不老になった徐福と、最期まで騙された男の話。   作:鴉の子

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別視点のおまけみたいな話。
だいぶふんわりした話になっちゃったかも。



16節:Can you keep A secret?

 

 私は、寝静まった彼を置いて寝台から離れる。机の上、男が書き上げた呪符を見る。

 

 15年、なるほど、それはなんて優しくて残酷な事なのだろう。

 

 ずっと生きてきたのに、たった15年、それが随分と長く感じる時間だった。きっと、耐え難い時間だろうから。

 

 あなたは私を置いて死ぬのだろう。でもまぁ、結局は殺してくれるのならいいのかなと思いながら、手元の呪符に更に数文字を書き込む。元々は死後、自身の肉体を呪詛にする呪いの方法だった。本来は人柱を使って行うものだけれど、それを少しだけ改悪する。

 

 遠い西方では、魔術刻印という形で肉体に術式を刻むそうだ。似たようなものを呪いで再現する。死して呪いと化した血肉を他人に融合する。

 

 それは、いずれ遠い未来で神秘主義者達が編み出した概念。形成(イェツィラー)、魂と水の属性を持つ霊的融合と呼ばれる術理。

 

 遠い、揺らぐ世界の神話では“融血呪”と呼ばれるモノ。

 

 死して尚、永劫自らを苛む毒に、男を変質させる最悪の魔術。

 

「────ごめんね」

 

 ああでも、この事を教えても、あの男はきっと笑って許してしまうのだろうなと思う。だから、うん、船に乗る前に殺してしまおう。

 

 私を赦さないように、私が、赦さないように。

 

 涙は流さない。だって、涙を流すにはあまりに酷い事をしているから。

 

「さようならは、言いたくないもんね」

 

 最後に、呪符を自らの血で染め上げる。笑って許してくれるだろう男の顔を、思い浮かべないようにしながら。

 

 二人で地獄に行くのならば、それもいいだろう。どうせなら、二人しかいない場所がいいのかな、ああでも、そうすると虞っ様には会えないなぁなんて思ってしまう。

 

 うーん、それは嫌だなぁ。嫌だなぁ、頑張って、子供達があの人を殺してくれればいいな。そうすれば、きっと虞っ様(私のかみさま)は許してくれるかな。

 

 ああ、そうだ。やっぱり、あの人と子供がいなくてよかったな。こんな不幸にしちゃ、悪いもんね。どうだろう、あの人もそんなふうに思っているのかな。

 

 3279人、私が殺してしまったあの子達の声が聞こえるような気がする。そんな人のような幸福は、許してくれないだろう。

 

「────ごめんねぇ」

 

 うん、声は聞こえるけれど、もう随分と顔も思い出せない。やっぱり薄情かな。寂しく海で死んだ子達のことを思う。それでも。

 

「それでも、寂しいのは嫌だなぁ」

 

 死ぬのなら、暖かい方がいい。

 

 人肌のように微温い血と、呪いの中で、死ぬのがいいなと思う。

 

 だってそれは寂しくない。誰かに囲まれて、暖かく死んだ未来もあったかもしれないし、何もかも上手くいったら、きっとそうなるだろうけど。

 

 それでも、やっぱり寂しい気がするから。

 

 だから、連れて逝くのだ。

 

 殺して、殺されて。それがきっと私達にはいいのだろう。

 

 多分、お互い痛いのは嫌だけど、だからこそこの方がいいと思う。馬鹿な男だったから、私にはずっと優しい男だったから。

 

 ああ、どうして、こんなのがいたのだろう。いなければ、きっともっと上手くやれたし。もっと上手く……。

 

 ああ、上手くできて、それで。どうなのだろう? 私のかみさまを殺して、それで……。

 

 ああ、そうか、この人は。

 

「────夢から、私を守りたいのか」

 

 なんて、傲慢で、無知で、愚かな人なのだろう。何で、こんなに優しいのだろう。

 

 わからなくて、分からなくて、解らなくて、わからなくて(分かってしまって)

 

 顔を、引き裂いてしまうほど強く指が食い込んだ。裂ける皮膚から血が、頬を垂れた。

 

 涙は、流さない。

 

 血が涙の様に流れていても、涙は流さない。

 

「許さない」

 

 何を? 

 

「赦さない」

 

 誰を? 

 

「────許してよ……」

 

 一体、何を? 

 

 分からない、分からないけれど。

 

 何も、恨めなかった私の心に、何かが灯った。

 

 何もかもが私のせいだったとしても、何もかもが彼のせいだったとしても。

 

 それでも、許してはならないと思ってしまったのだ。

 

 なんて理不尽、なんて身勝手なのだろう。それでも、そんなことはわかっていても。

 

 ああ、ただ、かみさまを愛しているだけでよかったというのに。ただ、そうあるだけの(アルターエゴ)でよかったのに。

 

 あなたの(りそう)を叶えてあげたかっただけなのに。それが、私の夢だったのに。

 

 そうだ、なら、私は果てに走るしかない。

 

「そうだ、そうしなきゃ」

 

 燃え尽きるまで、走らなければいけない。そうだ、果てまで、この身を燃やしながら。そうだ、私の愛は、全て彼女の為にあったのだから。だから、彼に与えられるのはそれしかないじゃないか、だって。

 

 私が彼を◼︎してしまったら、彼は私を◼︎してくれないと思ったから。

 

 いいや、うそだ。

 

 そうじゃないだろう。

 

 私が、彼を◼︎していないと思ってしまうのは、許せない。

 

 そうだ、あの男は証明した。

 

 なら、私もしなければならない。

 

 呪いを更に書き換える、融血呪の呪いを、更に強固に。そうだ、仮に、私が死んでも死体が呪いとなる様に。

 

 死の蒐集、その基点。

 

 ここから始まる全ての死と呪いが、全て私と彼に集まる様に。

 

 そうだ、消えない、消せない、永遠に、消させない。

 

 この焔を、私の最高傑作にする。この焔で、彼女(理想)未来(永遠)を永劫に焼き尽くす。

 

 これが、私の◼︎だ。





融血呪はゆらぎの神話からです。
なんでアヴェンジャーなの?って話がこういう感じになりました。
急に怖くない?作者もそう思う。
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