転生してもメガネで冴えない小デブなのでヤケクソ 作:リデルJr.
ええい、こんな所に居られるか! 俺は帰らせてもらう!!
さて話は変わるが、旧校舎というものは存外音が響く。人々の話し声はもちろん、なんと足音でさえ響いてしまうのだ。その影響もあり、旧校舎で授業を受ける際には誰かが廊下側を気にしつつ、教師が来たらそれを伝えて教室中を静かにする、というチキンレースが今世でも流行っている。誰かが来たのを察知しても、目的の人物と全く違う場合には連絡係を皆で野次り、教室中が笑い声で包まれるのだ。そうして本物の教師が来て「いつまで喋ってる!」と怒られるまでがテンプレ。もちろんその輪の中にデブの居場所はないのだが、怒られる時は連帯責任である。
だから何だというひと話。全く関係ないと思われるものこそ実は意外なところで関わりがあったりするのが世の常だ。そしてこの話と現在の状況にも、実は関わりがある。
階段付近から足音と女の子の甲高い話し声が聞こえてきたのだ。これはマズイ。どれぐらいマズイかといえば、戦場に出る前に幼馴染と結婚の約束をしてしまうぐらいマズイ。デブなのに脂肪フラグではなく死亡フラグを建てるとは。デブの風上にも置けないな。
頭の中に様々な事象が過ぎり、そして一気に情報が溢れ出した影響でプチパニックになってしまった。落ち着け、植物の心を忘れるべからず。
そうして考え付いた策は、一見間抜けなようで、その実理に適うもののような気がする。……うん、なんかそんな気がしてきた。
その策とは、普段から持ち運んでいる書きかけのラノベ原稿を見てもらう、という依頼を出すのだ!
幸いにして原稿用紙換算で20枚近く手元にある為、文庫本一冊に近い程度の文量はある筈だ。ただ心の準備が出来ていない。グギギ、どうする?
ひとまずクールダウンを優先しようと、コートの内ポケットからシガレットを取り出し、まるでタバコを吸うかのように咥えた。停滞した空気を入れ替えるために教室の窓を開け、外気を取り込む。
シガレットの先っぽを舐めながら、原稿用紙を見直す。大丈夫、教室付近まで来ていた足音は止まり話し声も無くなったが、まだ大丈夫。何だか廊下側から視線が突き刺さっているが、全然なんの問題もない。……あ、誤字だ。
ラノベ作者の3種の神器、鉛筆・消しゴム・定規を筆箱から取り出し、書き直す。因みに定規に関しては全く執筆作業に使うことはないが、剣に見立てて振り回すことがあるので必要であるのは事実だ。極度の緊張で鉛筆や消しゴムに不壊効果を付与したりしたが、何とか見つけた誤字は全て修正し終えた。
ここまで来れば、あとは教室の中央で男の子が来るのを待つしかない!
じっとりと湿り出した脇の下に手を挟み、外界の情報は全てシャットアウトせんばかりに目も閉じる。……お、おち、落ちちゅけよ、自分!
くっくっく、舞台は整い始めたようだぜ!