一日オフとなれば、一介の学生は遊びだすのだろう。
それが自宅だろうと、宿泊先のホテルだろうと。
ーーあくまで、俺が見てきた人間たちはそうだっただけだ。
しかし、そこはさすが貴族校ということか。
決まりをお固く守って、誰一人として部屋から出てくる気配がない。
けれど、この男だけは違うようで。
「なぁカノンー。二葉ちゃんと倉田ちゃん誘ってどっか出掛けようぜー?」
「...俺は良いが、他のやつらが良いっていうかは知らないぞ。特にあの委員長は言わないと思うがな」
唯一の友人、怜人はこの状況がとてもつまらないらしい。
お高く止まった貴族様の中にも、年頃の感性を持った奴がいるもんだ。
「おっしゃ!そうと決まれば交渉だ!」
カバンから携帯を取り出した怜人は、笑顔でそれを弄っていたが、やがて沈んだ顔をして俺を見た。
「...どうした」
「カノン、俺、どっちの連絡先も持ってない」
「...俺もだが」
そもそも、携帯は持ち込み禁止だったはずだがな。
それも遅れているとは思うが、まぁ学校の規則なら仕方ない。
「どうすんだよ!二人の部屋知らないし、片っ端からノックして回るのか!?」
「やめとけ。変態扱いされてもいいなら止めないが」
「...さすがにそんな勇気はないよ」
そう言って、怜人は大の字で横になった。
「どーしよっかなぁ...暇だなぁ...」
「部屋の中でもできることはあるだろ」
「...部屋の中でも、出来ること...それだ!!」
怜人がひらめいたと同時に、ノック音が鳴る。
「誰だ?」
「...俺が出るよ」
ロックを外して、ドアを開ける。
「...二葉?」
「あ、合月君。ちょうどよかった」
「何か連絡事か?それとも教師の呼び出し?」
「えーっと、どっちも?とりあえず、着いてきて」
「了解、5秒だけ待ってくれ」
部屋に戻り、
「怜人、ちょっと呼び出されたから外出てくる」
と連絡だけして、二葉に着いていく。
もう一人の部屋員は、なんでか知らないがいつもいない。
...まさかな。
宿の長い廊下を無言で歩く。
流石に何もしゃべらない時間が長すぎるので、話題を投下してみよう。
「で、連絡事ってのは?」
「...え?」
「さっき呼び出す時に言ってたろ、連絡事と教師の呼び出し、どっちもだって」
「あー、うん...そう、だったね」
なんだ?
博物館で気を張ってた時とは様子が違う。
なんだか、知らなくていいことを知ったような。
「...何か、知ってるのか」
「...だから、来てもらったんだよ」
二葉は立ち止まって、俺の手を掴むと走り出す。
「っ、おいーー」
何か言おうと思ったし、止まろうと思ったが。
必死な二葉の顔を見て、止まるのを止めた。
「ここ」
「なにが...」
壁から覗くと、教師がだれかと電話をしている。
「はい...はい。次こそは...!...へっ?あぁ、はい...わかりました...」
教師は通話を終えると、何かを取り出した。
と、こちらに振り返る予感がしたので、二葉を押し戻して、そのまま音が出ない全速力で廊下に戻る。
「...あれが?」
「うん。昨日、カノン君が助けに行くのも見た」
「...そうか。なら、それは秘密だ」
「...うん、わかった」
こいつに秘密は隠し通せるかは知らないが。