不老になった徐福と、最期まで騙された男の話。   作:鴉の子

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 遅れて申し訳ありません……ちょっとスランプだったり色々忙しかったり……ちょっと短めですが更新です。


14節:独りぼっちのロンサム・ジョージ

 

 空を見ながら、死んでもいいと言ってくれる男がいた。

 殺されてもいいのだと笑って言う姿を、私は見た。

 

 寝床の中で、二人。外の白い世界は音を吸い取って、私と彼の心音と呼吸だけが響いた。

 

 今、彼を殺したらどうなるのだろうか。私は、またいつものように歩み始められるのだろうか。

 

 空の星は、私たちを見下ろしている。その光は、太陽のに灼くような熱さもない、月のように冷たさもない。ただ、優しい、遠い光だった。

 

 隣にいる男の目の色もそうだったように思う。ただ、あるがままに、私を見つめていた。どうしても、手が届かないようなものを見つめるような、そんな瞳だった。

 

 男の手を握る。なんの変哲もないけれど、人よりはだいぶ大きくて指の長い手を握る。嘘をついたら、許さないからと言って。ただ寄り添っていた。

 

 でも、本当は嘘でもいいと思っていた。長く生きれば生きるほど、死ぬのは怖い。だから、私が死ぬには誰かが殺してくれないといけないような気がずっとしている。

 

 でも、多分この男はそんなことできない筈だから。多分、何かが死ぬのに耐えられないだろうし、ましてや私をという気持ちもある。

 

 ああ、そうか、だったらうん。

 

 船には乗ろう、遠くへ行こう。若者や子供たちを連れて、村を作って、研究が出来るように。そうしたら、彼が私を殺す前に死ねるようにしないと。

 

 ああ、でも、怖い、怖いな。死ぬのは怖い、やっぱりやめようかなんて思ってしまう。

 

 ああ、そうしたなら、呪いを作ろう。たった一つの呪い、仕組みは簡単で、だからこそ効力のあるものを。

 

 双子の星がお互いを食べて、消えてしまう様なそんな呪い。あなたの命が潰えたときに、私の何もかもが失われるように。

 

 隣にいる男の胸に触れる。少し、戸惑っている様だった。

 

「少し、お呪いです」

 

 ────()()()()()()を励起。

 

 確実に、間違いなく私を殺害できるように。正道での特権領域への接続は私の学んだ方法では叶わないけれど、この500年の研鑽はそれに匹敵するズルは出来る。これだけやっても、真の神仙を殺すには至らなかったけれども、私くらいなら間に合ってしまう。

 

 命を結び合わせる、交換した指輪を起点にして十分にお互いが死に至るように術式は完成する。

 

「ん、終わり」

 

 彼が死んだら、私は死ぬだろう。私が死んだら彼も死ぬだろうけど、まぁ私はよっぽどがなければ死なないだろうしほとんど考えなくていいことだ。

 

「……呪いか何かか?」

 

「ふふ、そうです」

 

「……冗談だろ?」

 

「いえ?」

 

 すごく嫌そうな顔をしている、何か悪いことでもしたのだろうかなんて考えているのだろう。腕を取って頭を預けて、繋がった感覚を確かめる。

 

「あなたが死んだら、私も死ぬ様になりました」

 

「……そうか」

 

「だから、いつでも死んでいいですよ」

 

「そうか」

 

 表情は見えない、そっけなく答える声は少しだけ嬉しそうなような、悲しそうな様な。

 

「いいの?」

 

「やってから聞くなよ……」

 

「それはそう」

 

 あはは、と二人で笑って。明日のことを考える、まだ雪は深い。色んなものを用意しなければならないし。

 

 きっと、どこまで行っても隣にはこの男がいるのだろうなんて思いながら未来のことを考えるのは、悪くなかった。

 

 悪くなかった……のだと思う。少なくとも、頭の底を焦がす様な痛みはなかったし、船が潰れた日の夢も見ない。

 

 だから、せめてもの贈り物をしようと思った。

 

「────こういう気持ちって、なんて言えばいいんでしょうね?」

 

「さぁ、ただ……」

 

「ただ?」

 

「俺でよかったのか?」

 

「今更?」

 

 別に、死ぬのに必要なのが彼である必要もなかったけれど、それでもいいと思ったのだから仕方ない。

 

「ここがいいなと思ったから、ここにいるんだよ」

 

「そうか」

 

 一言だけ、そう言ってそっぽを向く。

 

「嬉しい?」

 

「……」

 

 あ、嬉しそうだ。相変わらず、素直ではない人だった。でも、こんなので本当に嬉しいのは変な人だとも思う。

 

「ふふ」

 

 握る手に力を入れて、撫でる。男の割にはふしくれだっていないし、細く長い指先に通る熱が暖かい。

 

 雪はまだやまない。ただ、今はそれでよかった。世界に誰にもいないような気がして、冷たい空気と雪が生む静けさは永遠を感じさせてくれるような気がした。

 

 寒さも感じないままに、ただ二人で寄り添っていた。

 

 星空が雲に包まれる。また、雪が降り出した雪が降り積もる。

 

 しんしんと降り積もる。

 

 悲しみを埋め尽くすように。きっと、まだ遠い春の暖かさを待たせるように。

 

「────ねぇ」

 

 瞼を閉じて、背を抱き締めて。

 

「……なんだ?」

 

「……やっぱり、いいや」

 

 うん、愛しているかなんて、聞くのは怖い。

 

「……そうか」

 

 何も言わず、彼はたただ振り向いて、ただ私の手を握った。

 

「……明日も早い、寝る」

 

「ん」

 

 ああ多分、この人も怖いのかもしれないと思って、安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────結局一人で死んでしまったのは、あなたでした。

 

 ああ、優しいけれど弱い人。赦さないから、どうかずっとこのままで。

 

 私の夢と彼の想いを飲み込んで、苦界と化した場所で微笑んでいた。

 

 

 

 




愛とか、簡単に言うのには難しい言葉って沢山ありますよね。

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