あと2週間くらいしたらFGO fesですね。抽選当たったので乗り込んできますが、徐福の声聞いた瞬間倒れるかもわかりません。
夏の盛りが近づいてくる。照りつける日差しが外の空気を焼いて、茹だるような暑さが襲いかかる。そんな暑さから逃げるように、屋敷の地下に作られた徐福の研究室に二人でいた。
部屋の真ん中で、人形がのたうち回っている。限りなく人間っぽい人形が地面で跳ねるのを見るのはかなり不気味だった。
「……何が起きてるんだ、これ」
「え、人形に死を体験させてる。これを繰り返すの」
「そ、そうか……」
これが実験らしい、数十、いや数百体並べて繰り返すのが目標だそうだが、取り敢えずは3体から始めるらしい。
「……やっぱり土地がいるなー、色々隠さないといけないし」
「ここじゃ無理だぞ、金は稼げるがな」
「だよねぇ、船はツテで用意できるし、人かな」
「……また行くのか?」
「うん、蓬莱は嘘だけど、東に国はあるしね。そこなら1からやれると思う」
巻き込まれてここまで来たが、次は船か、と思う。生きてきてそこまでの長旅をする事になるとは思っていなかったが。
「いつ出るんだ?」
「さぁ、暫くはここでかな。何年かかるかな」
「さぁな、始皇帝だったらすぐ揃えられたんだろうけど」
「あの人圧強いから苦手……」
「そうなのか……」
「完璧超人って感じ、歳取ったらだいぶ錯乱してたみたいだけど」
少し嫌そうな、しかし、懐かしそうな表情で笑う。
「……ま、長生きする気はないからさ、こっちは心配するなよ」
「…………なんでそういうこと言うかなぁ」
「なんだよ、ただの冗談だ」
だって、本当はめちゃくちゃ長生きしたい。早死にしていいことなんて何にもないからな、どんなに世が荒れても、生きてた方がいいこともあると思っていた。
「最初の航海、失敗したんだっけか」
「うん、嵐で流されて座礁して。いやーあの時は本当に死ぬかと思った」
けらけらと笑っている。彼女の笑い声が地下の部屋に響いた。
「……その後、行こうとしなかったのか?」
「いやー? 死んじゃったことになったから身は隠せたし」
「……じゃあ、なんで今更?」
その言葉を聞いて、こちらを見た。瞳の鈍い黄金の光が、にやりと歪む。揶揄うような目つきだった。
「さぁて、なんだと思います?」
「……俺の知らないうちに、なんかやらかしたか?」
「…………ハァ〜〜〜〜〜こいつ」
先ほどまでの楽しげな様子が一変して、突然に機嫌を悪くした。訳がわからない。
「間違えただけでそこまで怒ることないだろ」
「うるせーばーか、阿呆、間抜け」
「は???」
なぜ突然馬鹿にされたのだろうか、理由はわからないが腹立つので小突いておく。
「いたっ、てめー……」
「急に悪口言った方が悪いだろ」
「あんたがクソ鈍いのが悪いんでしょー!?」
ぽかぽかという音が鳴りそうな非力でこちらの体を叩く。正直まるで痛くはないが、その感覚が少しだけ鬱陶しかった。それに、この女に怒られるのは、少し寂しい。
「わかったわかったよ、謝るから」
「ダメ、誠意がないので」
「……一番いい酒出すよ、仕方ないな」
「ん、よろしい」
どうやら、許してくれたらしかった。少し安心して笑って、階段を上がる。また新しく頼まないとな、と外に出て、ふと空を見上げた。
まだ昼下がりだったから、空は何処までも青かった。陽射しは強く、ひどく眩しい。地下にいたせいか、尚更にそう感じるのかもしれない。
遠くの空に入道雲が見えた、夕立の匂いがする。空の匂いだった。
いつのまにか、隣に徐福が立っていた。暑さにうんざりしているのか、服の袖で汗を拭った。そうして、遠くからやってくる雨の気配に気がついたのか空を眺めていた。
そうして痛みを堪えながら、誤魔化すような笑みで、左手の中指に嵌めた指輪を摩って、くるりと回した。
思わず、彼女の手を取った。
「……何?」
「いや、すまん。……その、嫌か。指、痛むのか?」
「いいよ。……ちょっと、指の大きさ合わないの買っちゃっただけ」
多分、嘘だったのはわかった。最近、女の嘘が下手になっている気がした。握る手のひらがやけに冷たい。その冷たさが、何か、致命的なモノが迫る予感だけを伝えている気がした。
「そうか」
それでも、問いただす気はなかった。この女の嘘には、出来るだけ騙されていたかったから。手を握り直す、冷たさが消えるまではこうしていたかった。
「……うん、そう。じゃ、暇だし、お酒でも飲む?」
「まだ昼だぞ」
「どうせ雨だし、お客さんも来ないでしょ」
「……店番はいつも頼んでるだろ。これから在庫と税の……いや、いい」
何かが痛む人間を、放っておいてはいけなかったから。二階へ登って、二人で部屋に戻って、一番にいい酒を取り出した。
「……目ざといくせに、聞かないんだ」
「俺は、気の利かない方だ。なんのことだかわからん」
いつだって、自分の都合でしかモノを考えられない男に、そんな気遣いが出来る訳がないだろう、少なくとも、俺はそう思っていた。構わずに、机に杯を並べ、棚から菓子を少し置いて、杯に目一杯酒を注いだ。
「……痛むのには、これが一番いい」
「ダメな奴の言い草じゃん」
「一人じゃな、二人いれば変わるものだろ」
「一緒にダメになるだけじゃない?」
「……じゃあ、いいだろ。二人ともなら悲しくない」
自然に笑みが漏れた、ああうん、二人でいるなら別にそれでもよかった。
「ダメですよ、ダメだからね」
それだけ言って、目の前の女は杯を一息に空にする。次を注いでやる。
「何がダメだ」
「一緒にダメになったら、どっちも助けられないだろー普通に考えて」
「そりゃそうだな、気が楽なのは違いないだろうが」
当たり前の話だ、当たり前の話を酒を飲み交わしながらこの女と喋るのが少し面白くて、笑ってしまう。
「……それに、それって私と道連れだよ? 嫌でしょ」
あはは、と笑う女の頬をつねる。
「いひゃい」
「誰もそんなこと言ってない」
「あ、やっぱ道連れはダメか。言うだけ言って……」
「嫌じゃない」
雨が、降り始めてきた。降りしきる雨粒が、ざぁざぁと音を立てていた。
「……やめてよ」
「……」
「黙んないでって……」
無言のまま、杯を傾ける。雨の音だけが二人の間に流れていた。謝る気も、言葉を続ける気もしなかった。
小さな甕一つを二人で無言のまま飲み干して。目の前で座っていた女が俺の胸ぐらを掴んだ。
「なに……」
唇を、強く噛まれた。机に血が飛び散った。肉が少し抉れたらしい。
「じゃあ、これも許す?」
「いってぇ……」
「許せるんですか?」
「口つけるだけも下手くそになったな……」
「言えって!」
初めて、声を荒げたのを見た。思わず驚いて、
「いいよ、別に。でも、もうやめてくれよ……いってぇ……」
「……バカですね、本当に。信じるとかじゃないですよ、それ」
「そうかな、信じるならこれくらいするだろう」
「私以外に騙されたら、酷いことになるよ、うん」
「お前以外信じないよ、誰と会っても。……これ、どうにか出来ないか、血が止まらん」
口を押さえるが、ぼたぼたと血が床に流れる。こうも深くまで噛まれるとは、人間の噛む力というものは意外と強いのだなと、普段の噛み跡よりもずっと痛む傷で思った。
「……今やる」
「頼むよ」
────今、考えると。
どっちも死にたかったのかもね。ああいや、もっと正確に言えば……
どっちも、殺したかったんだろう、きっと。自分も含めてね。
こんな風になっても、彼女の傷を全ては理解はしていない男だったから。痛むなら訴えて欲しかった、痛むなら、止まって欲しかった。
まぁ、わかってたんだろう、きっと。
だからあの終わりは納得してるよ。
次回で、補足の断章。
何が痛んでいたのか、何を考えていたのか。
あと少しで……終わる……かな……?