夕立の記憶はいつだって痛みと共にあった。彼女と別れたあの日。船が沈んだあの日。そう、いつだって私の痛みは、夏の痛みすら覚える日の光と、責めるように打ち付ける雨と共にあったのかもしれない。
もう一度、全てをやり直す準備をした。あとは、モノを揃えて、場所を移すだけ。
ただ、隣で困った顔をしている男の為でもあるけど、なんとなくそうしようと思った。陣地を作るのなら、誰もいなくて霊脈の良い場所が良いから。
いつも横にいて、何も聞かない男の事を考えることが増えた。怖がっているわけでもなく、警戒しているわけでもない。ただ、こちらの言うことを信じようと決めているらしい奴だった。
馬鹿な男だと思ったけれど、ここまでやられると随分と寄りかかり心地も悪くないと思えるようになったんだ。
だから、目の前で首を傾げているこの男は脛を蹴るだけで許してやることにした。
そうして、そいつの腕を掴んで一緒に階段を登ると雨の匂いがした。夕立の匂いだった。
思わず、中指にした指輪を撫でた。
いつだって、夕立は私を傷つけるばかりだったから。
船が沈んだ時も、夏の嵐の日だった。
ああ、うん、いつだって私が誰かを死なせた時はそうだった。
夏の強い雨は、いつも私を責め立てるようで嫌いだった。どうしても、痛みばかりを思い出してしまうから。何年経っても、痛みは酷くなるばかりで、いつからか指輪を回して気を紛らすようになった。
金の指輪、ずっと変わらないまま持っていられた数少ないもの。随分と昔にあの人に貰ったもの、多分、気まぐれだったのだろうけれど。
そうして、痛みをやり過ごそうとしていたら、手のひらが私の手に添えられた。
暖かい。顔を上げれば、どうしてか、私よりも痛そうな顔をした男がいた。
「……その、嫌か?」
「ううん」
少し、指輪がきつかっただけだからと嘘をついた。でも、嘘をつかなくてもいいような気がしてしまった。口から偽りを吐き出すのが痛い。言葉が、棘を纏っているように、自分を灼き溶かすような痛みが走る。
弱くなった。弱くなった。◾️してしまった?
過った思考に誤魔化すように、冗談を言って。二人で部屋に戻った。
雨の音だけが部屋に響いた。ざぁざぁと雨が窓を叩く音を二人で聞きながらお酒を飲む。痛むのを誤魔化す為に、一緒に。
冗談を言って、いつものように笑って。
「……それに、それって私と道連れだよ? 嫌でしょ」
もしかしたら、一緒に、何処までも行ってくれるのかな。ありえない話だなんて自分でも少し笑って。
笑って、嫌じゃないという男の眼がこちらを覗き込んでいた。なんの変哲もない黒い瞳が、私の貌を映し出していた。
「……やめてよ」
やめて、やめて。嫌だ。
また、◾️なせるのは嫌だ。
黙らないでよ、憎まれ口でいいから話せよ。
────怒りにも似た気持ちで、胸ぐらを掴んだ。口付けをして、彼の唇を思い切り噛み切った。
口の中が血の味でいっぱいになった。赤黒い血が机の上に飛び散っている、なんでこんなことをしたのか、自分でもわからなかった。血と少しの欠片を飲み込んで、少しだけ何故か安心してしまった。
ただ、これで許すなんて、そんな事を言わなくなってくれたらよかったのに。
これも、許すのかよ。なんで。
やめて。
どうか、私を許さないで欲しい。
私は、どうしようもない奴だから。あれだけ死なせても、傷ついてないから。自分のためにならずっと図太い女で居られるはずだから。悲しくなんてないはずだから、まだきっと、私はやれるはずだから。
なのに、こいつは。
私の悪い事なんて聞こうともしないで、私の良いところも半笑いで聞き流すくせに。
どうして……
私、あの人以外を◾️したくはないのに。
内心の話をしている時が一番大変かもしれません。というかあとちょっとでフェスなのに全然イラスト出ないので気合い入ってるのか……と戦々恐々としています。
ちなみに、感想でも言われてましたが、普段から寝る時には肩とか噛むタイプだと思う。