適当魔女と草臥れ仙人   作:ジト民逆脚屋

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──やい、師匠仙人!
──お、なんだ? チビガキ
──くらえ! 仙法・一本鑪!
──はいはい、仙法・蛟
──うわー
──一本鑪にもなってないな。風の練りが甘いんだよ
──くっそー、いつかギャフンと言わせてやるからな!
──おうおう、その日が来るかねえ


疲れる日の高級料亭

「班長」

「ミヤちゃん、冷静になったらダメだよ」

 

安くて旨い大衆食堂に行く筈が、気付けば意地でも敷居を跨がない高級料亭に二人は居た。

永い時間の中でそれなりの経験があるジテツは、目の前に座るミネルヴァの趣味がまったく変わっていない事に、幾ばくかの安堵と呆れを覚えるが、隣の宮木はそうはいかない。

 

「平局員の給料で入れる店じゃないですよ、これ……」

 

魔女歴百と六十年、宮木・琴子はまったくもって初の超が付く高級料亭である。

 

「宮木、遠慮はいりませんわ。普段の様に好きなものを頼みなさいな」

「ミヤちゃん、一応言っとくけど、儂もこんな店は連れて来れないからね?」

「いやー、冗談キツイです。班長、刺身でこの値段というか、値段書いてないですよ」

「ああ、うん……。ミネルヴァの奢りだから、その辺は気にしないでいいよ」

「そうですわ。気にせず頼みなさいな」

 

気にせずにと言われても、根っからの庶民である宮木はどれをどう頼めばいいか、まったく見当がつかない。

それに、机や調度品まで多分というか確実に、宮木の給料で払えるものではないし、今座っているこの座布団もかなりの高級品だと判る座り心地だ。

それに正座で座る宮木に対し、ジテツはどっかと胡座をかいて、悠々と茶を飲んでいる。

この辺がただの魔女である自分と、不老不死に近い頂点存在の差かとも思ったが、普段のジテツを知る宮木はただの個性だと判断。

なので、自分も真似をして適当に頼む事にする。

 

「じゃあ、これとこれとこれ、あとはこれも」

「かなり頼みますけど、貴女食べきれますの?」

「おっと、ミヤちゃんの胃袋舐めてもらっちゃ困るよ。三、四人前は平気で食うよ、この子」

「いやー、班長が奢ってくれるから、食費が浮いて浮いて、趣味に注ぎ込めますわー」

「まあ、それならいいのですけれど。ジテツはどうしますの?」

「儂はこれとこれを頼む」

「では」

 

ミネルヴァがそう言うと、襖が開いて仲居がミネルヴァからの注文を受けて立ち去る。

なんというか、音一つ立てずに動くのはここが高級料亭だからなのか。

 

「んで、ミネルヴァ。儂に何の用だ? 昔の知己とは言え、魔法連盟の長が出向いてくるなんざ、ちと過ぎてないか」

「ジテツ、来週の聖剣祭には……」

「出んぞ。儂は聖剣祭には出ん。お前もいい加減諦めろ」

「しかし……」

「ミネルヴァ」

 

沈黙、宮木が間抜けな表情で部屋の調度品を眺める横で、二人は険悪とはいかないまでも緊迫した空気で、互いの目を見ていた。

 

「……やはり、出ませんか」

「ああ、儂はあの鉄屑に万歳三唱なんぞする気は無い」

「鉄屑に関しては私も同意見ですわ。ですが、あそこには……」

「ミネルヴァ。……これに関しては何も言わんでくれ」

「ジテツ……」

 

肩を落としたジテツに、ミネルヴァはどう言葉を投げ掛けるべきか分からなくなった。

聖剣、嘗て邪神を討ち果たした勇者が使っていた両刃の長剣、それはこの国の首都の記念公園に奉られている。

聖剣祭とは、勇者の偉業を讃え、その勇者を導いたとされる聖剣を讃える為の祭りだ。

その祭りには邪神討伐に参加した英雄達と、ミネルヴァ達五大英雄の生き残りも参加する。

ただ一人、ジテツ・コジを除いて。

 

「そうですわね。貴方の事を考えれば、あの祭りは業腹でしょう」

「ああ、今でもあの鉄屑をへし折ってやりたいと思っとるよ」

 

宮木が怪訝な顔を向けてくる程に、ジテツのその言葉は冷たかった。

 

「あー、班長って確かに聖剣祭には行きませんよね。聖剣と何かあったんですか?」

「ミヤちゃんにも、ちょっと教えらんないかな。この話はさ」

「ふーん、じゃあいいです。あ、追加って今からききます? ついでにこれも頼みたいんですけど」

「え、ええ、料理が着きましたらその時にでも。……というか、いいのですか?」

「何がです? あ、これくらいなら問題無く食べきれますよ」

「いえ、そうではなくて、今の話」

「あー、班長が昔何かあったって話ですよね? 話したくないなら、別にこっちも聞きませんよ。仕事の人間関係に余計なもん抱えたくないですし」

 

あっさりとした宮木の言葉に、ミネルヴァは何も言えなかった。

五大英雄の話はその大半が伝聞で、本人が遺した物は殆ど無い。

ミネルヴァとジテツ、そしてもう一人が語りたがらず、先に逝った二人もそれらしい文献を一切残していないから、仕方ない部分もあるが、だからといってここまで興味を示されないのは初めての事だ。

 

「大体、その話聞いて私にどうしろって話ですよ。この草臥れダメ仙人を慰めろとか言います?」

「うーん、ミヤちゃんって本当に正直だしドライだよね」

「えー、だってそうでしょう? 私は魔女歴百六十年のペーペーの魔女なんですから、そんな話聞かされても困るだけですよ」

 

なんかもう、馴れてきたのか。座布団を二つ折りにして枕の様にして畳に寝転ぶ宮木に、ジテツは苦笑する。

元上司と現上司の前でこれとは、本当に胆が座っていると言うべきか、何も考えてないと言うべきか。

 

「でも、班長。聖剣祭行かないんですか? あれ、結構有名な店の出店が出たりして、ちょっとしたサボりスポットですよ」

「えー、でも監視機構と魔法連盟、聖典教会からも警備出てるでしょ?」

「いやいや、これが中々人混みに紛れたらバレないもんでして」

「へー、出店巡りにだけ行こうかな?」

「やった、班長の奢りだ」

「いや本当に、朝飯以外全部奢ってる気がするよ」

「まさか、気のせいですよ」

「貴方達、一機関の長の目の前でサボりの予定を立てるとか、ちょっと度胸が座りすぎではありませんの?」

 

ミネルヴァが言えば、二人はきょとんとした顔を向ける。

 

「……まあ、顔だけは出すって話で」

「ボランティア警備ですよ、ボランティア」

「はあ……、目立たない様にしてくださいまし」

 

やって来た料理に興味を移した宮木が身を起こし、ジテツが頷く。

とりあえず、今年は役者が揃った。

いや、揃ってしまったと言うべきか。

 

「ジテツ」

「分かってる。あいつも来るんだろ。……儂からは顔は出さんよ」

「顔を出してもいいのですけれど……。いえ、やはりやめておきましょう」

「それがいいよ」

 

早速、料理に箸をつけている宮木を他所に、二人はそう言った。

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