冬の真っただ中、東京の街も白銀のカーペットに覆われる2月。
夜もどっぷり更け、トレセンの明かりもほとんど消え、日中の賑やかさも鳴りを潜めていた。そんな中でもトレーナー寮は元気にライトを発し、眩しく光を発していた。業務を持ち返ってやっている者もいれば明日の体調を引き換えに仲間とバカ騒ぎをする者もいる。そんな賑やかな寮の一室に、彼らはいた。
2人部屋。通常1DKである1人部屋と違って1LDKになるほんのちょっぴり豪華仕様なこの制度。大概は何故か大抵セットで存在する超が付く節約家組が使用するのだが、極まれに別の理由で制度が利用されることがある。それが交際関係。トレーナー同士の職場恋愛という少しばかり珍しい事になり、かつトレーナー寮に住み続けるという選択をする。一見、そんなに難しいことでないように聞こえるが実際はレアケースなのだ。
この部屋の住人はそんなレアケースのカップルだった。
普段は担当のために学園内を奔走する彼ら…
「ん~やっぱり犯人はこの女将さんじゃない?」
健が話す。推理ドラマを見ているらしく、怪しい人物への推理を語り合っていた。健は持ち前の直感を発動し、被害者の友人である人間を指した。
「そうでしょうか?私はやっぱりこの女性が怪しいように思いますが…」
彼の言葉に葵が反論した。彼女が指したのは序盤からやたらと描写が多い女性客。ドラマあるあるの見るからに怪しいミスリードに見事引っかかっている辺り、彼女らしい素直さや純粋さが顕著に表れていた。
「ふっ、確かにその線もありそうだ」
そんな彼女を、健は微笑みながら見つめる。心の髄まで惚れ切った彼にとって、その可愛らしさがたまらなく愛おしい。
そっと葵の髪を撫でる。普段は短いポニーテールを作っている紺青の髪だったが、今はしがらみから解き放たれ、重力の意のままに流れていた。手触りの良い彼女の髪を優しく撫でていると、葵も体を預けてきた。為されるがままひたすら撫でられる。目を細め、健の愛情を心で味わう。
いつの間にやらイチャつき合っていた。だが決してキスはしない。同棲してなお初心な気持ちが勝る彼らにとって、撫でることやハグすることが一番やりやすいスキンシップなのだ。
「…よっし!葵成分も補給したし、もう一仕事頑張りますか!」
しばらくし、ドラマも終わったので仕事のスイッチを入れる。
「いいですね!私もそうします!」
葵もそれに続く。どこまでストイックな人たちだ。
どこからともなくトレーナー白書を取り出た。
「また続き書くの?」
「はい。これだけは、今のうちに書き上げたいなって」
最近、葵は新たなトレーナー白書を執筆に力を入れている。最初の3年間、彼女の培った経験と教訓を後世に伝えるためにと彼女自身が望んだ事だ。
「最初の一冊は貴方へ。…結婚までに…これだけは」
「そっか…。じゃあ、もっと書く事増やせるよう俺も頑張んなきゃな」
「はい!お互い頑張りましょう!
恋人になった今でも、2人のライバル関係は終わることはない。いや、寧ろより激しくなっただろうか。近くなったからこそ、より相手を知り、それに感化され努力を積む。
「うん。俺も、負ける気はないさ。
イソギンチャクとクマノミの様に互いが互いを支え合う。持ちつ持たれつ。その関係は相乗効果を生み、爆発的な速度の成長を生み出した。
葵はかつて言った。自身の書くトレーナー白書の枕詞を。
『支え合い、助け合える__生涯のライバルを見つけること』
彼女、いや、彼女らの人生を体現した言葉だ。いつまでも一緒に入れる人。運命の人。それこそがきっと、『生涯のライバル』なのだろう。