「いいんですか? 班長」
「なにが? ミヤちゃん」
「ハイクラス、それも近年希に見る上位ですよ」
「んー、でも儂らに命令出てないし」
「ですね」
ビルの屋上で緊迫した戦いを眺める二人は、やる気無く近くのコンビニで買ってきたスナック菓子を摘まんでいた。
「やっぱり、新味に飛び付くのはやめた方がいいですね」
「だね。大蒜の臭いがキツイキツイ」
とか言いながらも、なんだかんだで食べ物を粗末にはしない二人は、適当な事を話ながら袋を空にしていく。
「で、ミヤちゃん的にはどうなの?」
「ハイクラスでも顕現失敗してますから、まあ、敵じゃないですね」
「顕現成功しても、ミヤちゃんなら大丈夫でしょ」
「班長が出たら一瞬でしょ」
「やだよ、オッサンはもう疲れたんだ」
空になった袋を結んで、懐に納めたジテツは本当に疲れた顔で言った。
ジテツもミネルヴァも、もう千年以上は生きている。ミネルヴァはどうかは知らないが、正直な話、自分達古い連中はお役御免でいいと考えている。
「でも、班長は五大英雄なんで、引退はまだまだ先ですね」
「あー、本当に早く引退させてくんないかなー」
「無理でしょ。エンドクラスが出たら無理矢理引っ張り出されますよ」
言っている間に、魔法連盟か特異監視機構かどちらか所属の魔女が撃墜された。
対応している魔女や仙人はまだ居るが、どうにも旗色は悪そうだ。
「……撃墜されたね」
「……嫌な予感しますね」
二人して緊迫を通り越した戦いを背景に、顔を見合せ冷や汗を流していると、宮木の携帯が鳴った。
それもわざわざ、着信音をそれ用にした番号からの通知だった。
「……ミヤちゃん」
「出ないとマズイですよね……。もしもし」
『宮木、ジテツも近くに居るな』
「あ、はい」
『仕事だ。現在顕現しているハイクラス残滓の討伐を行え。極めて迅速にな。そして、たまには働け』
「あ、はい」
それだけ言うと、通話は切れた。
「あー、局長?」
「ですね。あーあ、働かなきゃなー。一応は仕事だしなー、でも働きたくないなー」
「はいはい、手伝うから準備しな」
「わーい、これで楽が出来る」
実にやる気無く立ち上がると、宮木は右手の人差し指と中指、親指を立て先程までとは違う鋭い視線を指先が向かう方向へ向ける。
「んー、ちょこまかと動く」
「はいはい、仙法・目々連。どう?」
「よし、動けなくなりましたね。流石、班長の仙法」
「誉めても今日の飯代しか出ないよ」
「じゃあ、出ないついでにもう二つおまけを」
「へーい、仙法・百々目鬼におまけの仙法・雲外鏡」
ジテツが気だるげに柏手を打つと、先程まで動き回り暴れ回っていた邪神の残滓の動きが止まる。
奇妙を感じる知能はあったのか、特撮の怪人めいた姿が複眼を辺りに向ければ、目玉模様が浮かぶ透けた格子状の檻に、敵と己を別ける様にして囲まれていた。
「じゃあ、撃ちまーす。……Get Ready Set Fire」
残滓が優れた聴覚で聞いたのは、そんなやる気の無い声だった。
そして、堅牢を誇る己の甲殻を易々と穿つ何かが、辺りに浮かぶ目玉模様から放たれた。
「おー、結構避けますね。でも、目々連で塞がれ、百々目鬼で監視され、雲外鏡で強化&転移を繰り返す私の弾丸をいつまで避けれますかね?」
「まあ、目々連で動き阻害されてるし、動ける範囲もあの中だけだから、じきに捕まるよ。……ほらね」
まるで、消しゴムでも掛けられたかの如く、邪神の残滓の体が削られていく。
魔女も仙人も、ただ呆然とその光景を眺める事しか出来ない。
「さて、お仕舞い」
削りきられた残滓が最期に見たのは、遠く離れた所で缶ジュース片手に笠を被った男と話す、やる気の無さそうな女だった。
「ミヤちゃん、お疲れー」
「いやー、久々に魔法使いましたよ」
「儂も、久々に仙法の合わせをしたよ。いやー、疲れるね」
「嘘ばっかり、班長ならここまで時間掛からなかったでしょ?」
「まっさかー、ハイクラスなら儂でも時間掛かるって」
「本当、嘘ばっかりのオッサンですね」
「もー、ミヤちゃんったらひどーい」
実に適当なやる気の無い会話、しかしこの会話をしている二人は、ただ一体で県一つを滅ぼしかねないハイクラスを一人で討伐出来る出鱈目な二人だ。
この場に二人以外の誰かが居たら、力の差に絶望するか、どうしようもない諦感を得るだろう。
「報告書はどうします?」
「明日でいいんじゃない? 今日はもう疲れたし」
「そうですね」
「今日は早めの晩飯でも行っとく?」
そんな事は露知らず、二人はこれからの予定を話し合っている。勿論、まだ勤務時間中だ。
「〝ブルネイ〟行っちゃう?」
「あ、ブルネイならガパオライスがいいです」
「なら儂は海南鶏飯かな」
「あ、いいな。私もそれがいいです」
「なら、小皿で分けようか」
笠の位置を直し、ネクタイを緩める二人はビルの屋上から喧騒の町中へと向かう。
「しかし、ハイクラスか。参るよね」
「そんな事言って、班長の時代はハイクラスが当たり前でしょう?」
「邪神とかいうエンドクラスが超絶やる気だったから、まあ出てくる出てくる。儂、ちょっと引いたもん」
階段を降りながらする話は、もう教科書の中の話となってしまっている。
語り部たる長寿の者達が語り継いでいるが、その最たる者達は基本的に語りたがらない。
理由は分からない。
だが、当時の有力な魔女や仙人の半数以上が戦死した戦いは、一体何をこの男に残したのか。
まあ、宮木にはそんな事はどうでもいい。
「班長、サテも付けていいですか」
「いいよー。儂も鶏繋がりでチキンフォーとか食べたいし」
「わーい、一気にアジアン感出てきた」
「あ、今日はちょっとハシゴしちゃう?」
「いいですね」
そんな過去より、今日の無料飯が大事だ。
下駄と革靴の硬い足音をビルの床に響かせ、二人はこれからのメニューを言い合い、まだ日の高い町中へと消えていった。
宮木の魔法
言っちゃったら、某有名忍者漫画の塵遁。
それを弾丸状に引き絞ったものを撃つ。遠隔操作可能
目々連
仙法の結界術、目玉模様が浮かぶ格子状の壁を四方に展開して、対象の封印と阻害を目的とする。
百々目鬼
同じく結界術、こっちは対象の監視のみ。
だが、一度見付けた相手は何処に隠れても必ず見つけ出す。
雲外鏡
また結界術、これはどちらかと言えば移動用。
繋いだ点と点の間を自由に行き来出来る様にする。
ジテツはこれにオリジナルを加えて、宮木の魔法の速度を上げて、百々目鬼、目々連に繋げていた。