――どうした? チビ
――魔女界と仙界って戦争してたってホント?
――また古い話を……。ミネルヴァか?
――うん、ミネルヴァの歴史の授業
――まあ、古い古い話だ。もうお伽噺レベルのな
――師匠仙人の古い話って原始時代?
――人をなんだと思っとるんだお前……
「相も変わらず、馬鹿面だな貴様は」
「面見せたら嫌味か。変わらんなお前さんも」
ジテツの白髪とは真逆の上質な墨の様な黒髪、胡服も黒を基調とした色合い。
だがその肌は白く、視線の鋭さも相まって氷の様な印象がある。
「ここに来てから五百年、音沙汰も無かった奴が嫌味の一つも許容出来んか」
「儂らの五百年、そう長いもんでもあるまい」
「貴様、あの争乱以来の仙界を放っておいて、よくもぬけぬけと……!」
何やら剣呑な雰囲気のサジンだが、対するジテツは普段通りの草臥れ顔である。
これがサジンの気に障ったのか、彼女の鋭い目付きが更に吊り上がった。
「ねえ、班長。その人誰なんですか?」
そこで空気を読む気の無い宮木がジテツに問う。
「ん? ああ、こいつはサジン。儂の同期でオクニの婆さんの直弟子。こいつがまた細かいんだ」
「細かいとはなんだ! 貴様がちゃらんぽらんなだけだ!」
「ね?」
「へー。で、そのサジンさんはなんで来たんですか? お墓参りだったら謝りますけど」
興味が無いのか、宮木は気怠そうにサジンに言葉を向ける。
ジテツからすると、本当にサジンに対して興味を抱いてないと判るが、サジンはそれが判らない。
というか、宮木は基本的にあまり表情に変化が無い。
常に気怠そうでやる気無い顔だ。
これが癪に障ったのか、サジンの額に青筋が浮かぶ。
「ジテツ! その小娘はなんだ?! まさか、弟子を取ったのか?!」
「ミヤちゃんは部下だよ。魔女」
「は? 魔女? 貴様、仙界に魔女を入れるとは何事だ!!」
「お前、何時の時代に生きてんだよ……。もうそんな時代じゃねえの」
ジテツが呆れ顔で言う。
確かに三界が融合する以前、三界はそれぞれに相互不可侵の関係だった。
これはオクニ達が人界と仙界を繋いでからも変わらなかった。
だが、今は違う。
三界は融合し、もう公共交通が通り自由に行き来出来る時代だ。
「ぐぬ、ああ言えばこう言う……」
「お前が古いだけだ」
「女に古いとは何事だ!」
「もうめんどくせえこいつ!」
わいわいと言い合う二人だが、その二人を眺める宮木のストレスゲージは上昇している。
宮木が取った有休は四日、仙界からの帰路を入れると後二日しかない。
その二日で仙界グルメをジテツの奢りで盛大に楽しむ計画だったのに、ここに来て妙な仙女が絡んでくる。
「あの、班長」
「大体貴様は昔から人の揚げ足ばかり取って、しかも手柄も横から浚っていく! 私は貴様の背を追ってばかりだ!」
「喧しい! そりゃお前の詰めが甘いからオクニの婆さんから尻拭いを頼まれただけだ! お前こそ、実力を過信し過ぎだ!」
「ねえ、私お腹空いたんですけど……」
「余計なお世話だ! それなら貴様だってそうではないか」
「何がだ?」
「あの、本当に限界なんですけど」
「弟子の危機に気付けず、あまつさえ死……」
「おい、サジン」
瞬間、静かだった周囲が重さを増した。
いや、空気が濁った。
「そこから先を言うなら、儂はお前を殺す。何も、あの日を知らんお前がアカネの死を語るな」
「ぬぅ……」
ジテツの殺気、仙法を使った訳でもなく、ただそれだけで周囲の天候が変わり、晴天は曇天となり雲間から覗いていた龍の目に警戒の色が浮かぶ。
ぐうたら、ちゃらんぽらんと呼ばれていても、ジテツ・コジは仙界最高峰の仙人であり、三界最強の一人なのだ。
対するサジンも同等の実力はあれど、実戦経験の面で劣る。
その差は、オクニより受け継いだ仙具である棍、〝如意金箍棒〟があっても簡単には埋められない。
一気に緊迫した現場だが、完全に堪忍袋の緒が切れた者が居た。
「Get ready Fire」
宮木だ。
〝崩壊〟を弾丸にし、二人目掛けて放った。
二人は避けたが、目を丸くして抗議する。
「な、何をする?! 気でも狂ったか!」
「ミ、ミヤちゃん?」
「さっきからピーピーピー喧しいんですよ。過去? 五百年? んなもん私からしたら知ったこっちゃないのにピーヒャラピーヒャラと! 大体、ここは墓場なんだから騒ぐな!」
言うなり、祠からジテツの仙具を掴み出すと空いた手の人差し指を拳銃宜しく突き付ける。
「こちとら有休で班長の奢りで仙界グルメツアーの予定なんですよ。これ以上騒ぐなら、これに私の魔法ぶちこんで、あんたらにも永遠に追いかける弾ぶちこみますけどどうしますか?!」
「わー! ミヤちゃん、それ作るのに儂千年掛かってるから勘弁!」
「おい、ジテツ……!」
サジンが割って入ろうとした瞬間、ジテツがサジンの肩を組み、それを止めて小声で話しかける。
「いいか、サジン。ミヤちゃんはやると言ったらやる。マジでやる」
「だからどうした。たかが魔女一人だろう」
「サジン。ミヤちゃんの魔法は〝崩壊〟だ。当たれば問答無用で原子レベルに分解される。そんなもんぶっぱなされてみろ。この辺り一面消えるぞ」
「〝崩壊〟だと! ……あの争乱で魔女界が探し回っていた魔法か」
「そうだよ。ミヤちゃんは千五百年振りの〝崩壊〟の持ち主だ。それに加えて、実力はミネルヴァが認めた第三位位階。つまり、現代魔女で三番目」
「となると……」
「儂らが戦ったらどっちかが死ぬ」
「相談は終わりました? ちなみに私の堪忍袋はあと五秒で完全に切れます」
その言葉にジテツは両手を挙げ、サジンも如意金箍棒を両手で挙げた。
「では、今日からツアー中は食費、旅費全て二人持ちで」
「え?!」
「は? 文句ですか?」
「いえ! 全力で奢らせていただきます!」
「よろしい。では、行きますよ」
ジテツに仙具を投げ渡し、普段通りの気怠そうな雰囲気で溜め息を吐きながら、宮木は来た道を戻る。
「……なにやってんです? 行きますよ」
先程の怒りは何処に行ったのか。
これから起こる財布への惨劇と何も知らないサジンへの説明を考えながら仙具を担ぎ、下駄を鳴らして宮木の後を着いていった。