コチ...コチ...コチ...コチ...
だだっ広い部屋の真ん中にポツリと、置いてあるデスクの横の大きな振り子時計がゆっくりと”部屋の中の”時を刻む。
デスクの上に置いてあるのは資料の摩天楼たち。塔はひとつ60cmは下らないだろう。
几帳面にも高さが揃えられ、終わったもの、これからのもの、自分でも処理しきれないの付箋が貼られ分けられている。
どうやらこれから取り掛かるものが最後らしい。
デスクに向かい立派な椅子…ではなくゲーミングチェアには濡羽色の綺麗なロングの髪、アーモンド型の切れ長の目、豊満とはいわずともバランスのとれたスラっとした身体、所謂美女の部類の女性が腰掛けていた。
「ふぅ、やっと終わる。ったくこんなもん編入されたての奴に回しますかねぇ普通?そんな人がおらんのかしら。
そういえばみんないい人だったけどゲッソリしてたな…明日同期みんなで呑み行くか?
つうかなんで現代人だけじゃなくて紀元前の人の分もあるワケ?エジプトの人なんて神格的にアタシより上の人も居たんですけどw
ようし取り敢えずこれで最後だ、チャチャっと終わらせてサキュバスソープにでも行きますかぁ!今日はどんな娘がいるかしら♪」
この女…(※
「どれどれお次はっと」
『
「こいつも神格化されてるし…」
『出身:熊本県、誕生年:一九二○年、死亡年:二○二○年、享年:一○○歳、死因:老衰。親族は居らず生涯独身』
「100まで生きたんかこいつ」
『旧日本帝国陸軍、階級は最終階級は軍曹。硫黄島の戦いに参加し、敵兵への死傷者約四〇〇人という鬼神のような活躍を見せた』
「しかも軍人」
『タイ捨流、薬丸自顕流、銃剣道全て免許皆伝。射撃の腕前は二km先の敵兵をアイアンサイトでヘッドショットを記録』
『愛銃は三八式歩兵銃。愛刀は特注の同田貫、薩摩拵え「
『出生は不明、生まれて間もなく捨てられているところをタイ捨流道場、道場主の
『その後特に病気、怪我もなくスクスクと育ち、勉学に励み常に首席、風紀委員長、剣道部部長、校則違反、(現在の)高校まで皆勤賞と優等生然としいた』
「ふぅん、いい子じゃない」
『そして一九四一年、日本による真珠湾攻撃でアメリカが参戦、太平洋戦争が開幕。これにより世界は一層と激しい戦火に包まれたのである』
『一九四一年帝国陸軍に志願兵として入隊。直後に「きさん優秀やけんあっちゃ行きなっせ、
現地で舩坂と会合し二人は同い年ということもありすぐに打ち解け合い、お互いを高め合う仲となって二人は「東の舩坂、西の新羅」とその名を轟かせた』
「なんで九州弁…しかも舩坂?誰そいつ」
『一九四四年に
「あらら…」
『一九四五年、小笠原方面の防衛のために新たに編成された第109師に栗林に付き添う形で入隊。同年三月二六日に本国防衛のため硫黄島の戦いが開戦、参戦した』
「とうとうこの子の能力の魅せどころね、どうなるのかしら。けど確か硫黄島の戦いって日本軍が負けた戦いだったくね?」
『そこで新羅は鬼神のような活躍を見せた、敵兵の首を刈り取り、心臓を撃ち抜き、敵兵の武器を奪い獲って射殺し、戦車に突っ込み中にいた兵を屠殺、戦車を爆破し、迫撃砲で戦艦を沈め、爆弾を剥き出しにしていた爆撃機やコックピットの搭乗員を撃ち殺し撃墜した』
「えぇ…」
『國を護るため、仲間の無念を晴らすため、親友・父の仇のため。新羅は刀を振い弾を込めた』
「律儀ってか、残念な子。そんな頑張ったってそいつらはかえって来ないのに…」
『そこで新羅は少し狂った』
「ん?」
『人の斬る感覚が心地よくなった。
銃を撃つ衝撃に心が躍った。
誰を殺すのかを選ぶ時間が好きになった。
仲間を殺した機関銃を奪い殺し返すときは胸がすくような気持ちになった。
こちらに気づいていないタバコをふかしていた敵の頭を吹き飛ばすのが好きになった。
敵陣の真ん中に投げた手榴弾が敵をぐちゃぐちゃにした時は感動を覚えた。
追い詰めに追い詰めた敵兵が小便を垂れながら愛国心と共に自決していく様にたまらなくなった。
どこから狙撃されたかもわからない恐慌状態になった敵兵を一人残らず射殺していくのが最高だと感じた。
こちらを狙えもせずに的外れな方を撃ってくる戦艦を迫撃砲で沈めた時は絶頂を覚えた』
『戦争を、楽しいものだと考えるように思ってしまった』
「うわぁ…」
『しかし一九四五年、新羅の奮戦虚しく、硫黄島は陥落してしまう。してしまった』
「そうよな」
『その後新羅は終戦まで収容所を転々としていった』
『テキサスの収容所でのことだった』
「ん?」
『舩坂がいた』
「は?」
『死んだはずの舩坂弘がそこにいた』
「え?」
『体は透けていない』
『足もある』
『死んだはずの舩坂がここにいた』
『「よぅ、新羅。ひっさしぶりだなぁ」「テメェこそ生とったか、ボロボロじゃにゃーや」そんな他愛無い言葉だった。しかし二人にはそれで良かった』
「男の友情ってヤツ?クッサイわぁw…けど、よかったなぁ」
『舩坂、そして舩坂の見張り役としてのクレンショー伍長から聞いた話によると「敵の本拠地に吶喊、首を撃たれ三日間はしっかり死んでいたが三日後に突然生き返り『俺を殺せ!』と大暴れした」そうだ』
「舩坂、っていうかコイツらホントに人間?方や死んでも生き返るわ方や人間じゃ無いもの(戦車、戦艦、飛行機)まで殺すわ…なんで日本負けたの?」
『そこから終戦まで二人は同じ収容所に収容され、終戦を迎えた』
『その後日本へ帰国、舩坂は実家のある栃木へ戻り最初にしたことは自分の墓標を引っこ抜くことだった』
「まぁ死んだと思われていたはずだもの、墓標たってるよネHAHAHA」
『新羅は熊本へ帰り、父への帰還報告と墓参りをした』
『そしてしばらくして新羅へ舩坂から一通の手紙が届いた』
「ほぉ?」
『「一緒に本屋を開こう」という旨の手紙だった』
「なんで?」
『新羅は「なんで?」と思い続きを読んだ。
「お前も見ただろう、向こうの発達した経済や暮らしを。ペリリューの収容所で暴れていた*1俺を抑える時にクレンショー殿に言われたんだ。
「このまま暴れまくって殺され、貴方がいなくなってしまったら誰がこの戦争の悲惨さを伝えるのです。
生きて帰って下さい。貴方には貴方にしかできないこともあるのだから」*2とな。
お前もクレンショー殿に世話になっただろう?それにお前どうせ働くアテもないのだろう。
そして俺はアウンガルしか経験がない、辛いだろうがぜひお前の硫黄島での話を聞かせてくれ」』
「クレンショーいい人すぎん?漢やん」
『場所は東京の渋谷とのこと。新羅は「しょうがねぇなぁ」と思いつつ舩坂に会えることを嬉しそうに渋谷に向かった』
「ツンデレか!」
『渋谷へ到着後舩坂は渋谷駅前の土地一坪を養父から貰い、小さいながら書店を開いた。後に「本のデパート」と呼ばれる「大盛堂書店」の成り立ちである』
「ほへー」
『新羅、舩坂らは「世界の人々の役にたててもらいたい」と著書の印税の全額を赤十字社に全額寄付。そして舩坂はアウンガル、新羅は硫黄島に鎮魂の慰霊碑を建てること、そして仲間たちの数年にわたる収骨慰霊に尽力』
「いい子たちだ」
『二人を知っている人々は舩坂を「生きている英霊」新羅を(著書から)「護國の鬼神」と呼んだ』
『その後二人はいくつになっても仲睦まじく、舩坂婦人から少し嫉妬されるほどいつまでも仲よく過ごした』
「おいおい…」
『そして二○○六年、舩坂八五歳に肝不全にて死去』
「あらら」
『さらに二○二○年新羅錐輝、老衰にて死去』
「ここでこいつは終わりか」
パサリと資料を放り投げ一伸び、首も疲れたのかゴキリゴキリと豪快な音を立てて回す女
「キィーーーーガッゥンンっフゥ〜、こいつも壮絶な人生送ってたわぁ〜。1人間がたった100年でなんでアタシより濃い人生送ってんの?そしてこいつの逝き先はと」
そして念の為もう一度見直した。見直さなくともこいつの逝く先は決まっていた、決まっているはずだった。
「ん?そういえばどっかの本にあったわね。「日本帝国軍の軍人たちは死んだらすぐに靖国に祀られる」って、なんで無いはずのこいつのものがこんな所に」
「よく知ってたね、お嬢さん」
そこには、老人がそこにいた。
いつの間にか、気づきもしなかった。
絶対に、この部屋には自分以外入ってこれないから。
信じられない、ここには生命はいないから。
そして、神としての権限があったから。
そんな神としての自分の矜持、立場、生き様、人生を薄汚いジジイに踏み躙られた。
感情は一瞬で振り切れ最早冷静になった。
「なんで貴方がここにいるのですか?靖国に逝ったのではなくて?新羅錐輝」
「それがなぁ、俺は靖国や天国、地獄でのたのた過ごすのは気に食わんのだ。そいつは、それだけは真っ平ごめんなのだ」
「あら、向こうではお仲間が、人生最高のお友達がいるのでしょう?」
「しかしなぁ、俺の考えは、俺の手はもう彼らとは繋げないほど戦いに、戦場に染まってしまってのだ」
「そこを有耶無耶にして。火薬、鉄、油、錆、血、更には死の匂い、その手に染まった色全てを赦し有耶無耶にできるのが靖国ではないの?」
「そのはずなんだがなぁ、靖国は彼らのように魂の綺麗な奴しか居れんのだ」
「いえいえ、貴方はとても綺麗な魂をしておられますわ。国を守るための、国を脅かすものを焼き払う炎のような情熱的な赫よ?」
「そいつはなぁ、自分を、友を、国民を、国を、世界を、この世を、あの世を、靖国をも。敵も味方も区分無く燃やし尽くさんとする業火なのだ。そうなっては皆に迷惑がかかる、そうなっては困るのだ」
「なら、さっさと消せば良いのではなくて?」
「それが1番いいんだがなぁ、この火を消すと俺が俺じゃあなくなっちまうんだ」
全くの平行線、彼女が押しても彼はふわりと応える。彼女がガンガン攻めても彼がポスポス受ける。彼女がザクザク掘り下げても彼がドサドサ埋め直す。
そしてとうのとうとう彼女が折れた。
「このクソジジイにも何か考えがあるのだろう」そう考えた彼女が問うた。
「答えなさい、新羅錐輝。何が望みです」
「おお!俺の望みを聞いてくれるかお嬢さん!」
まるで玩具を買ってもらう前の子供のようにはしゃぐ新羅は目を輝かせて答えた。
「俺にまた戦争させてくれ!」
「は?」
「?聴こえんかったか?もう一度言うぞ。m」
「いえ結構、聴こえました結構です」
聴こえないわけがなかった。それはある意味聴きたくなかったから。それは戦争を経験した人間から出るはずのない言葉だから。
「正気?」
「正気だと思うか?俺は異常だと思うが」
自分で言い切った。さも当然だと言わんばかりに言い切った。
「なぜ、また戦争したいのです?」
「楽しいからさ、命のやりとりが。あの時が1番強く生を実感できたからさ」
あぁ、そうだった。読んだじゃないかあの一文を。
『戦争を、楽しいものだと考えるように思ってしまった』
そうか、こいつは壊れてしまったのだ。戦争で、命のやりとりで、苦痛で、恐怖で、悲しみで。
そう考えれば、彼女はこの人間が可哀想な哀れな小鬼だと思えてきた。
そう言うことなら叶えてやろう、こいつの最期のたった一言の願いを。
「わかりました、わかりましたよ。この煮ても焼いても食えないクソジジイめ」
「ようやっと素を出したな小娘」
「願い叶えてやるんだ、転生先は文句言うなよ。聞かねぇけども」
「叶えてもらうんだ、言わねぇさ。聞かせねぇがな」
全く、減らず口をとことん叩きまくる嫌味なジジイだ。
「一応武器なんかは前愛用してたヤツつけといてやるよそれじゃご達者でポチッとな」
「んえ?」
\ガコン!/
「は?」
「それともう死んだら魂ごと消滅するから気ィつけなね」
「もうちょっと良か送り方あったろうもんがこのクソ小むs」
「バァイ♡」
そこで新羅はこの世から居なくなった。
「ふう、邪魔が居なくなってスッキリした。ん?」
『因みに新羅錐輝、生涯童貞だった』
「草」
と言うことで今回はこれまで。次回は多分来週の日曜に上がるらしいです。
いやーあの爺さんどうなるんでしょうね?俺は行き当たりばったりで書いてるのでこれからどうなるのか、皆目見当もつきませぬ。
この小説はタブレットで書いてるので行数や文字の中心がずれてたりすると思いますがご容赦くださいませ。
それではまた次回お会いしましょう。コメントなど待ってまーす☆