適当魔女と草臥れ仙人   作:ジト民逆脚屋

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ヒャッハー! まだまだ凍結中よ!


どうにもならない日の酒

「ミネルヴァ、久しぶり」

「イルマ、お久し振りですわ。一年振りですわね」

「それは間違い。正確には九ヶ月と半年振り」

「あ、相変わらず、時間に細かいですわね」

「ミネルヴァ達がルーズ」

 

賑わいを見せる会場を見下ろせる場所にある貴賓席で、露出の激しい黒と露出の無い白が親しげな会話を続ける。

 

魔女連盟の長ミネルヴァ・バーミリオン

聖典教会の長イルマ・ガブリエラ

 

あの日からまったく変わらない容姿の二人は、並んだ五つの内の自分の席に座ると、小さく溜め息を吐いた。

 

「五百年目、でもやっぱり慣れない」

「ですわね。あの三年間は本当に濃い日々でしたわ」

 

ミネルヴァ達五大英雄が邪神討伐の為に費やした時間は三年、たった三年間とも言えるが、三年間休まず戦いに明け暮れた。

無論、それなりに温かな日々もあった。だが、その大半は血塗られた日々だ。

 

「……ミネルヴァ」

「ジテツは来ませんわ。会場には来てるかもしれませんが」

「知ってる。やっぱりまだ許されない?」

「いえ、まだ彼の中で決着が着いてないだけでしょう」

「そう」

 

感情をあまり表に出さないイルマだが、教皇の証でもある白いローブに隠れた手は、確かに強く握られていた。

 

「ミネルヴァ、私は……」

「イルマ、分かっていますわ。貴女も彼女をここに埋葬するのに反対だった事は。勿論、ジテツもメイファンだって」

「でも私は結局、貴女達より組織を選んだ。その結果がこれ」

 

白い髪に白く透けた肌、目も黒ではなく銀に近い色。おおよそ、濁りというものを排したイルマの容貌は、アルビノというには過ぎ、人に近いミネルヴァ達からも異端と言えた。

イルマ・ガブリエラは勇者と拳士と同じく、人界の人間だ。

それなのに、五百年間変わらない容姿で生き続けている。

それはイルマが自身に課した輝術によるものであり、今の世が安定するまでこの世界に、自身を縛り付ける呪いでもあった。

 

「まったく、ジテツも呆れてましたよ。人の身で自分達と同じになろうとするなと」

「でも、これはけじめ。あの子を護れなかった私の」

 

正面を見詰める視線は、会場の中央部にある聖剣に向けられていた。

そして、その視線は聖剣を奉る者としては、あまり相応しいとは言えぬ苦々しいものが含まれていた。

 

「……もっと早く気付けていれば、何らかの対策は打てた」

「……そうですわね」

 

二人の顔に刻まれたのは悔恨、悔やんでも悔やみきれない無念。

あの日、自分達が気付けていればもしかしたらと、そんな事を考えてしまう。

献花台に供えられた山の様な花は、五百年経った今も世界が彼女を忘れていないという証拠だろう。

しかし、記憶は風化し美化されるものだ。

自分達が去った後の世は、彼女をどう語るのだろうか。

 

「イルマ、考え過ぎは宜しくありませんわよ」

「長く生きると考え過ぎる」

「人間は考えが過ぎますの」

「魔女と仙人が楽天的過ぎる」

「長く生きていると、色々といい加減になりますのよ」

「ならジテツは?」

「あれは元からで、今も変わりませんわ」

 

ミネルヴァが見れば、イルマはほんの少しだが笑っていた。

懐かしい仲間が昔と変わらないというのは、自分達の様な存在にとって安堵を覚える要因だ。

しかし、あの大仙人のサボり癖はどうにかならないのか。

 

「ミネルヴァ、私は近い内に本を書こうと思う」

「内容は?」

「私達も旅の記録、正しい彼女の足跡を」

「一応、ジテツにも伝えておきますわ」

「お願い」

 

時刻は昼を回り、一時間もしない内に時間が来る。

五百年前の今日、勇者はその生涯を終えた。そしてそれは、もう間もなくだ。

 

「貴女が護った世界。五百年経った世界はどうかな?」

「私達はちゃんと護れていますか?」

 

二人の問い掛けに答える声は無い。

二人が連れて来た側近も、ただ目を伏せているだけだ。

五百年という時間は決して短くはない。しかし、その間に邪神の残滓は尽きる様子も無く現れる。

ミネルヴァの見立てでは、後千年は邪神の残滓が尽きる事は無い。

大元を絶てばいいという話もあったが、根源である邪神は既に倒され、邪神の死骸のある異界に行く術はもう無

い。

 

「聖剣の適合者が現れれば、話は別。だけど」

「その様な事、私達が赦しません」

 

聖剣の犠牲者は彼女を最後に絶つ。

それが五大英雄の生き残りが決めた絶対の取り決めだ。

もしまた邪神の様な存在が現れたなら、自分達の全てを投げうって倒す。

あの様な悲しみを背負うのは、自分達で最後にする。

 

「教皇様」

「なに?」

「……警備の者から、大仙人ジテツ・コジを会場で見かけたと報告が」

「ああ、やはり来てましたか」

「屋台目当て?」

「部下の宮木と一緒に、屋台巡りでもしているのでしょう。イルマ、……まだ時間はありますわよ?」

「……ねえ、ミネルヴァ。私はジテツに会う資格がある?」

「資格というなら、私もビミョーなところですわ」

「メイファンも居ない。彼の子孫も百年前に絶えた。なら五百年目の今日にけじめを着けてもいい?」

「まあ、きりは良いですわね」

 

イルマは一度目を閉じ、深く息を吸うと、側近に持たせていた小瓶を手にし、その中身を一口煽った。

ミネルヴァの鼻に届くのは、僅かだが確かに強い酒精の匂いだ。

 

「イルマ?」

「これは水、教皇たる私がそう言ったら水」

 

そう断言するイルマから、さっと、側近に視線を向ければ側近は既に顔を背けていた。

この酒好き僧侶の酒呑み癖は、五百年経っても何も変わらない様だ。

 

「一応、聖典教会では飲酒は禁じられている筈では?」

「ばれなければいい。あと、飲酒が禁止ではなく、酒に呑まれて我を失う事を禁じてるだけ」

「昔から、ああ言えばこう言いますわね」

「ミネルヴァが教会の教えを曲解しているだけ。……それにこれは弱いから水」

「酒精が入ってれば、全て酒ですわ……」

 

まあ、色と泡でばれる麦酒辺りを選ばなかっただけでもよしとする。

あの旅の最中でも、隙あらば葡萄酒や蒸留酒をらっぱ飲みしていた不良僧侶、少ない平時に酔ってない姿を見た事が無かった彼女だ。

色の着いてない酒を選んだ辺り、側近への気遣いだと思う事にする。

 

「……行こう」

「まあ、五百年目ですし、そろそろ決着を着けましょうか」

 

立ち上がる二人だが、その二人を引き留めるかの様な音が鳴り、世界が揺れた。

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