お久しぶりです。
フェスのASMR実装などで大変に情緒が大変ですが私は元気です。最終話とその後の話が出来つつあるのでそれまでが大変ですね。
ところでペーパームーンも大変でした。
今回は軽めな繋ぎ回です。ちょっとした内心の話。
皆、何かを愛しているのだと言う。何かを生きることとは、何かを愛することなのだと。昔、誰かにそんなことを言われた気がする。
なるほど、その通りだと今でも思う。人の営みは、誰かへの、あるいは己へのそれで成り立っている。
なら、己はどうだろうか。自分を愛していると言えるほどの厚顔でもない。さりとて、誰かを愛していると自分で信じられもしなかった。
隣にいる女には、愛する人がいるのだという。長い人生をかけて、殺そうとしている女がいるのだと。
ふと、そう望まれて、別れてからそれっきりだったのだろうかと思った。もしかしたら、どこかで会っているのかもしれない。
二人で花を見たあの時からしばらく、日々は変わらない。今日も、お互いの仕事を片付けて、部屋に戻り、他愛もない話をして、寝床で横になる。
そうして、月の浮かぶ夜、二人で寝るにはやや苦しい暑さの中で、肌着だけで蚊帳の張られた寝台に二人で寝転がっていた。
「……そういえばなんだが」
「何?」
「お前の言っていた人、虞美人にどこかで会ったことないのか? それこそ、楚にいた頃なんかは有名人だっただろ」
「…………会えなかった。項羽……様が死んだ後、少しだけ会える機会はあったけど」
徐福は、目を逸らした。嫌な記憶だったのだろうか。
「……声をあげて泣いているあの人のこと、
受け止められなくて。それで、彼女に何もしてあげられないから、逃げた」
「……そうか」
多分、本当は、そこで殺してあげたかったのだろう。そう出来ない辛さは、俺にはわからなかった。
「それで、進んでるのか、研究」
「ん、それなりにね。薬師仕事しながら、どうにか。そろそろ大掛かりに始めないとね」
「そうか、頑張れよ」
「あ、帳簿、どんな感じ?」
「余計な金使える程度には余ってきてる、評判いいから」
「そっか」
それだけ言って、懐に転がり込む女の体温が熱い。ただでさえ寝苦しいというのに。
「暑い」
「わかる、でもちょっとだけ」
「……変なものでも食べたか?」
「は? 人が構ってやろうとしてるのにそういう言い方するぅ?」
どうやら気まぐれらしい。相変わらず猫のような女だと思った。困ったことに、最近はどうにも離し難い。思わず、腕を回していた。
「……変なものでも食べました?」
「こいつ」
二人で笑う。お互い、どうにも器用に生きてきたがこういう時には不器用な人間だった。触れている体温とベタつく肌の感触を、お互いに振り解けないでいる。
「……研究、まぁ、実はあとちょっとなんですよね。あとは、実際に実験を繰り返せば、多分終わると思うんです」
「そうか、よくわからないが、いいじゃないか」
「終わったら、どうする?」
「……どうもしない、お前についてく」
「──本当に?」
「それ以外何かあるのか?」
「……いえ」
何故、目を逸らしたのだろうか。……笑っているような気もしたが、暗がりの月明かりではよく見えなかった。
「そっか、じゃあ一緒に行こっか」
「何処へ?」
「ぐっ様探しに行かないといけないから、何処かはわかんないけど」
「……見つかるまで?」
「うん、目立つ人だから、そんなに難しくないと思うけど」
「そうか」
見つかって、それが終わって。それが終わったら、どうするのだろう。そうしたら、この女は、何処へ行くのだろう。
「あ、でも、すぐって言っても結構かかるよ? 私からしたらすぐだけど」
「……何年だ」
「早くて……30年くらい……?」
「死ぬぞ、俺が」
人生なんて50年ぽっちもしたら病気か、それまでに殺されるかの二択がこの乱世間際の世の中だ。何が短いだ。
「えー、じゃあ……なる? 私みたいに」
「…………」
「冗談冗談、付き合わせるのも悪いもんね。死んだら全部貰っとくから安心しなよー」
「元々、やるつもりだよ。どうせなら有効活用してもらったほうがいい」
「……ほんとに、ならなくていい?」
何処か、縋るような声だった。目の前の女が、そんな声で言葉を紡ぐのに驚く。
「……一人で、生きてきたんだろ」
「ん、そうだけど」
「じゃあ、俺がいなくなっても、変わらんだろ。何度も、あったんじゃないのか、こういうの」
「……そうだけど」
そうなのか、言ったはいいが、それは少し嫌だなと思う。ただ、それを言うのはあんまりにも情けない気がして、黙り込む。
「……もう寝る」
「おやすみ、また明日な」
「…………うん」
それだけを言って、眠りにつく。腕は、離さなかった。振り解かれもしなかった。わかっている、自分の言い訳がましい言葉が、きっと何かから逃げているだけに過ぎないことを。ずっと一緒にいるということは、ずっと彼女が夢を見ているところを見るということで。
目を瞑っても、腕の中の女と同じ夢は見れなかった。こんなにも近くにいるのに、彼女の見ているものは見えなくて。
目を開けている間だけは、きっと同じ
会いにも来ない人の為に、夢を見続けて。それが終わったら、夢から醒める。ああ、それは、どうにも納得がいかない。
きっと、彼女はそれでいいのだろう。彼女は、それで、満足に夢を終わらせて。そうして、どうなるのだろう?
また、いつものように、この浮世を歩き回るのだろうか。一人で、何もかもが変わる世界で、浮かぶ泡のように。
一緒にいられれば、いいのだろうか。
息を吐く。何もかもが煩わしかった、この女を夢に繋ぎ止めている全てが無くなればいいのに、と。
果たして、それはどうしてなのか。それだけは考えないようにして。
「……おやすみ、また明日」
また明日、と言い聞かせるように呟いた。明日も、まだ、一緒にいられることを信じられるのは、少なくとも悪くはなかったから。
そうして、眠りにつく。
やっぱり、目を瞑っている間には、同じ夢は見れなかった。ああ、やっぱりこの時間が一番寂しいのかもしれない。
最近は春はゆくを聴きながら書いています。お互い許されない方が幸せだと思う。