車体の振動が小さく、そして音も小さくなる。
どうやら目的地に着いたようだ。
周りでは伸びをしている生徒が多く見られる。
俺も伸びようと思ったところで、ふとあることに気付く。
「そうだった......」
肩が動かしずらいと思っていたら、そう言えば貸してるんだった。
申し訳ないが起きてもらおう。
あどけない寝顔を見ながら、その寝顔の持ち主の肩を軽く叩く。
「倉田、さん。起きて、着いたよ」
「んぅ......ん、んっ......?」
......頼むから悩ましい声を出さないでほしいものである。
「着いたよ」
なるべく優しく声をかける。
「あっ......ありがとう。えっと、合月くん」
「さて、降りようか」
手を引いて彼女ををバスから降ろし、忘れ物がないかを確認してからバスを降りる。
「君で最後か?」
「はい」
「よし。整列!」
さて、最初に博物館に入るのは俺たち所属のAクラス。
ただ見学して終わりというわけにはもちろんいかないようで、後で気になった作品の感想をレポートにまとめろ、ということだ。
「はぁ~あぁ......」
「そのため息何回目なんだ」
隣の怜人のため息をいなしつつも、前の二葉と倉田への警戒は解かない。
俺が後ろにいるのは護りやすいからだ。
「なんでレポートなんか書かなきゃいけんだよ......」
怜人がぼやくと、二葉が後ろを向いて言う。
「これは社会勉強の一端を兼ねてるって、先生も言ってたでしょ?一応ここは学校の所有になってるけど、一般の人もいるんだから、ちゃんとした態度で歩くんだよ!」
「行動が伴ってればかっこいいんだけどな」
怜人に諭してから、振り向いて前を向いて歩く彼女は、左手と左足、右手と右足がセットで出てしまっている。
「ふ、二葉さん......その、歩き方......」
「えっ?......あっ!」
親切な彼女だ。
と、いきなり建物全体の電気が落ちる。
「なに!?」
「ど、どうしよう......!」
「停電か?」
三者三様の驚き方をしている。
「その場から動くな。俺の声がする方に来い」
「わ、わかった」
男は物分かりが良くて助かる。
すぐに三人分の体温が近くに寄ってくる。
『ご来場の皆様、ただいま、本館全ての電力供給が止まっております。復旧まで、しばらくお待ちください......』
「停電なんだな」
「そうみたいだね......いつ治るんだろ......?」
「こ、こわい......」
暗闇に慣れてきた目で三人の場所を把握し、倉田の手を掴んでおく。
そして、怜人の手は二葉と重ねておく。
「この際掴んでるのは紳士としては底辺だが、気にしないでくれ」
「は、はい......」
震えている彼女を横目に状況を整理する。
館内は電気供給が止まり、今は暗い。
しかし、妙だ。
というか、普通に考えておかしい。
なぜ電気が止まったと言ったのに、館内放送は機能している?
普通に考えれば予備電源があるんだろうが、それはそれで電気に回せばいい。
誘導灯だけでも点けて、客をいったん出すなどして電力復旧を急げばいい。
なぜそうしない?
「よし、アイツはここにいるんだろうな?」
「はい、間違いないです!」
「ならこの中にいるんだな?探し出して殺せ!」
その合図とともに散開する黒い服の集団。
その集団の一部は、建物の出口を塞いだ。
そして、また一部は建物内の散索を始めた。
『おい、いたか?』
「いないな。逃げたか?」
『可能性はなくはないな。よし、向こうのグループに外を探すように要請してーー』
「おい、どうした?おい!?」
通信先から声が途切れ、続いて聞こえてきたのはさっきより若い声。
『どーもどーも。何してんの?』
「貴様、何者だ!?」
『こっちが質問してんだよ。電気止めたのもアンタらだな?』
「き、貴様には関係ないだろう!!」
『そっか。ならいらないわ』
「何を......ぐおっ!?」
後ろから衝撃を食らい、うつ伏せに倒れこむ。
それを行った人影は、電気の復旧に向けて管制室に動き出す、が。
「止まれ!C-08!」
「C-08って、誰?」
「貴様だ!あーー」
黒服の武装集団にも、怯まず突っ込むそれは、動きの最適化をした機械のようだった。
「うるせぇよ。管制室はどこだ」
「誰が教え......ぐっ」
それが暴れると、集団は壊滅した。
それほどまでに、手が出なかったのだ。
「はぁ......めんどくせぇなぁ。仕事ってこんな怠いのかよ。ま、いいか」
停電が起きて、早20分。
春先とはいえ、まだまだ冷える。
効いていた空調も止まっているわけで、そろそろ体が冷たくなってくる頃合いだ。
と、上の方でパチッと音がする。
すると、電気が一斉についた。
電力が復旧したのだ。
「点いた!」
「倉田さん、大丈夫!?」
「う......二葉、さん......?」
「よ、良かったぁ......って、あれ?合月君は?」
電気が点いて一安心、かと思えば今度は班員がいない。
辺りを見渡してから呼んでみる。
「カノン?どこだ?」
「俺はここだぞ?」
「うぉっ!?ビビったぁ......いつからいたんだ?」
「んー、点いたって言った辺りから。電気つけようと思って管制室向かおうしたんだけど、どこだかわかんなくてさ、結局戻ってきた」
あっけらかんと言う班員に、ため息をつきながら、
「全く、無茶すんなよなぁ」
と軽くどついた。