適当魔女と草臥れ仙人   作:ジト民逆脚屋

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永い永い日の居酒屋

「はい、乾杯……!!」

「乾杯……!!!!」

 

チェーン店の狭い店舗の中、古魔女や古仙人、年若い魔女や仙人がジョッキに猪口を片手に打ち付け合い、今日の疲れを労い合っていた。

 

「ジテツ! 貴方は何時も何時も対応が遅すぎるのですわ!」

「ミネルヴァ……、酒の席でキンキン喚くなよ」

「いーえ、今日という今日は言わせてもらいますわ! 貴方がもっと早く(わたくし)達に合流していれば……!!」

「ミネルヴァ、うるさい」

「イルマッッ……!!」

 

草臥れた顔を更に草臥れさせジテツが猪口を傾け、ミネルヴァが並々と麦酒が注がれたジョッキ片手に激昂すれば、イルマが三本目の瓶を空にしてミネルヴァの言葉を遮る。

それにミネルヴァが更に激昂し、色白な顔を赤く染めてジョッキを煽る。

 

「なんとかなったからいいじゃん」

「イルマ、貴女も教皇の身分! もっとしゃんとしなさいな!」

「教皇だから、周りが何とかしてくれる」

「そーだそーだ、儂らが働かなくても若者が何とかしてくれるー」

「おバカ共ー……!!」

 

麦酒ジョッキ片手に喚くミネルヴァ、焼き鳥片手にワインを瓶のままいくイルマに、刺身に山葵を乗せすぎて目頭を押えるジテツ。

年若い魔女や仙人達は、これが伝説の英雄達の姿かと唖然とするが、古仙人や古魔女達は懐かしい光景に目を細めた。

人には遥か昔、しかし己達には昨年程度のあの日々。

英雄達と血を流し、落ちていった命に想いを馳せながら、酒を呑み騒いだあの日々。

 

あの日々には二人足りないが、それでも大いに呑んで食って騒いだ。

今日は誰も死ななかった。だが明日、明後日はどうなるか分からない。

 

「しっかし、ありゃ一体何だったんだ?」

「ジテツに心当たりは?」

「無い。仙界に死人を甦らせる業はあれど、それはあくまでも一時的に死人の意識を死体に戻すだけだ」

「魔女界にも似た業はありますが、仙界のものと似た様なもので、一時的な使い魔契約ですわ」

 

五杯目のジョッキを空にして、ミネルヴァが首を傾げる。

確かにあれはボルゼアのそれそのものの姿だった。

だが、死人は甦らない。それは人も仙人も魔女も変わらない。

 

「ガワはボルゼア、だが中身はスカスカ。その癖、業はボルゼアのそれだ。さて、イルマ。なんかないか?」

「人界の伝承には甦りの伝承はある。けど、あくまでも伝承」

「その伝承の中に、〝聖剣の守護者〟とやらはあるか」

「聖剣の守護者? 聞いた事ない」

「教皇のお前でも、か」

「その聖剣の守護者とやらがどうかしまして?」

「あの偽ボルゼアが儂に言ってきた」

 

不快感を隠さず、ジテツが猪口を傾ければ、二人はさもありなんと溜め息を吐いた。

ジテツにとって聖剣は厄ネタだ。

そしてそれは、他二人も同じだ。

 

あの戦いを生き抜き、勇者と苦楽を共にした三人にとって、聖剣は未来を生きる筈だった彼女の命を奪った怨敵だ。

それの守護者と、聖剣に討たれた邪神の残滓が一番勇者との付き合いが長く、誰よりも彼女を慈しんでいたジテツには、不愉快と侮辱以外何者でもない。

いやこれは、五百年前のあの事実を知る者全員に対する侮辱だ。

 

「……教会の古書を調べてみる」

「頼む」

「私も魔女界の伝承を当たりますわ。……時に二人」

「なんだ?」

「なに?」

「……こう、わだかまり的なサムシングはよろしくて?」

 

ミネルヴァの言葉に、ジテツとイルマは顔を見合わせる。

周りもそうだったと、宮木以外はジョッキと肴の器を手に退避準備に入っている。

頼むから、喧嘩を始めるな。そうジテツとイルマを警戒していると、

 

「……いやー、これがなぁ」

「うん、なんかどうでもいい」

「私の杞憂を返してくださいませんこと……?!」

 

ミネルヴァの絶叫に周囲も頷く。

まさかとは思うが、五百年前のあの大喧嘩を再開するのではと、内心ヒヤヒヤしていたのだから当然だ。

 

「それより、久々の居酒屋が大事」

「お? イルマ、やっぱり分かってるな」

「当たり前。ミネルヴァが贅沢」

「なんでですのー?!」

 

ジテツが肴を摘まみ、イルマがジョッキを一息に空にする。

わだかまりはあったが、よくよく考えたらこれ全部聖剣が悪いという結論に二人して落ち着いたらしい。

 

「だから、聖剣をへし折る」

「いいのか? 聖剣教会教皇様」

「後の遺恨を残さない。これが一番大事だし、私達は聖剣を信仰してるんじゃなくて、聖剣にまつわる教えを信仰してる。……反論は許さない」

 

警護の騎士団も呆気に取られているが、教皇の決定は絶対であり、教皇本人が聖剣がもたらした悲劇を知る当事者だ。

それに、

 

「聖剣の破壊、もしくは無力化は前々から教会でも決まってた」

「まあ、それはそうですが……」

「なんか算段あるのか? あの鉄屑は悔しいが、儂の仙法でも壊せんかったぞ」

「だから、調べる。まず、あれの出所が分からない。気付いたら人界にあった」

「いきなり厄ネタぶっこんでくれるか?」

 

イルマの言葉通り、あの聖剣が何処から来たのか。だれが造ったのか。

これらはいまだにはっきりとしていない。

 

「それに聖剣の主権自体は人界だけど、仙界と魔女界にも権利はある」

「三界同権、元老院が五月蝿そうですわね」

「仙界は長老衆が厄介だ。……いや、オクニの婆さんがまだ居るから大丈夫か?」

「あの、ジテツ・コジ?」

「なんだ?」

 

今の面子でジテツの次に古い仙人が、如何にもな木簡を手渡してきた。

 

「……ねえ、これ見ないとダメ?」

「……オクニ様よりの報せです」

「………そっかー」

 

紐を解き、木簡を見る。

仙界でも殆ど使われなくなった古語でしたためられた内容だが、ジテツも仙界最古級の仙人。

問題無く読める。読めてしまう。

 

「班長、何ですか? そのミミズがのたくったの」

「………ミヤちゃん、儂一回仙界帰んないといけないみたい」

「なんでですか?」

「たまには顔見せろってさ。四百年前に一回帰ったのに」

「スパンが長い。なんですか四百年前って」

「そんなもんじゃない?」

 

ジテツが言うと

 

「まあ、そんなものでしょう。私も魔女界に帰ったのは三百年は前でしたし」

「ほら、そんなもんだよ」

「くあー、純血の長命種独特の感覚」

 

人界出身の魔女仙人は宮木と同じ反応で眉を潜めているが、古い魔女仙人はそんなもんだと頷いている。

 

「大丈夫、ミヤちゃんもそうなるよ」

「宮木はまだ二百歳にもなってませんからねえ」

「あと四十年だっけ? 昼間してたらすぐだよ」

 

長命種独特の感覚に辟易としながらも、チキン南蛮を齧りイルマ達へ目を向ける。

覚者と呼ばれる騎士団達も長命ではあるが、こいつら程ではない。

だから、イルマも思うところがあるのか。ジョッキをまた空にしている。

 

「あの、貎下……。もうそろそろ……」

「あ、ビール追加で。ジョッキで五つ」

「貎下ー!!」

 

いや、なんも考えてないなこいつ。

 

「はぁ……。あ、こっちもビールとチャーシュー麺追加で」

「お、ミヤちゃん〆に入る感じ?」

「まさか。せっかくの奢りなんですから、好きに食おうかと」

「それ何時もじゃん」

「当たり前でしょ。あ、班長。私も仙界行きますんで」

「え、なんで? 儂、そんなに慕われてた?」

「自意識過剰ー。班長抜けたら、私に仕事振られるじゃないですか。だから出張扱いで私も抜けます」

「ミヤちゃん、ホント正直だよね」

「まあ、実際はちょっと仙界旅行キメようかと」

「ホント正直だわー」

「なにを今更」

「……よくもまあ、魔女連盟と教会のトップの前でサボり宣告出来ますわね?」

「まあ、そんなもんですよ」

 

だって

 

「せっかく永く生きるんですから、せかせか働いても結局は一緒じゃないですか」

 

届いたラーメンを啜りながら宮木が言うと、ミネルヴァの嘆息が聞こえた。

 

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