適当魔女と草臥れ仙人   作:ジト民逆脚屋

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不機嫌と遺物

「班長ー、天気良いですよー」

「……」

 

やけに落ち着いた雰囲気だが、どこか成金趣味のする調度品に囲まれた部屋で、革張りの椅子のリクライニングを倒しながら、窓の外を眺めていた宮木が笠の鍔で顔を隠したジテツに言う。

しかし、ジテツは無言のまま腕組みをしたままだ。

彼の両隣に座るミネルヴァとイルマも同じだが、二人は得物の杖を片手に構え、それぞれに術を行使している。

理由はジテツを抑え込む為。ジテツ本人もそれを自覚して大人しくしているが、怒りや苛立ちからやはり魔力が漏れ出て、周囲に無言の圧を掛けている。

しかし、それは彼の両隣の二人も同じだ。

 

「連盟長、なーんでそんな不機嫌なんですか?」

「……宮木、これは私達の問題です」

「そう、私達の問題」

「その問題に巻き込まれてるんですけど?」

 

実際、宮木も不機嫌だ。

仙界旅行の最中に局長からの電話で呼び戻され、何かと思えば勇者の遺物の紛失について調べてこいと、話を聞く間もなく放り出された。

お陰様でオクニが特別に用意したという仙界の最高級品を食べ損ねた。

今は特異監視機構で移住と所属の手続きで、書類の山に埋まっているだろうサジン曰く、仙界でも千年に一度口に出来るかどうかという最高級品。

是非、食べてみたかった。

それなのに、ミネルヴァの魔法で強制転移させられ過去の英雄達の尻拭いに駆り出された。

非常に腹立たしい。

なので、さっさと説明しろ。と、ミネルヴァとイルマに立てた人差し指を見せてプレッシャーを掛ける。

 

「……ミヤちゃん。話すから、とりあえずそれは無しね」

「では、どうぞ」

「んー、急ぐねぇ。まあ、すごく簡単に言うと、今回紛失した物って、儂らがアカネの為だけに作った物なんだわ」

「つまり、勇者専用装備が何処かへ消えて、しかもその管理を任せていた相手に待たされているという事ですか」

 

さて、どうしたものか。

とりあえず、説明は受けたので立てた人差し指は仕舞うとして、宮木は考える。

今回紛失したのは、五大英雄が勇者の為だけに作った品。

つまり、ジテツが忌み嫌う聖剣と同等の品という事になる。だとすれば、政治的にもちょっと不味い事になる。

イルマや亡くなっているメイファンは人界だが、ジテツとミネルヴァは仙界と魔女界の重鎮。

えらく気軽にその辺に居るので、そんな気は全くしないが重鎮なのだ。

そんな二人が勇者個人の為に誂えた一品、好事家でなくとも価値が解る者なら、喉から手が出る程欲しいものだろう。

だが、ちょっとでも理性が働き、少しでもジテツと勇者の関係を知っていて、仙人と弟子がどういうものかを理解していれば、それに迂闊に手を出すという事が何を意味するのか分からない筈がない。

 

「ちなみに皆さん。どういった物を?」

「……儂はシンプルに羽織。魔力循環と身体保護と強化。ついでに伸縮して自動で防御と迎撃機能、古式仙法の適宜発動を付けた」

「……(わたくし)も簡素に指輪を。私の魔法を各種仕込み、魔力回復もついでに」

「……私は単純に首飾り。私の輝術による結界の自動発動と怪我や呪い、疫病等に対する絶対防御」

「……シンプルに戦後生まれの感想ですけど、シンプルに馬鹿ですか?」

 

 

――馬鹿がよぉ!!

 

口には出さなかったが、宮木は本気で罵倒したかった。

現役最強の仙人と魔女、僧侶が思い付いた最強機能を思い付くままに搭載した羽織と指輪と首飾り。

一つ一つが国宝級で国一つ当たり前に攻め滅ぼせる最悪の品。

イルマは防御全振りだからまだましだが、ミネルヴァとジテツが酷い。

 

「班長、古式仙法って班長が時たま使うチート仙法ですよね?」

「ああ、うん。〝泥田坊〟とか〝目々連〟がそうだね」

 

ジテツが草臥れ顔の顎を撫でながら当然の如く頷く。

 

「連盟長、仕込んだ魔法ってまさか〝全属性(オールマテリア)〟ですか?」

「ええ、そうですわ。私の〝全属性〟を解体して、各指輪に搭載、使用する魔力もアカネ側からではなく、指輪から供給出来る様に炉心機能も……」

「シンプル馬鹿共がよぉ!!」

 

馬鹿みたいに豊満な胸を張り、誇らしげに説明するミネルヴァを遮り、宮木は叫んだ。

宮木はやる気は無い。日々平和にサボり旨いものを飲み食いして寝る。それだけで生きてきた。

しかし、厄介事には敏感だった。

故にこの惨状に叫ぶしかなかった。

 

「教皇はまだいいです。基本防御機能だけなんで。でも、あんたらは何を考えてそんなとんでも機能付けたんですか?」

「いや、だって、ねぇ?」

「アカネを守る為でしたし」

「だからって、一つあれば国一つ消せる物を作らないでくださいよ! あんたら解ってます? あんたらの業は一つでもかなりヤバイ代物だって……!」

 

戦後生まれの部下から説教を受ける仲間二人を尻目に、イルマは持ってきていた琥珀色の酒の瓶を傾ける。

二十年物の蒸留酒は香りが複雑に入り交じり、酒精の熱に隠れた仄かで豊かな甘さがある。

やはり酒は人類が生み出した叡知だ。

こうやって自身の密かなやらかしを隠せる。

イルマは仕込んだのは防御機能だけではない。攻撃を倍にして反射したり、展開次第で町一つ押し潰せる攻勢防御も仕込んでいる。

だが、言わない。

 

「大体ですね。あんたらは自身の力を理解してます?」

「え、それミヤちゃんが言うの?」

「そ、そうですわ。宮木だって〝崩壊〟を……」

「シャラップ!!」

 

この歳になって、一回りどころではない年下からの説教は効く。

ただでさえ、教会では近衛達に酒を隠されたり、隠れて呑んでいるのが見つかると説教食らうのだ。

真面目に外に出向いた先でも説教はされたくない。

第一、自分は説教されるより説教する立場なのだ。

故に無関係を装うのは間違っていない。

 

「あ、あの……」

 

と、イルマがそこまで考えたところで、四人の動きを止める声があった。

 

「ほ、本日、今回の案件についての説明と案内を担当します。リチャードと申します」

 

如何にも中間管理職といった禿頭の中年男性が、大量の資料を脇に抱え、額の境界が分からなくなった頭をハンカチで拭いながら曖昧な笑みを浮かべていた。




古式仙法¦現代仙法と大した変わりはないが、威力と範囲が桁違いであり、その分扱いも難しい。
扱うには最低でも体内炉心が必要になる。

体内炉心¦ジテツ達古仙人が体内に備える魔力炉心。仙人達はこの炉心を使い地脈から魔力を汲み上げ、莫大な魔力を有する
臓器として存在するのではなく、概念的な存在。

泥田坊¦古式仙法の一つ、現代仙法にもある。
発動には地面が必要だが発動すれば、飛行可能な相手でなければ底無し沼となり、相手の魔力や命を奪い去る。
力任せに脱出しようにも、泥田坊本体が対象を引き摺りこもうと絡み付いてくる。
ジテツが発動すれば最大半径5km、深度500m程になる。

目々連¦以前発動したのはそれ用に性能を抽出したもの。
本来の性能は対象の監視と観察とコピー。
目々連に対象の魔法や仙法を認識させると、それをコピーして術者の実力に見合った規模で再使用を可能とし、容量も術者次第。
ジテツ使用時は一度認識した業は二度と忘れず、そのままかそれ以上の性能で使用可能となる。
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