我、英雄ぞ   作:NBAU

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第1話

 

 

そこは地獄である筈だった。いや、そうでなければいけなかった

 

死の恐怖故の悲鳴、狂気の嗤い声

 

浮遊城の民を絶望に陥れた怪物達は、たった一人の青年によって鏖殺されて行く

 

地面に散乱する死体の数がその凄惨さを物語っていた

 

しかし紅い尾を引きながら暗闇を駆ける白い流星が私から現実感を奪った

 

彼の輝きは地獄であっても欠片も損なわれやしない

 

 

「オイオイ、何人殺ったんだよ。良心ってモンがねぇのかぁ。なぁ?」

 

 

手下が死んだ事などどうでも良いのか、怪物の首領が楽しそうに問い掛けた

 

 

スパッ

 

「これで17人目だね。逆に良くこんな数集めるよ。犬死にしちゃったけど。可哀想に…」

 

 

青年が怪物の首を刎ねながら返す。ほとんど音がしないとても軽やかな一閃。こちらもまた、今まさに一つの命が失われた事への関心は見られない

 

だが本心は違うと言う事を私だけが知っている

 

彼はヒトを殺す度に罪の意識に苛まれながらも、決してそれを悟らせない

 

彼に敗北は許されない

 

今や彼の肩には生存者全員の希望が懸っている

 

一騎当千の力を以て先陣を切り世界に立ち向かった。絶対的なカリスマで戦士達を鼓舞し、道標となった

 

私よりも年上だろうが未成年である事は間違いないはずの青年がだ

 

命の恩人で、憧憬で、初恋で…

 

本当なら私が支えてあげたい。でも彼の隣に立つには私はまだ弱過ぎるから

 

ただ彼の名を呟く事しか出来ない

 

消え入りそうな声でも、せめて涙は堪えて

 

 

「──君…っ」

 

 

縋るしかない自分の弱さに嫌気がさす

それでも今は安心させて欲しかった

 

 

「今は休みな、心配しなくていいよ」

 

 

どんな状況でもブレない意思の強さを感じつつ、優しさに包まれ

 

凍った心が溶かされ、硬直した身体が解されていった

 

 

「まぁ俺」

 

 

しかし今更私は自分の致命的なミスに気がついた

 

駄目だ、彼にその先を言わせてはいけない。彼はソレに並々ならぬ思いを抱いて居て、ソレは彼を孤独の道に引き摺り込む呪いの言葉で

 

 

「まっ…ダメッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「英雄だから」

 

 

 

 

「…あっ……」

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

俺は英雄に憧れている

 

みんなは英雄と聞いてどんな人間を思い浮かべるだろうか?

 

そう、英雄だ。勇者でもヒーローでも正義の味方でもなく、英雄

 

え?、ヒーローって英雄のことじゃないのかだって?

 

別物だよ。本質が違う

 

どれも圧倒的な力を持っていることに変わりはないけど英雄の本質は功績だ

 

勇者なら聖剣に認められた〜とか、ヒーローならナントカスーツに適合した〜とか、彼等は『力を持つと言う事実』そのものによって定義される

 

しかし英雄はナントカドラゴンを討伐した〜とか、現実世界では戦場でめちゃくちゃ殺しまくった〜とか、とにかく『結果』を出して初めて認知される

 

別に結果も出してねぇのに力だけ得てイキってんじゃねぇよとか言うつもりはない

 

俺が言いたいのは英雄は自分自身で誕生する事が出来ないってこと。周囲に認めさせる為には力だけではいけない

 

ほら、アメコミのヒーローは市民に批判されたりするけど、ファンタジーの英雄は国中で大人気だろ?

 

カリスマが必要なんだよ。その為に重要な物の一つは余裕があること

 

ジャンプ漫画よろしく毎回ギリギリの戦いで辛勝する程度の力じゃ誰も安心できない

 

なろう小説よろしくヒロイン達にはタジタジなのにちょっとでも気に入らない事をしたチンピラはすぐ殺す様なガキ精神じゃ誰にも信用されない(洗脳済み女共を除く)

 

力にも、精神にも余裕がなきゃいけない

 

なんとなくニュアンスの違いが伝わったと思うけど…

 

俺の定義では英雄ってのは『ただ強いヤツ』じゃなくて『常に余裕に溢れていて優しさもあり、正気を保ちつつ必要とあらば虐殺などをしても壊れない精神力を持ち、それを微塵も感じさせない親しみ易い振る舞いで皆に慕われているヤツ』なのだ

 

極論サイコパスである。だが俺はそれに憧れた。俺の中で究極の英雄とは

 

『全ての分野において最強なら敗北は有り得ない』

 

と言う主張をなんの気負いもなく押し通せる超越者の名なのだ

 

まぁ長々と話してしまったが結局のところ現代社会で英雄になる事はないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて、2秒前までは思っていた

 

と言うのもまさに今、俺達は現実から隔離されたのだ

 

 

2022年 11月

 

VRMMORPG《ソードアート・オンライン》の正式サービス開始に世間は沸き立っていた

 

世界初のフルダイブゲーム

 

せっかくだからと初回ロットを獲得したが、現代で英雄と呼ばれる事などないと分かっていた俺がゲーム世界に希望を抱いたかと訊かれれば特にそんな事はなかった

 

だって俺学生だから。うん、レベル制MMOで廃人共に勝つのは不可能。さらにゲームバランスを考えれば、仮にどれだけやり込んだとしても一人で千人に勝つなんてこともできない

 

そもそもさっき自身で言ったが、英雄は強さだけで成り立つモノじゃない。ゲームは所詮遊びだと言う考えの人間が大多数であるのは間違いないのでこの世界に英雄が誕生することはないだろう

 

 

それが現実の命を強制的にベットさせられた事で一変した。今は全員がパニックに陥っているが、時間が経ちこの世界で生きる事を実感すれば意識が変わる

 

ほとんどの人間は何もできないだろうが一部戦い始める者達が現れるはず。理由はそれぞれ、生きて家族に会いたいであったり単純にゲーマーの意地であったり

 

そのフロントランナーの頂点に立ち、バラバラな意識を統一して、俺を旗印にモンスターに立ち向かう

 

アインクラッド最強の力、戦士達を率いるカリスマ

 

 

 

これはもはや英雄では?

 

 

 

 

ことアインクラッドにおいては法律がないのもポイントが高い。いずれレベルの暴力での犯罪行為も起こるようになる

 

ヒトを斬っても紅いポリゴン片しか出ない

この世界で死んでも現実で死ぬ確証がない

             ||

         殺しのハードルが低い

 

コレは殺人集団結成フラグでは?

 

殺人集団の討伐は絶対に必要。その時矢面に立つのは戦闘力的にフロントランナーのはず

 

殺人を躊躇って劣勢に追い込まれた瞬間『全ての罪を背負おう』的な感じで敵全滅させりゃあ完全に英雄よ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぁ、欲しくなって来ただろ?

 

英雄が

 

いいね、俺がなってやる

 

 

 

──────────────────

 

 

 

こんな事になるとは夢にも思わなかった

 

朦朧とした意識で走馬灯の如く思い返す

 

 

勉強の息抜きにと兄に借りたVRゲームでこの浮遊城に閉じ込められて早一ヶ月

 

ゲーム内での死が現実世界の肉体すら殺すと言われた直後は何も考えられなくて、ただはじまりの町の宿で呆然として居た

 

こんな理不尽許されて良い筈がない。心ではそう思っていても体は動かない

 

もしかしたら警察に救助されるかもしれない。しかし耐え切れずこの城から飛び降りた人が相当数いる現状を知り、私も…なんて馬鹿な事を考えた数はもう覚えていなかった

 

でも簡単に命を投げてしまうのはこの世界に負けた様な気がして、死ぬなら最期まで足掻いて逝きたいと考えたのは一週間が経った頃

 

ゲームのことなんて分からない私はとにかくダンジョンに潜った。休息などほとんど摂らず戦って、町に戻ると泥の様に眠るサイクル。フィールドにも一部安全地帯があると知ってからは町に戻ることすらなくなった

 

だがもう限界だ。安全圏外で意識を失うのはこれが初めて。HPもオレンジ。ここで気絶すれば二度と目を覚ます事はないだろう

 

これが先立つ不孝をお赦し下さい、と言うやつか。兄には罪悪感を感じさせてしまうだろうか

 

精一杯戦っただろう。もう休ませて欲しい

 

私の命は無駄ではないと、そう思って死ねるなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Oh, エイトさん、犬死にgirl, watch」

 

 

 

 

 

 

 

は?

 

 

 





エイトは英斗です。安直だね
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