適当魔女と草臥れ仙人   作:ジト民逆脚屋

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すごく働いた日の居酒屋

宮木が目にしたのは、吹き飛び更地になった広場と対峙する四つの人影だった。

 

「班長!」

「お? ミヤちゃん無事?」

「軽ーく言ってますけど、どういう状況なんです?」

 

宮木が見るのは、自分達を背に三竦みの様に立つ三人の英雄と、一体の異形であった。

いや、異形というにはあまりにも人に近すぎる。

粘土製のマネキンの様な姿から変わり、長い黒髪で顔は見えないが、瑞々しさすら感じる程に生気に満ちた整った容姿。

彫像の様に均整の取れた肉体は、一種の芸術品と言っても過言ではないだろう。

しかし、その体に浮かぶ禍々しい紋様が全てを悪としていた。

 

「髪は黒、何も付いてないかー」

「ジテツ、それよりもあれは……」

「あー、間違いなく邪神の残滓なんだが、あそこまで人型なのは初めて見た。イルマ」

「記憶には無い。だけど、何か妙な気配がする」

 

イルマの言葉に二人が頷く。

依然として、呆然とした様子で立ち尽くす残滓からは、何か妙な気配が漂っていた。

三人は不可思議に頭を傾げながらも、立ち尽くす残滓から目を離さない。

 

「ミネルヴァ、あの紋様に見覚えはあるか?」

「邪神の眷族が刻んでいた紋様に似ていますが、紋様の魔力回路は滅茶苦茶ですわ。はっきり言って、まともに機能しているとは……」

「なら、すぐに倒す」

 

イルマが錫杖を掲げた。

その時だった。

残滓が反応を示した。

精巧に創られた顔を上げ、感情の無い表情で錫杖を掲げるイルマを見る。

それだけだった。しかし、たったそれだけでイルマの動きを一瞬止めるには十分過ぎた。

そしてその残滓の顔は、ミネルヴァ達魔女に刻まれた惨劇そのものだった。

 

「総員退避……!!」

 

残滓に刻まれた紋様が稼働し、魔力回路独特の光を放った事とミネルヴァが叫び、そしてジテツが残滓を囲む様に三重結界を発動するのは同時だった。

そして、直後に起きた大爆発により三重結界が崩壊した。

 

「班長……!?」

「無事か、ミヤちゃん」

「無事かって、その傷……」

 

宮木は驚愕していた。

五大英雄、その二人の結界を破った威力、そして短くない付き合いの内、初めてジテツが傷を負っていた。

右腕は焼け焦げ、右目も潰れている。

纏めていた長い白髪も焦げ付きバラけていた。

 

「気にするな。すぐに治る」

 

言った通りに、仙人特有の再生能力で傷は塞がり始めている。

 

「イルマ! 無事か?!」

「大丈夫、今治癒結界を張る」

「儂より他だ。ミネルヴァ!」

「……はい!」

「お前達魔女はイルマを連れて下がっていろ! 奴にはお前達は相性が悪すぎる!」

「しかし……!」

「〝あれ〟が奴と同じ能力なら、魔法は効かん」

「それは仙法も同じでしょう!」

「聞き分けろ! 今、連盟と教会のトップに何かある訳にはいかん!」

 

五大英雄の三人に余裕が感じられない。

あの邪神を倒した英雄達が、今まで見た事が無い程に焦っている。そしてそれは、古い魔女や仙人達も同様だった。

 

「ミヤちゃん、君もだ」

「いや、退けって言うなら退きます。けど、あれは一体?」

「邪神の眷族、かつて魔女界に現れ最悪の被害を出したバケモンで、儂ら勇者パーティー全滅しかけた怪物だ」

「よし撤退! 総員撤退! バケモン全滅させかけたバケモンには勝てないので、こっちのバケモン置いて撤退!」

「判断速くていいね」

 

宮木が先導して魔女や仙人達が撤退を始める中、残滓はまた動かず、ただジテツを観察するかの様に佇んでいた。

その姿は、かつて対峙した禍々しい姿そのままとなり、ジテツ達に苦渋の日を思い出させる。

 

「さて、どうするか……」

 

あの日、こいつと対峙したジテツ達は本当に全滅しかけた。

こいつには魔力を用いた攻撃が通じない。

全て吸収され倍にして返される。

魔法に特化した魔女達では手も足も出ず、こいつが現れた魔女界の地域では、実力者のおよそ七割近くが犠牲になった。

そして、仙法も同じだ。魔力に対するアプローチの違いはあれど、仙法も魔力を元にする。

あの日は人類最高の拳士フェイランが居たから勝てた。

今回はもうフェイランは居ない。

 

「ジテツ」

「さっさと退け」

「せめて魔力の譲渡ですわ」

 

駆け寄ってきたミネルヴァの手が背に当てられ、熱が体を駆け巡った。

 

「四方門と四凶門、そしてあの爆発を防いで魔力の回復が追い付いてないでしょう」

「すまん」

「とっとと炉心を繋ぎ直して終わらせなさいな。どうせ、宮木を連れて居酒屋にでも繰り出すのでしょう」

「儂の行動読みすぎじゃない?」

「何年の付き合いと思ってますの?」

 

魔力の譲渡が終わり、ミネルヴァがジテツから一歩離れた瞬間、残滓が突然距離を詰めた。

完全に必殺の間合い、ジテツは反射的に掌打を打ち込むが間に合わない。 

獣のごとき爪がミネルヴァに迫り、しかしそれはあわやの所で止まる。

 

「させない」

「イルマ?!」

 

イルマの輝術による結界が凶爪を阻む。

 

「居酒屋には全員で行く」

「お前、一応は教皇だよね?」

「酒は百薬の長」

「チビが聞いたら自分もと騒ぎそうだ」

 

笑みを溢し、ジテツは膝を残滓へと叩き込む。

まるでゴム毬の様な手応えだが、確かに芯に打撃が通った感覚がある。

つまり、

 

「奴の特性は引き継いでいるか。なら……!」

 

羽織の袖から短刀を引き抜き、打ち上がった額目掛けて振り下ろす。

魔力は通らず、フェイランクラス以下の打撃も効きにくい。

だが、刺突や斬撃は通る。

 

そして、ジテツの思惑通りに短刀は、残滓の額に吸い込まれる様に突き立った。

 

「……イルマ、全部終わったら話をしよう」

「私も五百年間の話がある」

「なら、さっさと退け。……冒険や戦いが終わったら騒ぐんだろう」

「酒は絶対……!」

「ほら、さっさと退きますわよ!」

 

ミネルヴァが空間転移で、イルマの首根っこを掴み消え去る。

対峙するのはかつての脅威と世界最強の大仙人。

残滓は額に突き立った短刀を引き抜くと、何やら言葉にならぬ声を出した。

 

「せ…け…ごしゃ……」

「……知能は無しか。奴並みの知能があったら、儂が死んでたから不幸中の幸いか」

 

整っていただろう顔は、かつての脅威を感じさせない程に弛み、開いた口からは涎が延々と流れている。

確かな知性、そして品性を持っていたかつての仇敵。

偽物だろうと二度と会いたくない。そう思っていたが、こんな形での再会となると例え偽物でも、悲しさの様な感情は芽生える。

 

「しかしまあ、それはそれ」

 

ジテツは焼け焦げた笠を被り直すと、下駄を鳴らして構えた。

 

「仙界が大仙人にして勇者の師、ジテツ・コジ。これより死地に入る」

 

かつての仇敵、その似姿を終わらせる為、ジテツは駆けた。

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