不老になった徐福と、最期まで騙された男の話。   作:鴉の子

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オチを書くのに作者が辛くなりすぎて止まってるってマジですか?
マジなんですね。
なので最近少し短いです、最終話まであと少し。



15節:冬のころ芽生えた◼︎

 

 星の下にいる夜は終わる。

 

 雪が消える。だが、空はまた灰色に染まっていた。

 

 いつものように、昼食を終えて自身の仕事をこなす。自分でなければ通せない書類や、使用人達の陳情を聞いて、空いた時間には好きな書を開いてぼんやりとしている。

 

 冬が終わりそうな日だった。太陽の光は弱々しく、人々は部屋に篭りがちで熱い茶を炊かなければ行かないような寒々しさだったが、それでも、微かな暖かさを感じる日。

 

 もうそろそろ、春が迫る気配がした。

 

 今、部屋に彼女はいなかった。朝に笑って港へ出かける彼女を見送って、部屋で窓から外を眺める。港で船に積む資材や水夫の手配などをしているのだろう。春には船は出ると言っていたから。

 

 ああ、あの女がいなければ自分はつまらない人間なのだな、とぼんやりと外を眺めながら思う。

 

「……」

 

 2人で、いや、皆を引き連れて遠い果てへ向かうのだろう。それについていく気はあったけれど、それでいいのだろうかとずっと考えていた。

 

 その果てに、彼女の欲しいものは得られるのだろうか。あるいは、そもそも、本当に彼女が好きな人を殺せたとして。

 

 それを、望まれなかったのならばどうするのだろう。黒く、燻る炎のようなものが胸に宿る。

 

 それでも、追いかけることを止められはしない。走り続けている彼女の姿が一番綺麗だと、思ってしまっているから。

 

 だからそう、考えてみれば彼女の為にやれることはまだあった。既にこの命は彼女に繋がっているのならば、やるべき事はある。

 

 彼女の夢を、きっと永遠にしなければいけない。叶えて傷つくのなら、彼女が夢を信じたままいられるように。彼女が夢を失わないように。

 

「……駄々を捏ねているだけかもなぁ」

 

 別に、受け止められる女なのかもしれない。こちらの思うことは全部余計な事で、きっと聞いたら怒るだろう。

 

 だけどまぁ、ああ言った方が悪い、うん。

 

 長年付き合いのある使用人を呼び出し、頼んで、(したた)めた文を箱に入れて預ける。遺言状じみているが実際にはもっと面倒なものだ。何せ、自身に何かあったら彼女に何もかも預けるという話なのだから。

 

 桜の咲く頃には、きっと皆海を越えていくのだろう。それは華々しい門出で、きっと彼女も笑って行けるのだろう。

 

「……さて」

 

 時間も空いた、あの雪の日、徐福に言われたらことを思い返す。自身の命を繋げたのだと、ならばやれることはあるだろう、と彼女に貰った呪い(まじない)の研究書の内容をなどを思い出しながら筆を取る。

 

 あいにくと呪いの才能は殆どないらしいということだけはわかっている。となればまぁ、命を賭けることにはなるだろう。机の上に置いた一枚の布に、幾つかの文字と記号を書き込んでいく。彼女が持っていた幾つかの書物に描かれていた通りに。

 

「ただいま〜」

 

 扉の開く音と、帰る声が聞こえた。最近は陰の消えた、鳥の奏でるような声だった。黒い服でどこかで買ったのか、あるいは作ったのか、白菊の髪飾りを揺らしている。

 

「……機嫌がいいな、今日は」

 

「殆ど準備も終わったからね、あとは人頭が集まればかなぁ」

 

「そうか」

 

 声は明るい、ただ、笑みには何処か寂しさがあるような気がした。

 

「……あと、一応だけど。書くならそこ間違ってるから」

 

「げ」

 

「よそで書きなよ〜、それで、いつやるの?」

 

 ケラケラと笑う。こちらに、真意をわからせないようにしているような気がする笑い声だった。初めて会った時のことを少しだけ思い出す。

 

「……向こうについてから」

 

「そう」

 

「……聞かないのか?」

 

「見ればわかるもん。何年やってたと思うの」

 

「そうじゃなくてだな……」

 

「ありがと」

 

 突然の感謝の言葉。面を食らって、思わず黙り込んでしまう。なぜ、そんなことを言うのだろうか。だって、これは彼女の願いからは外れてしまう。

 

「お前の思う通り、15年もあれば私は出来るよ、多分ね」

 

「……やめろって言わないのか?」

 

「……んー」

 

 にへら、と諦めたような笑みをこちらに向ける。黄金色の瞳が燃える様な色味を湛えていた。

 

「本当に、やれる?」

 

 試す様な台詞だったのに、そんな意図はまるで感じられなかった。どちらかといえば、懇願なのかもしれない。だけど、そんな弱さを信じられなくて、都合のいい勘違いだと思うことにした。

 

「わからん」

 

 なので、率直に言う。何せ、やった事がないから。本当だったら、誰よりも死ににいくのは嫌な人間のはずなのに。

 

「こういう時は出来るって言えよぉー」

 

「仕方ないだろう、怖いものは怖い」

 

 嘘だ。多分、目の前の女のためなら怖くはないけれど。ただ、彼女が泣くだろうかなんて事だけが心配だった。あるいは、涙も見せずに生きていくのだろうか、それも嫌だな。

 

「……というか、どうやって思いついたのさ」

 

「お前が持ってたのを全部読んだ、冬は暇なんだ」

 

「本当に暇だったんだね……まぁ、やるなら私が術は回すけど。こういう呪いは本人が言うのが大事だからね」

 

 勝手に筆を奪い、さらさらと勝手に書き加える。読んでみれば、俺の想定した時間よりギリギリの“制限時間”だ。

 

「30年もいらないよ、15年あれば足りると思ってるけどおまけしてくれたんでしょ。要らないよ。あと、この書き方だと死ぬほど痛いからね」

 

「……そうなのか?」

 

「うん、でもこれだけやれば、多分私のことなんとか生かせるんじゃない?」

 

「ふむ、そうか」

 

 彼女の不老を殺しながら、生かす。彼女の研究が、彼女の手を離れるギリギリの時間まで。ただ託されたと思えた俺が出来る唯一のことだと思ったから。

 

「…………えいっ」

 

「いひゃい」

 

 何故頬をつねるのだこの女は。いや、怒るのも当然かもしれない。

 

「怒るか?」

 

「うん、すっごい怒る。一緒に死なないんだ」

 

「……まぁ、結果的には似た様なもんだろ」

 

「全然違う」

 

「むぅ」

 

「……あっちに着くまで、一緒にいろよぉ」

 

 射抜くような視線が、こちらの目に刺さる。ああ、怒らせてしまったなとも思ったが、怒ってくれるのかと少しだけ嬉しいような気もした。

 

「わかった」

 

「ん」

 

 そして体を寄せ合う。まだ、互いの心臓の音が聞こえている。いつか、聞こえなくなる日のことを思って、少しだけ泣きたくなった。

 

 だから、いつもより少しだけ強く抱きしめてみた。

 

「……ね」

 

「ん」

 

「そんなに、私が夢を見ているのが好き?」

 

「……嫌いだ」

 

「そっか」

 

「でも、綺麗だと思う」

 

「馬鹿だなぁ」

 

 まだ、2人は涙は流さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────許さない。許さない。きっと永遠に。

 

 ────許さないから、一緒に居るのです。

 

 血と暗闇の中で、白菊が揺れている。




夢は託して、願いが叶ったかなんて知らないまま2人で死ぬのがいいなと思いました。お互いに最大限の配慮をした結果がこれだと嬉しいですね、胃が痛いです。

ちなみにうちの徐福はアルターエゴではなくアヴェンジャーです。
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