不老になった徐福と、最期まで騙された男の話。   作:鴉の子

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お久しぶりです。
フェスのASMR実装などで大変に情緒が大変ですが私は元気です。最終話とその後の話が出来つつあるのでそれまでが大変ですね。

ところでペーパームーンも大変でした。

今回は軽めな繋ぎ回です。ちょっとした内心の話。


9節:二人で見る夢

 皆、何かを愛しているのだと言う。何かを生きることとは、何かを愛することなのだと。昔、誰かにそんなことを言われた気がする。

 

 なるほど、その通りだと今でも思う。人の営みは、誰かへの、あるいは己へのそれで成り立っている。

 

 なら、己はどうだろうか。自分を愛していると言えるほどの厚顔でもない。さりとて、誰かを愛していると自分で信じられもしなかった。

 

 隣にいる女には、愛する人がいるのだという。長い人生をかけて、殺そうとしている女がいるのだと。

 

 ふと、そう望まれて、別れてからそれっきりだったのだろうかと思った。もしかしたら、どこかで会っているのかもしれない。

 

 二人で花を見たあの時からしばらく、日々は変わらない。今日も、お互いの仕事を片付けて、部屋に戻り、他愛もない話をして、寝床で横になる。

 

 そうして、月の浮かぶ夜、二人で寝るにはやや苦しい暑さの中で、肌着だけで蚊帳の張られた寝台に二人で寝転がっていた。

 

「……そういえばなんだが」

 

「何?」

 

「お前の言っていた人、虞美人にどこかで会ったことないのか? それこそ、楚にいた頃なんかは有名人だっただろ」

 

「…………会えなかった。項羽……様が死んだ後、少しだけ会える機会はあったけど」

 

 徐福は、目を逸らした。嫌な記憶だったのだろうか。

 

「……声をあげて泣いているあの人のこと、

 受け止められなくて。それで、彼女に何もしてあげられないから、逃げた」

 

「……そうか」

 

 多分、本当は、そこで殺してあげたかったのだろう。そう出来ない辛さは、俺にはわからなかった。

 

「それで、進んでるのか、研究」

 

「ん、それなりにね。薬師仕事しながら、どうにか。そろそろ大掛かりに始めないとね」

 

「そうか、頑張れよ」

 

「あ、帳簿、どんな感じ?」

 

「余計な金使える程度には余ってきてる、評判いいから」

 

「そっか」

 

 それだけ言って、懐に転がり込む女の体温が熱い。ただでさえ寝苦しいというのに。

 

「暑い」

 

「わかる、でもちょっとだけ」

 

「……変なものでも食べたか?」

 

「は? 人が構ってやろうとしてるのにそういう言い方するぅ?」

 

 どうやら気まぐれらしい。相変わらず猫のような女だと思った。困ったことに、最近はどうにも離し難い。思わず、腕を回していた。

 

「……変なものでも食べました?」

 

「こいつ」

 

 二人で笑う。お互い、どうにも器用に生きてきたがこういう時には不器用な人間だった。触れている体温とベタつく肌の感触を、お互いに振り解けないでいる。

 

「……研究、まぁ、実はあとちょっとなんですよね。あとは、実際に実験を繰り返せば、多分終わると思うんです」

 

「そうか、よくわからないが、いいじゃないか」

 

「終わったら、どうする?」

 

「……どうもしない、お前についてく」

 

「──本当に?」

 

「それ以外何かあるのか?」

 

「……いえ」

 

 何故、目を逸らしたのだろうか。……笑っているような気もしたが、暗がりの月明かりではよく見えなかった。

 

「そっか、じゃあ一緒に行こっか」

 

「何処へ?」

 

「ぐっ様探しに行かないといけないから、何処かはわかんないけど」

 

「……見つかるまで?」

 

「うん、目立つ人だから、そんなに難しくないと思うけど」

 

「そうか」

 

 見つかって、それが終わって。それが終わったら、どうするのだろう。そうしたら、この女は、何処へ行くのだろう。

 

「あ、でも、すぐって言っても結構かかるよ? 私からしたらすぐだけど」

 

「……何年だ」

 

「早くて……30年くらい……?」

 

「死ぬぞ、俺が」

 

 人生なんて50年ぽっちもしたら病気か、それまでに殺されるかの二択がこの乱世間際の世の中だ。何が短いだ。

 

「えー、じゃあ……なる? 私みたいに」

 

「…………」

 

「冗談冗談、付き合わせるのも悪いもんね。死んだら全部貰っとくから安心しなよー」

 

「元々、やるつもりだよ。どうせなら有効活用してもらったほうがいい」

 

「……ほんとに、ならなくていい?」

 

 何処か、縋るような声だった。目の前の女が、そんな声で言葉を紡ぐのに驚く。

 

「……一人で、生きてきたんだろ」

 

「ん、そうだけど」

 

「じゃあ、俺がいなくなっても、変わらんだろ。何度も、あったんじゃないのか、こういうの」

 

「……そうだけど」

 

 そうなのか、言ったはいいが、それは少し嫌だなと思う。ただ、それを言うのはあんまりにも情けない気がして、黙り込む。

 

「……もう寝る」

 

「おやすみ、また明日な」

 

「…………うん」

 

 それだけを言って、眠りにつく。腕は、離さなかった。振り解かれもしなかった。わかっている、自分の言い訳がましい言葉が、きっと何かから逃げているだけに過ぎないことを。ずっと一緒にいるということは、ずっと彼女が夢を見ているところを見るということで。

 

 目を瞑っても、腕の中の女と同じ夢は見れなかった。こんなにも近くにいるのに、彼女の見ているものは見えなくて。

 

 目を開けている間だけは、きっと同じ(世界)にいれるのだろうか。なら、きっとそれが醒める時が来るはずで。

 

 会いにも来ない人の為に、夢を見続けて。それが終わったら、夢から醒める。ああ、それは、どうにも納得がいかない。

 

 きっと、彼女はそれでいいのだろう。彼女は、それで、満足に夢を終わらせて。そうして、どうなるのだろう? 

 

 また、いつものように、この浮世を歩き回るのだろうか。一人で、何もかもが変わる世界で、浮かぶ泡のように。

 

 一緒にいられれば、いいのだろうか。

 

 息を吐く。何もかもが煩わしかった、この女を夢に繋ぎ止めている全てが無くなればいいのに、と。

 

 果たして、それはどうしてなのか。それだけは考えないようにして。

 

「……おやすみ、また明日」

 

 また明日、と言い聞かせるように呟いた。明日も、まだ、一緒にいられることを信じられるのは、少なくとも悪くはなかったから。

 

 そうして、眠りにつく。

 

 やっぱり、目を瞑っている間には、同じ夢は見れなかった。ああ、やっぱりこの時間が一番寂しいのかもしれない。

 

 




最近は春はゆくを聴きながら書いています。お互い許されない方が幸せだと思う。
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