことを間隔を開けて2,3回言ってただけなんだが。
そして今現在、俺は1-Aの教室にいる。
自己紹介から始めるようだ。
「では、出席番号1番から」
俺だ。
こういう時、名字が「あ」から始まり、次に「い」が来るものは不便だ。
何かと1番最初になることが多い。
「はい。
当たり障りな自己紹介をし、軽く会釈。
カノンという名前にはちゃんと意味があり、いろんないい意味を含むのだが、それは割愛しよう。
カノンがなぜ片仮名かっていうのは、その方が字画占いで良い方にあるんだとか。
花音とか、樺音とかあったけど、俺は片仮名が気に入ってるし、少しかっこよく思える。
ま、そんなことはどうでもいい。
「は、はい。
彼女だ。今回のあらゆるの対象。
護衛する対象であり、俺が逐一気にかけていないといけない存在。
白髪緑目。
女子らしい身長。
どこか何かを気にするような目線と、そのしぐさ。
階級や身分を気にしない男なら、惚れるまでは行かずとも、守る対象として気に掛けるような、そんな雰囲気の生徒。
ストレートに言えば、ドジっ子と言う奴だろう、きっと。
そんな彼女を、一年間護り続けるのが、俺の仕事だ。
さて、これからどうなるかな。
さて、終わらせることが出来るか。