不老になった徐福と、最期まで騙された男の話。   作:鴉の子

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 生前としては……最終回!
 ここまで長かったでしたがお付き合い頂きありがとうございます……あまりにも欲望すぎる小説がこんなに評価をいただいて、皆様に読んでいただき、ありがとうございました。
 あ、とはいえまだ少し続くので、よろしくお願いします。



最終節:はじめての愛だったから、お前を忘れてしまいたい

 

 桜が、咲いていた。

 

 空は青く、雲一つなく、遠くで漣が聞こえていた。

 

 いつも通りとは少し違う朝だった、使用人たちは皆船へ行き、屋敷の家財は皆積み込まれるか、売られるかして、随分と閑散としてしまった。

 

 二人、いつものように朝に茶を淹れて、笑いあって。二人で、桜を見ようかなんて手を取って外へ出る。

 

 遠くで、鐘が鳴っている。何を告げるものなのか、わからなかった。

 

 屋敷の中庭には、降り積もる雪の様に、桜の花びらが降り積もっていた。桜の降る夜はあまりに静かで、世界には誰にもいないようだった。

 

 目の前の女は俺の顔を覗き込む。最初に会った時よりも、随分と人懐こい笑顔だった。二人で向かい合うと、暖かい風が撫でるように吹いた。

 

 何も言わずに抱き合って口付けをして、しばらく。数秒だったのか、あるいはもっと長かったのか、ただ永遠にも思える時間が終わって。

 

「ね、どういう風がいい?」

 

「……死に方を聞かれるのって意外と嫌だな……」

 

「自分で言い出したのに」

 

「まぁ、任せるよ」

 

「わかった!」

 

 やけに元気そうな声で答える。多分、空元気なのだろうけど。

 

 指先に、赤い光を灯して、術を刻んでいる。なんとなくしかわからないが、多分呪殺にまつわるものというのだけはわかった。

 

「はいこれ持ってて」

 

 呪いの描かれた布を持たされ、くるんと巻かれる。とんとん、と身体に巻かれたそれを指で叩く。

 

「……特に何もないが」

 

「うん、効くのはゆっくり。最後だから、話そうよ」

 

 庭の長椅子に二人で腰掛けて、空と、花を見る。隣で、手を結んだまま。

 

「長かったなぁ」

 

 きっと、何も後悔がないのだと言うように女は笑う。そんな筈はない、でも、それを言う気はなかった。

 

「……ね、なんで?」

 

「なんで、か」

 

 なんでこんなことをしたのか、こんなことをしようと思ったのか。それは少し難しい、あまり、理屈で考えるようなことでもなかったし、それに、あまり言いたくもないことだった。

 

「……お前に、夢を見ていて欲しかったのは本当だけれど」

 

「うん」

 

「進んで、迷って、迷って、一人で生きて、さ。会ってもくれない人のために、死なないでいるのは……それは悲しいじゃないか」

 

 悲しい、ただ悲しいと言うのは嘘だ。少しだけ、わがままもある。

 

「────そっか」

 

 呆れたような、喜んでいるような、そんな顔で徐福は笑む。

 

 話しながら、少しずつ、指先の感覚が無くなっている。多分、これが最後まで進めば、終わりなのだろう。

 

「……ほんとうは、死にたくも、殺したくもなくてさ、一緒にずっと生きたい」

 

 今更、言っても仕方ないことだ、それに、こうすると決めたから。

 

「でも、さ。それだと、きっとお前はずっと辛いままだから」

 

 俺がいても、多分彼女はずっと、何処かが痛むままだから。それは、何よりも嫌だった。

 

「────」

 

 顔は、見ない。ただ、青い空に浮かぶ花びら達を眺めていた。段々と、意識はぼんやりしていく、春の微睡のようだった。

 

 ただ、結ぶ手の体温だけが熱い。ぼんやりとした頭のまま、その熱に任せて、譫言の様に言葉が溢れた。

 

「本当は、会った時から好きだった」

 

「……嘘だぁ」

 

「嘘じゃないよ、綺麗だった」

 

「……そう」

 

「……いつも、遠くに、知らない誰かを見てるのが嫌いだった」

 

「うん」

 

「いつも俺の寝床で菓子食うのは腹立ってた」

 

「それは、ごめん」

 

 うへぇ、と怒られた子供の様な困った顔をしているのだろうのがわかる声だった。別に、今は怒っていないけれど、いない間は気をつけて欲しい。

 

「もうしないよぉ、今度一緒に寝るときには気をつける」

 

 今度って、気軽な約束みたいな言い方をするなと笑ってしまう。バツの悪そうな、叱られた子供みたいな顔で謝る女の唇に、口をつけた。

 

「そっか、今度か。待ってるよ」

 

 律儀な女だから、きっと約束は守るだろう。

 

「…………ああ、それと」

 

 まだ、何かあった気がする。

 

 ああ、そうだ。

 

 こんなになるまで言えなかったコトが一つだけあった。うん、ここまでしたし、きっと言っても許されるんじゃないか、と思う。

 

 本当は、言って欲しい言葉で、気兼ねなく言いたい言葉だったけれど。

 

 俺じゃ、こんな時にしか言えない言葉だった。

 

「ああ……うん、きっと、愛してた」

 

「なんだよぉ、最期に、それ?」

 

 眠るように、意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠る様に、男は息絶えた。穏やかな表情で。その体を横たえて。

 

「────なんで」

 

「なんで、最後に」

 

 きっと、愛してた。なんて、情けのない言葉だった。にへらと、情けのない笑顔で、本当に嬉しそうに口にした言葉だった。

 

 金色の瞳が濡れて、揺れている。血の様な、熱い、涙が溢れた。涙を流すまいと思っていた筈なのに。赦されないと、思っていた筈なのに。

 

 どうしてか、涙は止まらない。

 

 横たえた身体に、桜の花が積もる。払われることがないそれが、否応なしに、死を教える。

 

 肉体は既に呪いへと変化しつつある、骨と血肉は泥の様に、あとは、それを取り込むだけだった。

 

 涙を拭う。拭っても、止まらないそれを無視して、横たわる呪いへ()()()()()。融血呪を取り込む為の儀式は、他にもあった。だが、関係がない、噴き上がる衝動が、そうさせる。

 

 涙と血が、混じり合う。呪いは、痛みを伴う、灼けるような、いや、実際に呪いが喉を焼いていた。痛みで叫ぶ声すら、苦痛を増す。それでも、関係がなかった。飲み込んだ呪いが毒のように身体を蝕んでも、皮膚に触れた血と呪いが肌を焼いても。痛みへの防衛反応で、体が全てを吐き出そうとしていても。

 

 関係がなかった、なにも、関係がなかった。

 

 そこにあるものを、世界のどこにも置いて行きたくなかったから。

 

 血と、泥と、桜の花びらに塗れて、二人は遂に一人になった。

 

 消え去っていくことも、一人でできなかった己と、一人にさせなかった男への憎悪と愛はカタチとなる。

 

 青い空と散る桜だけが、ただ、二人を見ている。

 

 あとには、涙に暮れる女の悲しみのように、泣き叫ぶ声を隠すように、桜が積もっていく。

 

 二人の罪も愛も、何もかもを顧みず、春は過ぎ逝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────十と余年の後。

 

 彼女の育てた誰かが、遠い極東の島で、名も刻まれぬ誰かと、彼女の二人の墓を建て、祀ったという。

 

 

 これで、この話はおしまい。

 

 ああ、この後? それは君の方が詳しいんじゃない? 

 

 




惨憺たるheavenly feeling 愛だけ残ればいい。





次回、サーヴァントサマーキャンプ!ドキッ!呪いだらけの最悪リゾート!(台無し)
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