不老になった徐福と、最期まで騙された男の話。   作:鴉の子

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あけましておめでとうございます。
私の時間はバルダーズゲート3に奪われてしまいました……。

今年の抱負は水着徐福実装です。


13節:星が瞬くこんな夜に

 

 雪が降れば、あらゆることが止まる。街の営みもゆっくりと停滞していく。

 

 必然、二人で過ごす時間は増える。部屋に火を焚いて、理由もなく寄り添って座ることが多くなった。

 

 いや、理由はあるのだが。単純にこの場所はとにかく寒い、雪が降る時の方がまだマシな寒さと言えるくらいは寒い。

 乾いた風は皮膚を裂くように冷たく、その結果として厚着をして火鉢の前に二人で並ぶことになる。

 

「さむい」

 

「ぱぱっと道術であっためられるけど」

 

「それはみんなに悪いだろ」

 

「えー」

 

 半分は嘘だった。なんとなく、こういった時間が無くなるのが嫌というのが実際のところである。女々しいな、と思うが実際そう思ってしまったのだから仕方がない。

 

「夏でもこんなもんだったし、別に離れないよ?」

 

「ごほっ」

 

「図星かー」

 

「違う」

 

「ほんとぉ?」

 

「……」

 

「あ、黙った」

 

 耳が赤いのは寒いからで、それ以外ではない。本当に。

 

「ふふ、いいよ別に。今日はどうせ雪で、出来ることもないし、このままいよっか」

 

「そうか」

 

「とはいえ暇ですねぇ」

 

「暇だなぁ」

 

 書を読もうにも火鉢の側で読むと火花や燃えたチリが飛んでくる為あまりやりたくはない。二人で寝ようにも、そもそも朝まで一緒だったため今更そんな気も起きない。

 

「あ、じゃあこんなのは」

 

 徐福はがりがりと火鉢の灰に火箸で模様と文字を書く、おそらくは方術の何かなのだろうが、今だに意味はあまりわからない。

 

「あれか、方術か」

 

「本家本元じゃないですから、思想鍵紋を使ったのはあんまりですけどねー言ってもわかんないだろうけど」

 

「うん、わからん」

 

「教えましょうか? 仙人になるのは無理ですけど」

 

「……俺でも出来るのはあるのか」

 

 一応、聴いてみる。折角なので面白いことが出来るかもしれんと、好奇心に負けた。思えば、今まで一度もこういったことは聞かなかった気がする。自分で出来るとは思っていなかったのもあるが。

 

「あるよー、簡単な呪いか、死ぬやつのどっちかだけど」

 

「なんて極端なんだ……というか死ぬのか」

 

「うん、命というか……死ぬくらいの色々を賭ければ色々出来るよ。私も3回くらいやったことある、すっごい痛かった。治るのに三日かかった」

 

「……3回も、何でやったんだ」

 

「……あ」

 

 あはは、と思わず口を滑らしてしまった事を誤魔化すような、困った笑いをこぼす。

 

「……はぁ、聞かんぞ」

 

「いやー別に大した事じゃないんだけど。襲われた時に半分自爆でやったのが2回と……一回は何でだっけ……?」

 

「覚えてないのか……」

 

 もしかして結構大変な目に遭った事をあんまり言ってないのではないだろうか、いや、気にしていない可能性も十分ある。

 

「あ、思い出した! あれだ、試しに何処までやったら死なないか確かめた時だ。馬鹿やったなぁ」

 

「……何処まで大変になった」

 

「えーと、足と腕と内臓が何個か……治ったけど。それで出来た礼装、お前にあげたよ」

 

「は?」

 

 あげた? そんな大層な物を貰っただろうか。そう思った時ふと、あの時渡されてから、常に持ち歩いている懐の小刀の冷たさを思い出した。

 

「これか」

 

「そうそれ、ぐっ様は殺せないけど私くらいは殺せるから」

 

「そのために作ったのか」

 

「そそ、失敗作だけどいつでも持ってたんだ」

 

 何故、とは聞かない。少なくとも死にたいと思った事など一度もないと言ったからそういう理由ではないのだろうとは思った。

 

「何でかはわかんないんだけどね、何となく。よし、描けた」

 

 彼女は火箸を脇に置いて火鉢の上に黒い粉を振りかける。パチパチと赤く火鉢の上でそれが弾けて舞う。

 

「お、夜晴れるって。星でも見に行く?」

 

「なんだ、天気読みか」

 

「反応薄ーい」

 

「いつもと方法が違うだけだろう」

 

 天気読みくらいなら普段からなにやらやっているのを見たことがある。別に驚くようなことでもなかった。

 

「……そういえば、これ、もう要らないぞ」

 

 懐の短刀を取り出して、隣の女に返そうとする。別に、もうこの女を疑うこともないのだから持っている必要なんて全く必要のない物だった。

 

「────」

 

 取り出した刃を見る彼女の瞳が揺れた。少なくとも、俺にはそう見えた。

 

「……おい」

 

「持ってて」

 

「いや、要らないと……」

 

「あげる」

 

 こちらの目を見て、微笑まれる。瞳の金色はいつもの様に綺麗なままだったけれど、どうにも悲しい色をしている気がした。

 

「……わかった」

 

「ん」

 

「……使わないからな」

 

「知ってる、でも持ってて」

 

「何でだ」

 

「お前が死ぬ時に使うでしょ?」

 

「いつ俺が自刃するって言った……?」

 

 物騒な冗談を言うものだと、鼻で笑って懐にしまう。まぁ、小刀として普段使いする分には構わないだろう、なんて思って。

 

「一緒に来るでしょ?」

 

「────」

 

「あれ」

 

「冗談がきつい」

 

「冗談じゃないのになー」

 

「……やることが終わるまで死なないだろ、お前は」

 

「そろそろ終わりそうだからね、任せたらもういいかなって」

 

 あははと女はいつものように笑う。何故、そんなことを言うのだろうか、この女が全霊をかけてやってきた事を任せる事など出来るのか、と思ってしまう。

 

「……ここまでやって来て、任せるなよ」

 

「んー、そうだねぇ、色々と連れていく子達集めたりしてて思ったんだけど……まだ死ぬ暇はないかぁ」

 

「そうだぞ、それに、東への船旅だぞ船旅。着いてからの方が大変だろう」

 

「そうだねぇ、何処まで行こうか。龍脈がちゃんとして人がいなければ何処でもいいんだけど。出来れば、誰もいないところがいいから……やっぱりずっと東かな」

 

 こてん、と首を傾げて体をこちらに預ける。どうにも、寒さと火鉢の熱でお互いにぼうっとしていた。

 

「あそこにも国はあるけど、手付かずの場所も多いし。そこまで行ったら、村を作って……人払いを貼って……そしたら……」

 

 そこまで言って、徐福は黙り込む。

 

「そしたら?」

 

「……お前も来るんですよね?」

 

「当たり前だろ」

 

「うん、そっか、ならいいや」

 

「……そうか」

 

 何に納得したか知らないが、まぁ、彼女がいいならいいと思う。ただ、やっぱり隣に座る女が何かを恐れているような気がして、手を取った。

 

「何が嫌だ」

 

「うーん……上手く行ってるのが?」

 

「そうか?」

 

「うん、というか……上手く行って、終わったらどうするんだろうって」

 

「終わったら……好きに生きればいいだろう」

 

「……無理だよ」

 

 消え入るような声だった。常のような明るい声をどうにか保とうしていた分、余計に悲しい色を帯びていた。

 

「なんでだ、次にやりたい事でも見つければいいだろう」

 

「……長く生きてると、そうも行かないんですよ。500年もいると特にね、私仙人じゃないし」

 

 長く生きれば生きるほど、目的を失った時の喪失は大きい。多くの場合、それは死ぬのと同義で、死ねない方がよっぽど酷い目に遭う……らしい、と彼女は語る。

 

「ふむ」

 

「長く生きるほど、死ぬのは怖いから。その頃にはどうなってるのかなって。先の長い話だから、無駄な悩みだけど」

 

 そう言って笑い飛ばそうとする女を、手を引いて立ち上がらせる。

 

「よし、もう晴れたか?」

 

「え、何急に。晴れましたけど」

 

「少し外に出るぞ」

 

 外、と言ってもこの屋敷の3階部分……と言っていいのだろうか。2階より少し高いところに少し張り出した露台に火鉢を使用人に運ばせた後に向かう。

 

「……こんなのあったんだ」

 

「誰も使わんからな」

 

「……わ」

 

「気分転換だ。鼓星が綺麗だな、今の時期は」

 

 空を見上げる、冬の空は星がよく見えた。一人で見上げていた時はそれなりに綺麗だなという感想ばかりだったが、今は違う気がした。

 

「……綺麗」

 

「何年も生きて、何度も見てもか?」

 

「うん、綺麗」

 

「そうか」

 

 そうして二人、いつものようにただ隣にいるだけで。冷たい空気の中で吐く息が白く煙った。

 

「────俺が死んだら、あそこで待つよ」

 

 星を一つ、なんでもない小さな光のものを指さしてそう言ってみる。

 

「……え」

 

「それならお前も怖かないだろ……いや、俺がいても仕方ないか」

 

 そういえば人生賭けて殺したい人がいるのだから、そっちに行った方がいいのだろう。まぁ、それならそれで別に構わなかった。

 

「それでもダメなら……うーん」

 

 首を捻る、あまり頭の回る方でもない、どうすればいいのかポンと出るわけではなかった。

 

 ああうん、任されたのだから、一個だけできることがあった。これなら何も俺が死ぬのを待たなくていい。

 

「お前殺したら、一緒に死ぬよ。それなら俺にも簡単だ」

 

「────はは、出来ます?」

 

「さぁな、いざとなったらダメかもしれんが」

 

「そこは断言しなさいよ、なっさけないなぁ」

 

 今度は、哀しそうじゃない笑顔だった。ああ、その顔をしてくれるなら別になんだってしてやってもいいと言うのは本当にそう思ったのだけれど、痛いのも怖いのも嫌なのでそこは勘弁して欲しい。

 

「じゃあ、私はあそこで」

 

 指を指したのはすぐ隣の赤く明るい星で。なるほど、らしいなと素直に思う。

 

「……あー、スッキリした。ちょっと寒くて落ち込んでたのかも」

 

「そりゃよかった」

 

 寒さを堪えるために、手を繋いでいた。それを離さないで、しばらくの間二人で星を眺める。

 

「嘘ついたら、許さないからね」

 

「おう、許さなくていいぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────赦さないから。

 

 ────それでいいよ。

 

 




すでに書き上げた最終話、丸々改訂することになるかもしれない。
まぁでも少なくともこの二人は死ぬね。
もともとみんな(二人)の意味だからね!
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