適当魔女と草臥れ仙人   作:ジト民逆脚屋

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河川敷の人形焼き

「なあ、ミヤちゃん」

「なんです? 班長」

「儂ら、要るこれ?」

 

河川敷の公園で眺める光景は、浮世離れしたヒーロー映画そのものだった。

巨大な如何にも怪獣と言った見た目の怪物が町外れの工事跡地で暴れまわり、それを魔法連盟の魔女と特異監視機構の実働班が攻撃している。

中々に迫力のある画だが、二人にはもう見慣れた光景でしかない。

 

「おー、あの魔女やりますね。魔力を属性変換せずに、そのまま光線にして撃ちましたよ」

「でもさ、あれロス大きいでしょ?」

「そうですね。でもほら、倒しましたよ」

「おおう、風穴空いてら」

 

公園の芝生に座り、如何にもやる気無さげに話す二人。

実際のところ、二人の仕事はこの現場には無い。

なのに、何故こうして現場に居るのか。

 

「いいんですか?」

「何が?」

「〝ミネルヴァ〟連盟長、来てたんでしょ」

「いいのいいの。あいつ、儂を見る度に英雄の心構えが~とか、五大英雄の箔がどうとかしか言わんし」

「班長はダメ仙人ですから」

「うわー、それミネルヴァにも言われたよ」

「えー、いつ頃ですか?」

「まだドンパチやってた頃ー」

「現役時代からダメ仙人とか……」

「いいじゃん。別に、今みたいにサボってた訳じゃないし」

 

へらへらとしながら、予め買っておいたボトルの缶コーヒーを傾ける。

わざとらしいミルクの甘さと、安っぽいコーヒーの苦味と匂いが舌に合う。

やはり、こういうのがいい。

 

「それにさ、ミネルヴァに付き合うと絶対高い店に行くから、オッサンどうにもね……」

「高い店っていうと、病気の肝臓とか無駄に黒い魚卵とか、変な匂いのする茸が出る店ですか」

「うーむ、オッサンはミヤちゃんの高級品に対する認識が心配になったね」

「冗談ですよ。これでも魔女を百六十年やってますからね。流石に食べた事ありますって」

「ちなみに感想は?」

「あの値段出す価値あるのかなって」

「あーね」

 

とりあえずお気に召さなかった様子。

しかし、これからどうするかと、ジテツは考える。

 

「ミヤちゃん、今から戻ったらミネルヴァ居るかな?」

「あの人は居ますよ。無駄に辛抱強いですから」

「だよねえ」

「いい加減、覚悟決めたらどうです?」

「だけどなあ、今行くと仕事増えるよ?」

「はい、何処かで時間潰しましょう」

「流石、分かってるね。ミヤちゃん」

 

邪神の残滓も倒され、現場では既に後片付けに移っている。

何もしてなかったが、これ以上ここに居てもやる事は無い。

 

「で、何処で時間潰す?」

「店に入るのは避けた方がいいですね。パターンは予想されてますでしょうし」

「なら、初めての店に行く?」

「それも外れ引いたら嫌でしょう」

「なら、どうしようか」

 

ああでもない、こうでもないと、二人が話していると、少し離れた所から何か声が聞こえてきた。

何かと思えば、どうやら呼び込みの声の様だ。

 

「行ってみる?」

「そうですね」

 

立ち上がり、近くの自販機のゴミ箱に空き缶を捨て、呼び込みに誘われるまま、ふらふらと歩き辿り着いたのは一つの屋台だった。

 

「人形焼き、なんか懐かしいね」

「屋台以外だと中々見ませんからね」

「どうする?」

「奢ってください」

「うーむ、ど真ん中ストレート。正直者には人形焼きをプレゼントだ」

 

言いながら、出来たばかりの人形焼きを二袋買い、近くのベンチに座る。

 

「一人一袋ですか」

「でも、ミヤちゃん食べるでしょ」

「まあ、これくらいは平気ですけど、もうちょっと気を使う的な事しません?」

「例えば?」

「一緒に食べよう的な? ……あ、ダメですね。自分で言ってて無いなってなりました」

「うーむ、本当に正直者だね」

 

暖かい紙袋を膝に置き、どこか見覚えのあるキャラクターの形をしたカステラを口に放り込む。

最近はクリームが入ったものが増えてきたが、この屋台は違う様だ。

シンプルに甘い生地を焼いただけ、それだけでも充分に甘い。

 

「あー、素朴」

「本当にね。茶が欲しくなるね」

「買ってきますから、小銭ください」

「本当に正直者だよね。はい」

 

宮木に二人分の小銭を渡し、茶の到着を待つ間、ジテツは最近の邪神の残滓について思案を巡らせる。

発生頻度自体は以前と変わらないが、出てくる残滓の質が上がっている様にも見え、しかしそうでもない様にも感じる。

つまり、よく分からない。

大陸の方では、〝バロールの目〟が何かしら騒ぎを起こしているという話だが、他所様の事なので気にしない。

それよりも、今気になるのはミネルヴァが何故自分にコンタクトを取ろうとしているかだ。

 

「仲違いした訳じゃないけど、どうにもやり辛いねぇ」

「オッサンの独り言は妙に響きますね」

「ミヤちゃん、ひどーい。オッサンも独り言言いたくなるタイミングがあるよ」

「まあ、分かりますけど」

 

宮木が買ってきたペットボトルの茶を受け取り、ベンチでただのんびりと人形焼きを食べる。

これがまた、安っぽい緑茶と合う。

 

「で、班長。どうするんですか?」

「どうするも何も、儂らが出来るのは儂らが出来る事だけだよ」

「くあー、仙人らしい答えですね。でも、実際に上はなんか動いてますよ」

「上に任せましょ」

「そうですね」

 

眺める光景は平和そのもの、宮木が知る景色はこの平和そのものの光景だが、ジテツはそれ以前の争乱の時代を知っている。

 

「平和が一番だよね」

「そうですね」

 

のんびりと呟いた言葉は、如何なる意味が籠められているのか。

人形焼きを食みながら、二人は暫しベンチに座っていた。

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